学校から飛び出して地域で挑戦~子どもたちに自立と共生の力を~(アダチベース 加賀大資さんインタビュー)

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作成者:大和 信治 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、認定NPO法人カタリバが、東京都足立区から委託を受けて運営する生活困窮世帯の子どもたちのための居場所「アダチベース」でスタッフをしている加賀大資さんへのインタビュー記事です。なぜ東北支援へ関わろうと思ったのか、困難を抱える子どもたちの成長にどう向き合っているのか、などお話を伺いました。

2 プロフィール紹介

加賀 大資(かが・だいすけ)
認定NPO法人カタリバ シニアマネジャー(東京大学大学院教育学研究科学術支援職員)

大学卒業後、東京都の私立中高一貫校にて英語の教員として2年間働いた後、オーストラリアへ英語教授法TESOLを学びに留学。
 東日本大震災により甚大な被害を受けた岩手県大槌町に被災地の放課後学校『コラボ・スクール大槌臨学舎』を立ち上げるため、認定NPO法人カタリバの職員へ転身。
 その後立ち上げから2015年度までの4年間運営を担い、2016年度より、東京都足立区にて『複雑な家庭環境や貧困、孤独、発達の課題など困難を抱える子どもたち向けの居場所兼学習支援の拠点アダチベース』を立ち上げる。

子どもたちの安全基地「アダチベース」

3 インタビュー

学校の先生から東北支援へ

——加賀さんがカタリバに関わるようになったきっかけを教えて下さい。

大学卒業後、母校の私立中高一貫校で英語の教員として2年間勤務しました。学校にいた時、より楽しい英語の授業を目指し海外留学を決意しました。そして、留学予定の1か月前、2011年3月に東日本大震災が起こりました。

震災後にオーストラリアへ旅立ったのですが、ずっと東北や日本のことが気になっていました。そこで、「自分も何かしたい!」という思いから、チャリティイベント開催のサポートなどに参加しました。
 しかし、活動をしていても、震災直後のニュース映像を思い出しながら、自分の無力感や罪悪感が膨らんでいました。そして、「日本に戻ったら実際に東北に行って何かしたい」と強く思うようになりました。

自分も東北に関われることはないかを調べていた時に、高校時代の友人のFacebook投稿でカタリバ「コラボ・スクール」のことを知り、帰国後にボランティアとして参加しました。
 その時には、学校の英語の先生に復職せずに、支援に関わり続けようと思っていたわけではありません。ただ、実際に東北で活動してみると、数カ月ほどの関わりで子どもの変化を感じることは難しく、どうせやるなら子どもたちと全力で関わりたいと思い、子どもたちへの想いが、自分の将来設計を上回りました。

これまでは、教育というのは主に学校の先生が担うというイメージを強く抱いていましたが、「教育を学校に丸投げしない」というカタリバの理念に共感し、学校外から教育を支えることに価値を感じるようになりました。
 学校だけでなく地域や保護者の方など、様々な立場の方が教育の担い手・当事者として活動できるような仕掛けを提供できる役割に、面白みとやりがいを感じました。

*被災地の放課後学校「コラボ・スクール」

——東北では実際にどのようなことをしていましたか。

コラボ・スクールは、子どもたちが放課後に安心して集まれる場を目指し、被害が特に激しかった、宮城県女川町と岩手県大槌町に設立されました。2016年には、熊本地震により大きな被害を受けた熊本県益城町で、コラボ・スクールの3校目となる「ましき夢創塾」がスタートしました。

私は、2012年から2016年まで、大槌町で子どもたちの支援に関わりました。コラボスクールの学習支援では、英語・数学といった基礎学力定着の他に、グローバルな視点を持つため、インターネットを通じてネイティブ講師と話す「Skype英会話」など英会話学習も行っています。
 また、未来の復興を担うリーダーの輩出を目指すキャリア教育やプロジェクト型学習にも力を入れています。

