「白いぼうし」2(シリウス)

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目次

はじめに

こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。

http://homepage1.nifty.com/moritake/

1 松井さんはどんな人か。

仲間のチョウのところに戻った女の子は「よかったね」「よかったよ」と声を交わしています。この会話はどう読んだらいいのだろう。読み方から松井さんの人柄を考えました。

発問1「よかったね」「よかったよ」の声は、松井さんに聞こえたでしょうか。

〈聞こえない〉という声もあがりましたが、すぐに否定されました。
その理由は、

  • “松井さんには、こんな声が聞こえてきました”と書いてあるから

発問3「よかったね」「よかったよ」はどうやって読むといいでしょうか。

何人かの子に、前に出てきて読んでもらました。どの子も小さな声でした。それは“シャボン玉のはじけるような小さな小さな声でした”とあるからです。

  • チョウは仲間のところに戻れて嬉しくて、シャボン玉がはじけるように言っていると思いました。

といった考えも出されました。では松井さんには、なぜチョウ(女の子)の声が聞こえたのでしょか。

発問4 なぜ松井さんにはチョウの声が聞こえたのだと思いますか。どうして聞こえたのかと松井さんの性格を一言で書いてみましょう。

[どうして聞こえたか]        [松井さんの性格]

  • チョウのことを思っていたから   → 元気な性格
  • 耳がいいから           → 優しい性格
  • ぼんやりして、耳をすましていたから→ 優しい性格
  • ぼんやりとしていたから      → ぼんやりとした性格
  • チョウのことを思っていたから   → 親切な性格

まずは直感で、どうしてチョウの声が聞こえたのかを考えてもらいました。大きくは〈チョウのことを思っていたから〉〈ぼんやりしていたから〉〈耳がいいから〉〈チョウを助けてあげたから〉といった考えにわかれました。
どうしてチョウたちの会話が聞こえてきたかが書かれていないので、松井さんの性格からチョウの会話が聞こえた理由を迫ってみることにしました。

松井さんの性格をひとことで表すと〈やさしい性格〉〈元気な性格〉〈ぼんやりとした性格〉〈思いやりのある性格〉といったものがあげられました。圧倒的に多かったのは〈やさしい性格〉でした。ではどんなところからそのように感じとったのでしょか。文章中から証拠の言葉を探しました。

発問5 文章の中から松井さんの性格がわかるところを見つけましょう。

〈やさしい性格〉

  • “にこにこして答えました。”
  • “おや、車道のあんなすぐそばに小さな~風がもうふとふきすれば車がひいてしまうわい”
  • “せっかくのえものがいなかったら、男の子はどんなにがっかりするだろう。”
  • “ははあ、わざわざここに置いたんだな”

このように、文章中から松井さんの言動の優しさを見つけることが出来ました。しかし人の性格というのは1つだけではありません。いくつもの性格が混在するものです。班の友達と意見交換をして「なるほど」と思うところを見つけてもらいました。

発問6 班の人で、松井さんの性格とその理由について発表して「なるほど」と思ったこと見つけましょう。

この「白いぼうし」には、ほのぼのとした性格を表す松井さんの行動が、各所に見られます。人の性格はたった一つだけではなく、いろいろな側面があります。@<color>{#ff2800,松井さんの性格を一元的に捕らえないで多面的にとらえ、友達の読み取りを認め合ってほしいと思いました。
}

  • 私は初め松井さんは〈やさしい〉性格だと思っていたけれど、Aさんの話を聞いて〈親切〉な性格も「なるほどな」と思いました。それは車道のすぐそばに、帽子が置いてあったのをつまみあげて、もっと奥へ置いてあげたから親切だと思いました。
  • 私は元気な性格もあると思ったんだけれど、Eさんの意見を聞いて〈やさしい〉もあるかなあと思いました。わけにはチョウがいなくなったら、男の子ががっかりすると思って、夏みかんを入れておいてあげたからです。
  • 私は最初〈思いやり〉もそうだなーと思ったけれど、みんなの意見を聞いていたら〈やさしい〉気持ちの方がいいと思いました。それは、白い帽子がちょこんと置いてあったの飛んでいったら男の子がかわいそうだから、石で帽子のつばを押さえたから〈やさしい〉と思いました。

2 女の子の言葉はどこを一番強く読んだらいいか

チョウが女の子に変身したわけを考えていく中で、注目されたのが次の文であった。

早く おじちゃん 早く 行ってちょうだい

この文について考えました。

発問7 “早く おじちゃん 早く 行ってちょうだい”は、早く読んだ方がいいですか。普通の早さで読んだ方がいいですか?

