はじめに
電気は日常生活には欠かせないものであり、中学校3年生まで全ての学年で学習する内容である。中学校では測定や計算が中心となるが、小学校のうちは明かりをつけたりモーターなどを動かしたりするものとして電気を捉えさせていく。
初めて「電気」を学ぶ小学校3年生は、抽象的な物を扱うと難しく感じてしまう。見えないけれども確かに働いている電気に親しめるよう工夫しながら、学習を進めていきたい。
本単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、乾電池と豆電球などのつなぎ方と乾電池につないだ物の様子に着目して、電気を通すかどうか比較しながら調べる。活動を通して、次の事項が身につくようにする。
- 次のことを理解するとともに、観察、実験などに関する技能を身に付けること。
- 電気を通すつなぎ方と通さないつなぎ方があること。
- 電気を通す物と通さない物があること。
- 乾電池と豆電球などのつなぎ方と乾電池につないだ物の様子について追究し、差異点や共通点を基に問題を見いだして表現すること。
単元の評価基準
知識・技能
- 電気を通すつなぎ方と通さないつなぎ方があることを理解している。
- 電気を通す物と通さない物があることを理解している。
- 観察、実験などに関する技能を身に付けている。
思考・判断・表現
- 乾電池と豆電球などのつなぎ方と乾電池につないだ物の様子について追究し、差異点や共通点を基に問題を見いだし、表現している。
主体的に学習に取り組む態度
- 電気の回路についての事物・現象に進んで関わり、他者と関わりながら問題解決しようとしているとともに、学んだことを学習や生活に生かそうとしている。
本単元の難しさ
- 授業で出てくる言葉の使い分け
日常生活の中で「電気」は照明を指すことが多い。ここでは照明を「明かり」、明かりをつけるものを「電気」と区別する。4年生になると電気の流れを「電流」と表すが、ここでは「見えない電気が導線の中を流れている」と触れるだけでよい。授業の中で、教師が積極的にこれらの言葉を使い分けることはもちろん、「明かりがついた」「電気を通した」といった言葉を児童が使いこなせるように助言をしていきたい。
「+極」「-極」も磁石の「N極」「S極」と混同しやすい。声に出して言わせたり図に言葉を書き込ませたりして、使いこなせるようにしたい。
- 「金属」の捉え方
「金属」は、児童にとって捉えにくい言葉である。金属の中にも金・銀・銅・鉄などの仲間があるが、「金属」も同じように捉えてしまう児童がいるので、「まとめてよぶことば」(1年国語)と関連して指導したい。前後の時期に磁石についての学習があるが、磁石が引きつけるのは鉄だけである。これも児童が混乱しやすいので、辞書も使って整理しながらまとめるとよい。
- 見えない「電気」を学習する
導線の中を流れる電気の本来の姿は、児童のイメージとはかなり異なるものである。今の段階で理解させる必要はないが、導線の中を流れているイメージで授業を進めていくとよい。明かりがつくときには、乾電池と豆電球が導線によって「輪」のようにつながって「回路」になっている。電池の+極から指で導線をたどり、輪になって回路ができている様子を観察させたい。
単元開始までの準備
- 豆電球と電池の選び方
新品のソケット付き豆電球(1.5V用)と乾電池(単一形のマンガン乾電池)を一人ずつ用意する。教材用のキットを購入してもよい。最近では、豆電球型LEDのセットもあるが、LEDを使う必要はない。家庭用の照明が白熱電球からLEDに置き換わりつつある今、豆電球に触れさせることにも価値があるので、この単元ではぜひ豆電球を使っておきたい。
必ずしも懐中電灯などを作るキットを使う必要はないが、手軽なものづくりに取り組ませることができるという意義がある。
- 電気を通すものを探す実験材料を集めておく
電気を通すものは金属であることを確かめる実験の材料を集めておく必要がある。準備が難しいのはスチール缶である。コーヒーや贈答用のジュースの缶がスチール製で数が揃えやすいので、職員室で声をかけて協力してもらうとよい。磁石の学習でも同じ物を使うことができる。
各種硬貨やブリキのバケツなど、電気伝導率が低い金属も、ていねいに実験をすれば電気を通すことを確かめることができる。班ごとに揃えにくい紙幣などは、教卓に用意するとよい。
- そのほか
明かりがつかなくなった豆電球は、分解して中のつくりを見せてやるのに便利である。電気がフィラメントを通るときに光が出ることや、電球を発明したエジソンの話など、科学への興味を高めることができる。明かりがつかなくなった豆電球も捨てずにとっておくとよい。
単元の展開【全6時】
第1・2時 電気で明かりをつけてみよう。
- イルミネーションの写真を見て気付いたことを話し合い、身の回りの「明かり」は電気で光っていることに気付かせる。
