1 はじめに
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3 ディスレクシア(読字障害・読み書き障害)とは?症状の特徴や生活での困りごとは?
○ディスレクシアとは
ディスレクシアは「字を読むことに困難がある障害」を指す通称で、ギリシャ語で「困難」を意味する「dys(ディス)」と、「読む」を意味する「lexia(レクシア)」が複合した単語です。日本では難読症、識字障害、読字障害など、他にも様々な名称で呼ばれてきました。読むことができないと書くことも難しいことから、読み書き困難、読み書き障害と呼ばれることも多いです。
「読むことが難しい」というと、「失読症」という名称をイメージして混同される方も多いのですが、失読症は脳梗塞などの後遺症として、明らかに後天的に読めていたものが読めなくなった、つまり書字機能を失った状態を指します。
一方、発達期の特異的な読字障害は先天性のものであり「発達性ディスレクシア」(developmental dyslexia)と言われています。医学的な分類では学習障害(LD)に含まれることが多く、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では読字の障害を伴う限局性学習症・限局性学習障害とも呼ばれます。
本記事ではこの発達性の読字障害について、「ディスレクシア」という名称を使ってご紹介します。
日本ではディスレクシアの割合を示す統計は発表されていません。日本におけるディスレクシアの発現率に一番近いものとしては、障害者白書(平成25年度版、参考)内にある「児童生徒の困難の状況」のうち「知的発達に遅れはないものの学習面で児童生徒の割合」の4.5%だと言われています。日本語にはひらがな・カタカナ・漢字があり、詳細な発現率は分かっていません。また、知的な遅れが伴わないことや、海外に比べると日本はディスレクシアの認知度が低いことから、大人になるまで気づかないままでいた人もいます。
○ディスレクシアの主な症状
「文字を読む」というのは一見単純に見える行為ですが、まず文字を目で追い、その一文字一文字をまとまりにしてつなげ、音に変換し、それを脳で記憶している意味と結び付けて理解するという複雑なプロセスを経ています。
つまり、文字を音と結び付けて読み上げる音韻処理や、文字の形を認識したり語句のまとまりを認識し意味と結び付ける視覚的な処理などが必要になります。ディスレクシアの人の場合、一人一人の偏りや特性は異なりますが、それらの処理をするための脳の部位に何らかの機能障害や偏りがあり、そのために読むことが難しいのではないかと言われています。
以下にディスレクシアの人に見られる主な特性をご紹介します。
1.「文字の読み方の認識が難しい」音韻処理の不全
音韻機能とは最小の音単位を認識・処理する能力を指しますが、ディスレクシアの人の脳の特性として、音韻の処理に関わる大脳基底核と左前上側頭回という領域の機能異常があるという説が主流となっています。そのため音を聞き分けたり、文字と音を結びつけて「読む」ことが難しいと言われています。
■文字と音の変換が苦手
ひらがなの文字と音を結びつけて読むのが難しいことがあります。また小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」「っ」や音を伸ばす「−」などの特殊音節が認識できず読めないこともあります。
■単語のまとまりを理解するのが困難
たとえば「み」「か」「ん」などのひらがなやカタカナの一音ずつは読めてもそれを「みかん」というひとまとまりの言葉として理解するのが難しいことがあります。
■聴覚記憶が苦手
言葉を音として記憶しながら読んだり話したりしますが、ディスレクシアの人の中にはこの音韻認識が弱く聴覚的な記憶が苦手な人がいます。このように処理と記憶を同時に行うことが難しいことから読むことに困難が生じる場合があります。
2.「文字の形の認識が難しい」視覚情報処理の不全
ディスレクシアの人の中には、視覚認識や眼球運動に偏りがあり、普通の文字の見え方とは違った見え方をしている人もいると言われています。
■文字がにじむ・ぼやける
水に浸したように文字がにじんで見えたり、目が悪い状態のように文字が二重になったり、ぼやけて見えたりします。
■文字がゆがむ
文字がらせん状にゆがんだり、3Dのように浮かんで見えたりします。
■逆さ文字(鏡文字)になる
