数学が好きになる!?国語とアートのような授業「数学ヒストリーツアー」(関西学院千里国際中等部・高等部 小川達也先生)

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目次

1 はじめに

この記事は、2020年2月18日に行われた、関西学院千里国際中等部・高等部の小川達也先生の授業を取材・記事化したものです。高校3年生を対象とした「数学ヒストリーツアー」というタイトルのこの授業は、一般的な数学の授業とは大きく異なる「国語とアートのような数学の時間」でした。一風変わった授業に込められた想いを小川先生に伺ってきましたので、ぜひ最後までご覧ください。

2 インタビュー

授業全体の流れについて

この「数学ヒストリーツアー」の授業のねらいを教えてください。

この授業は、
◯数学史をたどりながら数学の有用性や良さを感じ、
◯それを作品として表現してみんなにも体験してもらう
ということをねらいにしています。

今日は作品の制作をしていましたが、この授業は全体を通してどのような構成になっているのですか。

全体の流れとしては、前半と後半とで大きく分けていました。

前半の約1か月半は、アクティブ・ブック・ダイアローグ(以下ABD)という手法を用いて、みんなで数学史の教科書を読み進めました。かなり難しい本なので、深く読むのではなく、さっと表面をなぞるように一通り読む感じで進めました。
 
※使用した数学史の教科書はこちら

次に、中学・高校で習った公式や定理などのうち各生徒が気になるものを1つ決めて、「その公式が生まれた歴史的な背景」「どんな人物がその証明に関わったのか」「その定理は今どこで使われているのか」「どうすれば定理の良さをみんなに体感してもらえるか」などを調べ、一人ずつ発表してもらいました。

そして後半では、興味の近い人どうしで3人前後のグループを作らせて、各グループで1つのテーマを決めて「数学を体感できる」作品を制作してもらいました。今日の授業は、この作品制作の最終日です。

(参考)授業の様子

教室に入ると、自分のパソコンやタブレットを使ってレポートやポスターを作成している生徒もいれば、工作のようなことをしている生徒もいました。

このグループでは、段ボールを使って、車輪が「ルーローの三角形」になっている車を制作していました。

教室の中だけではなく、外に出てのこぎりで板を切っているグループや、

金づちを使用しているグループもありました。

他にも、
◯車輪が正方形の自転車が走れる道
◯必ずボールが穴に入る放物線の壁
◯折り紙で作る立体図形
など、それぞれのグループで様々な作品を作っていました。

完成した作品は学校の入口に展示し、みんなに触ってもらうそうです。

前半のプレゼンは個人作業だったのですね。

そうです。この授業のテーマとして「主体的・対話的で深い学び」を掲げているので、まずは「主体性」の面を育む意味で、一人で読んだり調べたりすることも重視していました。

ただ、「Google Jamboard」というアプリを使って、WEB上でみんなの考えを共有する場面もありました。このアプリでは簡単に意見を打ち込んでみんなと共有できるので、「みんなパソコンに向かっているけど画面上でしゃべっている」という状況になります。このようなツールを使いながら、みんなで考えを深めていきました。

生徒たちは、調べるテーマをすぐに決められたのですか。

うちの学校では生徒が自分のパソコンやタブレットなどの端末を持ってきて授業中も使用して良いことになっているので、すぐに「数学 面白い」と検索している子が多かったです。各自で調べているときは、中学・高校の範囲を超えた難しいものを見ていたり、ちょっと脱線してしまったりする子もいましたが、調べていることをみんなと共有する場面を作っていたので、全員が大脱線してしまうようなことはありませんでした

数学を「体感する」というところに着目したのはなぜですか。

1つは、やはり先生が何かを実演して見せたり動画を見せたりするのと、生徒が自分の手を動かして何かを作るのとでは、生徒の感じ方がまったく違うと思うからです。見るだけでも「へぇ~」とは思うかもしれませんが、自分が手を動かして体感したものでなければ、結局は「与えられているもの」「授業だけで登場する特別なもの」という印象になってしまいます。

もう1つは、私が実際にパナソニックセンターの「リスーピア」や、東京理科大学の「数学体験館」など、数学を体験できる施設に行って、「やっぱり体験すると違うなあ」と感じたのが大きかったからです。例えば、数学体験館では箱とトイレットペーパーの芯を使って、どうすればよりたくさんトイレットペーパーの芯を箱に入れられるか実験しました。材料を集めるだけで簡単にできる実験ですが、学びとして深いし忘れにくい体験になるなと感じました。そこで、数学の授業でもみんなで何か作ったらええやん、と思うようになりました。

