1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の1つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
初めてのひらがなとの出逢いをどう演出するか
子どもたちに1つでも印象的に字を覚えてもらおうと、いろいろと工夫をしながらひらがなの授業を行っています。
は行 はひふへほ
「は」
はじめに花火を見せました。「これなんですか?」と尋ねるとすぐに子どもたちから「花火」という答えが返ってきました。「はなび」という言葉を使って文を作りました。「花火は大人とやりましょう」「花火は気をつけてやりましょう」「花火は水のあるところでやりましょう」など、まるで交通標語のようなものばかりとなりました。花火は、火があることから「ひ」の学習に移っていきました。
「ひ」
1枚のわら半紙を見せて、「この紙はしろいよ」と言います。子どもたちの「先生違うよ」の声にも負けず「しろいよ、しろいよ」と言い張ります。実は「ひろいよ」と言っていることに気づかせたかったのです。「ひ」と「し」は混同しやすい言葉です。発音の違いで意味が全然違ってしまうことを学びました。
その後プラネタリウム室に行き、実際に花火をやってみました。パチパチと火花が子どもの顔を照らします。どの子の目もとても綺麗でした。花火が終わりドーム1杯に星空を映しだすと「ワー」という感激の声が子どもたちからあがりました。
「ふ」
「は行」は、「さ行」と同じく息が抜ける言葉です。口に手を当て「は」「ふ」と息をかけました。同じように息が抜けるのに、「先生、"は"は暖かい息だよ」「"ふ"は冷たい息だよ」と、息にもいろいろあることを知りました。おたふくを見せ「おたふくみたいに、ほっぺたを丸っこくしようね」と練習しました。
「へ」
「へ」は船の折紙を使います。船のへさきを指さし、「ここは何と言いますか?」と尋ねますが、なかなか「へさき」が出てきません。やっとの事でへさきという言葉が出てきました。「船は海の中を進んでいきます。船は波を乗り越えて進んでいきます。ほーら、波がやってきました。」とへさきの先へ波を書き入れると、「あーっ、への波だあ」という声が子どもたちからあがりました。
「ほ」
「ほ」の形を教えてノートに書かせます。すると、右側のつくりが「ま」になってしまう「ほ」が見えます。字を確認したところで、「みんなよく書けました。今から先生はほん田先生になります。」この時の、ほん田先生は笑っています。ほの字を裏返すと笑っているほん田先生の顔が現れました。「けれど、ほんだ先生も怒るときがあります。それは、こんな時です。」と、"ま"になってしまった"ほ"を見せました。このカードを裏返すと、何と、角の生えたほん田先生が現れました。「ほん田先生の角と同じ子はいませんか?」「ほ」は「は」「ま」のあいのこのようで、間違いやすい字の1つです。
ま行 まみむめも
「ま」「み」
絵を見せながら次のようなお話をしました。「むかしむかし、あるうみべに大きなまつの木がありました。そのまつの木の下に、まいにち2頭のうまが遊びにきました。「きみ、うみを渡ってむこうのしままで行ってみたいね。」「なみが荒いからむりだろう。」「なあにだいじょうぶさ。」元気のよい1頭は、ざぶんととびこみました。はたしてしままで泳ぎ着くことができるでしょうか。」
お話をしたあと、絵の中から「ま」と「み」の付く言葉を探させました。「うま」「まつ」「しま」「なみ」など、いろいろと出てきました。子どもの書く「み」はバランスが崩れがちです。特に、丸くするところで形が崩れやすいです。そこで「馬が向こうの島を首を長く伸ばしているんだから、首を長く書こう」と説明すると書き方が分かったようでした。
「む」
「む」はむかでを例に取りながら練習しました。「むかでを上からぎゅっと押さえるとむかではどうなりますか?」と尋ねます。すると、「体を丸くするよ」と子どもたちが答えます。「そうですね、むかではまん中を押さえると、いやいやをして体を丸くします。そうしてしっぽを上へピンとあげるんです。しっぽの先は切れて飛んでしまいました。」と教えました。
「め」
「め」は同音異義語に気づかせながら、勉強していきました。「かめ」と黒板に書き「先生が今日はこれを持ってきました。」と風呂敷を見せます。子どもは生き物の亀だと思い期待を寄せますが、出てきたのは何と瓶。子どもたちが「なんだ」とがっかりしたところへ、一休さんの「大事な毒(飴)を食べても死ねないお話(狂言「附子」)」をしました。「さあ、1年1組の瓶の中には何が入っているでしょう」と尋ねても子どもたちは「どうせ雨」だと思って動きません。ところが出てきたのは本物の水飴です。みんなで割りばしを使っておいしく飴を食べました。
「も」
「も」は桃を切るお話で教えました。「ももを買ってきました。」「ナイフを上から突き刺しました。」「ナイフは芯に当たって曲がってしまいました。」「その時ビリビリとひびが入りました。」筆順とも一致し、子どもたちも覚えやすそうでした。助詞の「も」に気づかせるために、「すもももももももものうち」と黒板に書きました。どの子も大苦戦しながら読んでいました。
や行 やゆよ
「や」「ゆ」
朝から浴衣に着替え、1日中浴衣で過ごしました。給食も掃除も休み時間もみんな浴衣です。子どもたちは「きょうは何の勉強ですか?」と多くの先生に聞かれたようです。私も子どもに合わせて浴衣を着て過ごしました。空き教室に蚊帳をつって「や」も勉強しました。休み時間にはかやの中に入り込んで、みんなでお昼寝をしました。
