1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の1つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
初めてのひらがなとの出逢いをどう演出するか
子どもたちに1つでも印象的に字を覚えてもらおうと、いろいろと工夫をしながらひらがなの授業を行っています。
あ行 あいうえお
「あ」
黒板に1枚ずつ絵を貼りながらクイズを出しました。
Q1.私は小さいからだです。色は真っ黒です。甘いものが大好きです。
「あり」という元気な答えが返ってきました。
次に「あ・り」と声に出しながら、拍手をして何音でできている言葉か確認をしました。プリントに字を書く練習をしたあとでごほうびの飴を配ると、子どもたちは大喜びしました。
同じように「あし」「あたま」「あさがお」の問題を出しならが黒板に絵を貼りました。
「い」
文章の中に「い」のつく言葉がいくつ出てくるのか、クイズを出しました。
「犬の家に、イカが遊びに来ました。イチゴが大好きなので、犬はイチゴをごちそうしました」出てきた言葉が何音でできているのか拍手で確かめたあとで、全員でこの文を読ました。字を書く練習をしたあと、音節の数だけ手をつなぐ(「イカ」なら2人と手をつなぐ)というゲームをして楽しみました。
「う」
「う」の文字カードを見せて「何と書いてありますか?」と尋ねると、子どもたちから「う」という返事が返ってきました。次に、牛が餌を食べている絵カードを見せて「牛が何をしていますか?」と尋ね、「牛が○○しています。」という文作りをしました。
「え」
「えび」「絵本」「鉛筆」「餌」の絵カードを用意して、一つずつそれが何かを子どもたちに確かめていきました。それぞれの言葉で、子どもたちがどんなことを知っているのか、思い出すのかを尋ねていくと、子どもたちの生活が垣間見えてくるようで面白いです。
他にも「え」のつく単語さがしをして、文字の練習をしました。
「お」
折紙を見せて「これは何ですか?」と尋ねると「赤い折紙」という返事が返ってきました。次に、「斧」や「鬼」の絵カードを見せて「これはなんですか?」と尋ね、「鬼のでてくる話には何がありますか?」と聞きました。
字の練習のあと、全員に折紙を配って自由に折って遊びました。
か行 かきくけこ
「か」
「か」で「デブかば退治」
きれいな「かば」の字と広がった「かば」の字の2つの手本を見せて「どっちがかっこいい?」と子どもたちに尋ねると、圧倒的に上の手本に人気が集まりました。「上のかばは美人かば、下のカバはデブかばさん。みんなは、美人かばさんを書こうね」と言うと、子どもたちは「ハーイ」と返事をします。手本を見せたことで、ぐっとデブかばさんを書く子は少なくなりました。でも、うっかりするとデブかばさんがあらわれます。子どもたちも、「デブかばさん、デブかばさん」と呪文のように唱えながら、美人かばさんを書いています。
「き」
「き」の字は、3画目と4画目の間がつぼんだ「き」になりやすいです。4画目を「きつねのしっぽはふさふさ」と教えると、つぼんだ「き」にはなりにくいのではないでしょうか。
「く」
「く」がつく言葉さがしをしました。「くり」「くわ」「くつ」「くるま」などが見つかりました。次に「く」が2番目につく言葉を探しました。これはなかなか難しかったようですが、「つくえ」「ふく」「きく」などを見つけました。折紙を縦に4折りにして、それぞれのスペースを左からA、B、Cとして「く」の文字をA→B→Cのように動かしながら言葉さがしをしました。
「け」
「け」は3画目が、十分に下に伸びずに短くなりがちです。橋のけたの部分に斜線が引かれた絵を見せながら、「これは何ですか?」と尋ねると、「橋」と返ってきます。「斜線のところはけたといいます。柱がないと、けたがあっても橋は架かりません。けの字も一緒です。水の中に柱がないと「け」の橋も架かりません」このように説明したことで、短くなりがちな1画目や3画目を伸ばすことができました。
「こ」
こまを作って、「こ」の勉強
今日は「こ」のお勉強です。「「こ」がつく言葉を探しましょう。」「2つの音の言葉は?」「3つの音の言葉は?」「4つの音の言葉は?」と尋ねると、「こけ」「こけし」「ここあ」「のこぎり」「ごきぶり」が出されました。どれも手をたたきながら、音の数を確かめていきます。次に字を書いてみました。子どもたちは「か」の勉強のときに登場した「デブかば」さんがよほど気に入ったようです。形の整わない字について、みんな勝手なことを言っています。そこで、本日は「デブこ」さんと「やせこ」さんで練習をすることにしました。