- 電気について自分が知っていることをノートにまとめる。
児童から出したい言葉
「電気のスイッチを入れたら明かりがつくから、電気が光っていると思うよ。」
「コードをコンセントにさして電気を使うよ。コンセントから電気が出て、コードを通っているんじゃないかな。」
「ゲームやスマホの充電は、電気をためているんだと思うよ。」
「明かり以外にも、冷蔵庫や掃除機は電気を使って動いているよ。」
「うちの車は電気自動車だよ。」
「うちの家の屋根にはソーラーパネルがついていて、電気をつくっているんだよ。」
「静電気で遊ぶと楽しいよ。電気と関係があるのかな。」
- ソケット付き豆電球と乾電池を使って、自由に豆電球に明かりをつける。
- 明かりがついたりつかなかったりするという気づきをもとにして、次時の問題をつくる。
児童から出したい言葉
「豆電球に明かりをつけることができたよ。」
「豆電球の真ん中の線が光っているみたいだね。」
「導線を乾電池に軽くあてただけで、電気が通るみたいだよ。」
「豆電球を回したらはずれたよ。ソケットと豆電球は別々のものなんだね。」
「豆電球の明かりがつかなかったけど、ネジみたいに回してしめたらつくようになったよ。」
「導線をつなげたら一瞬で明かりがつくから、電気ってすごく速いんだね。」
「乾電池の銀色のところに導線をつけても、明かりがつかないことがあるよ。」
「筆箱の銀色のところをはさんだら明かりがついたよ。電気が通ったのかな。」
※豆電球と乾電池を使って明かりをつける経験は、したことがない児童がほとんどである。いきなり明かりがつくつなぎ方を予想させるよりも、自由に操作をさせることで、電気を身近に感じて学習に取り組みやすくなる。
※自由に操作をさせていると、ソケットから出る2本の導線を片方の極につけても明かりが付かないことや、身の回りの金属に電気を通してみる児童が出てくる。児童の気づきから次時の問題をつくっていきたい。
第3・4時 明かりがつくつなぎ方とつかないつなぎ方があるのだろうか。
- 前時に出た問題をもとに、調べる方法を考える。
- 赤い導線と緑(または黒や青)の導線をどこにつなぐと明かりがつくのか、またつかないのかを実験で確かめ、ノートやワークシートに記録する。
※導線をねじったり交差させたりすると、別のつなぎ方になると考える児童がいる。実験の前にどのようなつなぎ方が考えられるか予想させ、導線のねじれをとって同じなら同じつなぎ方であることを確認しておく。
- 明かりがつくつなぎ方(回路)についてまとめる。
第5・6時 どんな物が電気を通すのだろうか。
- 回路の中に筆箱の銀色の部分を入れても明かりがついたという児童の気づきを紹介し、問題を見いだす。
- どのような物が電気を通すことができるのかを考え、調べ方を考える。
- 実験を通して、電気を通すものと通さない物を分類する。
- 電気を通す物の特徴に気付く中で、電気を通す物は「金属」であることを確認する。
※前出であるが、ここでは辞書などを使って「鉄」「アルミニウム」などはそれぞれの物の名前であり、「金属」はそれらをまとめた物の名前であることを説明して児童が混乱しないようにする。
※導線の被服をはがし、赤や緑などの色は区別するために被服についている色であり、電気を通しているのは導線の中の金属であることを見せておきたい。また、ソケットなしで豆電球の明かりをつけたり、使えなくなった豆電球を分解する様子をテレビに映して見せたりすることで、ソケットの役割について理解させるとよい。
※回路に何かはさんでいても、明かりがついているときには「わっか」(回路)ができているということを教師が繰り返し指でたどって確認し、見えない電気のイメージを育てておきたい。
※アルミホイルを教室の中で長く伸ばし、電気を通して明かりを付ける様子を見せるのもおすすめである。
※金色の折り紙は、銀色の紙に塗料を塗って金色に見せていることが多い。銀色の折り紙は電気を通すが金色の折り紙は通さないことに気付かせ、塗料について話すと、児童は缶と同じであると気付く
参考:国立教育政策研究所,”「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する指導資料【小学校 理科】”,p.37,東洋館出版社,令和2年,https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_pri_rika.pdf
執筆者プロフィール
Cana
元小学校教諭。学年主任・研修主任などを経験後、家庭の事情で退職。現在も非常勤講師として小学校で授業をしながら教育系Webライターとして活動中。学生時代は理科教育を専門に勉強し、大学院で小学校教諭専修免許を取得。理科では、本物にかかわることや、心を動かす授業にこだわっている。
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