浴衣を着て過ごした1日の子どもたちの感想です。
- かやおもしろかったです(T.S)
- ぼくはかやのなかにはいるまえに、かやをたてるのをてつだいました。はいるときおもしろかったです。でも、せんせいはかやをたてるのにくろうしました。(T.S)
- きょうがっこうでゆかたをきました。それで大きなかやのなかにはいってねてしまいました。(S.F)
- きょうはかやのなかにはいりました。でもゆかたをきたときはずかしくなってしまいました。かやのなかに入ったのははじめてです。(S.H)
「よ」
※「よ」の学習記録はありません
ら行 らりるれろ
「ら」「り」
ラジオのスイッチを入れて「これはなんですか?」と子どもたちに尋ねました。見せたものがラジカセだったので、なかなか正解がでません。「テープ」「ラジカセ」いろいろと言ったところでやっと正解が出ました。「ら」と言ってみます。「舌べらはどうなりますか?」と尋ねて、舌先がまるまるようになって、上顎にくっつくことに気づかせました。「ら行」は舌先を丸めて発音します。「らくだ」「とら」「らいおん」の絵カードを見せて、お話を作ってもらいました。お話しするときには、ラジオのお面をかぶって発表しました。
「り」も発音の練習と「りす」「りやかあ」を使って単文を作りました。次に字を書いてみます。「ら」では、筆順の間違いが多いので、らくだに乗った子どもの絵を見せて「子どもが何かに乗っています。何に乗っているでしょう」と尋ねると、「らくだ」と子どもたちが答えます。「そうです。らくだに乗っているのです。手綱を強く引っぱったので、らくだの首がぴんと立っています。先に子どもを書きましょう」と練習をしました。
「る」
「お母さんは、買い物へ行きました」「子どもは家で何をしますか?」と尋ねると、子どもたちは「るすばん」と答えます。「そうですね。子どもは家で留守番をします。どんなことを思っているでしょうね?」「早く帰ってきてくれないかなぁ、と思っていたら首がだんだん長く伸びてきました。」と言いながら、しかけをしておいた絵の首をどんどん伸ばしていくと子どもたちから「キャァ」という悲鳴が聞こえます。「お母さんの帰りを首を長くして待っています。だから、「る」という字は、首が長いんですね。」
「れ」
しっかり舌先を丸めないと「れ」は「で」になってしまいます。反対に「で」は「れ」になってしまいます。文章を書かせると話し言葉がそのまま文になってしまいます。「ちょうは、いいでんきれすね」!?「蝶はいい電気?」そうではなく、「今日はいい天気ですね」と書いてあったのです。他にも、れんこんの絵カードを見せて、「何ですか?」と尋ねると、子どもたちが「れんこん」と答えます。「そうですね。れんこんです。でんこんではありません。」次に、レタスの絵カードを見せて、「何ですか?」と尋ねると、子どもたちが「レタス」と答えます。何人かが「でたす」と発音しています。「れ」と「で」の混同には、鋭い耳を持って聞き分けなければなりません。
「ろ」
「ろ」は「ど」と混同しやすいです。「ろうそく」→「どうそく」「ろうか」→「どうか」「ふくろ」→「ふくど」などです。風呂敷をおもむろに出すと、中から「ろば」、「ほくろ」の絵カードと封筒が出てきました。「今日は「ろ」だ」と、子どもが騒いでいます。封筒の中から更に、ろうそくと白い紙、黒い紙が出てきました。消しても消しても消えない不思議なろうそくを見たあと、白い紙には黒のクレヨンで、黒い紙には白いクレヨンで、「ろ」を書きました。
わ行 わをん
「わ」「ん」
くわを見せて何かを確かめたあと、どうやって使うか見本をしてもらいました。同じように、たわしでも動作をしてみました。わた、わかめなど本物を用意して触ってみました。
「ん」は、絵カードを用意して言葉の変身クイズをしました。「か」→「かん」、「きり」→「きりん」、「はこ」→「はんこ」など意味が変わってしまうものがあります。「はんかち」「かんな」なども「ん」のつく言葉であるのを確かめました。「小人がおしりをぶたないように、終わりを大きく書きます」と「ん」のカーブのうえに小人を乗せました。
「を」
「本」の絵カードと「よみました」の文字カードを黒板に貼って「先生が何をしましたか?」と尋ねました。「ほん よみました」では、ちょっと変ですね。間に入るちょうどいい言葉を捜しました。同じように「さかな_つりました」「たおる_ぬらす」「かお_あらう」のように、言葉にくっつく、くっつきの「を」を教えました。
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
(2015年1月時点のものです)
4 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
5 編集後記
「ゆ」の学習のために一日浴衣を着て過ごす等、学習だけではなく思い出に残る体験までできて楽しそうな授業だなと思いました。また、ひらがなの書き順や「ほ」や「み」や「む」など、バランスの難しい文字の書き方の教え方が面白いなと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 栗林茜)
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