桜でつながる「街と人・アクティブプロジェクト」(柴田一先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA

2 田園調布特別支援学校の在所地環境

本校は、武蔵野台地が多摩川によって削られてできた国分寺崖線の河岸段丘下の扇状地に位置する。この地はかつて近代園芸発祥の地といわれ、数多くのガラス温室が建てられ草花栽培が行われていた。今ではその面影すらない田園調布の閑静な住宅地と変貌し、僅かに本校最寄りのバス停名「玉川温室村」にその名を残している。学校をはさむ多摩川や丸子川の沿道は桜並木となっており、田園という地名にふさわしい緑豊かな地である。本校校庭にも54本の桜が植えられ、桜は本校のシンボルとして校章にもなっている。

3 桜プロジェクトの立ち上げ

本校は8年前に太田聾学校跡地に開設された学校である。私は開設2年目に赴任し、教科「作業学習」の園芸班を担当した。学年進行での生徒の増加に伴い、作業班種も3→6→9と増え完成を迎えた。各班は、製造部【「園芸」「陶芸」「組立手芸」「食品」「木工」】とクリーンサービス部【「ランドリー」「清掃」】、事務・販売部【「事務」「販売」】の9班で組織されている。各作業班は、販売班を核として相互に連携しお互いのサービスを提供し合い、製品の受注・生産・納品といった活動で繋がっている。さらに、ランドリー班や清掃班は近隣施設の洗濯や清掃を請け負い、販売班は製造部の生産品の販売や喫茶サービスを提供する活動を日常的に行っている。このように、実社会を模した一連の製造・物流・サービス提供の仕組みを体験できるよう組織化しているのが本校の作業学習の特色である。

開設間もない作業班の問題として、各作業班が独自な製品作りをしているため、学校として特色ある製品がなかった。言い換えれば、生徒の作業意欲を高める上で、我々職員の創造的な向上心や協力する気持ちが欠けていたともいえる。そこで学校のシンボルである「桜」を題材として作業間で連携し製品制作に取り組む【桜プロジェクト】を立ち上げ、製品の「桜ブランド」化を図った。各班がアイデアを出し合い、協力しながら製品の制作試行が行われ、その成果として次の様な製品が作られた。①食品班:桜の花を使用した桜クッキー ②清掃班:桜の落ち葉で腐葉土作り(園芸班が野菜栽培に活用) ③木工班:桜幹の輪切りで飾台作り(飾台に飾る小品盆栽を園芸班が作り、植える鉢を陶芸班が制作) ④園芸班:桜の枝を燻した沢庵の燻製品 ⑤組立手芸班:紅葉した桜葉の栞。こうして完成した製品を「桜ブランド」として、地域の方々に提供できた。職員が協力して新たな製品を作ろうという活動は、何よりも生徒の作業意欲の向上につながった。

4 落ち葉プロジェクトの取り組み

本校では総合的な学習の時間の中で、月1回学校周辺地域の清掃活動に取り組んでいる。道端に捨てられた煙草の吸殻や空き缶を拾い回収することで、社会に貢献しているという意識を育む活動となる。私はこの活動中、道路のごみ置き場に積み上げられた落ち葉の袋の山に驚いた。冒頭でも述べたように、本校周辺は桜並木のある緑豊かな環境である。そのため秋から冬にかけ、至る所で落ち葉の袋が積み上げられる。本校では、校内の落ち葉を清掃班が集めて腐葉土にし、園芸班が作物栽培に活用していることを先述した。一方、学校外では、集められた落ち葉がゴミとして回収され焼却されてしまう。そこでもっと無駄のないエコな活用方法はないか考え、行動を起こしたのが【落ち葉プロジェクト】である。これは、①地域の方に落ち葉の収集を呼びかけたチラシを配布し、袋に集めてもらう。②集められた落ち葉を地域の清掃活動時に回収。③回収された落ち葉で腐葉土を作り、園芸班の野菜栽培に活用。④生産された野菜作物を本校売店で販売し、地域の方に食材として提供する。「落ち葉」を通しての循環型地域社会の構築を図った計画である。回収に協力して頂いた方の為に、チラシには野菜の無料引換券として使用できるチケットが付され、落ち葉と野菜が交換できるシステムで協力を呼びかけた。幸い多くの方々の賛同と協力があり、生徒達は落ち葉で山積みになったリヤカーを引きながら戻ってきた。我先にと喜んでリヤカーを引く生徒達にとってこの活動は、社会に貢献しているという自己肯定感をさらに高める効果がある。また、地域の方々には、自分の提供した落ち葉が自分の食材となるという、食に関わる身近な問題として考えて頂ける機会にもなったと思う。
私は、「落ち葉」という資源がゴミとして扱われる点で行政的な問題があると考える。地域性にもよるが、行政と生産農家そして住人とが協力し、地球にやさしい循環型社会を目指す上で、この活動を一つの実践例として多くの地域で改善・推進されることを願っている。

