アドビツールを活用した、デザインのその先を考える授業【新井啓太さんインタビュー】

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目次

はじめに

徳島県神山町にある、開校3年目(記事執筆当時)の神山まるごと高等専門学校(以下、神山まるごと高専)でデザインやアートを教える新井啓太さんに、ICTを活用した授業についてお話を伺いました。

この取材は2024年12月21日に行いました。

※神山まるごと高専では、先生のことを「さん」づけて呼ばれているとのことで、本章でもそのように記載しています。

高等専門学校(高専)とは

高等専門学校は実践的・創造的技術者を養成することを目的とした高等教育機関です。高等専門学校は、高等学校と同じく、中学校を卒業した方が入学することができます。入学後は5年一貫(商船学科は5年6ヶ月)で、一般科目と専門科目をバランスよく配置した教育課程により、技術者に必要な豊かな教養と体系的な専門知識を身につけることができます。

文部科学省「高等専門学校(高専)について」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kousen/より抜粋

新井さんの経歴

私は神奈川県の私立中高で美術教員をしたのち、教員歴15年のときにドルトン東京学園に転職をしました。今は、神山まるごと高専に勤務しています。前任校でICT教育を担当したご縁で、アドビやGoogleの教育コミュニティの皆さんと関わりをもつようになりました。授業では、デザインやアート、テクノロジーを身近に扱っています。「教室を飛び出す学び」をキーワードにしていて、遠く離れた南極の昭和基地にも行ったことがあります。

神山まるごと高専について

神山町は人口5,000人を切る町です。本校は1学年約40人、5学年で約200人です。一般的な学校に比べると少なく感じますが、本校の学生が町の人口の約5%であり、町に対してインパクトはあると思っています。

学校の裏にある大粟山は、神山町が10年以上前から取り組んでいるアーティスト・イン・レジデンスの舞台でもあります。また、都内など県外の企業のサテライトオフィスが点在し、多くの方が出入りしています。町の雰囲気もどこか開放的に感じられます。

アーティスト・イン・レジデンス
アーティストが一定期間滞在し、創作活動ができる施設や機関の名称。

引用:現代美術用語辞典「アーティスト・イン・レジデンス」https://artscape.jp/dictionary/modern/1198230_1637.html

そういった環境を活かし、学校外で授業をする時間を設けたり、起業家講師を招いて授業を行ったりしています。

テクノロジーとデザインと起業家精神をカリキュラムの三本柱としていて、私はその中でデザインの授業を担当しています。1年生の入り口にあたる「表現基礎」というアートの授業と「グラフィックデザイン」というデザインの授業の2つを2コマ連続で担当しています。ある時は、「表現基礎」では校外でアナログな授業を行い、「グラフィックデザイン」でアドビなどのテクノロジーを活用します。またある時は、2つの授業で同じテーマを扱い、アートとデザインそれぞれからアプローチします。このように、2コマ180分をまとめて担当していることを活かした授業を行っています。

自分の役割を考える

ーー授業をする際に大切にしている価値観や仕事の流儀はありますか。

私は、当然のことではありますが、学校の中における自分の役割を意識するようにしています。

神山まるごと高専は、「モノをつくる力でコトを起こす人」の育成を目指しています。つくったものを「つくって終わり」とするのではなく、テクノロジーとデザインの力を使って「コトを起こす」ことを大切にしています。 私は、デザインのパートを担当しているので、「デザイン」がテクノロジーと掛け合わさってコト起こしに繋がっていくことや、アートとデザインの思考の違いについて、伝えていきたいと思っています。

ドルトン東京学園の場合は、学習者中心の「ドルトンプラン」の下で教育が組み立てられています。そのため、「クリエイティブ」「STEAM教育」という考えのもと、教科横断で何ができるかということを強く意識しています。

一方、一般的な公立校では、教員の役割や学校のミッション、方針があまり明確ではない場合もあります。そのため、まず「その学校における自分の役割」を考えることが大切だと思います。

アウトプットを大切にした授業で「教室を飛び出す学び」を

このような経験を経て、授業ではアウトプットの時間を大切にしています。ほぼ毎回、最低でも授業の半分はアウトプットの時間にしています。つまり、90分あったら45分は必ずアウトプットの時間があります。5分で導入して、残り85分でアウトプットをするという日も少なくありません。授業の導入・展開・まとめのうち導入はできるだけ短くしますが、その中でも授業のゴールはできるだけ明確に伝えたいと思っています。アウトプットの時間には「手を動かし続けよう」ということをよく伝えています。

