「夏草―「おくのほそ道」から」―歴史的背景や無常観を通じた読解

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目次

1 はじめに

この記事では、中学3年生の国語で学習する「夏草—「おくのほそ道」から」の授業を行う際に役立つヒントを掲載しています。
「おくのほそ道」は、松尾芭蕉による紀行文であり、古典文学の傑作でもあります。芭蕉の俳諧に対する思いや、歴史観をしっかり理解したうえで読解を進めることがポイントとなってきます。
参考資料へのリンクも掲載していますので、お役に立てましたら幸いです。

2 「夏草—「おくのほそ道」から」の内容

「夏草—「おくのほそ道」から」の歴史的背景

「おくのほそ道」について
江戸時代前期に活躍した松尾芭蕉による紀行文です。芭蕉は、弟子の河合曾良とともに東北や北陸をめぐり、岐阜の大垣までを旅しました。その記録が「おくのほそ道」です。芭蕉は、それまで滑稽さやユーモアを主体としていた俳諧の世界を、芭風と呼ばれる芸術性の高いものとして完成させました。

 「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり。」で始まる冒頭部分には、これから出発しようとする芭蕉の旅への思いが記されています。

「平泉」について
平泉は岩手県の南部にあります。平安時代に、藤原清衡、基衡、秀衡の奥州藤原氏の3代が治めており、その歴史を回顧しながら、この地を訪れた芭蕉が俳諧を詠んでいます。

 上記のように、奥州藤原氏は3代しか続かず、特に秀衡のときに源義経をかくまったことから、源頼朝に滅ぼされてしまいます。こうした歴史的背景を理解しているかどうかが、読解においても重要です。

3 授業実践のヒント

授業展開の例

1.門出

芭蕉の旅への思い
冒頭では、芭蕉が旅への思いを切々と綴っています。ここでのポイントは、芭蕉がどのような思いで旅に臨もうとしていたのか、その並々ならぬ決意を実感させることです。
現代における旅と芭蕉の旅との違い
旅といっても、現代の私たちにおける旅と芭蕉の旅では、その思いが全く異なります。その違いに焦点を当てながら、芭蕉の思いを読み取っていくと展開しやすいでしょう。

(例1)旅をする目的の違い
  現代→気分転換、趣味など
  芭蕉→どうしても俳諧を極めたいという思いを実現するため
  「そぞろ神の物につきて心を狂はせ、道祖神の招きにあひて、取るもの手につかず。」
 (例2)旅に対する心構えの違い
  現代→旅を楽しみにする
  芭蕉→家を人に譲り、死ぬことも覚悟する
  「古人も多く旅に死せるあり。」
  「住める方は人に譲り」

上記のような部分から、旅に対する芭蕉の覚悟を読み取りましょう。

2.平泉

歴史的知識からの導入
すでに解説した通り、この場面は奥州藤原氏3代の栄華と深いかかわりがあります。まずは、その歴史的背景の導入から入りましょう。可能であれば、社会科の先生をゲストティーチャーとして迎えるなど、教科横断的な学びができると効果的でしょう。
「無常観」の読み取り
無常観とは、すべてのものは変化し、常に同じであることはないという考え方のことです。この「平泉」の場面においても、特に自然と人間との対比において、その無常感が示されています。

(例1)「三代の栄耀一睡の中にして、大門の跡は一里こなたにあり。秀衡が跡は田野になりて、金鶏山のみ形を残す。」
  →秀衡が築いた館はすっかり田んぼや野原になってしまっているのに対し、金鶏山だけが形を残している風景を見て、奥州藤原氏の栄華が夢のように消えていったことを、より強調しています。
 (例2)「夏草や 兵どもが 夢の跡」
  →ここでは、功名を得ることを夢見て戦った源義経やその家臣の藤原兼房らに思いを馳せ、それらが歴史の中に夢のように消えてしまったことを句にしています。ここでも、今はその戦場に「夏草」が生い茂っているのみであることを表現することで、自然と人間を対比しています。
 (例3)「五月雨の 降り残してや 光堂」
  →風雨に晒されて朽ち果てていく運命だった光堂(金色堂)が、周囲の四面を囲い、風雨をよけるようにしたことで何とか残されている様を詠んでいます。ここにも長い年月が経過し奥州藤原氏の栄華が自然の力によって失われていく儚さと、何とか耐え忍んでその栄華を残している金色堂とが対比されています。

このような「無常観」を中心とした読解をしながら、それぞれの句の解釈にも触れていくのが良いでしょう。

4 参考資料(各項目からリンク先へ)

NHK for school / 10min.ボックス おくのほそ道(松尾芭蕉)

上記サイトでは、「おくのほそ道」の内容が10分間でわかりやすくまとめられています。

また、 参考教材もあります。

奥の細道『平泉』 わかりやすい現代語訳と解説(おくのほそ道)

走るメロス氏による解説です。特に「平泉」を読解するにあたっての歴史的知識や、現代語訳を知るのに役立ちます。

おくのほそ道|序文朗読|松尾芭蕉

【中学国語 】 おくのほそ道①《序文 その一》 中3 古文講座 無料版

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