——活動での印象的なエピソードはありますか。

1人の女子高生の成長が印象的です。彼女は先ほどの英会話学習に熱心に取り組み、将来は海外で活躍したいと思うようになりました。そんな中、「マイプロジェクト」という、自分で課題を設定して解決を目指すという課題解決型の学習プロジェクトに参加しました。
 英語が好きで、海外の仕事に興味を持っていた彼女でしたが、マイプロジェクトを考える中で、「私は地元が好き。実家のお店も好き。」という思いから、地元(大槌町)を盛り上げるプロジェクトを進めました。そして、そのプロジェクトをさらに深化させるため大学へ進学しました。

将来は海外で活躍することを目指していた彼女が、「地元が好き」「育った地域のため」という思いで地域に貢献したいと思うように変化したことに驚きと喜びを感じました。これからグローバルとローカルな視点のどちらも持ちながら、活躍してくれることを期待しています。

アダチベースの立ち上げ

——現在は足立区のアダチベースで活躍されていますが、どのような場所ですか。

足立区は平成27年度を「子どもの貧困対策元年」と位置づけ、貧困対策を開始しました。そこで、子どもの貧困対策事業を考えていたカタリバが事業を受託することになり、2016年8月、困難な環境で育つ子どもたちがそのままの自分を受け入れ安心できる居場所づくりを目指し、「アダチベース」が誕生しました。

子どもたちの安全基地「アダチベース」

「ナナメの関係」と安心

——アダチベースが大事にしていることはありますか。

一つ目は、「安心できる居場所づくり」です。
 アダチベースには我々職員だけでなく、地域の大人や大学生が出入りしています。彼らのような学校の先生でも親でもなく(タテ)、同じ視点になりがちの友達でもない(ヨコ)、子どもたちにとって一歩先を行く先輩のことを、カタリバでは「ナナメの関係」と言っています。
 その「ナナメの関係」にある人たちと、安心して本音を語ったり、ありのままの自分でいたりすることができるような、心地よい関係を築けるよう心がけています。

定期的に行われるワークショップでは、地域の商店や企業の方をお呼びすることが多いです。今日(取材当日)も、地元の蕎麦屋さんに来て頂き、そば打ち体験をしました。子どもたちには、いろいろな大人に出会い、地域で生きている安心感を抱いてもらいたいですね。

学習と自信・成功体験

二つ目は、「自信が持てる学習支援」です。
 なぜ自信を持ってもらうために学習かというと、部活ではレギュラー争いや周りとの比較が厳しいのですが、学習は前の自分と比べてどうなったか、という自身の成長が感じやすいものだからです。

学習では、eboard(イーボード)というNPO法人が提供している無料のオンライン学習コンテンツを活用しています。
 これは、特に算数・数学、英語で、学習の個別化が行いやすく、自分のつまずきに合わせて学習を進めることができます。学習の進捗、成果が数字で表れるため、スタッフも個に合わせてサポートすることができ、子どもたちは学習における成功体験をよく感じているようです。

この成功体験を原動力にしながら、知識の習得だけではなく、学習方法を工夫することに重きを置いて指導しています。こちらが一方的に教材を用意し、それをそのまま子どもたちにやらせる、ということはしません。
 将来社会で生きていくためにも、英語や数学の勉強という機会を通して、”自分で学ぶ力”を子どもたちに持ってもらうためのサポートを実施しています。

自立と共生

——加賀さんが、子どもたちに大事にしてほしいことはありますか。

一つは、学ぶことが楽しいと思ってもらいたいです。
 現在は、変化のスピードが速い時代であり、新しいものを吸収していくことが求められます。その中で、自分の知らないことや興味を持ったことに関して、積極的に学び続ける姿勢を持ってもらいと思っています。

もう一つは、目の前の人を大切にすることです。
 人を直感的に「好き・嫌い」で判断するのではなく、相手のことを分かろうとする気持ちを大事にしてほしいと思います。人はどこで繋がっているか分からず、何気なく親切にした人が、いつか本当に困った時、自分を助けてくれるかもしれません。
 震災の支援に関わっている時から、目にみえない人とのご縁の力を感じ続けています。

