全国学力テスト2018年度理科 ~「これは悪問では?!」と思って実験をしてみた

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作成者:matui hiroshi (Edupedia編集部)さん

1 学力テストの問題は本当に妥当なのか


全国学力テストは2007年の再開以来、紆余曲折を経ながらも2018年現在で12回目を迎えます。賛否が論じられる中、今年度は大阪市吉村市長が最下位常態化に危機感を持って、学力テストの結果を校長や教員のボーナス、学校予算に反映する方針を打ち出して物議を醸しています。
学力テストは文科省が「このテストの方向性に合わせて現場の教育が改革されることを期待」しているようです。マスコミは自治体別のテスト結果を大きく報道し、このテストで高得点をとることが自治体の教育の「成功」を示していると考えられがちです。自治体やマスコミがこのテスト結果、つまり順位に敏感に反応するため、学力テストは少なからず教育現場に影響を及ぼしています。
結果が良いに越したことはないと思いますが、発表された自治体ごとの正答率が上位であること、下位である事に一喜一憂するほどのテストであるのかどうか、疑問に思うことが多々あります。言語活動を重視しているのか、テストの内容が国語力を要求していることが多く、理科や算数の力が本当に測れているのかどうかよくわかりません。私は学者ではありませんので専門的な見解は横に置いておいておきます。ツッコミどころは満載ですが、一点突破で2018年全国学力テスト小学校理科の一問だけを取り上げて、「この問題は妥当なのか?悪問ではないのか?」について以下、考察をしてみたいと思います。

2 2018年全国学力テスト小学校理科

前提からして破綻している

これが問題の冒頭部分です。



●「砂など」というあいまいさに苦笑してしまいます。砂は沈殿するので豪雨の後の河口付近か荒海でなければあまり海水に砂が混じることはないような気がします。様々な海で泳いできましたし、台風の日の荒海で泳いで海水を飲む羽目になったことがありますが、海水に砂が混じっていたという覚えはありません。冒頭から妙なムードです。
●実際、近くの海まで行って海岸線から50cmぐらいの所で海水を汲んでみましたが、目視できる範囲では砂は混じっていませんでした(下の写真)。すでにこの時点でこの問題は相当怪しげなムードです。



●仕方がないので、海岸で砂を採って、無理やり砂を混ぜて実験してみます。砂の大きさの定義は2mm - 1/16 mmだそうですので、それよりもっと細かそうな感じの(素人には測定不可能なのであくまで「感じ」)の場所を選んで採取してきました。

そんなこと教えていない


●その前に・・・国立教育政策研究所教育課程研究センターは全国学力テストの「解説資料」を公開しており、この問題については下記のように解説しています。少し長くなりますが、引用してみます。


正答は4だそうです。上↑の選択肢を見て、4だと思えますか?

■正答について正しくろ過するためには,ろ過する液がろ紙を通るようにする必要がある。ここでは,ろ紙に穴を開けないようにガラス棒をろ紙に当てる位置を考えながら,ろ過する液がろ紙の高さを超えないように注ぎ,ろ過する液がろ紙を通過せずにビーカーへ流れ落ちることのない選択肢「4」を選ぶことが適切である。■解答類型について【解答類型1,3】は,砂の混じった海水をろ過したときに,砂を取り除くことができなかった状況から,ろ過する海水がろ紙を通過せず,ろ紙と漏斗の間を通る可能性があることを示す選択肢「1」や選択肢「3」を選んでいる。このことから,液がろ紙を通過することでろ過されるという意味の理解を伴ったろ過の適切な操作を身に付けていないと考えられる。【解答類型2】は,ガラス棒でろ紙に穴を開けてしまう可能性があることや,ガラス棒で漏斗の穴がふさがれ,正しくろ過できなくなることを示す選択肢「2」を選んでいる。このことから,ガラス棒を使用することの意味の理解を伴ったろ過の適切な操作を身に付けていないと考えられる。【解答類型4】は,ろ過する海水がろ紙を通過せずにろ紙と漏斗の間を通る可能性が少なく,ガラス棒で漏斗の穴をふさいだり,ろ紙に穴を開けてしまったりする可能性の低い状況を示す選択肢「4」を選んでいる。このことから,ろ紙やガラス棒を使用することの意味の理解を伴ったろ過の適切な操作を身に付けていると考えられる。