授業の最後はどのようにまとめるのですか。

制作物の展示が終わった後は、振り返りのレポートに感想や良かったところ、反省点などを書いて出してもらいます。ただ、高3の卒業直前期だとこのレポートは成績に反映できないので、あんまり気にせずに楽しんでくれたらいいなと思っています。

個人的には、展示物をみんなに触ってもらったときの反応を見て生徒たちが何を感じるのか気になりますね。この学校で放課後に展示すると、幼稚園児から高校生まで、また幼稚園にお迎えに来ている保護者の方にも触ってもらえるので、そこは興味があります。

評価について

この授業はどのように評価しているのですか。

基本的には、先ほどお話ししたABDの振り返りを評価しています。ABDでは最初の1時間で教科書を読んで要約し、次の1時間で対話を深めたあと振り返りをする、という流れで行いました。この振り返りの時に、Googleフォームに「自分の要約」と「対話の時間にどんなことを深めたか」を記入してもらっているので、その内容を採点しています。

あとは、個人のプレゼンやグループのレポートを評価しています。グループのレポートは、グループの全員に共通の点数を入れています。

これらの点数の割合を決めて評価しています。テストはありません

レポートはどのような基準で評価しているのですか。

Googleでレポートのルーブリックを作っています。どのくらいのレベルで深められているかなど、「このくらい書けていればこの評価だよ」ということを生徒にも示して、それに沿って100点満点で採点しています。

制作物自体は評価しないのですか。

制作物はグループのレポートの一環だと考えています。生徒によって得意不得意はありますし、完璧な制作物を作ることが必要なわけではないので、制作物だけで評価することはありません

ツールについて

レポートは数式も含まれていると思うのですが、どのようなツールを使っているのですか。

GoogleドキュメントでLaTeXを使うことができるツールがあるので、こちらを利用しています。(参考: Auto-LaTeX Equations

これを使えば、必要に応じてネットでコマンドを調べて、それをコピー&ペーストすることで簡単にその部分だけ数式に変えることができます。文系の生徒が多くても、この方法ならレポートを作成することができるのです。

レポートの作成や提出を含め、基本的には何でもGoogleを使っています。

生徒との関わり方

今日の授業では、先生が生徒に何かを教えるような場面がほとんどありませんでしたね。

そうですね。数学の内容に関して質問されたときもできるだけ自分で考えてほしいので、答えは言わずにヒントを与えるようにしています。実はルーブリックも生徒に見せたくないと思っています。先にルーブリックを見てしまうと、どうしても自分の頭で考えずルーブリックに合わせて書くようになってしまうからです。

逆に、私が生徒に質問をすることが多いです。「ここはどう考えてるの?」「ここってどういう意味?」と聞いていく感じです。

「数学ヒストリーツアー」に込めたメッセージ

この授業のメインのテーマではありませんが、分かりやすい展示物を作るために試行錯誤している生徒たちを見て、伝える力も身につきそうな授業だと感じました。

そうですね。もともとうちの学校はプレゼンをする機会が多く、生徒たちも伝える力は持っています。ただ、数学でプレゼンをする授業はなかなかありません。

私は「数学は『問題を解く』授業だ」という固定観念を壊したいと思っています。かといって、数学の授業で本や雑談から知識を増やすのも違います。他の教科のプレゼンのように、自分の言葉で話して欲しいと思いながらこの授業をしているのです。

先生は数学の授業を通じて生徒にどのようなことを伝えたいですか。

一番大事にしているのは、「苦手でもいいから数学を好きになってほしい」ということです。

今は文明が発達しすぎて、いろんなところで数学が役立っていることが意識できなくなっています。理系の中でも理科の方が人気ですが、理科には実験できるという良さがある一方、数学には、目に見えない「n次元」について考えられるなど机の上でしかできない良さがあります。

一度数学を嫌いになってしまったら、どうしても数学のことをすべてシャットアウトしてしまいます。生徒には、せめて数学が「好き」「嫌いじゃない」くらいになってほしいなと思っています。

確かに、この授業なら数学が嫌な印象で終わらないなと思いました。今日はありがとうございました 。

3 小川達也先生のプロフィール

関西学院千里国際中等部・高等部教諭(数学科・生徒会顧問)。中学生と高校生の数学を担当しつつ、高校3年生の進学先決定者向けの授業を2つ担当し、新しい探究科目の理数探究基礎を担当している。令和元年度日本私学教育研究所委託研究員。Apple teacher。
noteはこちら

4 編集後記

数学史をたどったり、手を動かして数学を体感したりすることで、普段の数学の授業とはまた違った視点で数学を見ることができそうだと感じました。小川先生の「苦手でもいいから数学を好きになってほしい」という素敵な想いと、それが授業に反映されていて生徒たちが楽しそうにしていることがとても印象的でした。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽、中澤歩)

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