夕鶴1(シリウス)

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目次

1 はじめに

こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/

2 実践内容

第一次感想

「夕鶴」は戯曲「夕鶴」をもとに木下順二氏自身が子どものために書いた作品です。主題を、人間の本当の純真さ善良さとは何かと私はとらえました
 
 つうは、ただ恩返しによひょうのところへお嫁に来たわけではありません。よひょうの人柄(正直・働き者)が好きでお嫁に来たのです。「いつまでも一緒に暮らしたい」と思ってきました。ところがよひょうは、人間が誰でも持っている欲のために変わってしまいます。つうはその心変わりを、献身的に必死でくい止めようとします。身を細らせて以前のよひょうに戻るよう祈りますが、祈りは通じません。よひょうはついに、つうの本当の姿を知ってしまいます。
 しかし、よひょうもまた、純粋性←→欲望のはざまに立ち苦しみました。「たくさんお金をもうければ、つうを幸せにしてあげられる」という人間として当たり前の願いを持ちます。
 2人の望みは、よひょうと暮らしたい←→つうを幸せにしてあげたい、というように一致しなくなりました。愛すれば愛するほど一緒に暮らしたいと願うほど、2人の食い違った行動が別離に向かわせていくのです。
 
 まず最初に、この作品を読んで感想を書きました。子どもたちの読みが深いものがあり驚きました。

夕鶴を読んだ感想を書きましょう。(※青色=教師の発問/以下同様)

  • すごく悲しかった。約束をやぶったよひょうも、つうも本当はかわいそうな人とわかった。つうは、なぜ姿を見せられなかったわけがわかった。つうはそれほどよひょうを好きだった。
  • つうはとても嬉しくて「親切な人だな」と思って、一緒に暮らしたいと思う。つうが織っているところをよひょうが見たから「本当はつうはよひょうがいいんだけど」約束を破って見たから鶴になって逃げたと思う。

よひょうの家はどんな家か

よひょうとつうの人柄と生活を読みとる学習をしました。(3~5の場面)

よひょうはどんな人だとわかりますか。

子どもたちの手がさっと上がって、

  • 正直者
  • 子どもと仲がいい
  • だれにも負けない働き者

よひょうの人柄を押さえたあと

よひょうはどんな家に住んでいたか、絵で描いてみましょう
と、紙を配りました。
子どもたちはかなり詳しく書き込んでいます。「まっ白な雪」「村はずれの一軒家」などの言葉をとらえていました。中には、「よひょうは、だれにも負けない働き者だから、ふつうの家より大きいと思う」という発言がありました。

よひょうは、つうに「お嫁さんにしてくださいな」と言われ初めに何と思ったでしょう

こう問うとほとんどの子どもが「嬉しい」と考えました。「びっくり」と考えた子はわずか3名でした。そんなの当たり前じゃないかという顔をしています。ところが私が、

初めはびっくりした顔なんじゃないかな。証拠は4の場面にあるよ。見えていないけれどね

と、いうとみな目を皿のようにして、証拠を捜し始めました。「それって、あぶり出し?」といってきた子もいました。
 実は、つうの言葉のあとの空白部分(1行分あいています)がよひょうの驚き、心の変化(びっくりした→うれしい)であることを、読みとらせたかったのです。このことを説明したあとに

つうが、よひょうの家に来て、家はどうなっただろう。絵に書き足してみましょう

こう言うと、口々に「えー」「難しい」と一斉に叫びました。こんな質問をされたことがなかったのでしょう。ずいぶんと戸惑っているようでした。できた作品はこのように、急にお金持ちになったのではないこと「よひょうの暮らしは楽しい、幸せなものに変わった」ことを十分に読みとった作品ができあがりました。

