性行動全国調査からみえた「若者の性」~草食化でなく分極化へ~(林雄亮先生 教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー)

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作成者:大和 信治 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた、武蔵大学の林雄亮先生へのインタビューを記事化したものです。

全国の中学生から大学生約13000人を対象に調査・研究した「第8回青少年の性行動全国調査」。それを分析・研究した論文集『「若者の性」白書』が、2019年8月に刊行されました。調査研究チームの林先生に、複雑化する現代の若者の性意識や学校教育へのヒントについてお話を伺いました。

(2019年7月23日取材)

2 インタビュー

1974年から続く「青少年の性行動全国調査」 を分析

——今回、共著者として調査に関わった、「若者の性」に関する調査報告の特徴を教えてください。

本書は、1974年よりおよそ6年おきに実施してきた「青少年の性行動全国調査」 をもとに、日本の青少年の性的経験(デート、キス、性交など)が年齢にともなってどのよう進行するかを明らかにし、時代的な変化の動向の中で読み取ることができるようにしています。

本調査の重要な側面は、〈性行動を趨勢として捉えること〉〈多様な視点から性行動にアプローチすること〉です。序章・第1章は問題提起というより事実確認になっていますが、それ以降の章は性被害、学校適応、友人関係など多様な視点で性行動を捉えています。個人のプライベートな部分を、社会的な大調査によって知ることができる貴重な資料だと思います。


  (白書p15より)


  (白書p17より)

——今回の調査で特徴的だったことはありましたか?

この調査で特徴的なのは、性行動の経験率が過去の調査と比較して「具体的にどう変わったか」が分かる点です。一般的には経験率が上がったのか、下がったのかという数値の変化のみが注目されますが、どんな人が増え、どんな人が減ったのか。そしてその変化から、世の中全体がどう見えるのか、ということが分かります。

単に経験率を比べるだけではなくて、性交に関しての興味の有無や経験の有無など、複数の視点で分析することで、以前はあまり見られなかった人間像も見えてきます。

若者の性は「草食化」ではなく「分極化」した

本書では、キーワードとして「分極化」*という言葉を使いました。「草食化」という言葉がよく使われますが、若者全体が草食化したわけではなく、実はばらつきがあります。世の中では性交経験のない人は草食系であると考えられていますが、実際は性に興味がないのではなく、性的な成長のプロセスが遅いだけという人もいます。

最近は性行動が活発か不活発かで「二極化」とも言われますが、2つのグループだけではなく、例えば下のように、いくつものパターンに分類されることが分かりました。

  • 活発と不活発の中間の人
  • 今は経験がなくても、いずれは経験したいと思っている人
  • 今まで経験はなく、これからもしなくてよい人
  • 早く経験して飽きてしまう人

*若者の性の「分極化」とは

1974年から2017年までの8回にわたる「青少年の性行動全国調査」では、2005年(第6回)の調査で、性行動(デート、キス、性交経験の有無)の活発化がピークを示した。それ以降は、いずれも低下傾向が続いている。世間一般では「草食化」という言葉で若者の性行動の不活発化が語られることが多いが、調査委員の見立てとしては、若者が一様に不活発化したのではなく、活発なグループもあれば、不活発なグループも見られるという分析である。それは「二極化」というように明確に区分できるものでなく、様々なタイプが見られることから、「分極化」と言い表している。

「青少年の性行動全国調査」から見えてきた「若者の性の分極化」|みんなの教育技術 より引用)

性意識と社会との関係

——このような変化と社会構造とは、どのように関連していると思いますか?

若年層の労働環境の悪化や貧困の増加なども影響しているとは思います。しかし、それらがダイレクトに影響しているのではなく、それらに関する社会の雰囲気が若者の性のあり方に影響しているのではないかと考えられます。とくに性意識は、そのような空気の中で世の中をどう見るのか、ということに左右されると思います。

性行動はプライベートな部分ですが、例えば親の労働環境などオフィシャルな部分は社会と共に変わっていきます。実証するのは難しくあくまでも仮説ですが、オフィシャルな部分が変わることで、家族関係や子どもの性格などプライベートの部分も変わることがあり、それに関連して性行動にも影響があるのではないかと考えられます。

また、少子化についても、性行動が不活発化したから未婚・晩婚が進んだという話があります。一方で、労働環境が厳しく、お金がないから結婚できないという理由も、少子化に影響するのではないでしょうか。単に個人の関心や性行動によるものではなく、社会の構造的な要因も関係していると思います。

——親子関係と性行動についての関連はありましたか?

親の階層的な地位が高い方が、子どもの性行動は不活発です。それは、親から学力に価値を見出す教育をされているので、子どもは「デートするよりも勉強しよう」と考えるからかもしれません。また、家族の中で会話が少ないと非行に走りやすく、性行動の経験率が高くなりやすいと言われることがあります。

このような調査・分析には、少なくとも親の仕事や家庭環境が分からないといけないのですが、それらはプライベートに関わる部分で、とても聞きづらい質問です。本調査では、中学生にはそのような質問項目はなく、高校生にはとてもシンプルな形で、大学生には両親の仕事内容について聞いています。

——調査をすることで、生徒・学生へどのような影響がありますか?

