1 はじめに
LITALICOジュニアは子ども一人ひとりの得意や苦手を見つけ、それぞれの特性に応じた指導をおこなうソーシャルスキル&学習教室です。今回は、LITALICOジュニアで教室長を務める柳本さんにお話を伺いました。→詳しくはこちらをご覧ください。
2 インタビュー
〇LITALICOジュニアでの活動
——LITALICOジュニアではどのような活動をされているのですか。
柳本:LITALICOジュニアでは児童発達支援として0歳~6歳までの未就学児を対象とした療育のほか、小学校1年生~高校3年生までを対象とした子どもの「学習支援」と「ソーシャルスキルトレーニング」を、少人数のクラス編成で実施しています。
「ソーシャルスキルトレーニング」とは、
- 相手の気持ちを理解できない
- 相手に対してどのようにふるまえばよいか分からない
というコミュニケーションに関する悩みを解決するための授業です。
LITALICOジュニアは発達に悩みがある子どもが通っているので、「友達にどのように声をかければよいか。」という言葉の引き出しが少なく、普段の学校生活で友達とのケンカや遊びの輪に加わることができない等のトラブルが発生しやすい傾向にあります。そのため、
- 「ありがとう」,「ごめんね」が言える
- 友達と一緒に遊ぶ経験
など、一人ひとりのケースに沿ってコミュニケーションの練習をする必要があります。
大切なのは、子どもの“成功体験”
——LITALICOジュニアの授業で大切にしていることは何ですか。
柳本:子どもに成功体験を得てもらうことです。
例えば、子どもが自分の意思を他者に伝える場面において、学校では30人程度の学級の中で何度か失敗を積み重ねた結果、自己肯定感を損なうケースが多く見受けられます。LITALICOジュニアでは、子どもの成功体験が獲得し易い環境づくりや、子どもが成功体験を得るためのヒントを出すこと、また、子どもを褒めることで「先生に褒めてもらえた」という成功体験も得てもらうように心掛けています。
〇子どもたちに出すヒントの例
柳本:例えば、自分の話をするのが好きな子どもの場合、
先生:「今どうするんだっけ?」
【ヒント】「“お友達の話を聞くとき”のお約束」や「“相手が話そうとしているときに自分が話そうとしていたら”のお約束」を見せる。
子ども:「今、聞かなきゃいけないんだった!」
先生:「ちゃんと聞けて、偉かったね。」
柳本:このように、子どもが相手の話を聞くことができたらすぐ褒めることが大切です。自分の話をするのが好きな子どものケースでは、自分が話したときではなく、相手の話を聞いたときに褒められるという経験が良い行動を強化するきっかけになります。
“褒めるハードルを出来る限り下げる”
——不登校の子どもに対して心掛けていることは何ですか。
柳本:その子どもが不登校であるかどうかの「差」はあまり感じていないのですが、学校に「行けない/行かない」という選択をする子どもは「自分は他者から認められていない」「学校に行く意味がない」と感じている場合が多いです。
そのため不登校の子どもには、「まず、どうしたいのか」というその子ども自身の気持ちを引き出すことが大切です。しかし学校で苦い経験をしている子どもは「言っても無駄だ」と思い込み、自分の意見を表に出せなくなっている場合があります。
そのような子どもと信頼関係を築く第一歩は「あぁ、そういう風に感じているんだ。」と子どもに寄り添うことです。
——学校の教員にも応用できることはありますか。
柳本:その子どものできる部分をどれだけたくさん見つけられるかがとても大事だと思います。学校現場では概ね、提示されたものが目標到達度まで終了することで、子どもの「できる/できない」が判断されますが、“その子どもにとってのゴール”をどこに設定するのかが子どもの気持ちを左右します。
“その子どもにとってのゴール”をどこに設定するのかは、
- 半分まで到達したら褒める
- そもそもやりたがらない子どもには、子どもがプリントを見ているだけで褒める
というところから始めてみましょう。この「褒めるハードルを出来る限り下げる」という実践はLITALICOジュニアでも日々意識して行っています。
特に、子どもに興味がないものをチラッと見ただけで褒めるということは、
「何しても褒められるな、もう少しやったらもっと褒められるかもしれない。」という気持ちを起こさせ、次の活動に前向きに繋がっていくことが多いため、効果的な言葉掛けであると言えます。
学校現場でも「できた/できなかった」の最終的な結果で褒めるのではなく、褒めるハードルを出来る限り下げ、その子どもの「できる」をたくさん見つけられる(=子どもの行動をしっかり見ている)教員—子どもの成長と共にある教員が理想だと思います。