この問いには全員が〈早く読んだ方がいい〉と考えました。
・女の子が“早くおじちゃん早く”と言っているから。

ではこの一文はどのように読んだらいいのでしょうか。読み方について考えました。

①早く ②おじちゃん ③早く ④いってちょうだい の中で、一番強く読んだらいいと思うところはどこですか?

「これ!」と思える部分がすぐに見つからず迷っている子が多かったです。決められた子だけと考えを聞いてみると、①14人 ②5人 ③1人 ④2人 でした。

〈①早く〉10人→14人
•「早く」って言うときは急いでいて、つい大きな声で「早く」と言っちゃいそうだから。
•「早く」を強く言うと、急いでいる様子がわかるから。
•最初に強く言うと「早く行って」という気持ちが伝わると思うからです。

〈②おじちゃん〉5人→9人
•松井さんは遠くをぼーっと見ていたので、ちゃんとこっち(女の子)に気づかせるために「おじちゃん」と強く言ったと思う。

〈③早く〉1人
•女の子は「早く」っていうのを2回言っているし、早く行ってほしいから、なんか威張っているように言っていて、本当に早く行ってほしいという感じがするから。

〈④行ってちょうだい〉2人
•もう男の子に捕まりたくないから行ってほしい
•松井さんは男の子を見て後ろに女の子が乗っているのを忘れているみたいだから、最後らへんを力強くすると思います。

こうして一通り意見を出し合って、支持を得たのは②でした。
・女の子は、松井さんに気づかせるために「おじちゃん」を強く言ったと思う。

一気に②に収束しそうな気配もあったが、私(森竹)は③だと思うことを話しました。どれが正しいかははっきりしないので、子どもたちはよく考えました。

友達の考えを聞いて「なるほど」と思ったところはありますか。

・今の考えは③番、①②④もおかしくはない。③番は1回だけじゃ聞こえていなかったかもしれないから、2回目の「早く」も強く言ったと思う。

これまで女の子の言動を重視して読んできました。ここで物語の主人公である松井さんについても詳しく読み取ることにしました。まずは主人公と相手役でした。登場人物(松井さん、紳士、太ったおまわりさん、たけのたけおくん、お母さん、チョウ、女の子)を全部あげたあと、主人公と相手役について考えました。

「白いぼうし」の主人公と相手役は誰でしょう。

相手役については、アンパンマンでいうところのバイキンマンで、物語が進む上でその人物がなくてはならないような存在であることを話すと、子どもたちにはよくわかったようでした。

主人公については〈松井さん〉ということで、すぐに考えが一致しました。
・松井さんのことを書いてある文章が一番多いし、出てくる回数も一番多いから。
・松井さんは「白いぼうし」の話の中にずっと出てくるから、

では、相手役はどうでしょうか。これについては〈たけのたけおくん〉と〈チョウ(女の子)〉の両方があげられました。

〈たけのたけおくん〉
•たけのたけおくんがチョウを捕えなければ、この話は始まらなかったから。

〈チョウ(女の子)〉
•チョウが出てきて、たけのくんが捕まえたからチョウの方がさき。
•チョウの方がたけのくんよりも、出てくる回数が多いから。
•たけのたけおくんじゃなくて、誰がチョウに捕まえても話になるから。
•たけのたけおくんでなくても、誰だってチョウをつかまえることができるから。

登場回数や会話の回数などの違いから、相手役はチョウであることを確かめました。

車道のすぐそばに落ちていた白いぼうしをつまみあげたタクシー運転手の松井さん。帽子をつまみあげたとたんに、ふわっっとモンシロチョウが帽子から飛び出してしまいました。そこで松井さんは、その帽子の中に夏みかんを入れておきました。主人公である松井さんが、どんな思いで帽子の中に夏みかんを入れたのが松井さんの心情に迫ることにしました。

松井さんは、どうして帽子の中に夏みかんを入れたのでしょうか。 「男の子(は・に・の・が・を)」で始まる文で考えましょう。

「男の子」で始まる文に限定したのは、男の子に対して松井さんがどんな気持ちを持っているかをはっきりさせるためである。次のような文ができました。
・男の子が、可哀想だから、
・男の子が、悲しむから。
・男の子が、がっかりするから。
・男の子のチョウが逃げてしまったから。
・男の子を驚かせたかったから
・男の子に、おわびをしたかったから、

〈男の子が可哀想だったから〉9人
•男の子が可哀想だと思ったから。
•“せっかくの獲物がいなくなったらこの子はどんなにがっかりするだろう”と書いてあって、男の子のことを考えて入れてあげたと思う。

〈男の子が悲しむから〉2人
•“せっかくのえものが~”とあって、男の子が悲しむから。

〈男の子ががっかりするから〉10人
•“この子はどんなにがっかりするだろう”と書いてあるから。

〈男の子がチョウを逃がしてしまったから〉14人
•男の子のチョウを逃がしちゃったから。“せっかくのえものがいなくなっていたら~”

