三つのお願い ~ ゼノビアの四つ目の願いを考えてみる

1 やりにくい教材

「三つのお願い」は、光村図書の教科書に載っている外国の著者による物語です。主人公の一人称口語によるやや軽めの文体で、内容もそれほど深いようには思えません。私の周りの教員は、「こんな物語で授業をするのはやりにくいなあ」とボヤいています。確かに、私もけっこうやりにくいと感じていました。

単元の目的の一つに、感想文を書くというけっこう難しい目の課題があります。このような「軽い目の、しかし道徳的な物語」の感想文を書くというのは、子供にとってはハードルが高いし、教師としても下手をすると善の押しつけ的な書かせ方でまずい道徳の授業みたいになってしまう可能性もあります。

でも、少しやり方を変えていくとけっこう面白い単元であるような気がしてきました。

2 自分の願いを書かせる

子ども達に「あなたの、三つの願い」を最初に聞いておくといいです。

発問:あなたの、三つの願いは何ですか?ノートに三つの願いを書いてみてください

感想文を書かない場合は「理由」を書かせてもいいでしょう。必ず、「何でもいいのですか」などと聞いてきたりするので、

指示:ふざけるのはやめて下さい

とくぎを刺しておいて、ちょうどいいくらいです。くぎを刺しても、「毎日宿題なし」とか、「お金持ちになる」とかを書く子供はけっこういます。「3つの願い×人数分」を共有するのは難しいので、無記名で全員の願いから1つずつをやや作為的に抽出してプリントにしてみました。

3 登場人物とそれぞれの「願い」

&color(#1e90ff){''精読が目当てでない場合でも、登場人物とストーリーをざっと整理しておくことは大事です。登場人物に関しては、外国の物語によくある、名前のとっつきにくさがあります。ゼノビアが3通りの呼び方をされていることを押さえておきましょう。

発問:登場人物は何人いますか?名前は何ですか?

発問:どうしてレナなの?

発問:ビクターはどんな友人?

①ゼノビア

主人公・ノービィー(ニックネーム)・レナ(女優になりたいから→ビクターだけから呼ばれるニックネーム)

②ビクター

ゼノビアの親友(親友であることは後に重要になります)・幼なじみ

③ママ

ゼノビアに大人の代表として捉えられている

この物語には、「ゼノビアの三つの願い」だけではなく、「大人の願い」「ママの願い」「ゼノビアの夢」が出てきます。これらについても、子供たちと一緒に整理していくといいでしょう。
「ゼノビアの三つの願い」は

  1. この寒さ、なんとかならないかなあ。
  2. (親友ビクターと喧嘩してしまって、)ビクターが自分の家にいてほしくない。帰ってほしい。
  3. (親友がいなくてさびしくなって)ビクターが戻ってきてほしい

という3つです。ビクターと喧嘩をしてつい2つ目の願いを口走ってしまったために、ビクターはゼノビアの目の前からいなくなってしまいます。ゼノビアは2つ目のお願いの後で、「また、お願いをむだにしちゃった。」と表現しています。つまり、1つ目と2つ目はゼノビアにとって無駄であったと考えられます。

4 「大人の願い」「ママの願い」

ゼノビアは母に「どんな望みでもかなえてあげるって言われたら、ママは何をお願いする。」と尋ねます。が、ゼノビアは「大人って、ふつうはお金とか、いい車とか、そういうものをほしがるもんだ」と「ばかり」考えていたのに、母は意外にも「いい友だちよ」と答えます。もしかしたら、ママはノービィとが喧嘩をしてしまっているのを知っていたので、わざとそう言ったのかもしれません。ママだって、ゼノビアが「100億円が欲しい」と言ってくれたら・・・と、思っていたかもしれません。塩の入ったびんをいじっていたのは、ママも迷っていたと捉える事もできるでしょう。
子供たちに、「いい友だち」「お金とか、いい車とか、そういうもの」がどのように言いかえるといいかを聞いてみました。

発問:ゼノビアは「お金とか、いい車とか、そういうもの」を「大人が欲しがる」と思い、「友だち」は「古臭い」と感じていたようですね。どんな風に違うのかな?「お金とか、いい車とか、そういうもの」は何て言い変えたり、表現できるかな?そういうものって、どういうもの?

「お金やいい車」は、「金銭や物」「自分のためだけのもの」と言い換えることができるかもしれません。いろいろ出てきた所で、「自分の欲に関係」するものとまとめて板書してみました。

発問:では、「いい友だち」は?どういうもの?

「金銭や物」とは違ってプライスレスな「もの」です。「友達には値段は付けられない」「友達をお金で買う事は出来ない」などといった意見が出てくると褒めてあげるといいですね。私の場合は、なかなかまとまらなかったので、「自分以外の人と関係する願い」とこちらの方で強引にまとめました。

この後、最初に書かせた自分たちの「願い」をもう一度見て、振り返らせると面白いです。

発問:ここに書かれている君達の願いは、どちらの願いに入るかな?「自分だけの欲?」「自分以外の人と関係しているもの?」例えば「1日3時間ゲームしたい」は?「亡くなったおじいさんに会いた」は?・・・

と、「みんなのお願い」からいくつかを取り上げていくと面白いです。

5 「ゼノビアの4つ目の願い」

物語中には「わたしは大きくなったらハリウツドに行って、えいがに出て歌を歌うつもり」と書かれています。この部分は伏線になっていると思います。

このゼノビアの「夢」は、三つのお願いの候補の中に含めるようには、どこにも書かれていませんが、2つ目まで願いを無駄にかなえてしまったので、ゼノビアには「女優になること」をとるのか、「友達と仲直りすること」をとるのかという選択肢があったはずです。子供たちはこの「女優」という選択肢がありえたことに意外と気がついていません。
そこで、「ビクター」と「女優」を比べてみると、面白いです。

発問:ゼノビアは3つ目のお願いを何か他の願いにしたかったかもしれないですね。どんなお願いにする能性があったかな?

