企業×NPO法人×学校のキャリア教育―授業「ゲーム会社で働く人たち」と「ゲーム制作と数学の意外な関係」―

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目次

1 本授業のねらい

今回取材させて頂いた横浜市立神奈川中学校は、子どもたちに仕事や社会のことを知ってもらうため、1年生を対象とした「職業体験」という取り組みを行なっており、本授業はその一環として行なわれました。「職業体験」では、複数の事業所に出前授業を依頼し、生徒は事前に希望した授業に参加します。
 そのような「職業体験」の趣旨も踏まえ、本授業では、①ゲーム会社の仕事と言っても様々であること②学校での勉強や生活が将来役に立つことを伝えることをねらいとしていました。

2 授業概要

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)では、教育貢献活動の一環として、NPO法人企業教育研究会と共同で出前授業に取り組んでおり、パッケージ化された授業をもとに、学校の要望に合わせて微調整しながら、年間約20校の小中学校で授業をしています。SIEの社員が、NPOのスタッフとともに学校に赴き、授業を行います。

【1コマ目】「ゲーム会社で働く人たち」

ゲームソフトの企画・制作・販売までに様々な役割を持った人が携わっていることを紹介します。

【2コマ目】「ゲーム制作と数学の意外な関係」

普段勉強している数学がゲームソフトのプログラミングに活かされていることを体験しながら、比例・反比例・1次関数について学びます。

3 授業の流れ・様子①「ゲーム会社で働く人たち」

○SIEの紹介

SIEは、「プレイステーション」に関するハードウェア、ソフトウェア、 コンテンツ、ネットワークサービスの企画、開発、販売を行う会社である事を紹介していました。

○『みんなのGOLF6』を例に、ゲーム制作に関わるお仕事の紹介

『みんなのGOLF6』をやってみよう

 まず、『みんなのGOLF6』がどんなゲームかを知るために、実際に一人の生徒が体験プレイしながら、SIEの社員の方が映像や音響など、臨場感を出す工夫について紹介していました。

ゲームに関わる仕事

 ゲーム会社と言っても、ゲームソフトを作るだけでなく、ゲーム機を作ること、会社・商品の管理も大事な仕事であり、様々な役割を持った人たちによってゲームが皆の手に届けられていることを伝えていました。

○【ワーク】仕事当てクイズ

『みんなのGOLF6』の制作に携わった5人の方々からのビデオメッセージを観て、何の仕事をしているのか、子どもたちに考えてもらいました。
 解答・解説の時には、それぞれの仕事の具体的な内容や大事なことだけでなく、子どもの頃に学んだことがどう活かされているかも伝えている点が印象的でした。

4 授業の流れ・様子②「ゲーム制作と数学の意外な関係」

○本時で扱う『フリフリ! サルゲッチュ』の説明

『みんなのGOLF6』同様、一人の生徒が体験プレイしている間、SIEの社員の方がゲームの概要や細かい工夫について説明していました。

○プログラミングとは

ゲームを作る時は、どのようなゲームにするかのアイディア出しから始まり、キャラクターの動き、映像や音響などの詳細を決めます。そこで決定したものを画面に映し出し、ゲームとして動くようコンピュータに指示することをプログラミングと言います。プログラミングには、数学が大いに活用されています。

○実際にプログラミングを体験

大画面のテレビで、一次関数を使った簡単なプログラミングを共有した後、プリントを使って体験しました。プリントには、x軸y軸とマス目が書かれており、マス目上にあるバナナを最も多く取る事ができる一次関数の式を考える、というワークです(「団体紹介」に掲載したURLから指導案やプリントをご覧になれます)。答え合わせの際には、実際にコンピュータに式を打ち込み、テレビ画面上でピポサル(ゲームに登場するキャラクター)を動かして確認していました。
 また、随時プログラマーの方のビデオメッセージを使用して説明しており、子どもたちも真剣に取り組んでいました。

