「学校あるある」の、くつかくし
関連記事「くつかくし対処法2」も是非ご参照ください。
子どものくつかくしを体験したことのない教員は、いないのではないか。そして、一度起きたら、やっかいである。
* なかなかかくしている子が分からないこと。
* 一度起きると、何回も起きるおそれがあること。
* 学級に疑心暗鬼が生まれ、学級の仲間づくりに悪影響を及ぼすこと。
1 鉄則1 『犯人』という言い方は、『犯罪』を連想させる。
わたしが担当している初任者A先生の学級(5年生)でも、くつかくしが起きた。
そのときのA先生の指導をふり返りながら、むずかしい、くつかくしの指導のあり方を考えてみよう。
〇朝の会で、A先生が話し出す。要点だけ示すと、
「昨日、Bさんのくつがなくなった。先生も一緒にさがした。でも、見つからなかった。」「このクラスに犯人がいるとは思わないが、不満があったら、くつかくしなどしないで、口で言おう。」「もし見た人がいたら教えて。」「こういうことが続くと、犯人をさがさなければならなくなるよ。」となる。
- A先生は、「犯人がいるとは思っていない。」と言ったが、その後の「不満が~。」とか、「こういうことが~。」などという言葉から、『いるかもしれない。』と思っていることは明白だ。
もう5年生なら、『先生は、言っていることと違って、わたしたちを疑っている。』と見抜くだろう。
そのように、すぐ本音が伝わってしまうような場合は、『建前』は言わないようにしよう。
- また、『犯人』という言葉を使ったのもよくない。なんか、どぎつい。聞いている子どもたちも、ドキッとしてしまうだろう。
ここでは、次のように言ったらどうだろう。
「くつをかくした人がこのクラスにいないことを祈っているが、」
小学生相手に使った場合、『犯人』という言い方は、より抽象化された表現といえると思う。
『くつをかくした子』というように、事実に即した言い方をしよう。
子供が「犯人」という言葉を使うようなら、「そういう言い方は止めよう。やってはいけない事だけれど、やってしまった人も、今はまずいことをしたと思っているだろうし。」
と、はぐらかしましょう。
2 鉄則2 前後で齟齬をきたすような『建前』は言わない。
- 「もし見た人がいたら教えて。」と言ったのはよかった。
もしこのクラスに、くつをかくした子がいる場合、これはプレッシャーになると思われる。
でも、こう続ければ、なおよいだろう。
「いいか。やった人は、今、『うわあい。ばれなかった。うまくいった。』と思っているかもしれない。逆に、『あんなことをやらなければよかった。』と後悔しているかもしれない。
後者であれば、先生はうれしい。
でも、残念ながら前者であれば、こういうことをやる人はうまくいった経験によってクセになりやすいから、またやる心配がある。
そして、いつかばれることになる。そのときは、何回もやったあとだから、大変なことになるよ。だから、クセにならないうちに、もう、こんなことはやめるよう、祈るのみだな。」
これは再発防止策につながる。
「こういうことが続くと、犯人をさがさなければならなくなるよ。」と言うよりは、はるかにいいだろう。第一、犯人さがしなど、できるものではないよね。
3 鉄則3 脅迫じみた言葉を使わない。子どもが自分自身の気持ちでやめる気になるような言葉かけを工夫する。
〇この後、A先生は、続けてこう言った。
「もう一人、Cさんも、くつかくしにあったように思ったみたいなんだけれど、それはCさんの勘違いだったようだ。
Cさんは、『わたしの靴もかくされたかと思ったけれど、よくさがしたらすみっこに置いてあったの。だから、かくされたのではなくて、わたしが気づかないで落としたのを、誰かが片付けてくれたのだと思う。』と言っていた。」
聞いているわたしは、とてもうれしくなったが、
でも、A先生は、さらに次のように言えば、なお、よかったと思う。
「Cさんは、やさしいなと思った。それがうれしかった。
だって、Cさんにしたって、『もしかしたら、かくされたかもしれない。』という思いはあったと思うのだ。