学び続ける姿勢という「文化資本」、人との関わりという「社会関係資本」というものも、「経済資本」の他に、貧困の連鎖を断ち切るために必要な視点だと考えています。

——それを子どもに伝えるために、加賀さんが大事にしていることはありますか。

「自分が示すこと」です。
 アダチベースで何か企画をした際も、「自分が一番学んでやる!」という意気込みで参加しています。常に新しいことに素直でいることを大事にしています。

人との関わりにおいては、「相手を分かろうとする姿勢」を大事にしています。子どもたちは、様々な背景を持って生きています。私が生まれ育った環境とは大きく異なるため、簡単に理解できる訳ではありません。だからと言って「分からない」と済ますのではなく、相手を「分かろうとする」ことを心がけています。

——8月末に行われる教育イベント「未来の先生展」でワークショップをされるということですが、どのような内容でしょうか。

次のようなテーマで、参加者同士のケーススタディを考えています。

ケース1「いつ環境が崩れるか分からない」

ケース2「みえない貧困をみようとする」

これらは、私がカタリバでの活動を通して感じている課題でもあります。
 今の環境がいつ災害で変わるかは誰にも分かりません。また、子どもたちが生まれ育った環境というのは、目で見ることはできません。
 どこで生まれた、誰と生活した、といった物理的な環境は見えることもありますが、その中でその子がどのような思いを持って生きてきたのか。文化資本・社会関係資本に関わる貧困は、自分からみようとしないと決してみえません。

未来の先生展には、学校の先生だけでなく、行政や研究者、地域の方など、いろいろな立場の方が参加されると思います。そこで、子どもをどう支援できるのか、多様な視点で考えることができればよいですね。きっと、自分一人では考え付かなかった視点を得ることができることと思います。

——最後に、学校とアダチベース、子どもたちと関わっていて、喜びを感じる時の違いがあれば教えてください。

とてもいい質問ですね!
 学校の先生としては、良くも悪くも自分が生徒に与える影響が大きかったです。勉強でも部活でも、自分の働きかけで生徒が成長・変化した時が一番嬉しかったです。

一方、アダチベースではいろいろな大人が子どもと関わるため、自分一人の影響はとても少ないように感じます。しかし、多くの方々の影響により子どもが変わっていく姿をみながら、いろいろな立場の大人を巻き込んだ一つの「チーム大人」で子どもたちと関わっている一体感に喜びを感じています。

ただ、立場は違いますが、子どもの幸せを目指していることは同じはずです。今後は、より学校とも連携していけたらと思っています。これからも、周りと手を取り合い、子どもの悩みや成長に伴走しながら、自分自身も成長を続けていきたいです。

——学校という枠や立場を超えた「チーム」で力を合わせていけたら素敵ですね。貴重なお話をありがとうございました!

編集後記

加賀さんのお話を伺い、目でみえないことをみようとする目を持ちたいと思いました。そして、いろいろな人の温かい眼差しで子どもたちを見守っていくことができれば、教育はより彩り豊かなものになるのかもしれない、と思いました。
(取材・編集 EDUPEDIA編集部 大和信治)

4 関連情報

未来の先生展

2017年8月26日(土), 27日(日)、武蔵野大学 有明キャンパスで行われる、国内最大級の教育イベント!
領域を越え、国境を越え、校種や業種を越え、日本の教育・学びを彩るプログラムが世界・全国から集まります。
◆ウェブサイトはこちら

加賀さんのプログラムは、27日(日)10:00〜11:30
「”悲しみを強さに変える”教育アプローチとは?~教員が飛び込んだ”被災地”と”こどもの貧困”のリアル~」
◆プログラム詳細はこちら

インターン・ボランティア募集

アダチベースでは一緒に子どもたちの居場所をつくるインターン・ボランティアスタッフを募集しています。詳細はこちら

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