1つはネガティブなもので、回答することで過去の嫌なことを思い出させてしまう可能性がゼロではないということです。そのような可能性をできるだけ減らす質問設計を心がけています。

もう1つはポジティブな側面で、質問に答えたり選択肢を読むことで、他の人はこう答える場合もあるのか、と改めて客観的に自分のことを考える機会になることです。調査票の最後のページに、性に関する悩みを匿名で自由に書いてもらう欄があります。普段はあまり考えないかもしれない性に関して、自分の考えていることを書く貴重な機会になると思います。

我々は、そのような悩みに直接は答えられないので、白書の第8章では、回答された悩みを分析して間接的にフィードバックするようなこともしています。今まで刊行された白書は学校の保健室や図書室にはありますが、要約版などを作って中高生一人ひとりに届くようにできたらいいなと思っています。

——調査する学校をどう決めているのですか?

大きな枠組みとして、地域や偏差値、公立・私立、男子校・女子校の区別などの情報から、調査対象となる学校をできるだけ幅広く選び、日本の縮図になるように考慮しています。「大都市のみ」「公立校のみ」など、調査対象を限定すれば違う結果が出るかもしれませんが、本調査では全国に散らばる様々な学校での調査という特徴を生かして、毎回比較可能なものになるようにしています。


  (白書p14より)

キャラ化できない多様性を大事に

——若者が「リア充」など人をキャラ化して捉える風潮があると思いますが、それについてはどう思いますか?

キャラ化が人との差異を分かりやすく表して、「自分のアイデンティティはこれだ」と感じさせているのではないでしょうか。ただし、アイデンティティが複雑になればなるほど、それは言葉では表現しにくくなるはずです。人を単純化した「○○系」のような表現は、人の性格を決めつけて、人の持つ多様性を軽視しているように感じます

我々の調査によって、性的指向や性自認について様々な人がいることが分かりました。このような結果を社会に広めることで、「様々な人がいて当たり前。あなたは悪くないんだよ」と伝えたいです。

学校教育への示唆

——日本の学校教育の性教育について、調査から分かることはありますか?

私は性教育の専門家ではないですが、調査から考えると十分に実施されているとは言い難いでしょう。学校では、一般的な生殖のあり方などは教えているでしょうが、正しい避妊の方法などについてはあまり教えていないようです。

それは、調査の最後に簡単なクイズをつけていますが、あまり正答率が高くないことから考えられます。大人になれば正答率は上がるので、学校で習ったというより、知識が必要になった時に自ら身につけているのではないかと思います。若者は、学校の性教育ではなく友だちやネットから性に関する情報を得ることが多いようです。

——学校の先生は、調査結果をどのように活用できるでしょうか?

白書では何らかの主張をしたいのではなく、現代青少年の性行動を多方面から観察していますので、家庭環境と性、規範意識やリスクのある性行動、ライフコースに関する考え方や性についての悩みなど、先生方の関心がある箇所から読んでいただけたらと思います。

日本性教育協会 事務局長の中山さん(編著者)より

 読者には、数値の上下だけでなく、そこにはいろいろな多様性や分極化があることを、データを通して理解していただけると嬉しいです。

3 編集後記

学校では、性に関して公に話すことが少ないように思います。正しい知識を伝える学校や社会の役割を考えさせられました。
 多様な視点で分析がなされ、性を考えるたくさんのヒントがある白書が、学校の先生だけでなく中高生にも届いてほしいです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 大和信治  撮影:教育技術 編集部)

4 先生のプロフィール

林雄亮(はやし ゆうすけ)先生
武蔵大学社会学部 准教授(2014年4月~2020年3月)、教授(2020年4月~)
専門は、計量社会学、社会調査法、社会的不平等の研究、青少年の性行動調査研究。
(2020年7月時点)

5 著書紹介

林雄亮先生の共著書
『「若者の性」白書 ~第8回青少年の性行動全国調査報告~』
日本性教育協会・編

試し読みはコチラ

〈 編集者からのおすすめ情報 〉
今回の調査報告で第8回を迎える「若者の性白書」。膨大な調査をもとに集められたデータ集は、青少年の行動・意識の分析に大いに役立つでしょう。さらに、少子化対策などへの研究の資料としても有用だと思われます。

【主な内容】
序 章 第8回「青少年の性行動全国調査」の概要
第1章 変化する性行動の発達プロセスと青少年層の分極化
第2章 青少年の性規範・性意識からみる分極化現象
第3章 家庭環境や親子のかかわりの違いは青少年の性行動に影響を与えるか
第4章 知識・態度・行動の観点からみた性教育の現状と今後の課題
第5章 青少年の性行動と所属集団の性行動規範
第6章 青少年の避妊行動の実態と包括的性教育の可能性
第7章 性的被害と親密性からの/への逃避
第8章 青少年の性についての悩み~自由記述欄への回答からみえるもの~
付表Ⅰ 「青少年の性に関する調査」調査票
付表Ⅱ 基礎集計表(学校種別・男女別)

<コラム>
1…性情報について
2…性教育をめぐる近年の社会的動向
3…LGBT学生について
4…男性の性的被害
5…「青少年の性行動全国調査」の困難と課題

6 関連ページ

日本性教育協会 | 出版物・資料案内 | 青少年の性行動 わが国の中学生・高校生・大学生に関する第8回調査報告

白書のもとになった報告書です。経年変化の分析と解説、全質問の中学生・高校生・大学生の詳細な男女別集計結果が掲載され、2017年度の調査における特徴的な傾向や今後の課題についてまとめられています。

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