でも、それを自分の不注意のせいにしてくれた。ありがたいなあと思ったよ。」
事実はどうか分からない。
でも、担任がそうとらえ、子どもたちに語りかけることは、子どもの心をきたえることになるだろう。
放課後、A先生に次のような話をした。
*まず、事実が分からなければ、とかく人のせいにして、人を攻撃することが多いのに、そうではなく、自分の落ち度とする子が自分の学級にいることを、『奥ゆかしい思いをもつ子が自分の学級にいるのは、感動的であり、ほこりでもある。』ととらえたい。
*そして、Cさんへの感謝の念を、学級全員に話すようにしたい。
*そのことが、学級の子全員の心の豊かさを育むことになるし、
さらに言えば、くつかくしの子が学級にいるとすれば、その子も聞いているわけだから、自責の念をもつことが期待できる。
*その結果、以後、くつかくしがなくなることも期待できよう。
子どものすばらしい言動をしっかりと受け止め、よい意味の評価をしてあげること。そうすると、少しだけかもしれないが、学級は明るい雰囲気に包まれる。
4 鉄則4 問題行動の中にも、また、その指導中にも、子どものすばらしい言動はある。
〇最後に、2つほど。
- くつかくしのような事件は対応がむずかしい。特に高学年ともなると、やった子は判明しにくい。
先に、「もし見た人がいたら、教えて。」と担任が言ったのを、「よかった。」と書いたが、『ちくる』という言葉に象徴されるように、高学年になると、なかなか担任に言わなくなりやすい。
もしそうした雰囲気を感じたら、次のように言ったらどうだろう。
「いいか。DさんがEさんの問題行動を、先生に言ってきたとする。言われたEさんが先生に怒られる。
その怒られているのをDさんが見て、『うわあい。怒られてら。いい気味だ。ざまあみろ。』と思っているのなら、それは『ちくっている。』といっていい。
でも、心から、Eさんのことを思い、『いい子になってほしい。くつかくしなどしないでほしい。』と願って先生に言うのなら、それは絶対『ちくっている』のではない。
その違いは、Dさんの態度に表れる。
前者の場合は、にやにや笑っているだろう。
後者の場合は、心配そうに見守っているに違いない。
それに、その場合は、Eさんがいいことをしたときも、『先生。Eさんをほめてあげて。こんないいことをしたんだよ。』と言ってくるだろう。
だから、後者の気持ちをもっているのなら、『ちくる』などという言葉を恐れず、どんどん先生に言ってきてほしい。」
5 鉄則5 子どもの問題行動を問題としてのみとらえるのではなく、子どもの心をきたえ、心を豊かにし、仲間づくりをするチャンスととらえよう。
- Bさんの保護者への連絡も欠かせない。
しかし、こまったことに、この場合、くつが見つからないまま、連絡せざるを得ないことも多いだろう。
指導の至らなさをお詫びするとともに、客観的に状況を話す必要がある。A先生の報告が誠実であれば、そういう状況であっても、真心は通じるというものだ。
多くの場合、子どもであるBさんがこの事態をどう受け止めているかにかかっている。『先生は、やるだけのことはやってくれた。』と受け止めていれば、保護者も安心できるから、信頼関係が増すことだってありうる。
誠心誠意、指導の経過とともにお話すれば、かえって信頼関係も増すというものだ。
コメント
コメント一覧 (2件)
同じ職場の方は、このクラスに隠した子がいるかどうかははっきりしないが、もしこのクラスに靴を隠した人がいるなら、そのような人はこのクラスに必要ありません。同じクラスの人を困らせ悲しい気持ちにさせているんですから。またこんなことがあって、このクラスの人だとわかれば、このクラスを出てってもらおうと思います。
とおっしゃってました。
うちの学校ではこんな甘い指導では何回も起きます。「靴隠しは犯罪です」「次に起こったら警察に通報します」といいます。今の子はこのくらいしないと教師を甘く見ていますから。教師が試されているのです。