次に、クイズを出します。「「こ」がつき、子どもがぐるぐる回して遊ぶおもちゃは何でしょう。」一斉に手があがり、「はい、はい」の大合唱です。「こま」という言葉がすんなり出ました。
1つでも多くのものを使い「こ」という字を印象的に覚えてもらうために、「こま」を作ることにしました。作ったこまは「ニュートンの7色ゴマ」と「ベンサムのこま」です。圧倒的に7色ゴマに人気が集まりました。そして、作ったこまで試合をしました。2人1組で試合を行います。コマがより長く回っていた方が勝ちです。勝った人は「あいこ」と書きます。負けた人は「きくお」と書きます。このように、試合をしながら、字を書く練習をしました。
さ行 さしすせそ
「さしすせそ の巻」
本来であれば、さ行は、か行のあとに習いますが、小学校に入学したての子どもたちは、全員が正確に「さしすせそ」とは発音できず、「たちつてと」となってしまいます。そこで、「さしすせそ」の学習時期を遅らせました。
「さ」「し」
子どもたちに向かって「いまからテンテーが おはなチ チまチュよ。テンテーが チんぶんを 読んでいまチた。そうチたら、チャくらの絵が出ていまチた」こう言うと、子どもたちは「おかしい、おかしい」と大騒ぎです。「どこがおかしかった?もう一度言うよ」と繰り返すと、「先生じゃないみたい」「バカじゃねえ」と、子どもは容赦してくれません。
すぐに「て」→「せ」、「ち」→「し」であることを指摘しました。さ行は摩擦音で、息がすーっと抜けるのです。この息が抜けないと、た行になってしまいます。そこで、息をすーっと出しながら言う練習をしました。「今度はすーっとやりながら、アって言ってみよう」と呼びかけます。するとあちこちから「さっ」という声が聞こえてきました。
「す」
おもむろに「今から先生が手品をします。ここにイカ(の絵)がありますね。では、これは何でしょう?」と酢を嗅がせました。「さあ、この酢をイカの入った箱の中にかけてみましょう。」そうして「エイヤーッ、イカが変わってスイカになりました。」と言うと、「そんなはずがないよ、どうせ紙だもん」と、子どもたちが反論してきます。「それでは、イカが乾くと何になりますか?」と聞いてみました。すると、子どもたちが「するめ」と答えます。そう、その通りです。「名前が変わってするめになりますね。」授業のあと、子どもたちはするめを1切れずつもらってカニ釣りに出かけました。
「せ」
せみが飛んできて、木の枝の高いところにとまりました。(木の絵は、十の形)
男の子がせみをたもで捕ろうとしました。すると、せみが、おしっこをジャーっとしました。あわててたもを引っぱると、たもが曲がってしまいました。(3画目の曲がり)ちょうど「せ」の字ができあがりました。子どもたちから「あーっ、そうかあ」という声が聞こえてきました。
「そ」
教科書の字体では「そ」ですが、カタカナへの移行、書きやすさから、教科書体の「そ(1画目と2画目が離れている)」としました。
しその葉を渡し、臭いを嗅がせます。「このしそを粉にしたものが、しそふりかけです。みんなのおむすびにかけてみたいですか?」すると、子どもたちが一斉にこっくりとうなずきました。「それでは、このおむすびで「そ」のつく言葉を考えてみましょう。」と言うと、「おいしそう」「そとで食べる」「そっちで食べる」「そーっと食べる」など、たくさん出てきました。やはり食べ物があると違いますね。可愛いおむすびにしそふりかけをかけておいしく食べました。
た行 たちつてと
「た」
「た」は、1画目が長くなってしまう子が多いようです。そこで、「元気たぬき」と「弱虫たぬき」を使って覚えました。上から雨が降ってきたとき、1画目が長すぎる「弱虫たぬき」は、たぬき(= ”こ”の部分)に雨がかかりません。1画目が適切な長さの「元気たぬき」は、たぬき(= ”こ”の部分)に雨がかかります。
「弱虫たぬきは穴の中、元気たぬきは雨にぬれてもへちゃらさ」と教えました。
「ある時、元気たぬきと弱虫たぬきが遊んでいました。急に雨が降ってきて、2匹ともびしょぬれ。弱虫たぬきは、お腹がぬれてしまったので、穴の中に入ってしまいました。元気たぬきはお腹がぬれても平気でした」この話をすると、歌を歌いながら、「た」を書く子がいました。
「ち」
「元気たぬきがあまりにも元気にお腹を叩いたので、お腹から何かが出てきました。何でしょう?」絵を見ると、血ということがわかります。
「つ」「て」