子供たちは、文章中から発見して、「お金」「車」を正解と思って発言します。それでも、「まだあるんじゃないかな」と教師が粘っていると、「家」「服」「兄弟」とか書かれてもいないものが出てきたり、「友達」とはずしてみたりします。なかなか気がつかないなら、「文章中にあります。漢字二文字です」などと、助け船を出すといいですね。女優になるという夢の存在が確認できた所で、

発問:ノービィは3つ目のお願いを「女優になること」にするか「ビクターが戻ってくる」にするか、どっちが良かったかな。
と、尋ねてみました。天秤の図の上で「女優かビクターか」を図式化しながら授業を進めてみました。


さて、ここでもう一度、ビクターについて思い出させるといいと思います。次に述べることは、どこにも書かれていませんが、考えてみるとビクターとゼノビアの関係が浮かび上がってきます。

6 ビクターはどんな友達

発問:ビクターはどんな友達ですか?
 
「いい友達」
三つ目のお願いをする前に、作者は「あんな友だちは、なかなかいない」という表現をしています。そして、
「えいがに行くときも、歌の練習をするときも、ボール遊びをするときも、いつもいっしょだった。」「二人で、あちこちがきらきら光っている、ダイヤモンドみたいな大きな石を見つけたこともある。」「二人でいっしょに、学校全体の絵をかいたこともある。」「わたしのひみつを、ほかの人に話したりしないし。」
などと、ゼノビアにとってビクターがかけがえのない友人であることを思い出させます。
これらを子供たちが指摘した後、もう一度、聞いてみます。

発問:ビクターはどんな友達ですか?

「いい友達」「すっごくいい友達」と、反復するか、全部挙げられているので黙っているかのどちらかでしょう。
 そうそう、いい友達なんだけれど、すごくいい友達です。確かに文章の中に直接、はっきりと書いてあるのは、「いつもいっしょ」「石を見つけた」「絵を描いた」「秘密をばらさない」などですが、はじめの方のページに戻ったら、もっと「いい友達」だとわかるところがあります。
と、子供たちにふっかけます。
 実は、このはじめの部分に表されているビクターの人の良さに関しては大人も見逃しがちになっていると思います。そもそも1セント玉を見つけた時にはビクターが横にいたし、状況的にどちらが拾ってもかまわなかったはずです。たまたまゼノビアが先に見つけてはいますが、ビクターも「ひとつぐらい僕の願いをかなえてよ」とか、「三つ目は僕と一緒に考えようよ」とか、「僕が最初に見つけていたんだぞ」とか、「俺にも貸せ」とか、自分の権利を主張することもできたかもしれません。なにしろ、三つもお願がかなうという人生でもまたとないチャンスに遭遇しているのです。
ところが、ビクターはそんな事をちっとも主張せずに、
「レナ、運がいいぞ。同い年の一セント玉を拾うなんてさ。ついてるじゃないか。何をお願いするんだ。」と、素直に喜んでいます。これは、この物語の中で「伏線」として示されている部分ではなかろうかと思います。このビクターの人の良さについては、子供たちにはなかなか見つけにくいかもしれないので、うまく補助発問、誘導をして、気づかせるようにしてあげたいものです。

また、ビクターは女優になりたいというゼノビアの将来プランに含まれています。
「わたしは大きくなったらハリウツドに行って、えいがに出て歌を歌うつもりだから。そのときには、ビクターにもついてきてもらおうと思ってる。親友だからね。」
とあるのです。つまり、女優の夢はビクターといっしょに実現したい夢なのです。これもある種の伏線になっていると思います。

7 授業の終わりに

これだけビクターのことがわかってくると、天秤は、ビクターが下がる方向へ傾くでしょう。実際、ビクター支持の子供が大半になりました。中には、「女優になって有名になってからビクターを呼び寄せればいい」と、強弁する子供もいました。それはそれでいいでしょう。
また、それなら女優の夢はどうするのかなという話題になった辺りで、
「夢は自分でかなえるものだし、ビクターと一緒にかなえればいい。そうすることが最高の幸せだ。」
こんな答えが出てきたら、素晴らしいですね。3回この授業をやって、この発言が出てきたことはありませんが…(苦笑)

最後に、

発問:ノービィは女優になるだろうか」 ①なったとして ②なれなかったとして

という事を考えさせても面白いと思います。感想文を書かせるときのまとめにこの話題を持ってこさせるのもいいと思います。下記URLは「三つのお願い」の感想文を書かせた取り組みについて述べています。

さて、上記のような伏線を利用たり、「もしも」や「後日談の想像」などの発問を織り込んだりしながら、発問の順番や発問の「問い方」を考え、うまく組み合わせながら授業を組み立ててみてください。最初はつまらないと思っていたこの物語文の授業でしたが、あれこれとトライしながらやっているうちに楽しくなってきました。

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