コミュニケーション及び日常生活リズムに課題のある生徒への指導の事例 (インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「コミュニケーション及び日常生活リズムに課題のある生徒への指導 事例」 に掲載されている事例をご紹介します。

<事例の概要>
A生徒は、B高等学校普通科に在籍する3年生です。自分の考えや意見を言葉で表現することが極端に苦手で活動への取組に時間がかかり、生活リズムが整っていないため遅刻が多い傾向にあります。
本件は外部の相談機関の助言を受け、学校とA生徒、保護者が合意形成を図りながら合理的配慮を提供した事例です。

2 生徒の実態

A生徒は、B高等学校普通科に在籍する3年生であり、自分の考えや意見を書いたり言葉で表現したりすることが極端に苦手で、活動への取組に時間がかかってしまいます。また授業中の発表場面では、教員に指名されると黙り込んでしまい「分かりません」などの意思表示が全くなく立ちすくんでしまいます。進路や選択科目の決定に関しても本人から希望や意思を表明することはなく、どのように指導や支援をすべきか教員も保護者も判断ができませんでした。A生徒は、忘れ物や提出期日を守れないことが多く、また遅刻も非常に多い傾向にありました。高校3年生になると午前中の授業にほとんど出席していない状況でした。

3 本事例に関する基礎的環境整備

・相談室

B高等学校のある教育センターには相談室が設置され、心理士による相談やアセスメント、個別指導やグループ指導が行われています。相談室には合理的配慮協力員が配置されています。

・特別支援教育コーディネーターの配置

B高等学校では特別支援教育コーディネーターを4名指名し、スクールカウンセラー(以下「SC」という。)を1名配置しています。

・特別支援教育コーディネーター連絡会

教育委員会は特別支援教育コーディネーター連絡会を設置し、各学校の特別支援コーディネーターやSC、合理的配慮協力員が特別支援教育の情報提供を行っています。

・合理的配慮協力員・校内支援委員会

B高等学校では、特別支援教育コーディネーターを中心に合理的配慮協力員、相談室担当者による校内支援委員会が個別の教育支援計画を作成しています。

・授業観察・個別指導

合理的配慮協力員による特別な支援が必要と思われる生徒の授業観察やSST、個別指導・支援を実施しています。また他の生徒を気にすることなく、安心して支援を受けられるよう放課後にSSTを実施できる教室を設けています。

4 合意形成のプロセス

A生徒は、高校入学前よりコミュニケーション上の課題を抱えており、入学時に学校に対して支援の申出がありました。これを機に特別支援教育コーディネーターが中心となり、保護者、A生徒も交えて相談室担当者と支援の方針・内容の検討が行われ、支援を行うことについての合意形成が図られました。保護者の同意を得た上で、教育委員会に設置された高校の特別支援教育コーディネーター連絡会において議論を行い、月に1、2回の頻度で合理的配慮協力員による実態把握と、昼食の時間を利用したランチタイムセッション、放課後の時間にSSTを実施することが決定しました。

5 合理的配慮の実際

・ランチタイムセッション

他の生徒との関わりの中で、自分の考えや意見を伝えられるように昼食時間において、A生徒も参加しやすいと考えられる話題でランチタイムセッションを行いました。遅刻等の生活指導に係る内容も取り上げました。

・合理的配慮協力員の派遣

相談室等の外部機関に合理的配慮協力員の派遣を依頼し、授業参観等を繰り返しながら支援内容の検討を行いました。

・A生徒への理解・協力

職員会議において合理的配慮協力員からの報告・助言等を基に特別支援教育コーディネーターが中心となって、A生徒に対する特別な配慮等の理解・協力のための説明を行っていました。

6 本事例の成果と課題

SSTの成果としてA生徒は時間はかかるものの、困ったときには意思表示ができるようになってきました。またランチタイムセッションの成果としては、特別支援教育コーディネーターや合理的配慮協力員の協力を得て、A生徒が可能な範囲で就寝時間、起床時間を設定、確認を行いました。その結果、以前よりも遅刻が減り1限目の授業への出席が増えてきました。しかしながら目標としていたスキルは十分に獲得されず、見通しをもって生活を送るために必要なスキルが身につくまで、卒業後も継続した支援を行う予定です。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひご活用ください。

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9 編集後記

今回はコミュニケーションや日常生活リズムに課題のある生徒へ実際に行われた取り組みをご紹介しました。A生徒と同じような課題を抱えている子どもとの関わり方に悩んでいる方にとって参考になれば幸いです。

(編集:EDUPEDIA編集部 白石はるか)

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