新聞で自ら行動する力を。――自分にできることを真剣に考え、行動する力を養う新聞教育

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目次

1 はじめに

本記事では、横浜市立霧が丘小学校からご協力いただき、東京新聞いきいき学習賞にて大賞を受賞した「新聞を利用した総合学習の授業」を取り上げる。

2011年の3月11日、私たちは東日本大震災を経験した。
「テレビや新聞から得られる情報を児童はどのように感じているのだろうか。人ごとではなく、自分のこととしてとらえられるようにするにはどうしたらよいのだろうか。『今、わたしたちにできること』を真剣に考え、自ら行動できる人になってほしい。」

そのような先生方の思いから、この活動は始まった。
先生方は、東日本大震災を教材として「扱う」ことに、はじめは強い抵抗があったそうだ。「学習として成立するのだろうか。」「被災された方々の思いを考えると、そんな簡単に話をしてはいけないのではないだろうか。」……様々な思いが錯綜する中で、被災された宮城県の教育委員会の方から、「遠い地域に住んでいる子どもたちにも、地震の事や被災した人々のことをもっとよく知ってもらいたいし、伝えてもらいたい。」という言葉を聞き、取り組む決心がついたという。

2 単元目標

3月11日に起きた東日本大震災について、様々な新聞を調べる活動を通して、被害の大きさやその土地に住む人々の思いを知り、自分たちに何ができるのかを考え、その実現 に向けて行動しようとする態度を育てる。
(横浜の時間69時間:総合50時間、国語14時間、学活3時間、道徳2時間)

※「横浜の時間」とは、総合的な学習の時間を中心とする、他教科との連携を生かした横浜市独自の学習時間枠。

3 単元構想

4 活動の大まかな流れ

第1部 東日本大震災について、新聞記事ではどのように報道されているのか知ろう。

  • 新聞記者はどのような思いをもって震災を伝えているのか考える。

第2部 テーマごとに記事を集め、調べたことから自分たちにできることを考えよう。

  • 支援の内容や被害の状況、新聞社による報道の違いなど、テーマごとに調べる。
  • 調べたことから自分に何ができるのかを考え、意見をまとめる。
  • 児童、保護者、新聞記者の方に参加していただき、ディスカッションする。ディスカッションテーマは「日本の復興に向けて、今、これから、わたしたちにできることを考えよう」。

第3部 自分たちにできることを実行しよう。

  • ディスカッションから、復興支援バザーを開催することに決定。
  • バザーで得た収益金は、震災を伝えるドキュメンタリー映画の製作協力費として寄付することとした。
  • バザーに必要なことを考え、準備する。
  • バザーを開催し、収益金を寄付する。

5 活動のねらい

第1部

  • 新聞の見方を知り、自分にあった記事を選ぶことができる。
  • 新聞は事実をどのように報道しているのか知り、写真・見出しの効果や、新聞社によって伝え方が違うことに気づくことができる。

第2部

  • 自分のテーマにあった記事を集めて共通点を見つけ、それについて自分の意見をもつことができる。
  • 新聞記事で得た情報から、自分たちにできることは何か考えることができる。

第3部

  • 自分たちにできることを話し合い、実践する内容を決めることができる。
  • バザーの開催に向けて、自分たちで計画を立て、必要な仕事を考え実践することができる。

活動の実際

第1部の学習

新聞では実際に震災についてどのように報道されているのかを調べた。教師が記事を選び、プレゼンテーションソフトを用いて写真や記事を提示した。 2枚の写真を比べたり、発行時期の違う新聞を比べたりして、震災直後と時間が経った後の報道の変化や、写真が伝えようとしていることについて考える授業を行った。

児童は事実を読み取るだけではなく、記者が記事の中で伝えたいことは何なのかを考えることで、新聞が読者により意義のある情報を伝えているということを知ることができた。

また、実際に新間に目を通し、自分の興味のある記事を選ぶことができるように工夫した。具体的には、グループごとに新聞記事を切り抜き、その内容を要約した壁新聞を作った。さらに、それについて自分たちがどのような考えをもったのかも書きこみ、学級で発表し合った。

グループの発表から、震災についての記事にもいろいろな種類があり、これから調べていくにあたって、いくつかのテーマに分類していこうということになった。これが第2部の活動につながっていった。

第3部の学習

学習発表会での募金により、目標金額の半分を集めることができた。さらに、もう半分をどのように集めるかクラスで相談した結果、全員でバザーを開くことになった。バザー開催にあたって、必要なことが何かを考え、役割分担をした。

全校児童はもちろん、地域の方々や、近隣の学校にも宣伝活動を広げた。

当日は予想以上の人が来てくださり、予定していた2時間の販売時間で、ほぼすべての品物が売り切れてしまうほどの盛況ぶりだった。結果として、目標金額を大きく上回る売り上げがあった。

6 実践の効果

子どもたちにとって新聞は「情報を得るツールの一つ」として考えられていた。
しかし、この活動を通して、得た情報から自分がどう考えるかという、さらに一歩踏み込んだ視点をもつことができた。児童は多くの新聞社の新聞を比べて読むことから、記者の思いや新聞社の考え、そして読者のニーズによって内容に違いがあることに気付くことができた。テレビニュース で得られる情報はごく一部で、新聞を自分たちが実際に開き、読み、学習していく中で得た情報のほうが、より広くて詳しいものだということをどの児童も感じていたと思う。

また、記事一つ一つには関わった人々の思いがつまっていることにも気付くことができた。そこに触れたとき、児童は初めて「自分だったら何ができるだろう。」という考えに至ったのではないだろうか。この活動の後半には、新聞記者の方にも参加していただき、「わたしたちにできること」をテーマに、児童、保護者とともにディスカッションをすることができた。子どもであっても自分の考えをもち、それを、自信をもって発信することが大切であることを新聞記者の方から学んだ。

ほとんど新聞に触れる機会のない児童が非常に多かったのだが、長いスパンでの学習を通して、記事の見出しやリード文から大体の意味をとらえ、新聞の読み方を学ぶことができたようである。

児童は新間を読み、考えたことを発信し、そして行動につなげた。自ら考え、自ら行動する力。これからの将来を担っていく子どもたちに一番必要な力なのではないだろうか。

編集後記

霧が丘小学校の実践は、「新聞に書かれていること」を読み取る力を養うだけではない。異なる新聞社の記事を比較することで「そこにどういった違いがあるか」「記者の意図は何か」といった「情報に向き合い、子どもが自分自身で考える力を養うためのエッセンス」がちりばめられている。子どもたちは授業を通して、知らない内容だから新聞記事を読まないのではなく、知らないからこそ自ら情報を収集し、考えるということの重要性を実感したはずだ。そしてそれが、考える力と考えたことを行動に移す力の両方を養うことに繋がるのだろう。

また、インターネット上のいじめや犯罪被害など、子どもたちのメディアリテラシーが問い直されている現代社会では、まさにこういった実践を通して、子どもたちが情報を読み解き、取捨選択する力を身につけることが必要とされているのではないだろうか。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 安井 真理奈)

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