“時間のゆとり”がもたらした新採教員の成長――山形県の新採教員支援が生んだ学びの循環【山形県教育委員会インタビュー・後編】

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目次

はじめに

本記事は、山形県教育委員会が2023年度から実施している「新採教員育成・支援事業」について、担当者の方にお話を伺ったインタビュー記事の後編です。

事業開始から約3年が経った現在、現場にどのような変化が見られたのか、実際のエピソードも交えてお話をご紹介します。
(取材は2025年12月10日に、山形県教育局にて行いました)

前編では、事業に込められた想いや背景、構想の過程について伺いましたので、併せてご覧ください。
(前編はこちら

山形県「新採教員育成・支援事業」のリーフレットはこちら
(事業を紹介したリーフレットのURL:https://www.pref.yamagata.jp/documents/41074/shinsai-leaflet.pdf

時間のゆとりが生んだ「比較して学ぶ」「繰り返し実践する」という経験

事業を開始して、新採の先生に空き時間が生まれたことで、現場にはどのような変化が見られましたか。

私たちが伺った中で、特に多く耳にしたのは、「他の先生の授業を見る機会が増えた」という声でした。空き時間があることで、新採の先生は自分の担当以外の授業を見に行き、授業の進め方や子どもへの関わり方を間近で学ぶことができていました。

また、自分の学級の授業を支援員が担当する場面では、子どもたちが、教える人によって異なる反応を見せる様子を目にすることもあったそうです。「自分には何が足りないのだろう」と考えるきっかけになり、自身の授業を振り返る材料にもなっていました。

一方で、教科担任として複数の学級を担当する場合には、同じ単元の授業を異なるクラスで行う経験を重ねる中で、回を重ねるごとに授業内容が改善する経験や、学級や子どもによって授業の進め方を変える必要があることを実感を伴って学んでいったという声も寄せられました。

こうした「比較して学ぶ」「繰り返し実践する」という経験は、新採の先生が自分なりの授業スタイルをつくっていく上で、大きな学びの機会になっていたように思います

「困ったら相談する」という選択肢が新採の先生に身についた

この支援事業を経験した新採の先生が2・3年目になった今、どのように成長して現場に立っていると感じていますか。

私たちは、この事業を経験した2・3年目の先生と、それ以前の先生とを厳密に比較したデータを持っているわけではありません。ただ、毎年行っているアンケートの中で、印象的なことが書かれていました。

「仕事で大変なことがあったとき、どのように乗り越えていますか」という問いに対して、2・3年目の先生たちから多く挙げられたのが、「相談する」「周囲と協力する」といった回答でした。当たり前のようにも聞こえますが、「困ったら相談する」という選択肢が、自然なものとして身についている様子がうかがえました

1年目に手厚い支援を受けたことで、頼りない先生になっているという印象はなく、むしろ、困難な状況に直面したときの対処の仕方や、仕事の優先順位のつけ方など、問題に向き合うための“道筋”を早い段階で身につけているように感じられます。

1年目のうちからさまざまな先生に支えられる経験を重ねてきたことが、「相談することは恥ずかしくない」という実感につながり、その後の成長にも影響しているのではないかという印象を受けました

新採の先生の支援が、先生同士の支え合いに広がっていった

実際に事業を運用してみて、当初の想定の他に感じた影響はありましたか。

事業を進める中で、私たちが感じたのは、新採の先生への支援が、次第に学校全体の関係づくりにも影響を与えていったということでした

2年目以降、新採の先生を受け入れた学校の校長がオンラインで集まり、それぞれの学校での取り組みを共有する場が設けられました。新採の先生の育成にとどまらず、2・3年目になった先生をどうフォローしていくかといった視点でも意見交換が行われ、校長同士にとっても新鮮な学びの機会になっていたようです。「普段なかなか話す機会のない校長の話が聞けてよかった」といった声も寄せられました。

また、校長先生たちの情報交換会の中で各々の取り組みをシェアする時間がありました。その中で、相談しやすい関係づくりを意識した取り組みがあったことが印象的でした。たとえば、放課後の時間に“雑談タイム”を設け、学年やグループごとにざっくばらんに話せる場をつくるなど、意図的にコミュニケーションの機会を設ける工夫が行われていました。こうした取り組みは、新採の先生だけでなく、先輩教員にとっても「困ったときに話していい」と感じられる雰囲気づくりにつながるかもしれないと思います。

この事業は仕組みそのものだけでなく、「校長先生がどうマネジメントしていくか」も大切な部分になります。とはいえ、校長にとっても若手をどう育て、支えていくかを考えることは簡単なことではありません。だからこそ、校長同士の悩みや工夫を共有できるこの交流の場が、少しでも校長先生方の支えになることを願いながら実施しました。

その結果、新採の先生を支えるための事業をきっかけとして、先生同士が支え合う関係づくりへと広がっていく――。私たちにとっても、当初は想定していなかった変化が、少しずつ見え始めてきたように思います。

制度は「枠組み」である――育てるのは人と関係

取材を通して、当初の目的であった「新採の先生の時間的なゆとりをつくること」だけでなく、副次的な効果として学校全体の関係づくりにも変化が生まれているように感じました。新採の先生だけでなく、先輩の先生や校長も含めて、「一緒に職場環境をつくっていこう」とする雰囲気が、少しずつ広がっているような印象を受けました。

私たちとしても、事業を進める中で、新採の先生への支援が学校全体の関係づくりにつながっていく場面を感じるようになってきました。初年度には戸惑いや行き違いもありましたが、次第に「学校全体で新採の先生を育てていこう」という意識が現場に広がっていきました

事業の枠組みは整えましたが、その活かし方は学校ごとにさまざまです。教科担任としての配置のあり方についても、若手に一つの教科を任せて専門性を育てたいと考える学校もあれば、教科担任の配置の難しさを感じる学校もあります。そこは、各校の考え方や状況に応じて判断してもらう部分だと考えています。

今後については、事業の大枠はできたので、若手の不安を和らげたり、先生同士のつながりを広げたりするような取り組みを、他の事業や研修と組み合わせながら検討していきたいです。時間的なゆとりをきっかけに生まれたこの枠組みを、学校全体で若手を育てていく土台として、これからも続けていきたいと考えています。

編集後記

今回の取材を通してまず強く感じたのは、この事業の根幹にある、「新採の先生の時間的なゆとりをつくる」という取り組みそのものの大切さでした。忙しさが当たり前になりがちな学校現場において、予算をかけて人事配置を整えた本事業は「若手の先生を大切に育てていきたい」というメッセージがダイレクトに伝わるように思いました。

また、新採の先生だけでなく、校長同士の情報交流会を設けるなど、学校を超えた取り組みも行われていたことが印象的でした。一つの事業をきっかけに先生同士の関係や職場の雰囲気にまで影響がみられたことは、副次的な効果としても大変興味深く、同時に大きな可能性を感じさせるものでした。

新採の先生を「守る」ことは、決して甘やかすことではなく、育てるための土台を整えることなのだと、今回の取材を通して学ばせていただきました。この事業に限らず、日本の学校現場においても、「守りながら育てる」という視点がこれからますます大切になるのではないかと感じています。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 千ゆう子)

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