○さいごに

SIEの社員の方が、最後にこの2コマの授業を通して伝えたいことをまとめていました。
1. 今勉強していることが社会でどう活かされているか知ることの大切さ
2. 今は嫌だと思っていることでも将来役に立つこと
3. 何か一つでも自分のアピールポイントを持つこと

5 子どもたちの意識の変化

次期学習指導要領では、キャリア教育の役割として教科等を学ぶ意義を伝えることが期待されています。その具体的な方法として、今学んでいることと職業との関連を示すことが挙げられており、今回の授業はその実践の一つと言えます。この授業を通して子どもたちの数学への関心は高まったのか、将来についても何か考えたのか、実際に子どもたちに聞いてみました。

【生徒A】

もともと数学は好きだったが、より楽しみになった。式の書き方もわかるようになった。ゲームや数学も好きだが、話すことが特に好きなので、営業の仕事が面白そうだな、と思った。

【生徒B】

数学は嫌いだけど、ゲームが好き。この授業で、少しだけ数学を頑張ってみようと思った。絵を描くのが好きなので、絵に関わる仕事に興味がある。

他にも、「数学が社会でどう役に立っているかを知ることができてやる気が出た」「普段の学習では正解を出す楽しさが、今日の授業では数学を使って何かをする楽しさがあった」という声などがありました。

6 授業担当者の想い

今回、SIEの社員の方とNPOのスタッフの方2名で授業を進められていました。学校とは直接つながりがあまりない民間企業の方が、どのような想いで授業に取り組まれているのかをお伺いしました。

○今回の工夫点・変更点は?

1コマ目では仕事の中身を伝え、2コマ目ではプログラミングや数学など専門的なことを伝えるというように、扱う内容を分けたり、子どもたちが質問する時間を設けたりしました。

○子どもたちにわかりやすく伝えるために努力されていることはありますか?

人前での話し方を学べる本を読んだり、前任者のやり方を踏襲したりしました。また、学校の先生方から学ぶことも多いです。最近は、ある学校の先生のアドバイスを受けて、伝えたいことがたくさんあっても言葉の量を抑えるように意識するようになりました。

○今回は数学に特化した内容でしたが、この授業で最も伝えたいことは何ですか?

数学に興味を持ってほしいというのもあるのですが、今やっていることに無駄なことはなく、すべて将来の役に立つということを一番伝えたいです。

○このような活動は目に見える成果がでにくいと思うのですが、企業としてどのようなメリットがあるとお考えですか?

まったくその通りで、この活動は直接利益に繋がるものではありません。企業は利潤目的の団体ですが、子どもたちの教育をお手伝いすることで、地域・社会に還元できることがあるのではないかと考えています。会社でも意義ある活動として認識されています。

7 団体紹介

NPO法人企業教育研究会

NPO法人企業教育研究会は、千葉大学教育学部、静岡大学教育学部を基盤として活動する「企業と連携した授業づくり」を専門とする教育NPOです。授業コンテンツの開発、実施校募集、授業実施まで、企業と連携して行っています。
ホームページはこちらhttp://ace-npo.org/index.shtml
ご紹介した授業の指導案はこちらhttp://ace-npo.org/wp/archives/project/sie

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)

SIEでは、社会貢献活動(CSR)の一環として、2006年からNPO法人企業教育研究会と共同で授業の開発・実施を行っています。今回紹介したものの他にも、「ゲームとのつきあい方を考えよう」などがあります。

8 編集後記

生活に根差した算数から学問的な内容へと変わり、学ぶ意義を見出しにくい数学ですが、今回の授業のように身近なゲームに活かされていると知って、少しずつ意欲が出てくる子どもたちの様子を窺い知ることができました。しかし、数学とゲームの関係はひとつの例であり、授業での学びや普段の生活が将来仕事に活かされることをはっきり伝えていたところが、この授業の特に良い点だったと思います。

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