
1 はじめに 「友情、信頼」の授業のポイント・注意点
本教材「こころはっぱ」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目B「友情、信頼」に該当する教材です。
児童にとって最も重要な人間関係は友達関係です。
友達関係が良好か否かによって、学校生活の充実ぶりが変わってきます。
信頼できる友達がいるから安心して学校に通う児童も多くいます。
児童がよりよい友達関係を築いていくために、「友情、信頼」の授業では3つの視点が重要です。
- 互いに認め合うこと
- 互いに理解し合うこと
- 協力したり、助け合ったりして信頼感や友情を育むこと
特に、互いを認め合うこと・理解し合うことは、「友情、信頼」の授業に限らず、道徳の授業全体で大切な視点です。
道徳の授業では、児童は多様な価値観に触れます。
つまり、「他者理解」を児童ができるかが道徳授業の質を変えていくのです。
友達の多様な価値観を認め合い、理解し合うよさを実感できる授業を意識したいですね。
友達の価値観は自己の考えを深めるヒントにもなります。
「Aさんの考えは、自分の考えにはなかった」
「Bさんの意見を聞いて、新しい考えが浮かんだ」
お互いの価値観を理解し合い、お互いの考えを深め合うクラスは、ただの仲良しのクラスではなく、友情と信頼で強く結びついたクラスになります。
また1年生の時期は、まだ自己中心的な側面が見られる児童が多いです。友達の感情を理解したり、自分の考えを適切に表現する力もまだ乏しい段階です。
そんな1年生の特徴も踏まえて「こころはっぱ」の授業を構想していきましょう。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名 「ともだちって いいな」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「19 こころはっぱ」
- 内容項目 B-(9)友情、信頼
あらすじ
物語の主人公は、友達がいなくて寂しい思いをしているいのししくん。いのししくんは、いつも一人ぼっちで「友だちがほしいなあ」と思っています。そんないのししくんの様子を、木の上から見ていたうさぎちゃん、たぬきくん、きつねくんの3匹の動物たちは、いのししくんに「ともだちになって」「いっしょにあそぼう」と声をかけます。
いのししくんは、3匹の動物たちと関わることで、新しい友達ができる喜びを感じます。
物語の中で、イノシシくんの心の変化は「こころはっぱ」という木の葉の色の変化として表現されます。
ねらい
友達と進んで関わり、仲良くしようとする心情を育てる。
3 授業の工夫
自分や他人の感情を理解し、適切に表現する能力を育成する
1年生は
- 自分や他人の感情を理解する力
- 自分や他人の感情を言語化する力
がまだ弱く、育てていく必要があります。
教材「こころはっぱ」の登場人物の感情を通じて、自分や他人の感情を理解し、適切に表現する力を育んでいきましょう。
「こころはっぱ」では以下のような活動が考えられます。
① 物語の中でイノシシくんの感情を色で表現する
教材「こころはっぱ」の中では、いのししくんの感情が葉っぱの色で表現されています。
例えば、悲しいときや寂しいときには葉っぱの色が暗くなり、楽しいときやうれしいときには明るい色に変わります。
そこで、次のような発問をします。
T「いのししくんが『ああ、ともだち、ほしいなあ。どうしたら……、ぼく……、ともだち、できるかなあ……。』と言った時、こころはっぱの色が変わりました。何に色に変わったんだろう?」
T「『いっしょにあそぼう、いのししくん。』と言われた時、こころはっぱの色は何色になったんだろう?」
色は視覚的に表現できるよさがあります。
いのししくんの感情を理解し、表現する方法として実践してみてください。
② 感情を言語化する
友達になろうと言われたいのししくん。こころはっぱの色は明るい色へと変化する意見が多数を占めると思います。
そこで、「なぜこの色にしたの?」と補助発問。
C「私が赤にしたのは、友達ができて心が温かくなったからです」
C「友達ができてうれしくて、ハッピーな気持ちだから黄色にしました」
理由を問うことで、児童はいのししくんの感情を言語化していきます。他者の感情を適切に表現する一歩になります。
③ 擬人化で感情を表現する
物語の登場人物の感情を擬人化して表現する活動です。
例えば、児童が役割演技を通じて、仲良く遊ぶ動物たちの感情や、それを見守る「こころはっぱの木」の感情を表現する活動が考えられます。
ペープサートを活用して擬人化する方法もあります。
このように、「こころのはっぱ」は、感情を視覚的に表現し、それを言語化し、役割演技を通じて体験することで、児童の感情理解と表現能力を育成できる教材です。
そして、感情理解や表現能力は、友達関係を形成する基盤にもなります。
いのししくんの感情を通じて、児童が自分や他人の感情を理解し、適切に表現することを学ばせていきましょう。
他者理解を促し、「友情、信頼」を深く考える
互いを認め合うこと・理解し合うことは、「友情、信頼」の授業に限らず、道徳の授業全体で大切な視点であることを記事の冒頭で述べました。
他者理解を促す発問例を、登場人物の理解とクラスの友達の理解に分けて紹介します。
「こころはっぱ」の登場人物の理解
「木の下にいるいのししくんはどんな気持ちだろう?」
「いのししくんの不安な気持ち、わかるかな?」
「なぜいのししくんは不安な気持ちなのだろう?」
「3匹の動物たちは、不安な様子のいのししくんを見てどんな気持ちだろう?」
「3匹の動物たちは、なぜ『いっしょにあそぼう』と声をかけたのだろう?」
道徳の授業では、児童の興味関心やこれまでの体験によって、意見に差が出てきます。
例えば、引っ越ししたばかりのいのししくんの不安な感情は、引っ越しや転校を体験した児童にとっては理解しやすい感情になります。
逆に、引っ越しや転校をした友達を受け入れる側の体験もあります。教材の出来事を児童の興味関心や体験と結びつけていくと、活発な話し合いになります。
クラスの友達の理解
「Aさんの考えはどうですか?」
「Aさんの考えの大切なところは何だろう?」
「どうしてBさんは〇〇だと考えたのだろう?」
児童の数だけ考え(意見)があります。
似たような考えだけれども理由が異なったり、全く真逆の考えだったりと道徳の授業では多様な考えが発せられます。
上記のような発問で、友達の考えに興味関心をもたせ、共感的に受け止めていく工夫をしていきましょう。
児童に共感力が備わってくると、「どんな考えも受け止めてくれる」「たとえ間違った考えでも、修正してくれる」という気持ちが芽生えるので、積極的に考えを言い合う関係ができ、話し合いが活発になります。
そして、「Aさんは〇〇に注目していたんだな」「Bさんの考えは、自分の考えにはなかったな」と、他者理解をしながら、自己の考えを深められるようにもなります。
「友情、信頼」という道徳的価値は、その価値自体を話し合うことも大切ですが、登場人物の感情や友達の考えを認め、他者理解をしていく態度を育てることも大切です。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。
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