学校現場にエビデンスを! ~学校の当たり前を見直すために~(江澤隆輔先生インタビュー②)

GOOD!
1610
回閲覧
3
GOOD

作成者:小林 彩乃 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2019年8月20日に行った、江澤隆輔先生(坂井市春江東小学校教諭)へのインタビューを編集・記事化したものです。学校の当たり前を見直す方法の1つとしてエビデンスを提案した本『学校の時間対効果を見直す! エビデンスで効果が上がる16の教育事例(学事出版)』を出版された江澤先生に、エビデンスに関する様々なお話を伺いました。今回のインタビューは、前半と後半の2記事にわたって公開します。後半では江澤先生の経験も交えながら、先生の負担の軽減などについてお話ししていただきました。

前半の記事はこちら

2 江澤先生の経験

先生が実際にエビデンスを用いて効果があった経験はありますか? それはどのようなものでしたか?

たくさんあります。まずはフォニックスですね。フォニックスは文字と発音を繋げるという考え方なのですが、これを中学校でやったら伸びました。特に、下位層、英語が苦手な子です。実は特別支援教育でも注目されてる部分があります。英語と文字の音が感覚的に繋がっている子どもはよいのですが、そうではない子どもたちに対して、英語を始めたばかりの時期にフォニックスを使うと伸びますね。他の教育活動でもいえることですが、フォニックスのようにエビデンスのサイトの中でトップクラスのエビデンスがあるもので、よいと分かっていても先生たちの研究などのコストも問題があるものもあります。フォニックスは一般社会でもほとんど知られていないし、下手したら英語の先生でも半分くらい知らないです。私も前任の中学校にフォニックスを取り入れようとしたときに初めて勉強をし始めたのですが、まずいったんフォニックスを勉強して、勉強したことをどうやって子どもたちに教えたら分かりやすいかというところまで考えなければいけません。私はその勉強したことをどうやったら中学生にも分かりやすいかな、どうやって授業したら習熟するかな、ということを考えたり教材をつくったりすることがすごく楽しかったのですが、なかなか時間もかけられないですし、難しい先生もいますよね。エビデンスがあります、じゃあそれを使いましょう、でもコストはどうなのかというところもすごく大事な視点です。そういう考えも必要だと思います。

協同学習もそうですね。小学校の4月下旬の授業参観で、1チーム1つの県について調べて、分かった魅力をアピールするという発表を行いました。発表は10チームほどで行い、全チーム同時に発表して保護者や校長先生に歩き回ってもらいました。見てもらう人にはシールを5枚ほど渡して、ゴールデンウィークに行きたいと思った県の発表にシールを貼ってもらうというかたちで行いました。このことにより、すごく子どもたちのモチベーションが上がりました。保護者や校長先生も見に来てくださる。しかも投票で競い合うということで、絶対に1位をとろうと盛り上がりました。私がこれをやったのが4月の1ヵ月間で、10時間かけて子どもたちが発表準備をして、この日に発表しようと決めてやりました。10時間スパンでやる長い協同学習でも、1時間でやるというやり方でもよいですが、1対30、先生と生徒といった上から下の関係の授業はこれからなくしていった方がよいと思います。

3 先生の多忙化と関連して

エビデンスを用いることでどれくらい先生の負担の軽減が期待できますか?

森先生は自分が勤めている学校でエビデンスを用いた仕事の見直しをドンドン進めているそうです。森先生はその学校で研究主任という、その学校で1年間何をどう研究していくかを決める立場です。例えば、指導案を書くときに、一般的には指導主事訪問のときなどにはたくさん書くのですが、森先生の勤務校ではA4で1~2枚に収めるようにしているそうです。指導案それ自体では子どもの学力は上がらないのですが、「指導案をつくりました、先生方どう思いますか」という先生の呼びかけに対して、例えばベテランの先生も中堅の先生も初任の先生もいる中で、「私昔こういう取り組みやったよ」「私初任者研修でこういうこと習いましたよ」というように、先生たちのチームの力が上がることで子どもの学力に還元されるというエビデンスがあるらしいです。だからそれを実践しているようで、自治体の中で一番残業が少ないそうです。

日本国内には質の高いエビデンスが少ないということですが、自分で調べる場合はどうしたらよいでしょうか?