いかがでしょうか。私は今一つ、納得ができません。では、教科書では濾過の仕方をどう教えているのでしょうか。



実は、超大手啓林館の教科書であってもこの程度の記述です。確かに教科書に載っている事だけを教えているわけではないので1・2・3が間違いであることを教えてもよいのです。しかし、教師が教科書以上の内容を教えるかどうかは任意であるため、全国の小学5年生に1・2・3が間違いであることを確実に伝える手立ては「文科省が検閲した超大手教科書会社の教科書」に掲載されていなかったことになります。また、授業で2時間程度の濾過実験をしたところで、1・2・3が間違いであるということがわかるほどの経験ができるわけではありません。知識も経験もない子供たちに対してこうした問題を出題することはフェアでないと思います。このような知識をきちんと教えるの大手の塾や受験生向けの参考書等しかありません。

子供はどう考えるのだろうか


子供は教えられていないことを尋ねられたらどう考えるのでしょうか。子供視線で考えてみましょう。子供はこの悪問を正解に導く知識を持ち合わせていないため、試してみたことのない実験を頭の中だけで考えて、出題者の意向を忖度して答えざるをえない状況に陥ります。
そもそも「まもるさん」が気づきを得たという「ビーカーにたまった海水には砂が混じっている」というこの問題の前提も、どうなのでしょう。まもるさんは砂が混じっていると言っていますが、濾紙の最上部より注いだ海水の水面が上であることとビーカーにたまった海水に砂が混じっていることの相関は明らかではありません。何故砂が混じっているのか、前提となっている「まもるさんの気づき」からは原因がはっきりしません。
そのため、深読みする子供にとって、あながち【選択肢1】が間違いであると言い切ることは難しいです。教科書にもこれが間違いだとは載っていないのですから。
また、【選択肢2】で穴がふさがるとか、濾紙が破れるとかも、経験してみないことには分からないことです。実際、後述の実験では、ガラス棒を強く押し当てない限り問題なく濾過できています。【選択肢2】を間違いと考えるのは実験をしてガラス棒を強く押し当てすぎて濾紙を破いてしまった子供か、教科書以外のどこかから知識を得た子どもだけです。これを間違いだと断言させるには無理があります。
そして、【選択肢3】。本当にこれで濾過はできませんか?少なくとも実験をしてみないことには【選択肢3】で砂が濾過できないという確証を得ることは無理です。
力のある子供は「まあ、選択肢の中から「1つ選んで」なのだから1番まともそうなのは消去法で【選択肢4】だろう」といういまひとつ納得していないままでも推論ができるのでしょうが、それは深い学びによる推論ではなく、受験テクニックによる推論でしかありません。子供はこの問題を通して「試験では悪問であっても出題者の意向を忖度する受験テクニックが要求されるのだ!」というメッセージを受け取ったに過ぎないのではないでしょうか。

3 実験をしてみました

●さて、いよいよ実験結果発表です。「案じるより実験するがやすし」です。(1)番の4つの選択肢を1つずつ試してみました。通常の海水よりかなり砂が混じった状態です。細かい砂もけっこう混じっています。
結果は全て、目視です。特殊な分析をすれば、砂の成分が混じっているのかもしれませんが、問題の設定はまさるくんの目視によるようなので、目視で十分だと思います。

【選択肢1】


砂らしき物質は見当たりません。注ぎ込んだ海水面がろ紙より上まできていても、今回採取した砂の粒子の大きさでは、密着した漏斗とろ紙の間をすり抜けることはないようです。





まさるくんは目視でこれを見て、「砂が混じっている」と言っているのですが、さて、何か特別な実験をしたのでしょうか??

【選択肢2】


砂らしき物質は見当たりません。そこそこ力を入れてろ紙の最も下の部分にガラス棒を当ててみました。しかし、国立教育政策研究所が解説するようにろ紙が破けるということはありませんでした。


 
また、ガラス棒で漏斗の口がふさがれるという説は少々当たっていましたが、問題は「まさるさんの気づきをもとに、正しくそうさしているものを選ぶ」ことになっています。ろ紙が破けるとか、濾過の速度がおそいとかは、まさるさんの気づきとは無関係で、砂らしき物質が見当たらなければ選択肢2は正解ではないでしょうか。

【選択肢3】


砂らしき物質は見当たりません。国立教育政策研究所は「ろ過の適切な操作を身に付けていないと考えられる」と、書いていますが、実際に学校でろ紙がはみ出した状況で実験をさせてあげる状況はまずありません。





