新学習指導要領とカリキュラム・マネジメント~『これからの学校・これからの授業』 ~(教育技術×EDUPEDIAスペシャル・インタビュー第8回 髙木展郎先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われたインタビューを記事化したものです。

第8回は、横浜国立大学名誉教授 髙木展郎(たかぎ・のぶお)先生に、学習指導要領改訂のポイントや、カリキュラム・マネジメントの視点での授業改善、これからの評価方法などについて詳しく解説して頂きました。

なお、本企画は小学館発行の教育誌『教育技術』とのコラボ企画となっております。『小一教育技術』~『小六教育技術』6月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。
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2 インタビュー

新学習指導要領のポイント

——学習指導要領の改訂により、学校現場が大きく変わるのではないかと心配される先生もいらっしゃるように思います。実際は何が重要なのか、改訂のポイントを教えて下さい。

新学習指導要領の改訂に向けて、ポイントは3つです。
①カリキュラム・マネジメントを学校の全職員が理解すること
②新学習指導要領の構造を理解すること
③子ども一人ひとりの良さを認める評価をすること

今回はこの3つを中心にお話をします。

カリキュラムマネジメント

これまでカリキュラムや教育課程と言えば、教科書の内容を決められた時間内で行うための教育課程の編成表の意味で使われることがほとんどでした。

しかし、これからのカリキュラム・マネジメントには、小学校6年間で「どのような子を育てたいのか」という目標と理念とを学校のグランドデザインとして構想し、教職員全員が理解して子どもに向き合うことが求められます。

まずは、全体の共通基盤としての「学校のグランドデザイン」をもとに、「資質・能力のグランドデザイン」をつくり、そこから「各教科等のグランドデザイン」「年間指導計画や単元の授業」をつくっていきます。

これらのデザインを連携させることが、これから求められるカリキュラム・マネジメントです。

学校のグランドデザイン

学校全体の共通基盤である「学校のグランドデザイン」を構想するには、校長や管理職だけではなく、教職員みんなで話し合って合意形成をしていくのが大切です。

今の学校目標は抽象的なものが多く、その目標を授業でどう実現するのか分かりにくいことがあります。まず学校の実態に合わせて、全体像を考えないといけません。ポイントは下に掲載の資料の下の部分から作っていくことです。

学校目標の設定に関して、今までは管理職が中心に行っていましたが、トップダウンだと実態に即さないことが多いです。だから、職員全員が学校目標の設定に参画できるよう、子どもや指導の実態という管理職には見えにくい部分からみんなで考えていきます。それらを積み重ねていき、最後に学校目標を作ることで、より実態に即した目標ができるでしょう。

資質・能力と生きる力

——資料の中心に「資質・能力」という言葉が出てきましたが、今まで言われてきた「学力」とは違うのですか?

次期指導要領では、学力ではなく、資質・能力という言葉を使っています。学力とは学校に閉ざされたものであり、資質・能力とは、生涯にわたって使うものです。生涯を続けて学び続ける必要性を踏まえて、資質・能力という言葉を使っています。

これからの学校教育では、どんな資質・能力を育てるのか、どんな指導体制や地域との連携が必要なのか。それらを考える際、次の6つの視点でカリキュラム・マネジメントすることが必要になります。

「何ができるようになるか」「何が身に付いたか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「子どもの発達をどのように支援するか」「実施するために何が必要か」

また、資質・能力に加えて「豊かな人間性」と「健康・体力」を合わせたものが、今までも言われてきた「生きる力」です。

各教科等のグランドデザイン

——学校目標や資質・能力の育成を実現するには、どのような授業を行えばよいでしょうか?

学校目標や資質・能力の育成を授業でどのように実現していくのかを考えていくのが「教科のグランドデザイン」です。

小学校であれば6年間を通して、各教科の授業で「どのような見方・考え方、資質・能力を育てるのか」を明確にして、「何ができるようになるか」「何が身に付いたか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」といった視点から、年間計画・単元計画を立てなければなりません。

このように考えることで、学校のグランドデザインとして育てるべき資質・能力が授業の目標に繋がっていくのです。

教科書ではなく、「学習指導要領の内容」を基に

ポイントは、授業を教科書ではなく、「学習指導要領の内容」を規準にして、学校の特色も考慮しながらつくることです。そこで、全体計画の中で知識・技能や思考力といった観点のバランスをとっていくことが必要になります。