このように子どもたちが証拠としてあげた文はどれも同じ“せっかくのえものがいなくなっていたら、この子はどんなにがっかりするだろう”という文であった。この文中のどこに注目するかによって、男の子への想いが若干変わってくるが、その本質は同じです。

松井さんの男の子に対する思いは同じであることに気づくために、意見交換をしました。

松井さんはどうして夏みかんをぼうしの中に入れたのでしょうか。
•男の子はお母さんにすごくチョウを見せたかったのに、もし帽子の中に何も入っていないと悲しくなってしまう。だから悲しませたくなかったから夏みかんを入れたと思う。
•もし帽子の中にチョウがいないと、男の子をがっかりさせてしまう。松井さんは優しい人だから、もらった夏みかんを入れてもので謝ったんだと思う。←みんなからの拍手。
•松井さんは“小さなぼうしをつかんでため息をついている”せっかくとっておいたのになくなちゃってかわいそうだな、というため息をついた。だから夏みかんを入れて責任を取ったと思う。

拍手が起きた意見には、思わずみんなからの拍手が起きました。共感できるところがあったのでしょう。みんなから拍手をもらった子は何とも言えないいい表情をしていました。優しい人柄の松井さんは、男の子に謝りたい気持ちを持っていたことがはっきりしていました。自分の意見だけではなく友だちの意見のよいところにも目を向けてみました。

友だちの発表を聞いて「なるほど」と思いました。
•Tくんの考えを聞いて、Tくんは「物であやまる」と言っていて、ぼくは物で謝れば喜ぶし「変身した」とか思うから、物であやまるのはいいと思った。
•Mくんの意見を聞いて、どれも謝る気持ちは同じだということがわかり、どれも松井さんの優しい気持ちは同じだということがわかり、どれも松井さんの優しい気持ちからきているのがわかった。
•私はがっかりするからだと思ったけれど、Mさんが言ったように、4つとも謝りたい気持ちだから、どれがいいとかじゃなくて全部いいと思う。

白いぼうし授業のポイント
・松井さんの目からみたファンタジーの世界。
・情景を想像しながら読む、中心人物の性格を考えながら読むなどできる。
・ファンタジーは「感じる」ことが一番大切。宮沢賢治の作品も同じ。

メイン発問
・蝶が女の子に変わったのはなぜですか。
・松井さんが蝶の会話が聞こえたのは、松井さんがどんな性格だったからでしょう。
・それぞれ何が「よかったね。」のでしょう。何が「よかったよ。」なんでしょう。

考えられる発問
・登場人物を全てノートに書きましょう。中心人物は誰ですか? 相手役は誰ですか?
中心人物 松井さん  相手役 女の子

・一言でいうと松井さんはどんな人だろうか? なるほど松井さんらしいな、と思えるところを見つけよう。
・松井さんはどうして夏みかんをぼうしの中においたのだろうか。
A 男の子のチョウを逃がしてしまったから
B 男の子ががっかりすると思ったから
C 男の子を喜ばせようと思ったから
D 男の子をびっくりさせようと思ったから。
E 男の子に食べてほしかったから
・この物語で「変わったこと」をたくさん見つけよう。その中で一番大きく変わったことは何でしょう。
・このお話は、突然不思議な場面に変わります。どこから変わりますか。どこがどのように不思議になったのか表にまとめましょう。
・「早く、おじちゃん。早く行ってちょうだい」は速く読んだ方がいいでしょうか。
それとも普通の速さでいいでしょうか。また、①~④のどれ一番強く読んだ方がいいと思いますか。
①早く,②おじちゃん。③早く ④行ってちょうだい。
・蝶が女の子に変わったのはなぜですか。
A 松井さんにお礼を言いたい
B 逃げたかった(仲間の所へ行きたい)
C 帽子をあけて驚く男の子が見たい
・松井さんは、自分が小さな野原に来ていたことを、最初から気づいていましたか。それとも気づいていませんでしたか。
・それぞれ何が「よかったね。」のでしょう。何が「よかったよ。」なんでしょう。
・「よかったね「よかったよ」と松井さんに聞こえた理由を話し合う。
・「よかったね「よかったよ」…は、どのように読んだらいいでしょうか。
・松井さんが乗せているこの夏みかんが,紳士には今,見えているでしょうか? それとも見えてないでしょうか。
・夏みかんは、車のどこに置いてあったのでしょうか? 図を書いて表しましょう。

プロフィール

静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
(2015年1月時点のものです)

書籍のご紹介

「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)

「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)

「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)

「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)

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