「つ」「て」の勉強をしました。1・2年生といった低学年の子どもたちには、絵やカード、実物を用意した方が内容を覚えやすいようです。そこで、次のものを用意しました。
- 実物
- 手紙、手ぬぐい、手袋
- 絵
- つる、机、地下鉄
まず、つる・つくえの絵を、上の方からだんだん見せながら「何だかわかる?」と尋ねると、「つる」「つくえー」と元気な声が返ってきます。「つ」の字を練習したあと、「あいうえおうさま」で「つ」のつくものの言葉さがしをしました。
次に、地下鉄の絵を見せて、「これは、何の絵でしょう?」と尋ねます。「「ちかてつ」の中で、まだ習っていないのはどの字でしょうか。」と尋ねながら、「て」の学習に入りました。机の下にしまってあるものを次々と出していきます。「てぶくろ」「てがみ」「てぬぐい」と、1つずつ出すたびに子どもたちの大きな声が教室に響きます。「てぬぐい」をおもむろにがぶり、手袋をつけながら、授業を続けました。
「て」の字の練習が終わったあと、「今日はみんなとってもよく頑張りました。よく頑張ったので、みんなにおみやげをあげますね。」と1人1人に手紙を配りました。この手紙の中には、男の子には怪獣、女の子にはおひな様か鶴の折り紙を入れておきました。子どもたちは大喜びです。「お家に帰ったら開けてね。」と、授業を終わりました。
「と」
買い物やさんごっこをしました。子どもたちはお客さんになって、「いか」「たこ」「かい」「かに」「たい」「かつお」の中から2つの買い物をします。買い物をしていく中で、○○と○○(並列の助詞)の学習をしました。
な行 なにぬねの
「な」
なたを教室に持ち込みました。子どもたちになたを見せたあと、実際になたを使ってなすを切ってみます。スパッときれいに切れました。切るたびに歓声があがります。「スパッ」「おー」「スパッ」「おー」と、切るたびに歓声が上がります。他にも、納豆も実際に見せました。給食の時にはあまり人気のない納豆ですが、この時ばかりは「おいしい、おいしい」と子どもたちが食べたので、全部売り切れとなりました。生のなすにまで誰かがかじった跡がついていました。一体誰がかじったのでしょう。
「に」
「にく」「にこにこ」を使って文を作りました。
ぼくは にくが すきです。ぼくは にくを たべる。などができました。次に、鼻をつまんで作った文章を読んでみました。な行は息が鼻に抜けるためにうまく読めません。鼻をつまんだ時とつままない時、どちらがうまく読めるのか、くらべっこをしました。やはり鼻をつままない方が上手に読めると子どもたちは言っています。
「ぬ」「ね」
用意したものは、「毛ぬき」「ぬい糸」「ぬり絵」です。子どもたちは、「ぬい糸」の名前がなかなかわかりませんでした。な行で丸めて終わる終筆を初めて習います。そこで、「ぶたを後ろから見た時のぶたのしっぽ」の絵を用意しました。「ぬ」「ね」の字を見せたあと、「この字の中にぶたのしっぽはありますか?」と尋ねます。子どもたちは最初、わけがわからなかったようですが、絵を見ていると、次第に「あるある」と声が大きくなりました。「このぶたさんのしっぽのように書きましょう。」と「ぬ」「ね」を書く練習をしました。
「の」
「海苔」「糊」「お茶の葉」を用意しました。子どもたちにはまず、「海苔」と「糊」を配りました。同じ音なのに、意味の違うものがあるということを勉強しました。次に、「の」には○○の○というように、助詞としての働きがあることに気づいてもらえるよう、「お茶の葉」を配りました。新茶の心地よい香で教室が包まれました。「お茶=(の)=葉のように、前の言葉と後ろの言葉をつなぐ意味もありますね」と説明したあと、ごほうびにお茶の葉をプレゼントしました。
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
(2015年1月時点のものです)
4 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
5 編集後記
ひらがなの学習のために、絵やものなど、具体的に同じ「音」をもつものをイメージしながら学ぶことで、音と文字の形が結びつきやすくなるのだと感じました。また、実際に字を書くときも、記号としての文字というだけではなく、ストーリー性のある説明をすることで、文字を書く時に思い出しやすくなっているのだな、と感じました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 栗林茜)
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