はじめに
国語3年「サーカスのライオン」(川村 たかし)の授業案です。
案1は、場面ごとに読み、最後にじんざの変化を捉えます。一斉での「発問+交流」型です。
案2は、「文章全体を個人で読み、感想を書いて、交流する」ことを数時間続ける流れです。これは、「一斉授業ではなく、子どもが個々に自分で読み、友だちと交流していく学習でも、結果として主人公の変化を読む力がつくのでは?」という考えから思いついた展開です。
目次
1.案1 場面ごとに読む
2.案2 毎時 全部読み+感想の交流
3.指導アイディア—語句、ダウト読み
1 案1 場面ごとに読む
単元全体の流れ
毎時、場面ごとに読む授業案です。単元始めに、クラスに合った学習課題を立てることで、主体的に読んでいけると思います。(じんざの変身物語、など)
・場面を分け物語の大まかな流れをとらえる。
・初読の感想を書く
・場面を読み、じんざの心情や変化を読み取る。(時間によって、2つの場面を1時間で扱うこともある)
1.おいぼれてしまったじんざ
2.男の子と出会い、変わっていくじんざ
3.毎日やってくる男の子に、5つ火の輪くぐりを見せようと意気込む
4.自分の命を懸けて、火事から男の子を助ける
5.最後のサーカスの日
・物語全体から、じんざの変化を読み取る。
・まとめ(感想文、紹介文、次の読書活動へ)
1時間の学習の流れと時間配分の目安
授業の流れを決めることで児童も安心して授業に臨めます。
10分:音読、漢字、語句
8分:感想や考えを書く
10分:交流(話し合いの途中に、短い時間でも書く時間をとることもある)
8分:まとめの書く(感想、吹き出し、手紙、セリフの付け足し、場面のあらすじなど)
3分:発表
初読の感想例
絵がとてもよく、キャラクターを好きになれた
なんでじんざはサーカスが楽しくなくなったのかな?
じんざが男の子に勇気をもらった物語
男の子もじんざに勇気をもらったかもしれない
サーカスが楽しかったときの自分を思い出せた
男の子が助かってよかったけど、じんざも生きてほしかった
サーカスでみんなを楽しませたい
得意なことで、人のために何かしたい
せっかくじんざはやる気を出したのに、サーカスに出られなくて悲しい
男の子はガッカリしたと思う。でも助けてもらったから感謝もしてる
もし男の子を助けられなかったら、じんざは男の子の分も一生懸命サーカスしたと思う
場面ごとの発問と板書例
*考えを書くときは、なるべく根拠となる本文を書き出すようにする。
1.おいぼれてしまったじんざ
じんざはどんなライオンだろう?
2.男の子と出会い、変わっていくじんざ
男の子と出会って、じんざはどんな気持ちになりましたか?
3.毎日やってくる男の子に、5つ火の輪くぐりを見せようと意気込む
年老いたじんざは、なぜ火の輪を5つくぐろうと思ったのでしょうか?
4.自分の命を懸けて、火事から男の子を助ける
じんざのどのような思いが伝わってきますか?
じんざは、なぜ男の子を、助けたのかな?
5.最後のサーカスの日
じんざのいないサーカスを見た男の子になったつもりで、その日の日記を書いてみよう。
じんざの変化(場面読みの次時)
・おいぼれて疲れていたけど、男の子に優しい言葉やチョコを分けてもらい、自分も男の子に楽しんでもらえるよう、一生懸命サーカスをしよう。
・当たり前のように繰り返していたサーカスが、こんなに人に喜んでもらえたなんてビックリ。一生懸命やるぞ!
・毎日退屈だったけど、男の子のおかげで、昔の生き生きと走っていた喜びを思い出した。最後にサーカスを見せられないのは残念だけど、男の子のために自分の全力を出せてよかった。ずっと忘れないよ。
物語の全体像
ノート見開き1ページに物語全体をまとめたものです。単元の冒頭に活動を伝え、毎時間ごとに追記していったり、単元の後半に時間をとって作るのもよいでしょう。
もちろん、初めはまとめるのが難しかったり、はみ出てしまったりすると思いますが、みんなで書いたものを共有するうちに、自分なりの解釈ノートができてくると思います。
毎時間のワークシートは使いやすいですが、枚数がかさばり、物語の全体から考えるには適していません。場面ごとの模造紙も教室が圧迫されます。1枚だとスッキリするのではと思いつきました。
ダウンロード:「サーカスのライオン」物語全体1p.docx
2 案2 毎時 全部読み+感想の交流(最後に言語活動を設定)
毎時間、文章全体を読み、感想や疑問を書いて交流します。語句の意味は自分で調べたり、友だちに聞いたりします。
先生の役割は、書くことに不安がある子どもを励ましたり、子どもと交流を楽しんだりすることでしょうか。はじめにうちは、交流の中から「人物の様子」「会話文」「描写」「人物の変化」など、読む視点を取り出して紹介するのもよいかもしれません。
単元全体の流れ
・全部読み+感想の交流(2-3時間)
・単元まとめ:感想文、POP作り・紹介文、関連読書など(1-2時間)
1時間の学習の流れと時間の目安
5分:学習の流れ説明(第1時のみ)
*5分:前時の自分の読みを振り返る(第2時から)
8分:個人読み、感想を書く
8分:感想を交流する
5分:個人読み、感想の追加
5分:感想を交流する
5分:学習の振り返り
感想例
1時間目
じんざと男の子
・じんざは、自分を楽しみにしてくれている男の子がいたのが嬉しくて、自分も誰かのために頑張ろうと思った。
・じんざは、男の子にしてもらったことが嬉しくて、自分も恩返ししようと思って、火の輪を5つくぐろうと意気込んだ。