鏡に映したように文字が左右反転して見えることがあります。
■点描画に見える
1つの文字を点で描いているような点描画に見えることがあります。
以上の状態から文字が読み取りづらく、語句や行を抜かしたり、逆さ読みをしたり、音読が苦手な傾向にあります。また、読みだけでなく、読めないことで書くことにも困難があらわれる場合もあります。
全く読めないのではないけれど、読むスピードが遅いというディスレクシアの人もいます。周りから怠けていると勘違いされることも多くありますが、本人の努力不足などではなく、先天性の障害であるということを理解することが大切と言えます。
○ディスレクシアの困りごと
・学校・仕事での困りごと
学校では板書をノートにとる作業が必須ですが、文字を読むのも書くのも苦手なディスレクシアの子どもにとっては困難な作業です。作文や漢字の書き取り、音読なども苦手なため、学校の宿題に時間がかかったり、できないことも多々あります。先生や本人、家族もディスレクシアだと気づいていない場合、注意不足などと叱られる子どももいます。
仕事においても、書類作成など文字を扱う業務が苦手で、何度間違いを指摘されてもミスを繰り返してしまうことがあります。また、素早くメモを取ることができないため、上司の指示を聞いたり、電話を受けた場合に困ることもあります。短期記憶も苦手な傾向にあるため、誰から電話が来たか忘れてしまったり、人の顔と名前を覚えられなかったりします。
・家・生活での困りごと
ディスレクシアは知的な遅れがないため、日常生活で困ることはないと思われがちですが、文字が関わってくると困難なことも多々あります。例えば、文字を認識するのに時間がかかるため、バスに乗りたい時に行き先を認識できず乗り遅れたり、車を運転している時に標識を認識できず通り過ぎてしまったりなどが挙げられます。
その他、小さい文字を読むのが困難なために小説が苦手だったり、電話番号を認識しづらいために電話をよくかけ間違ったりする人もいます。日常生活には意外と文字を使う場面が多いので、ふとしたことで困っている人も多いのですが、ディスレクシアと気づかずにできない自分を責める人も多い現状があります。
・対人関係での困りごと
会話面では問題ないため、ディスレクシアであっても良好な対人関係を築ける傾向にあります。しかし、文字の読み書きが出来ないことをからかわれたり、そこからいじめなどに発展して不登校や引きこもりとなってしまう可能性もあります。また、親や学校の先生がディスレクシアと知らずに注意を繰り返してしまうと、自信を失ってうつ病などの二次障害を起こすこともあります。
反対に反抗的な態度を取る人もいます。行為障害と呼ばれるもので、人や物を傷つけるなど非行に走る行為が挙げられます。このように対人面で問題があると二次障害となる可能性が高いです。これらは周りがディスレクシアを理解し、本人のために行動してあげることで防げます。周囲の人はできるだけ本人の気持ちに寄り添い、「どうすれば過ごしやすいかな?」などと意識しながら環境を整えてあげるように努めましょう。
○ディスレクシアの困難への対処法・工夫
・文字を見やすくする
ディスレクシアの中には、文字を読みにくく感じている人が多くいます。例えば、文字を大きく分かりやすい字体(フォント)にしたり、読む範囲以外の上下左右を隠したりすることで、文字を見やすくすることができます。こうすることによって、本人にとって文字が読みやすくなることがあります。ほかにも、文字が小さすぎて読むのが困難に見受けられる場合は拡大コピーなどの工夫が効果的です。
また蛍光ペンで重要と思われる部分にだけ色をつけることで、読む情報量を調整できます。これにより文章を読むことに対しての抵抗感を減らすことができます。
・声にする
耳からの情報は理解できることが多いため、問題文などの文章を音声にして聞かせると宿題がはかどることもあります。教科書を見ながらその音声を聞くことにより、文字・音・意味が繋がる可能性があります。最近では電子教科書というものもあり、音声での読み上げシステムが備えられています。
・ふりがなやスラッシュを振る
漢字などが分かりづらい場合、ふりがな(ルビ)を振ることが効果的な場合もあります。教科書にふりがなを振ったり、テストにふりがなを振ってもらうのも効果的な場合がありますが、学校の先生や周囲の理解を得ることが難しいこともあります。しっかり話し合い、合理的配慮をお願いするとよいでしょう。