「教室を飛び出す学び」というキーワードも長く大切にし続けています。この言葉には「学校外に飛び出していく」という意味と「科目の内容がその科目の中だけで終わってしまわないようにする」という意味の2つを込めています。どうしても、学校の中だけに留まっていると閉鎖的になってしまうので、「この学校だけで終わらない」ということを学生にも意識してもらいたいです。また、私自身も、一つの学校や特定の科目の中だけで教育を行うことは難しいと思っているので、複数のコミュニティに所属したり、さまざまな人と関わりをもったりするようにしています。社会そのものが変化している今、子どもたちが社会に向き合う準備段階である学校の教育が止まっていてはいけないと思っています。

モノづくりは個人で進めると自分の世界に閉じこもってしまうので、学生には「開かれた個人制作」という考え方を大事にしてほしいです。共同制作をするだけでなく、 作っていくプロセスや考えをできるだけオープンにし、シェアしたり語り合ったりすることを大事にしたいと伝えています。授業の時間に個人で作品を制作することも悪いことではありませんが、それは授業外でもできることです。授業の場ではせっかく40人が集まっているので、40人いるからこそできることをするべきだと思っています。

モノづくりには、言葉にできないからこそ作品やビジュアルにするという側面もありますが、あえて授業では「学びの言語化」を促します。これにより、答えがないものをあえて言語化するトレーニングをしてもらっています。

「仕事の流儀」というほど意識はしていませんが、これらもそこに繋がっているかもしれません。

ーーなぜアドビを使用した授業を行おうと考えたのですか。

私が初めてアドビのツールに触れたのは、芸大の授業で学んでいたときです。油絵科ではありましたがデジタル系にも興味があったので、大学1年の時から、自分の作品をまとめて紹介するポートフォリオ作りのために使い始めました。教育ツールとして教えるために、というよりも、私自身が使うというところが原点です。

私が教員をはじめた時は、一人一台端末など現在のような整った設備はなかったので、いわゆるアナログな授業をしていました。そんな中、だんだん学校教育にも「テクノロジー」が取り入れられるようになり、授業改善を進める中でアドビツールを活用する機会が増えていきました。

その後の2校では、どちらも学校としてアドビを使うということが先に決まっており、それまでの経験を活かして授業活用を進めました。

ドルトン東京学園の場合は、どの端末でも使用できるAdobe Expressを中心に、プロツールのAdobe CCも組み合わせながら教えていました。

神山まるごと高専では、Adobe Photoshop・Adobe Illustratorを教えることを前提でグラフィックデザインの科目を担当しているため、1年を通して2つのツールを使いこなすことを目指しています。

デザインした先を学ぶ授業

ーーアドビを活用して、どのような授業を行っているのですか。

Adobe Expressは、デザインやビジュアルをつくる際に最も手軽に使えるツールで、最初に教えている導入のツールです。ウェブ上で完結できるツールなので、AIの導入など機能がどんどんアップデートされています。それにより、AIを使った写真の背景削除や画像生成、データの翻訳などがブラウザで完結します。他には、Adobe Photoshop・Adobe Illustratorや、3年生には、映像系のソフトであるAdobe Premiere Proや、Adobe After Effectsも教えます。

では、グラフィックデザインの具体的な授業の内容を紹介します。

本校では基本的に全員がMacを使用し、同じデバイスで学習します。それにより、全員がアドビのプロツールを自分のPCでも学校のPCでも使える状態になっています。入学前にアドビを使っていた学生は少ないので、基本的に入学してから覚えていきます。

第1回では、平面構成について学びます。平面の基本的な図形を組み合わせていき、自分の名刺をデザインします。

第2回では、画像編集とコラージュについて学びます。自分が撮影した写真を、Adobe Photoshopを使って自由に組み合わせながら、一枚のグラフィックを作ります。

第3回・第4回では、画像の合成について学びます。例えば、2人ペアになり、お互いの写真を合成してデザインを作成します。Adobe Expressの機能を使って、1年間で作った作品をウェブページにまとめるため、その説明をします。

第5回では文字とグリッドについて学びます。文字もデザインの素材であること、グリッド上にデザインを区切っていくとレイアウトを工夫できることを学びます。

グリッド

文書編集ソフトや画像編集ソフト、DTFソフトなどで、領域の指定や表示要素の移動の際に、位置決めを正確に行うために表示される罫線や桝目、補助線などのことを「グリッド線」(grid line)あるいは略してグリッドという。

引用:IT用語辞典「グリッドとは」https://e-words.jp/w/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%89.html

第6回では、さまざまな形からトレースしてロゴなどをつくる作図に取り組み、第7回 ・第8回ではここまで習ったことを活かして作図実習をします。

第9回・第10回では色の勉強をします。ここでは、 アートの授業と組み合わせながら進めています。その後、およそ4回をかけて中間プレゼンを行います。

後期には、外部からゲスト講師を招いて、クライアントとデザイナーの間でどのような対話がありデザインが形になるのかということを、講義形式で伺います。

また、自分たちがデザインをしたものを形にするためには業者への入稿が必要です。そのような入稿データをつくる方法や、その際に気をつけることも話します。

最後のまとめとして、ペアワークで大判のポスターのデザインをします。そして、クラウドドキュメント(.aic)としての保存方法も学び、データを複数人で共同運用していくことを学びます。

デザインするだけで満足した気持ちになってしまうことはありますが、ただビジュアルをつくるだけではなく、それがどのように形になり、どのように使われていくかということも大切にしています。例えば、大きなものをデザインする際には、町役場とも連携し、町の景観を守るために景観計画について学び、町の景色の一部になることを意識してデザインしてもらいました。

ーー授業は選択制ではなく全員が同じ授業を専攻する仕組みなのですか?