カリキュラムを学校目標や学習指導要領を基に考えることができれば、教科書が変わっても、学習指導要領の改訂後10年間はそのカリキュラムを活用できます。

研究授業では単元計画を作成

学校へのナレッジの蓄積という視点からは、研究授業も1時間ごとではなく、単元ごとの指導案を書くように変わっていくと良いと思います。

学校全体で年間の単元計画の大枠を作り、細かい点は個々の教師でアレンジすれば良いでしょう。指導案をこと細かに書いても、実際の授業はその通りにはいかない場合が多いですから。

振り返りと改善のサイクル

毎年の改善という意味では、振り返りが大切になります。しかし、毎回の授業で細かく振り返る余裕はないでしょう。そのため、簡単で良いので、週案などに実際にかかった授業時間や良かった点、改善点をメモしておきます。それが来年度の計画を作る時に役立ちます。

また、個人だけでなく学年や学校で授業計画を作っていくことで、記録が学校全体の財産になります。最近はコンピューターの活用も進んでいるので、目に見える形で申し送り事項を残し、蓄積していくことが重要です。

私がかつて校長を務めていた横浜国大附属横浜中学校では、一つの行事が終わったら振り返りをして、それを基にすぐに来年度の計画を立てていました。これもカリキュラム・マネジメントやチーム学校の視点での改善だと言えます。

「主体的・対話的で深い学び」

——新しい学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」や「アクティブ・ラーニング」という言葉もありますが、どのような授業なのでしょうか?

「主体的・対話的で深い学び」というのはあくまで授業改善のための視点です。ですから、アクティブ・ラーニングは手段であり、授業の目的は各教科の育成すべき能力を育成することです。単元計画の中で学習の目標の実現を図るためのものであり、活動そのものではなく、何が身についたかを確実に評価していくことが大切になります。

——どこまでいけば深い学びになるのですか?

友達との話で違う見方をしてみたり、もっとこれを探求してみたいと思ったり、それに自ら気が付いたりするなど、そういったことを深い学びという言い方をするのだと思います。

小学校、中学校、高校のすべてで「主体的・対話的で深い学び」という言い方をしているのですが、各学校段階ならではの深い学びがあると思います。

例えば、小学校の段階では、先生が発問してすぐに手を挙げさせるのではなく、まずは子どもが自分なりに考える時間をとる。そこで問題意識を主体的に持ってもらう。それから、友達との交流の中で自分なりの気付き、広がりを目指す。

そうした学習を通して、学ぶ楽しさ、面白さを子どもたちが追究できていれば、小学校段階で深い学びと言えるでしょう。

——形式的に授業方法を変化させるのではなく、生徒の主体性を引き出すための工夫はありますか?

シンプルに言うと、「良い問いを作ること」です。
例えば中学校国語の「走れメロス」の授業では「誰がメロスを走らせたのか?」という問いひとつで授業できます。王が走らせたのか、妹が走らせたのか…それぞれの立場で討論することができます。

今までの多くの発問は教えるための問いでした。学習を深めるには、いかに考えさせる問いを教師が出せるかが重要です。

算数でも同じことが言えます。最小公倍数を考える授業で「1/2+1/3=?」という問題を出します。そうすると、必ず「2/5」と答える子が出てきます。その子に、どうしてそうなったのかを聞いて説明させます。そうすると、「ああだ、こうだ」とみんなが話し出すのです。

また社会では「ペリーが日本に来なかったら、明治維新後の日本はどうなっていたか」という問いもあります。ペリーが来なかったら、戦後の帝国主義や植民地問題が全て解決するのではないか、といった考え方も出てきます。

そして、このような問いを考えられるのは子どもではなく、先生なのです。先を見通して考えられるからです。しかし、思考力が大切だからと言って、教えることを躊躇してしまう必要はありません。限られた授業時数の中で、どこで知識を教えて、どこでどのような問いを投げかけるのか、それを考えることが年間指導計画、カリキュラム・マネジメントです。それを学校全体で、子どもたちの実態に応じて計画的に考えることが大切。チーム学校の視点です。

評価観の転換

——学習指導要領改訂において、評価についてはどのような変化がみられますか?