また、文章のどこまでがひとまとまりなのか理解できないことがあります。このような場合は「スラッシュ」(/)を引き、どこが文章の区切りとなっているのか、明確に表してあげるとよいでしょう。文章を読みやすくなることが期待されます。
・色つきメガネを使う
背景が白である文字よりも、青や緑など色がついていた方が見やすいという人もいます。色つきメガネなどをかけると、目が疲れずに文字が読める場合もあります。文字を読むスピードが上がったなどの報告もあります。
合理的配慮の一環として、教科書に黄色のクリアファイルを重ねて音読させたところ、読みやすさが上がったとも報告されています。
・スマートフォン・タブレットを活用する
スマートフォンやタブレットなどのICT機器を使うと、文字を拡大できたり、音読機能があったりと便利です。学校の理解があれば、板書を写真撮影したり、録音機能などにも利用できます。学習用の無料アプリなどを使って楽しく勉強することも可能です。
○ディスレクシアは治療できるか
今のところ、ディスレクシアの医学的な治療法は確立されていません。一般的には対症療法として読み書きのトレーニングが行なわれます。しかし、ディスレクシアも含まれる学習障害(LD)は日本での認知度が低く、対応が遅れている現状があります。家庭で根気よく訓練するなど、家族の協力が必要不可欠です。
ディスレクシアではないかと感じた場合、小児神経科など専門の病院で検査し、専門家に相談することをおすすめします。ディスレクシアの検査は知能検査のWPPSI、WISC、WAIS、脳を調べるためのMRIなどが用いられます。注意欠如多動性障害(ADHD)や自閉症を併発していることもありますので、代替する検査が用いられる場合もあります。
ディスレクシアを含む発達障害は、自立して生活できるように教育する「療育」と呼ばれるアプローチが効果的と言われています。最近ではICTを利用したりすることで、工夫次第では学校の勉強についていけるようになりました。お子さんにあったツールを利用して、学習上の困難を減らしてあげましょう。
・まずは専門機関で相談を
いきなり専門医に診てもらうことは難しいので、まずは無料で相談できる地域の専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。子どもか大人かによって、行くべき機関が違うので、以下を参考にしてみてください。
【子どもの場合】
- 保健センター
- 子育て支援センター
- 児童発達支援事業所
【大人の場合】
- 発達障害者支援センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 相談支援事業所
その後、すすめられた場合は、医療機関に行き、医師からの診断を受けましょう。診断を受けて障害だった場合は今後どのように対応していけばいいか聞くことができますし、仮に障害でなくとも普段の行動を見直すきっかけになると思います。
○まとめ
ディスレクシアは日本での認知度が低く、情報も少ない傾向にあります。本人は頑張っているのに周りから怠けていると思われることも多く、叱られることで自信をなくし、うつ病や不登校といった二次障害となってしまう可能性もあります。まずは文字の見え方が違うディスレクシアについて理解し、むやみに怒ることがないようにしましょう。
ディスレクシアであっても有名人になったり、芸術や研究者など様々な分野で活躍する人は多くいます。できないことは改善するように努め、得意分野などできることを探し、本人の良い部分を伸ばしてあげましょう。
4 編集後記
障害への理解は、その子の人生から障害をなくすための第一歩だと思います。書字障害は学習障害の中でも知名度が高いものかと思いますが、依然として知らない人もいるのではないでしょうか。教育に携わる人が、障害についての知識をもっておくこと、理解を深めておくことはとても大きな意味を持ち、子どもたちの可能性を狭めないことにもつながります。
どんな人にとっても生きやすい社会が来る日は、私たちの手でつくっていくしかありません。この記事がその日への力になればと思います。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 岡本笑)
(2022年7月25日 タイトルを「ディスレクシア(読字障害)とは」より変更)
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