選択制の授業も一部ありますが、基本的にはほぼ全ての授業を全員が受けています。本校はデザインエンジニアリング学科という1学科しかありません。「デザインには興味があるが、テクノロジーは苦手」といったことにならないよう、「デザイン」「テクノロジー」「起業家精神」を三位一体になって伸ばすことを大切にしているので、このようなカリキュラムになっています。

子どもたちと一緒にICT端末に向き合っていく

ーー児童・生徒が一人一台ICT端末を持っているこのような時代の中で、どのようにICT端末を活用していくべきだと思いますか。

私も明確な答えを持っているわけではありませんが、最新のツールそのものの良し悪しを決着させる前に、新しいものには積極的に触れてほしいと思っています。もちろん、使い始めるタイミングを考える必要はあります。しかし、新しいものに触れずして良い面・悪い面はわかりません。大人が危険性などを検証しきってから子どもに使わせると常に時代遅れになってしまうので、子どもたちと一緒に触れながら、一緒に向き合っていくことが大切なのではないでしょうか。

本校では、希望した学生全員がChatGPTの有償ライセンスを使えるようになっています。これは、学校の方針として最新のものには触れるべきであると考えているからです。もちろん、授業ごとにChatGPTを用いるのに適しているかどうかは異なるので、授業内での使い方は教員と学生でお互いに目線合わせをしています。 

使用するにあたって、デバイス・予算・年齢制限など配慮しなければならないことはあります。そのため、簡単には導入できない難しさもありますが、何かしらの突破口はあると思っています。

所属校以外の繋がりを

ーー最後に教員の皆さんへメッセージをお願いします。

今の自分がいるのは、学校の内外で多くの方と出会い、そこで学ばせてもらった経験によるものが大きいです。振り返ってみると、私は、ICTを担当することになったことがきっかけで繋がりが広がったと思います。私はICTの専門家ではないので、ICTを使った教育を進めるためには、所属校以外の繋がりを持つことが不可欠です。教員は忙しくて時間がないという話もありますが、この課題を突破して繋がりを増やすと所属校にも良いものを持ち帰れます。

アドビについて

アドビは、「世界を動かすデジタル体験を」をミッションに掲げ、Adobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、Adobe Experience Cloudの3つのクラウドサービスを提供する企業です。

アドビホームページ:https://www.adobe.com/jp/about-adobe.html

教育機関向けCreative Cloud製品サイト:https://www.adobe.com/jp/education.html

プロフィール

新井啓太さん

神山まるごと高専 デザイン教育/リーダー(学務)

1984年生まれ。東京藝術大学絵画科油画専攻卒業。神奈川の私立中高で美術教員のキャリアをスタート。ICT教育構築など教育改革を担当。

Adobe Creative Educator (ACE) Innovator、Google for Education認定イノベーター、第60次南極地域観測隊夏隊同行者、ドルトン東京学園中等部・高等部STEAMアドバイザーとしても活動。

2023年4月より現職。

編集後記

ICTやAIがみるみるうちに進化していく現代、ツールを使っていきながら、子どもたちと一緒に向き合い方を考えていくことが大切だとわかりました。また、取材では記事には載せきれなかった具体的な授業内容もたくさん伺うことができ、地方だからこそ生まれる学びや、地方でしかできない経験は多いと感じました。ICTの活用についてだけでなく、同世代が地方を盛り上げていく一例として、とても刺激を受けました。(丸山)

「子どもたちと一緒に触れながら、一緒に向き合っていく」という言葉がとても印象に残りました。新しい技術への向き合い方だけでなく、学校全体の姿勢として、先生と生徒が対等である点が今まで出会ってきた学校とは異なっており、感銘を受けました。新井さん、アドビの皆様、取材にご協力いただきありがとうございました。(毛利)

神山まるごと高専での取り組みやアドビツールを用いた学習の面白さを感じるとともに、今後私自身がどのようにICTを活用していきたいか考えるきっかけにもなる取材でした。神山まるごと高専の新井さん、アドビの皆様取材にご協力してくださりありがとうございました。(森田)

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 丸山和音、毛利優花、森田陽菜)

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この記事を書いた人

先生を目指す学生の方に向けた情報を中心に発信していきます。

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