・男の子を助けたのはよかったけど、じんざはきっと怖かったと思う。
最後の場面
・最後のサーカスで、みんなに拍手してもらって、じんざはいないけど、みんなに楽しんでもらえてよかった。みんな、これから火を見たら、じんざのことを思い出すと思う。
2時間目:
じんざの変化
・はじめは昔の夢を見てたけど、それよりも男の子の話が待ち遠しくて、ねむらなくなった。昔よりも今を楽しんでいる。
おじさん(じんざ以外の人物が気になった)
・じんざと男の子が会ったのは、おじさんが変装させてくれたから、おじさんのおかげでこの物語ができた。
・おじさんは、最後のサーカスでじんざがいないけど、むちを鳴らした。今までありがとう、っていう思いでたたいたと思う。
男の子の気持ち
・ありがとう
・寂しい
・ずっと忘れない
・サーカスのおじさんの弟子になる
・動物を大事にする
・人を楽しませる
3時間目
表現とじんざの変化
・初めは目が白くにごっていた。でも、今はぴかぴかになってるから、おいぼれたじんざが、生きる力を取り戻したことを表しているみたい。
(本文「ぴかぴかにかがやくじんざだった。もう、さっきまでのすすけた色ではなかった。」から)
じんざと男の子
・じんざが火事から男の子を助けて、自分の得意なことを人のために活かせてよかったと思う。
・じんざが楽しい思い出を夢見てたように、男の子もじんざの夢を見て、じんざの姿や話した思い出を忘れない。
そのほか
・アフリカの草原にいたじんざは、なんでサーカスのライオンになったんだろう?
(「おじさんの夢」)
支援例
「感想って何かわからない」子には、黒板に「よかった」「かなしかった」「うれしかった」「こわかった」など、感想を表す言葉を示し、選んでもらう。そこから「何が?」「どの文でそう思った?」など聞きながら、「~が~だった。」と文になるようサポートする。
ノートに書くのが難しい子は、やり取りで話してくれた文を先生が代わりに書く。次は半分ずつ書いたりして、徐々に自分で書けるよう進める。教科書に一言書き込むだけでもよい。とはいえ、まずは自分で感想を言えたことが◎
正解を書くことに慣れている子には、先生が次のような自由な感想を例示して、はじめはどんどん量を書くよう声かけする。
・「じんざがチョコが苦手なのは、人間の食べ物だから食べ慣れていないからと思う。先生も好きじゃないのもらったときに「やったぁ!(^^)」って言うことたまにある(笑)」
・「サーカスは見たことあるけど、ライオンの火の輪くぐりはなかった。じんざが火の輪じゃないのするなら、何がいいかな?逆に「こんなじんざは嫌だ」みたいなのも思い付くかもね。」
量を書くのは、箇条書きでたくさん挙げる場合と、「自分だったら」「もし~だったら」など1つの感想を膨らませる場合がある。
3 指導アイディア
1 語句指導
毎時間の音読の後などに実施する。1問数十秒でテンポよく次の問題を出し、問題番号と答えをノートに書かせる。
ほかにも、「どんな夢を見た?」「誰が話した?」など、基本的な内容の確認問題もこの形式でできる。
問題例
①ぞくぞくとやってきた →多い?少ない?
C:①多い
②風のように走っていた →「~のように」を使って文を書こう。
C:②雷のようにこわい先生。
③のそりと立ち上がる →他の言葉で言うと?
C:③ゆっくり、のろのろ
④うまいものだ →漢字二文字で表すと?
C:④上手
⑤おまえの目も白くにごってしまったよ →やる気がある?ない?
C:⑤ない
2 ダウト読み
本文の音読中に、先生がわざと本文を間違えて読み、本文の表現に着目させる。間違った箇所を聞いたら児童に「ダウト!」と言わせ、原文とのちがいを簡単にやり取りする。間違いを大声で指摘される先生は多少つらいが、楽しい雰囲気で行いたい。
ダウト文の例 *( )内はやり取り例
- のそりと立ち上がる
→サッと立ち上がる。(やる気満々!返事だけ「はい!」って元気がいい人みたい。)
立ち上がらない。(さすがにさぼらない。代わりのライオンがいたら本当は休みたいかも。)
- じんざは、ぐぐっとむねのあたりがあつくなった。
→お腹がいたくなった
むねのあたりに火が付いてあつくなった。
- じんざは、もうねむらないでまっていた。
→眠っても嫌いなチョコを思い出してねむれなかった。
男の子に急に何をされるか分からないので、眠らないで待っていた。
- 男の子は息をはずませてとんできた。
→男の子は羽をはばたかせ飛んできた。
- おじさんは一人で、チタッとむちを鳴らした。
→おじさんは一人で、チタッとむちを鳴らした。しかし、じんざが来ないので、何度もむちを鳴らした。
- おきゃくは一生懸命に手をたたいた。
→おきゃくは、むちを鳴らしてもライオンが来ないので、手をたたいて笑った。
おきゃくは、むちを鳴らすおじさんを、手でたたいた。
4 おわりに
大人になって小説を読むときは、誰かに発問をされなくても、読み返すたびに新しい疑問や感想が生まれます。
授業案2は、そのような実際の読書経験に近い発想ですが、あまり見聞きしたことがない実践なので、今後も改善を考えていきたいです。いろいろな実践が生まれたらいいなと思います。
5 関連
「Lion Running!!」by wrecker8888,24 May 2011
ライオンが走る姿です。他の動物を食べるシーンは出てきません。
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