あやしいあやしい

6・7・8の場面を学習しました。欲ばりなうんずと、鶴であるつうのしたことを読みとるのが主なねらいです。まず資料を提示し、次のように尋ねました。

  1. 町の通りをうんずという男が歩いています。
  2. うんずは、よひょうと同じ村の男です。
  3. うんずは、町の通りを歩いているのです。

1~3の中で、お話をしている人が、うんずが布を持っていることに気づいたのはいつですか

始めはみな、首を傾げていましたが、そのうち1と3に意見が分かれました。

  1. 歩いているのを見たんだから、布も見たと思う
  2. 1の文は、だうんずが歩いているところを見ただけなんだ

 
そのうちある子が、
3の文「歩いているのです」の「の」があやしい
と、言い出しました。たちまち「あやしい、あやしい」の合唱になりました。子どもたちは、言葉に対してずいぶんと敏感になり、疑心暗鬼になっているようです。この「の」に気づくと、
やっぱり3だと思う。なぜって1ならただぶらぶら歩くだけだけど、3なら言い方がていねいだし、布がなぜうんずの所にあるか、不思議がっていると思う。
と、実演を交えて説明をしました。授業後にも4人の子が私のところに来て、自分の意見を話していきました。

うんずが( こわき )に( かかえているの )はあのぬのです、のかわりに一番よくあてはまるのは、次のうちどれですか。

うんずが(    )に(     )はあの布です。

  1. 手のひら のせている
  2. 手 もっている
  3. 指 つまんでいる
  4. むね 抱いている
  5. かた かついでいる
  6. せなか 背負っている

これには、圧倒的に4が多く理由としては、次の2つがあげられました。

  • 高く売れるように
  • よごして、売り物にならないよう

うんずは、お金のことだけ、考えて歩いていてくれたから、汚さないように大事に持ってたのかな
というといっせいに首が横に動きました。

8の場面では
2人がいつかお別れするわけが書いてあるのはどこでしょう
と聞くと

「えー!もう」と反応が返ってきました。ここには一見2人の幸せな暮らししか書いていません。やがて「つうが美しい都の話をした」ことに気づきました。

つうが話してくれた都を絵で描いてみよう

絵を描かせると大半の子が、人間の目から見た都の絵を描きました。しかしつうは、鶴です。したがってつうの見た都は、上空から見た都になります。そのことを話し、上空からの都を描いた子の絵を見せますと、その子はとっても嬉しそうに、にっこりしました。

よひょうの心の中は

9~11の場面を学習しました。欲のために心変わりをするよひょうと、それを悲しむつうの場面です。そうどとうんずにそそのかされて心変わりしたよひょうのことを話してから

よひょうの心の中を、色で表してみよう
と、紙を配りました。
使っていい色は2色としました。絵のように、様々なものが出されました。

  • 正直な心は明るい色、お金もうけをしたいという心は暗い色で表した
  • インクがしみ出したようなものもあった。本人の説明によると「欲張りの心がだんだんと正直な心の中まで入ってきた」もの
  • ぐちゃぐちゃ「これしか色がなかったから、ぐちゃぐちゃにぬっちゃった」と説明した。

つうが、子どもたちと遊んでいる10の場面では、次のように尋ねました。
このとき、つうは子どもとよひょうのどちらを好きなのだろう

< 子ども >派の子たちは

  • 素直な子どもたちだから好きだと思う
  • よひょうは「お金もうけ」をしたいと思っているから、ちょっとは嫌いになったと思う

 
< よひょう >派からは、反対意見が続出しました。

  • 文に「たまらなくさびしい」と書いてあるし、よひょうのことが嫌いだったら、心配なんかしない。子どもがいるから、いいやいいやと思って遊んでしまうと思う

などいろいろと出てきました。
話し合っていく中で、子どもたちはしだいに「たまらなく」という言葉に気づいていきました。11・12の場面では読んだあと、

このときのよひょうの心の中を色であらわしてみよう

  • 「どうしても布をおれ!おらないとしょうちしないぞ!」という言葉をもとに、暗い色で塗りつぶしていました。

ところが中には、半分以上を明るい色で塗っている子もいます。理由をそっと尋ねると、「よひょうはつうと幸せになるためにお金がほしかったんだと思う」と答えました。この子は、よひょうは自分自身のことよりもつうのことを考えていると捉えていました。

3 プロフィール

静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。

4 書籍のご紹介

「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)

「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)

「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)

「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)

5 編集後記

導入として、読後の子どもたちに純粋に物語の感想を書いてもらっています。その後、発問を通して、それぞれの登場人物の生活の様子を想像しながら絵で描いたり、心の変化を色で表してみたりと、子どもたち自らが楽しみながら夕鶴の世界に入る工夫・手法がとても興味深かったです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 河村寛希)

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