本単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、小数の意味や表し方について理解し、小数における加減計算をすることができる能力を養う。また、小数の表し方や仕組み、計算の仕方を整数の構造と関連付けて考え、今後の日常生活や学習に活用しようとする態度を育む。
単元の評価基準
- 知識・技能:小数の仕組みを理解し、小数第一位までの小数における加減計算をすることができる。
- 思考・判断・表現:小数の表し方は「整数の表し方を拡張したもの」と捉え、小数の大小関係や加減計算について説明することができる。
- 主体的に取り組む態度:身の回りで用いられる小数の表現に関心を持ち、日常生活や今後の学習に活用しようとする。
本実践の目的
本実践は、小数を使う必要がある場面をゲームで提示し、「整数だけの世界」の問題点に気付かせ、小数を学びたいと思える土壌を作ることを目的とする。
前提として、「新たな数」の導入を知識伝達型の授業で行うのは大変危険な行為である。児童は何時間もかけてやっとの思いで整数や分数等次々に登場する数の理解をしている。ひと段落したかと思うと次々に新しい数について学ぶことを強いられ、過去に学んだルールが適用されない場合さえある。これでは、終わりのないマラソンを走っているようなものだ。不安感から学習意欲が低下するのは必至だろう。
では、学習意欲を向上させるために必要な要素はなんだろうか。それは以下の2点を知ることである。
- 既習内容の有用性
- 新たな学びの必要性
本ゲーム実践ではまず、整数では表せない得点に注目し、公平にゲームを進行するためには分数を活用した得点の表し方が必要であることに気付かせる(既習内容の有用性)。分数を整数のように表す方法があると得点の差が見やすくなることから、小数の学習につなげる授業を行う。(新たな学びの必要性)
「小数」を学びたくなるゲーム実践
1. 小数が得点となるゲームを行い、その合計を競う。
ゲームのルール
- 各列をチームとするチーム戦で行う。
- 「10等分された円のかけら(以下、円のかけら)」を40ピース用意する。
- 隣同士で「あっちむいてほい」を行い、その勝敗で「円のかけら」を奪い合う。
- じゃんけんで勝つ:+2個、あっちむいてほいで勝つ:追加で+3個「円のかけら」を手に入れる。
- 机にある「円のかけら」がなくなったところでゲームを終了し、手に入れた「円のかけら」で完成させることのできた円の数を個人の得点とする。
- チームの得点は、個人の得点の合計とする。


準備
- 列が奇数であったり隣がいない児童がいたりする場合には対応を考える。
- 円に10等分の切り取り線をかいた紙をペアの数×4枚印刷する。
「円のかけら」は児童に一人2枚ずつ切らせることで準備に手間はかからない。
授業の流れ
ゲーム説明、「円のかけら」作成を行った後、隣同士の児童の机を向かい合わせにしてゲームスタート。ゲームは1回5分程度で終わるだろう。その後、個人の得点とチームの得点を集計して、チームで競う。
得点集計時に児童は、せっかく勝ち取った「円のかけら」のうち10に満たないものが切り捨てられることに不満を持つ。そして、チームメイトのもつ「円のかけら」と合わせると円が完成する可能性があることに気付く。「円のかけら」まで得点に含めないと不公平だという声が上がることもあるだろう。「円のかけら」まで数えた場合に優勝チームが入れ替わることさえあるので、むしろそのような声があがる方が自然だ。つまり、「整数だけの世界」の問題点に気付くことができるのだ。
その話し合いの後、「円のかけら」が円を10個に分けたうちの一つであることから1/10と表せることを確認し、0と1の間に存在する数についての復習を行う(既習内容の有用性)。問題点として、先ほどまで整数で表せていた得点に分数が入ってくるので、表記が複雑になってしまう(例:2と3/10点)。もっと見やすい表し方として小数を教える。(例:2と3/10点=2.3点)分母が10の分数と小数の対応を知ることで、表し方に困る児童はいないだろう。
小数の加法についても円を用いて学ぶことができる。小数点がついているだけで、整数の加法と扱いがなんら変わりないことだけは徹底しておくと良いだろう。

2. 補足
ルールの複雑さや得点における小数の計算の難易度が高いと感じる場合には、前段階として整数が得点となるゲームに挑戦してみても良いだろう。
準備の手間を考えると、「円のかけらの数」=「得点」でゲームを行うのが良い。切り捨てられる数がなければ不満は出ず、扱う得点が整数であれば簡単に比較できる。その後「完成した円の数」=「得点」にすると、先ほどと優勝チームが変化する(可能性がある)ことに気付く児童も出てくるだろう。その場合、「円のかけら」が一の位、「完成した円」が十の位であったところから、「円のかけら」が小数第一位、「完成した円」が一の位になる。そこからも、小数の加減が整数の加減と大差ないことがわかる。
執筆者
まき先生
中学高校で数学を教えている。体系的に教えるためには算数から学びなおす必要があると感じ、算数の授業案についても学習をすすめている。
実践的かつつながりを意識した授業案の作成に努める。
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