そしてろ紙がはみ出してはいけないとは教科書に書かれていません。経験も知識も伴わない選択肢を設けるのはいかがなものでしょうか??しかも、ちゃんと濾過できます。

【選択肢4】


砂らしき物質は見当たりません。選択肢4が正解であることは間違いないでしょう。


【番外編】


番外編は漏斗なしで濾過が可能かどうかを調べてみました。砂らしき物質は見当たりません。特にろ紙と漏斗が密着していなくても今回採取した砂ぐらいなら、濾過できることが分かりました。従って、選択肢3ではみ出し部分から砂の粒子が漏れることはないと言えます。





5本を並べてみても、この通り↓、目視で判別できる差はありません。


【さらに細かい粒子で実験をしてみました】
「砂など」と、出題者は逃げを打っているので、運動場からさらに小さそうな粒子の土を取ってきて実験をしてみました。写真は割愛しますが、その場合、濾過した液体の中に若干の濁りが認められます。【番外編】【選択肢1】【選択肢2】【選択肢3】で濁りがあり、【選択肢4】でも少々の濁りがあるようです。粒子が細かい場合は学校に置いてある程度のろ紙をすり抜ける場合があるようです。しかし、あくまで設問は「海水」を持ち帰ったことになっています。大人も含めた一般人の中で、「海水に含まれる『砂など』の中にろ紙をすり抜ける粒子が含まれるかどうか」ということについて正しい判断ができる人がいるでしょうか。

結局のところ、この問題はこれだけの紙面を使いながら「濾過は漏斗よりも小さくなるろ紙を選んでろ紙より上に濾過物が溢れないようにする」という教えられもしていない知識(経験もしていない)が問われるだけの問題であり、その知識を持ってしても2が不正解であるかどうかも分からず、判断のしようがないというたいへんな悪問です。
元々、汲んだ水に砂は混じっていなかっただろうし、混じっていたにしてもまさるさんが「混じっているよ」と言う「砂」ならどの選択肢のやり方でも除去できただろうと思います。

4 真実を探求する力


文科省は2020年指導要領施行に合わせて「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」の推進を打ち出しています。本当に主体的であるならば、これだけたくさんの大人(文科省関連役人・企業職員・教育委員・学校現場教員)が関わっているのだから、誰かが1~4の選択肢の方法で濾過ができるのかできないのかを試してみてもよかったのではないでしょうか。科学的態度において大切なのは懐疑主義であり、実験によって検証・実証しようとする姿勢です。文科省(の請負をしている業者)が作成した問題とその解答と解説を大の大人が疑うこともなく鵜呑みしてしまい、ろくに議論もせず、実験もしてみていません。出題者は作成に当たって実験もせず、この問題は机上で考え出されたのではないかと疑わざるを得ません。トップダウンされた問題が正しいと思いこみ、その結果に右往左往する大人たちは、「非主体的・非対話的で浅い学び」しかできていません。思考停止状況ではないでしょうか。
文科省を疑え、教師を疑え、教科書を疑え、メディアを疑え。
与えらえた情報を思考停止で信じ込むことの怖さは、教育者が考えなければならないこと、教えなければならない大事なことの一つだと思います。真実を探求する態度は学びを深めるためにはたいへん大事であると思います。この問題は子供たちに、「まあ、テストっていうのは真実や実験結果とは関係なく、消去法と対比を使って正解らしき選択肢を選べばいいんだよ。」「いちいち真実を求めるなんて大人だって面倒くさいんだよ」ということを学ばせてしまう可能性さえあります。
この問題ひとつをとってもテストには悪問がつきものであることが分かります。そして言語能力の出動に偏った妙な問題が毎年目につくのも気になります。「出題者の意向を忖度して悪問を正解に導くスキルを持った人材を育てること」と「真のアクティブラーナーを育てること」は真逆の方向ではないでしょうか。学力テストを実施することで深い学びが誘発されるとは思えません。真のアクティブラーナーとなるには「今」「自分が」追究したいことや楽しいと感じることをとことんやり抜く意志の強さを持たなければなりません。遊びに近いような課題にとことん時間を使って自分の興味のある対象に向き合い、思い存分活動させることが深い学びとアクティブラーナーを産み出すのではないかと思います。
・・・そんな人材を育てるにはたいへんな時間がかかり、学校の時間軸の中で育てることは難しいように思うのですが・・・

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