難しいですよね。全部英語ですが、WWCやキャンベル共同計画のホームページで調べるとよいと思います。調べたい教育活動にぴったりのデータはないかもしれないですが、それに似たデータはあるかもしれません。日本でやっている教育活動と全く同じことをアメリカでやっているかといったらそれは分からないですよね。例えば遠足だと、私たちが考えている小学生、中学生の遠足、校外学習とアメリカのフィールドトリップとでは全然質が違います。だから、そういったところを総合的に考えて調べられるなら見た方がよいかなと思います。しかし、やはり少ないので今回出版した本をヒントにしてほしいです。エビデンスがなかったら、本にも書いてある通り、いくつか方法があります。エビデンスの次に信頼がおける研究などそういったところをみるのも1つの手だし、1つの教育活動をするときにどういう狙いがあるのかを考えるというのも1つの手です。職員会議などでも、行事やこういう取り組みがしたいと提案があったときに必ずねらいや目的が書いてあるのですが、意外とそこが抜けがちです。そもそもなんでこれをやるのかということを再確認するための思考のツールとしてSICO(Student・Intervention・Comparison・Outcome)というものがあります。これは今回出版した本で取り上げている16個の教育事例全てに問題を整理するために載せているのですが、16個以外の教育活動でもエビデンスを調べたいときにねらいを明確にするために使うのもよいのではないかと思います。

英語のサイトだと調べるのに時間がかかってしまい、結局使えるようになるまでが大変ではないかと思うのですが。

そうなのです。1つ削減したい業務があり、削減しなかったらずっと多大な労力がかかるから削減しようと思うけれど、削減しますと決めたときに、いきなり労力が減るわけではないのです。削減するためにたくさんの労力がかかります。そのため、多くの人は途中で業務を削減することを諦めてしまい、結局削減するはずだった業務をずっとやり続けることになるのです。通常の業務をしながらさらに業務の削減のために働きかけていくのは、いくらその後削減の効果があることが分かっていても難しいですよね。これがなぜできないかというと、日々の授業の準備が忙しいからということもありますが、主な理由は私たちの担当する仕事が1〜3年ほどで変わるからなのです。例えば今私がやっているのが、情報主任です。情報の仕事にはいろいろありますが、負担大きいよね、これ削減したいよね、削減するの大変だなと言っているうちに「じゃあ次は安全管理をしてね」となります。さらに、異動がありますよね。数年で異動となることを考えると、じゃあ次の担当の人にやってもらおう、と思ってしまうのも仕方がないですよね。授業や保護者対応、教材研究で忙しいのに、数年経つと自分の担当ではなくなる業務にかける労力はなかなかありません。しかし、少しずつでも変えていかないとダメだとは思います。これまでにいろいろやってはみました。例えば、PTAの仕事をしていた時は保護者とのやり取りが大変で、それまでは封筒をつくって宛名を書いて、プリントをつくって校長先生に見せて、封筒に入れて子どもから親に渡してもらって、返事を子どもから担任を通してもらって……という感じだったのですが、私は保護者とのやり取りを紙からメールに変えることで業務を削減しました。メールを保護者に送り、参加の可否がワンクリックで回答できるようにしました。このように業務によっては削減のための労力が少ないものもありますよね。でも労力が大きい仕事ももちろんあります。だから小さいところからやっていかなければならないと思います。長期的な時間の節約はすごくよい視点だけれど、できない構造が学校には残念ながら多くの側面であるのです。そこでヒントとして使ってほしいと思い書いたのがこの本です。エビデンスなんて知らなかったですよね、日本の先生方。だからこそこれを使ってやってほしいです。サイトで調べて自分の学校に落とし込んで提案して削減、そこまでできる先生はほとんどいないと思います。

エビデンスを活用するのは新任の先生でも可能でしょうか?