観点別学習状況の評価が正式に取り入れられたのは平成13年です。そして平成22年からは、「関心・意欲・態度」、「思考・判断・表現」、「技能」、「知識・理解」となりました。新学習指導要領では、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点に変わります。

観点別学習状況の評価とはどういうものなのか。例えば、「鉄棒で逆上がりが出来る」という目標を実現するには、運動の技能だけでなく、足の振り方などの知識・理解、どうやったら出来るのかという思考・判断も大切です。それから「逆上がりが出来るようになりたい」という学習意欲も必要です。

このように観点別に評価することで、逆上がりの学習において、その子がどの観点での学力が身に付いたのかを評価できるのです。授業の目標に向けてそれぞれの観点からその子の良さを支援しようとするのが、観点別学習状況の評価の目的です。

関心・意欲・態度

関心・意欲・態度の評価規準の作り方を説明します。何回手を挙げたか、ノートを提出しているか、宿題はやってきているか、などの辞書的な意味の興味・関心ではありません。

本当は、その単元の重点課題を関心・意欲・態度として設定するのです。先ほどの逆上がりの例で言いますと、その単元の重要課題が「逆上がりが出来ること」だとしたら、関心・意欲・態度の評価規準も「逆上がりをしようとしている」となります。

新学習指導要領では、「関心・意欲・態度」の代わりに「主体的に学習に取り組む態度」という言葉が使われています。これは、これまでの関心・意欲・態度と同じような考え方で、その単元の重要課題をたおしこんで(コピペして)つくることになります。ですから、誰でも指導要領を読んでいただければ目的に準拠した評価の作り方が分かります。

「知識及び技能」、「思考力・判断力・表現力等」の評価の観点は新学習指導要領の「内容」に明記されますので、内容をよく読み込み、それを引用して各学校の特色に合わせた目標を作ることができます。

——新しく教科になる道徳については、どのように評価するのですか?

教科といっても、あくまでも特別な教科です。特に道徳では成績を付けることはしないということが重要です。よく誤解されているのですが、評価と成績をつけるということは別なのです。

評価は日本語でいうと1語ですけど英語で言うと大きく2つあります。
「エバリュエーション(evaluation)」と「アセスメント(assessment)」です。

エバリュエーションは、値踏みする、序列をつける、という意味で、例えば「5・4・3・2・1」のように、いわゆる評定を付けることです。

一方、アセスメントは、支援する、支える、という意味で、数値による評定は行いません。評価することによって子どもたちをよりよくしようとするものです。だからアセスメントの考え方では、褒めることも評価になるのです。

そして、道徳の評価はアセスメントです。最終的には個人内評価になるでしょう。成績を付ける数字でのいわゆる評定はしません。

「チーム学校」

——新しい学習指導要領の目指すものは、1人の先生の頑張りでは実現が難しいように思います。その実現に向けた「チーム学校」とはどのような考え方でしょうか?

現在は子どもを取り巻く環境が複雑になり、学校現場には多様な課題が出てきています。今までは「学級王国」という言葉があり、担任の先生一人でクラスをみる傾向がありましたが、これからは学校全体で子どもたちをみていくことが大切です。先生方がみんな同じことをやるのではなく、それぞれの良さや強みを生かせる環境が求められます。

また、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど外部の専門家や地域社会の方との連携を図ることも大切になります。「チーム学校」とは、先生方が自分の良さを発揮し、学校外の方々とも協力しながら子どもをみていきましょう、という考え方です。

若い先生は、問題を1人で抱え込まないことです。そして、自分の体験を振り返り、分からないことは先輩に聞いたり、本で調べたり、学び続けることが大切です。同じ5年生を担当したとしても、数年経てば状況が異なります。同じことを繰り返せないのが教師という仕事です。その変化が教師の面白さでもあり、難しさでもあると思います。

(取材・編集 EDUPEDIA編集部 大和信治、八木橋彩)

3 髙木展郎先生の紹介

横浜国立大教育学部卒。兵庫教育大大学院学校教育研究科言語系修了。
横浜国立大学名誉教授・中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会委員
専門分野は教育方法学、国語科教育学。

著書に『「これからの時代に求められる資質・能力の育成」とは』(東洋館出版社)、『ことばの学びと評価』『変わる学力、変える授業。』『チーム学校を創る』(三省堂)など。

4 髙木先生の著書

新学習指導要領がめざす これからの学校・これからの授業(2017/8/21)

詳細はこちら
*ためし読みも出来ます。

2020年に実施される、新学習指導要領に基づいた新しい学校教育。
現行の学習指導要領からの大幅改訂にともない、学校や教育関係者の間に戸惑いや不安もあることと思います。
 本書では、現場の先生方の困り感を的確に捉え、新学習指導要領がめざす新しい教育の姿やねらいについてわかりやすく解説されています。

5 関連ページ

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『小一教育技術』~『小六教育技術』6月号に掲載のインタビュー記事も合わせてご覧ください。

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【教育技術×EDUPEDIAコラボ】スペシャルインタビュー

第1回からのインタビューまとめページはコチラ

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