新科目「古典探究」への提案~研究成果を授業に生かす~(神徳圭二先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、2020年2月14日(金)に開催された、奈良女子大学附属中等教育学校公開研究会内の新科目「古典探究」に関するワークショップを編集・記事化したものです。

定番教材の授業において、研究者の研究成果をいかに取り入れるかを提案された、神徳圭二先生(奈良女子大学附属中等教育学校教諭)の実践を紹介します。

同日に行われた「論理国語」に関する記事はコチラ

2 新科目について

新科目「古典探究」のポイントとしては、

  • 自分を取り巻く社会との関連を考える
  • 本格的なことに取り組む(文化比較、言葉の変遷、メディアミックス……)

の2点が挙げられると思います。すなわち、大学の研究者や、国文科の大学生が取り組むような内容の一部を、高校でも取り入れていこうということであると解釈しています。

私自身は国文学の研究者ではありませんが、様々な研究成果を高校の授業に落とし込むことで面白いものができるのではないかという課題意識は持っており、その一例が今回の授業です。

ポスター発表や新聞づくりといった活動も素晴らしいと思うのですが、本当の意味で国文学の問題となっているところを、生徒と一緒に考えることを試みました。

3 授業の概要

今回は、小学校~高等学校の幅広い学年で扱われる古典作品である『徒然草』のうち、暗唱や通り一遍の現代語訳にとどまりがちな「序段」を取り上げます。「序段」に登場するフレーズ

「硯に向かひて」「書(く)」

を取り上げている荒木浩氏の『徒然草への途 中世びとの心とことば』を展開の軸におき、『源氏物語』「手習」や米津玄師「Lemon」を引きながら、用例を元に考える授業を行いました。なお、この授業は奈良県内の他校の先生と協働して構想しました。

  • 対象学年:高校3年生
  • 対象生徒:有志(受験前の時期に実施されたため)
  • 授業回数:1回限りの読み切り授業
  • 事前・事後学習:なし

4 授業の流れ

①探究課題の発見

  • 『徒然草』「序段」についての自身の学習履歴を振り返る。
  • 徒然草の序段の注釈を比較し、「硯に向かひて」「書(く)」ことへの言及が少ないと知り、どうしたらこの問いに考えることができるか考える。

☆課題の特殊性や先行研究での扱いを知り、自らの課題として位置付ける。

②探究方法の探究

  • 米津玄師「Lemon」と高村光太郎「レモン哀歌」の共通点を探す。
  • 米津玄師のインタビュー記事を見て、その蓋然性を確認する。

☆先行研究を踏まえるということ、そう判断してよい蓋然性とは何かを理解する。

③探究の実際

  • 『源氏物語』「手習」を丁寧に読み、用例を基に「硯に向かひて」「書(く)」ことの意味を考える。
  • 上記を踏まえて、自分なりに「硯に向かひて」「書(く)」ことを考える。

☆先行研究を踏まえて解釈するという行為を実践する。

④蓋然性の確保

  • 『源氏物語』「葵」と『徒然草』「序段」の言辞の重なり合いを確認する。
  • 『徒然草』「序段」が『源氏物語』を踏まえていると判断するに足る蓋然性があることを知る。

☆探究方法の蓋然性を確保する姿勢を持つ。

⑤探究のその先へ

  • 兼好と『源氏物語』「手習」の浮舟にとっての「書くこと」の意味を知り、自らの「書くこと」についての考え方を更新しようと試みる。

☆探究を通して、自らの言語観・学問観などの「観」を拡張させる。

5 プロフィール

神徳 圭二(こうとく けいじ)先生

奈良女子大学附属中等教育学校国語科教諭。武庫川女子大学文学部非常勤講師(併任)。

(2020年2月20日現在のものです)

6 関連記事

「新科目「論理国語」への提案~3校をSNSでつないだ合同授業~(二田貴広先生)」 → コチラ

同日に行われた、新科目「論理国語」についての実践報告です。ぜひ併せてご覧ください。

7 参考資料

荒木浩『徒然草への途 中世びとの心とことば』(勉誠出版、2016)

8 編集後記

新学習指導要領では「探究」を冠した科目がいくつも創設されましたが、いずれの科目においても、まずは「探究」の方法を身につけることが必要だと思います。この実践は、研究者の研究成果を踏まえることによって、内容を深めるだけでなく「探究」の方法も自然に身につく一石二鳥のものだと感じました。皆さんの実践の参考にしていただければ幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 中澤、金田)

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