プラダー・ウィリー症候群のA児が「活動の見通しを持ち」「主体的に取り組む」ための3つの工夫(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「特別支援学級に在籍するプラダー・ウィリー症候群の小学5年生の児童の学習意欲と自信を高めるための授業における配慮」 に掲載されている事例をご紹介します。

○今回の事例の概要

A児は、プラダー・ウィリー症候群の小学5年生の児童で、軽度の知的な遅れがみられます。この事例では、生活単元学習の校外学習を例に、A児の学習意欲と自信を高めるための授業における配慮について考えています。さらに、A児が活動に見通しを持って参加し、最後まで主体的に活動を行うことができるようにするために必要な3つの視点をご紹介しています。

○プラダー・ウィリー症候群とは

今回の事例に登場する「プラダー・ウィリー症候群」とは、以下のような疾患です。

プラダーウイリー症候群(PWS)は、1956年内分泌科医のプラダーと神経科医のウイリーが報告した疾患である。内分泌学的異常には肥満、糖尿病、低身長、性腺機能不全などが、神経学的異常には発達遅滞、筋緊張低下、特異な性格障害・行動異常などが含まれる。

※小児慢性特定疾病情報センターHP(https://www.shouman.jp/disease/details/05_41_089/)より引用

※「特別支援」というキーワードの他記事は、こちらからお読みいただけます。

2 プラダー・ウィリー症候群のA児の様子

A児は、B小学校の知的障害特別支援学級に在籍する、プラダー・ウィリー症候群の小学5年生の児童です。A児の実態は以下の通りです。

  • 軽度の知的な遅れの状態と側わん症(※)がみられます。
  • 発語困難がみられるため、現在は言語療法を受け、発語練習を行っています。
  • プラダー・ウィリー症候群により血糖値が増加するため、食事制限をしなければなりません。しかし、食べることに対する関心が強く、食欲をコントロールすることが難しい状態です。
  • 絵を描いたり、手紙を書いたりする活動が好きで、それらに関しては継続して粘り強く取り組むことができます。
  • どのように活動すればよいのかという見通しを十分に持つことができていないときや、その活動に急な変更があったときは、活動が停滞することがあります。
  • ひらがなについては、読んだり書いたりすることができます。
  • 数唱については、100以上まで数えることができますが、数を合成することについては、10以上になると困難です。

※側わん症とは→https://www.sokuwan.jp/patient/disease/index.html(日本側彎症学会)

3 A児の在籍する小学校における環境整備の内容

A児の在籍するB小学校では、以下のような環境の整備を行い、A児への指導を行っています。

  • B小学校の特別支援学級では、複数の特別支援教育担当者で作成した指導内容表をもとに、一人一人の児童の発達段階や障害特性に応じた指導を行っています。
  • B小学校では、教科担任制を一部導入しています。特別支援学級においては、各教科の担当教員が全ての学級での教科指導を行うことで、児童の実態を把握し、それに応じた教材の選定や教具の作成を行うことができるようになっています。
  • 教材・教具については、指導に当たる教員が各教科等の指導内容に沿って作製し、それが児童個人の実態に対応しているかどうか、職員間で審議してから使用するようにしています。

4 プラダー・ウィリー症候群のA児が校外学習に臨むまでの経緯

生活単元学習の授業「○○ゆうえんちにいこう」の後半に、校外学習を設定していました。この校外学習に関して、保護者から「A児の通学による疲れを軽減するために校外学習で行く現地から直接帰宅させたい」という申し出がありました。そのため学校側は、

  • 校外学習のねらいの一つが、自分で切符を買って公共交通機関を利用し、学校まで戻ってくることであること
  • A児の疲れを軽減するために活動量を調整して配慮すること

を保護者に説明しました。その結果、保護者の了承を得て、A児は公共の交通機関を利用し、学校まで戻ってきてから下校することが決定しました。

5 プラダー・ウィリー症候群のA児が「活動の見通しを持ち」「主体的に取り組む」ための3つの工夫

①活動の手順を視覚的に示す

A児は、口頭での指示を理解することは難しいですが、活動に見通しが持てると自分で工夫しながら活動を進めることができます。そのため活動に入る前には、活動の行いかたに順番を付けて、視覚的に手順を知らせる支援を行っています。活動内容を「短い言葉で」「順を付けて」「視覚的に」示すことで、指示されたことを理解し、活動することができます。

②擬似体験の場を設ける

A児に活動の見通しを持たせるために、実際の場に近い疑似体験の場を設定しています。たとえば今回の校外学習における公共交通機関の利用については、実際の券売機や改札口の写真を拡大してダンボールに貼って作成した券売機の模型を設置し、「実際の場を想定しながら」練習できるようにしました。

③正しい活動ができたかどうかを評価する

A児が正しく活動できたことを自ら実感するために、各活動に評価機能を設定することを心がけています。たとえば公共交通機関の利用については、切符を買うときにA児が正しく模型の券売機を操作することができたら、発券口から切符が出てくるようにしました。A児は切符が出てきたことを確認した結果、「正しく活動ができたことを実感」でき、活動に達成感や満足感を持っていた様子でした。

6 プラダー・ウィリー症候群のA児に関する事例の成果と課題

○成果

今回の事例により、A児が活動に見通しを持って参加し、主体的に活動を行うことができるようにするためには、次の視点から授業において配慮を行う必要があることが明らかになりました。

  1. 活動の順番が視覚的にわかる手順カードを提示すること
  2. 実際の場に近い擬似体験の場を設定すること
  3. 正しい手順で活動できたかを確認することができる評価方法を設定すること

このような配慮を行うことで、A児は自分がどのように活動するとよいか考え、取り組むことができるようになりました。

○課題

A児がさらに社会を見据えて活動できるようにするためには、より多くの人と関わりを持たせる必要があります。校外における活動に参加することで、社会へと視野を広げさせ、他の児童も一緒に達成感を味わうことができるような教材開発を、今後も行う必要があると考えています。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

8 プラダー・ウィリー症候群についての関連リンク紹介

https://www.shouman.jp/disease/details/05_41_089/(小児慢性特定疾病情報センター)

http://www.nanbyou.or.jp/entry/4768(難病情報センター)

http://www.pwstakenoko.org/(プラダー・ウィリー症候群(PWS)児・者親の会 竹の子の会)

https://pwscarenet.wixsite.com/pws-care-net(関東PWSケアギバーズネットワーク)

9 編集後記

プラダー・ウィリー症候群の児童への合理的配慮の事例についてご紹介しました。この記事に掲載した指導の工夫が、多くの先生方のお役に立てれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 津田)

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