1 はじめに 「善悪の判断、自律、自由と責任」の授業のポイント・注意点
本教材「ダメ」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目A「善悪の判断、自律、自由と責任」に該当する教材です。
「善悪の判断、自律、自由と責任」の内容項目は、価値観の多様な社会を主体的に生きるための基礎を培うために重要です。
学習指導指導要領では、以下のように発達段階に応じた目標が示されています。
- 低学年(1-2年生):よいことと悪いことの区別をし、よいと思うことを進んで行うこと。
- 中学年(3-4年生):正しいと判断したことは自信を持って行うこと。
- 高学年(5-6年生):自由を大切にし、自律的に判断し、責任のある行動をすること。
それぞれの発達段階で目指す児童の姿が大きく異なる点に注意です。
ぜひ「善悪の判断、自律、自由と責任」の授業を実践する際は、ご自身が担任する学年の目標を確認しましょう。
学習指導要領に掲載されている「善悪の判断、自律、自由と責任」の概要をまとめると以下の5点がポイントになります。
- 物事の善悪を的確に判断し、自ら正しいと信じることに従って主体的に行動する能力を養う
- 自由を大切にしつつ、それに伴う自律性や責任を自覚することの重要性に気づかせる
- 単に善悪の区別をするだけでなく、より積極的で健康的な自己像を描くことができるようにする
- 自信や自律的な態度は、過信や自分勝手ではなく、正しい判断力を伴ったものでなければいけない
- 人に左右されることなく、自ら正しいと信じるところに従って、誠実かつ謙虚に行動することの重要性に気づかせる
「善悪の判断、自律、自由と責任」の授業では、児童に考えさせたい、気づかせたいことが多くあります。
そのため、授業のねらいを絞って、明確にすることが重要です。
1年生は自己中心性が多少あり、他人の気持ちを理解したり、共感したりすることが難しい場合があります。また、自分の感情をうまく言葉で表現できず、行動で表現してしまうことも多いです。
そのような、1年生の実態を踏まえつつ、「善悪を判断する力」と「正しいことを実行する力」の育成にねらいを定めて授業を実践していきましょう。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名 「ゆうきを だして」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「18 ダメ」
- 内容項目 A-(1)善悪の判断、自律、自由と責任
あらすじ
物語の主人公はりすくん。彼は大好きなプリンをくまくんに食べられてしまいます。りすくんは「ダメ」と言いたかったのですが、くまくんは体も声も大きく、怖くて言えませんでした。この経験を通して、りすくんは正しいと思ったことを勇気を持って伝える大切さに気づいていきます。
ねらい
正しいと思ったことは、恐れないで、勇気を持って行おうとする態度を養う。
3 授業の工夫
教材「ダメ」はいじめに関する道徳教材です。
いじめに関する教材は、教師の本気度、緻密な授業展開が問われる教材です。
「いじめは絶対にダメ」といったお題目通りの授業ではいけません。1年生が「正しいことをやろう」とする道徳的判断力、「いけないことはストップをかけよう」という道徳的実践意欲を高める工夫が重要です。
いじめに関する授業は自分事として考えさせる
いじめに関する授業は、児童が自分事として教材に向き合って考えられるかが肝になります。
また、1年生は想像力がまだ乏しいため、主人公りすくんの気持ちや思いを自分に重ねながら考えさせる必要があります。
児童が主人公りすくんの気持ちや思いを重ねながら、自分事として考えられる発問をいくつか用意しましょう。
<児童が自分事として考える発問例>
「りすくんと似たような経験はないですか?」
「りすくんはどんな気持ちだろう?」
「りすくんは夜、どんなことを考えたでしょう?」
「自分がりすくんだったら、どうするかな?」
「自分がりすくんだったら、りすくんと同じこと(ダメと言えた)ができたかな?」
「りすくんのようにダメと言えるかな?」
これらの発問を児童の実態と授業展開に合わせて組み合わせましょう。
児童の人間理解を促して深い授業へ
「りすくんはなぜダメと言えなかったのでしょうか?」
児童は「くまさんが怖かったから」「大声をだされるのが怖かったから」と答えるでしょう。
私たち大人にも同じような場面がありますよね?
「反抗されるのが怖いな」
「面倒なことに巻き込まれたくないな」
こうした「人間の弱さ」を理解するのも道徳の授業で重要です。
特にいじめに関する授業なら、なおさら重要です。
「いじめを止めたらやり返されるかも」
「いじめを先生に告げたら、今度は自分がいじめのターゲットにされるかも」
「正しいことをするより、悪い方に流された方が楽だ」
そんな人間の弱さを共感的に認めながらも、弱さに打ち克ち、よいこと・正しいことを判断して実行できるようにしたいですね。
以下は教材「ダメ」で人間理解を促す発問例です。
「どうしてりすくんはダメと言えなかったのだろう?」
「みんなもりすくんのようにダメと言えないんじゃないかな? それは何でだと思う?」
「くまくんが怖いからといって、『ダメ』と言わないのはよいことなの?」
「くまくんが怖くても、本当にダメと言える?」
「自分は『ダメ!』と言える」という気持ちと、「本当は怖い……」という気持ちを行ったり来たりしながら(ゆさぶりながら)、ねらいに迫るとよいです。
児童がいじめをしない・いじめを止める勇気を深く、深く考えていけるように、人間理解の視点も大切にしましょう。
考えさせたい道徳的価値(授業のねらい)から外れないように注意
「ダメ」という教材を読んだ時、様々な道徳的価値が内在していると思いました。
「ダメ」は、友情、正義についても考えられる教材でもあると感じたのです。
ややもすると児童はそちらの道徳的価値に注目する可能性があります。
しかし、「ダメ」の授業で児童に考えさせたいのは、児童が身近な問題を通して善悪の判断力を養い、正しいことを行う勇気を持つことの大切さです。
ねらいから外れる発問をしないように注意が必要です。
例えば、「りすくんとくまくんが仲良くなるにはどうしたらよいですか?」という発問では、「優しくする」「自分勝手をしない」という児童の反応が予想されます。
「正しいことを行う勇気」について考えることができていません。
また、「くまくんはどうすべきだったのだろう?」という発問も、授業のねらいから外れる発問です。
「プリンを食べなければよかった」「りすくんに聞いてから食べるべきだった」という反応になり、授業のねらいに迫っていきません。
本記事で紹介した発問例を参考に、「正しいことを行う勇気」というねらいに向かった授業を実践していきましょう。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。
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