自分が担当しているクラス、自分が担当している仕事に対して調味料をかけるイメージでエビデンスはあるのだろうかと調べてやっていくことはできると思います。しかし、私たちは組織で仕事をやっているから、独立していないのです。小学校でいうと私たちはずっと教室にいて授業をしているけれど、実際は隣のクラスとの兼ね合いがあるし、学校全体の方針に逆らうことはできません。だから、業務に慣れていない中でエビデンスを活用していくのは大変であり、学校全体がエビデンスという視点を取り入れているような状況でない限り難しいです。いろいろな要素があるから、これをがっつり取り組もうと思ったらやはり学校を一部分だけでも動かせるようになってからそこに徐々に入れていくというイメージです。例えば私が英語の教員になった一年目にフォニックスができるかといったら無理だと思います。フォニックスを自分が担当しているクラスで10分間やるくらいならできますけど、やるからには学校を変えないといけないですから、英語科全体を変えるということは、新任の教師だったころの私を思うと絶対できないです。先輩の先生の意見や授業の準備、部活動のこともありますしね。クラス単位や自分の仕事に取り入れたエビデンスを、レベル上げて学校を変えようとか、学校のこの部分を全部変えてみようということはもう少し経験して見えるようになってからの方がよいと思います。

今後エビデンスが普及していって、学校自体がそうやってやっているなら、合わせて若い先生も一緒にやっていけばよいと思います。やはり学校全体を変えていかないとダメです。フォニックスもそうですが、例えば、私1人が担当できるクラスは4クラスしかない状況で、学校全体には16クラスあるとします。その4分の1変えたところで何も学校は変わらないのです。むしろ去年の江澤先生こんなことやってたのに今年の先生はやらないんだよということになるから、やるならみんなでやったほうがよいと思いますね。麴町中学校の工藤勇一先生が2年ほど前に『学校の「当たり前」をやめた。』という本を出されてから学校の見直しが注目されていますが、工藤先生も言っているのが、「目的志向」です。最後にどうなっていてほしいのかをまず考える。それは授業でも行事でもそうで、どうなっていてほしいのかという目的をまず見直して、これいらないよねということをどんどんそぎ落としていく。そのそぎ落としていくときにぜひエビデンスを見てほしいと思います。

結局は何を目的とするかということが大切なんですね。

そうです。目的や何をねらいにするのかというのを考えて、総合的に見直すことが大切です。時間は有限ですから、なんでもはできないですからね。

4 プロフィール

江澤 隆輔(えざわ りゅうすけ)

坂井市春江東小学校教諭

1984 年福井県坂井市生まれ。福井県公立学校教諭。広島大学教育学部(英語)卒業後、福井市立灯明寺中学校、あわら市立金津中学校、坂井市立春江東小学校と小・中学校に勤務。教師の働き方改革や授業改善への提案をテレビや書籍等で積極的に提案し続けている。著書に『教師の働き方を変える時短』(東洋館出版社)、『苦手な生徒もすらすら書ける! テーマ別英作文ドリル&ワーク』(明治図書出版)、『先生も大変なんです いまどきの学校と教師のホンネ』(岩波書店出版)、共著に『学校の時間対効果を見直す!』(共著、学事出版)、『中学英語ラクイチ授業プラン』(共著、学事出版)(2019年8月20日時点のものです。)

5 編集後記

何かを変えようとするときにはそれまで以上の労力がかかってしまうけれど、誰かがそれを乗り越えないとずっと先生の仕事は変わっていかないということを再認識しました。また、今まで知らなかったエビデンスが学校現場でどのように使われていくのか、イメージがわきました。新しいエビデンスという視点が、学校における様々な仕事や行事などを見直すきっかけになればと思います。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 小林)

コメント

コメントはまだありません

    より良い実践のためには、あなたの励ましや建設的な対案が欠かせません。
    ログインして、ぜひコメント欄をご活用ください。