5 プランタープロジェクトによる地域貢献活動

今年度より総合的な学習の時間を活用し、委員会活動が行われている。私は環境委員会に所属し、校内外の美化活動を主とした計画を立てた。学校の近くには、田園調布商栄会という商店街がある。毎年、商栄会主催の夏祭りが本校校庭で開催され、本校も協賛として参加させて頂いている。盆踊りに参加するため、事前学習として地域の方々を招き踊りを教わったり、本校のブースを頂き作業製品を販売している。多くの卒業生、在校生が楽しみとしているイベントの一つである。今年も夏祭りを楽しみにしていた中、「今年度の夏祭りは中止する」との知らせが届いた。商店街の皆様方が高齢となられ、開催するには労力が多すぎるとのこと。その知らせに生徒、職員とも非常に残念がった。毎年楽しませて頂いている商店街の皆様に元気を出してもらうには・・・と考え行動したのが【プランタープロジェクト】である。この活動は、環境委員会の生徒が中心となって、園芸班の育てた草花を商店や地域の方々と全校生徒が一緒になってプランターに植え、商店街沿道に飾ってもらい元気がでる商店街にしようという企画である。田園調布西町会の町会長さんや地元商店街「商栄会」の会長さんにその趣旨を理解して頂き了承を得るとともに、活動のポスターを掲示板や回覧版に貼り参加者を募ったところ、沢山の地域の方々に参加して頂くことができた。参加された方々が3学年に分かれて入っていただいた後、環境委員の生徒が作業手順の説明をした。その後、地域の方々と一緒になってプランター作りを行った。使用した材料の腐葉土は、昨年度の【落ち葉プロジェクト】で作ったものであり、「今年も回収にご協力を」と生徒からのお願いの一言もあった。校庭の桜の下での作業、33個のプランターが完成し、リヤカーで商店街沿道に設置した。生徒にとって地域の人と考えながら一緒に作るプランターは「とても楽しかった。」と好評であり、また地域の方々からも「とても素直な生徒さん達で、楽しい時間でした。」と嬉しい感想を頂いた。翌日、「プランターの水やりは、誰がやるんだ!」という電話が入った。商店街の中のある店主さんである。てっきりお叱りの電話かと思い、「水やりは商店街の皆様でお願いしたいのですが・・・」と丁重にお答えすると、「昨日は参加できなかったが、見たら見事なプランターだ。俺が責任をもって水やりするからまかせろ!」とのお褒めの言葉と協力の申し出であった。数日後、商栄会の月例会が開かれ、「水やりはプランターの設置された店主が責任をもって行うことを確認した。」との連絡を、生徒達への感謝の言葉とともに受けた。

6 最後に

桜に囲まれたこの地に赴任し、自然の恵みである「落ち葉」を活用して、いくつかのプロジェクトを企画し実践してきた。たかが落ち葉ではあるが、活用の仕方では魅力溢れる素材といえる。今後も、桜が与えてくれる宝物(落ち葉)を通して街と人がつながる循環型の社会作りを目指し、地域に根を張った教育の推進を図っていきたいと考えている。






7 実践者プロフィール

文京区立明化幼稚園 教諭 会田朋代
第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

8 引用元

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『桜でつながる「街と人・アクティブプロジェクト」 』(都立田園調布特別支援学校 主任教諭 柴田一)より引用
「がんばれ先生!東京新聞教育賞」

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。

9 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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