不登校の子どもの中には、先生に「君はこうだから……」と決め付けられることで、
「あの先生は話を聞いてくれない。」と心を閉ざしてしまう子どもがいます。
しかし、私がそのような子どもたちに接するとき
「どうしてここにいるのがいやなの?」と聞くと、
「なんか、音が気になる。」
「ずっと座っていると、ムズムズするんだ。」
など、自分の言葉で語れる子どもたちは多いと感じます。
子どもの“問題行動”は無意識的な要素が起因している例が多いので、学校の先生方にはぜひ子どもの話に耳を傾けていただきたいと思います。そのうえで「どうすれば落ちついていられるか」について当事者の子どもと一緒に考えお約束を決めることも効果的です。解決策の提案に子ども自身が関わっていることで本人も自己肯定感を持ち、結果的にクラスみんなが安心して教室にいられるようになります。
先生は、子どもの声に傾聴し、子どもと一緒に解決策を考える時間をとっていただけると良いのではないかと思います。
○経験から学んだのは“子どもと一緒に考える”ことの大切さ
子どもは深いところまで考えている
——柳本さん自身が不登校の子どもと接していて、印象に残っている経験は何ですか。
柳本:子どもたちから不登校になった理由について話を聴くと、(あぁ、こんな深いところまで考えていたんだ。)と気づくのですが、その中でも特に印象的な経験は
「今の学校って、凄くつまらないよね。」
という問題意識を持った2人(Aさん,B君)が書いた手紙を読み、その内容の一致と考えの深さに驚いたことと、子どもが学校に対して
「自分がいる場所じゃないな」
と思うきっかけを感じることができたことです。
①絵を描くことが好きな女の子Aさん(仮称)の場合
不登校の原因:テスト用紙に描いた絵を教員に強く否定されたため
画一的な授業にも関わらず同じ基準で評価されることが納得できず、
「自分だったらこういう学校にする」
「こういう場所で学びたい」
「先生にはこうあってほしくない」
という明確な考えを持っている。
Aさんは「絶対に学校に行かない」と決めているため、進級や中学進学により担任の先生が新しくなっても、学校に登校する意思はなく、担任教諭とは手紙でやりとりをする関係です。Aさんが教員に宛てた手紙には「子どもを褒める」こと、「その子ども自身をきちんと見てほしい」と書いてあったことが印象に残っています。
②高校1年生の男の子B君(仮称)の場合
B君が小学5年生時に書いた手紙に、
「こうすればもっとみんなが楽しく通えるのに」
「今の教育システムでは学校に通っても楽しめない子がいるよね」
と書いてあった。
このような出来事から、私は子どもの可能性を広げるために何が必要なのかについて、その子どもと一緒に考えるようにしています。
「どんな社会であればその子どもが自分らしく生きていけるのか」について、その子交えて一緒に考えたいという思考が、AさんやB君のような子どもたちから学んだ視点であり、尊重したい点でもあります。
——先生が子どもにできることは何だと思いますか。
柳本:不登校になるということは、子どもの保護者も含めて、結果的に本人が「学校に行かない」という判断をしているのですが、「学校に行かない」という選択を教員がマイナスに捉えないことが大切です。
○子どもへの好ましくない言葉がけ
「どうせお前がやったんだろう」
柳本:子ども同士のふざけあいで、本来は複数の子どもたちが叱られるべき場面で、発達障害の子の中には始めると歯止めが利かなくなってふざけ続けてしまうのが特性だったりする子もいるので、空気をよんで止めていく友達がいるなかでその子だけ怒られてしまうことがあります。そういうケースだと自分は悪くないのに、自分だけ悪者にされたという意識がその子に中には残ってしまいます。
自分のことを言うのが苦手な子もいるので、本人が苦手なことをやらせようとすると、口には出さないけど「先生は自分のことをわかっていない。」とか「できないのになぜやらせるんだ。」という風に思ってしまうことがあります。
○先生方へのメッセージ
——教員や教員を目指している学生にメッセージをお願いします。
柳本:子どもの教育の方法は1つではありません。先生自身が求める理想はあると思いますが、それに挫折をして「先生」として疲れてしまう方もいらっしゃると思います。そうならないためにも、様々な子どもにふれてその個性をそれぞれ理解することが大切かなと思います。
子どもの「個性」を平坦にすることを目指すのではなく、そのでこぼこを活かしていくこと、なおかつ"でこぼこ"を活かしながら学校教育に必要な協同性などを支援していくことが大切なのではないかと思います。
コメント