
1 はじめに
本教材「ええところ」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目A「個性の伸長」に該当する教材です。
まず授業を設計するにあたって、個性の意味と個性の伸長の重要性を確認していきましょう。
個性とは?
「子どもの個性を認めよう」「個性を尊重した教育」という言葉が近年よく聞かれます。
そもそも個性とは何でしょうか?
学習指導要領では、個性を「個人特有の特徴や性格(小学校学習指導要領「特別の教科 道徳)P34)」としており、他者との違いや自分だけの特性が個性と考えられています。
他者にはない自分の目立つ点を個性とすると、長所だけではなく短所も個性になります。
ただ注意すべき点は、個性とは集団の中で発揮されてこそ尊重される点です。
集団の調和を乱す特徴や性格は個性ではありません。
例えば、他人と違うことを強調するために、他人に配慮しない態度をとったり、周囲との協調を欠いた行動をしてしまうことは、「個性を履き違えている」と言えます。
授業の中では枝葉に該当する点ですが、子どもたちにぜひ伝えたい点です。
なぜ個性の伸長が大切なのか?
なぜ個性の伸長が大切なのでしょうか?
理由は主に2つあります。
一つ目は、子どもたちが自分のよさを生かして生活するためです。
自分らしく生きていくためには、個性は不可欠です。
「計算が得意なことを生かす職業に就きたい」
「野球が好きだから、野球に関わって生きていきたい」
というように、個性は自己実現の原動力になります。
子どもたちが個性を生かして自分らしく生きていく態度を育成する視点が、授業では大切です。
二つ目は、個性の伸長が自信につながるからです。
子どもたちは自分のよさに気付いたり、人の役に立ったことを実感したりすると、自信がつきます。
つまり、個性の伸長は「自分は大丈夫なんだ」という自己肯定感や、「自分は人の役に立っている」という自己効力感を育むのです。
個性に気付くためには自分を知ることから
子どもたちが自分の個性に気付くには、自分を知ることから始まります。
自己理解を深めていくことが、個性を伸ばす第一歩です。
5・6年生の授業では、自己の生き方を見つめ直し、個性を伸ばす授業展開が想定されますが、1・2年生は自分自身をまだ客観的に見られず、自分のよさに気付くのは難しいです。ほとんどの場合、他者からの評価によって「ぼくは〇〇が得意なんだ」「私は優しいんだ」と気付いていきます。
本授業でも他者との関わりの中で、個性を発見していく過程を大切にしていきましょう。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名「じぶんの よさ」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「ええところ」
- 内容項目 A-(4)個性の伸長
あらすじ
あいちゃんは力が弱く、声も小さめ。
走るのも遅いため、「わたしって、ええところひとつもないなあ」と友達のともちゃんに言います。
ともちゃんは少し考えた後、あいちゃんの「ええところ」として「手があたたかいこと」を挙げ、あいちゃんはうれしい気持ちになります。
ある日、あいちゃんは掃除のときにクラスのみんなの冷たい手を温めてあげていました。
そうしているうちに、あいちゃん自身の手も冷たくなってしまい「ええところがなくなってしまった」と、あいちゃんはがっかりします。
しかし、ともちゃんに「みんなに優しいのがあいちゃんのええところ」と伝えられ、あいちゃんはみんなの「ええところ」を見つけようと決心するのでした。
ねらい
自分の特徴に気づき、長所を大切にしようとする心情を育てる。
3 授業の工夫
ここからは、「ええところ」の授業アイディアを紹介していきます。
授業の大きなポイントは、主人公あいちゃんの気持ちと子どもたち自身の気持ちを行ったり来たりして、個性について考えていくことです。
主人公あいちゃんの気持ちを中心に話し合う
あいちゃんの気持ちを3つの場面に分けて話し合います。
①自分に「ええところ」がないと思っているときのあいちゃん
②ともちゃんに「手が温かい」と言われたときのあいちゃん
③ともちゃんに「優しいところ」と言われたときのあいちゃん
①自分に「ええところ」がないと思っているときのあいちゃん
T「ええところがないと思っているときのあいちゃんはどんな気持ちでしょう?」
C「悲しい」
C「いいところがなくて嫌だ」
補助発問として「ええところがないってどのような気持ちでしょう?」という発問も、あいちゃんが落ち込んでいる気持ちを引き出すのに効果的な発問です。
ええところが無くて落ち込んでいるあいちゃんの気持ちに共感させていくことで、ええところ(個性)を話し合うスタートラインに子どもたちが立っていきます。
T「あいちゃんの悲しいと思う気持ち、わかるかな?」
C「自分もあいちゃんと同じようにいいところがないからわかる」
C「自信がきっとないんだと思う」
②ともちゃんに「手が温かい」と言われたときのあいちゃん
T「ともちゃんに手が温かいと言われたとき、あいちゃんはどんなことを思ったかな?」
C「ええところを見つけてくれてうれしい」
C「手が温かいこともええところなんだな」
C「手が温かいと言われてうれしいかな?」
②の場面は、子どもたちが褒められたときや自分のよさを認めてもらったときを思い出しながら、あいちゃんの気持ちを考えていく場面です。
この場面では、手が温かいことをあいちゃんの個性と見ているともちゃんの着眼点にも注目させていきたいです。
「手が温かいこともよさになるんだね」
「手が温かいことであいちゃんはみんなの役に立っているんだね」
「小さなことでもええところと見るともちゃんもすごい」
といった言葉かけで、手が温かいことを個性として捉えていることに気付かせていきましょう。
③ともちゃんに「優しいところ」と言われたときのあいちゃん
T「優しいところがええところと言われたあいちゃんはどんな気持ちでしょう?」
C「ずっとあるええところでよかった」
C「優しいはこれからもできる」
C「今度はみんなのええところを見つけて、もっと優しくなる」
ほとんどの子どもたちがあいちゃんのうれしい気持ちに気付くと思います。
さらに踏み込んで、あいちゃんがええところ(個性)を伸ばそうとしている点に気付かせていきましょう。
T「あいちゃんはええところを見つけてもらって、この後どうするかな?」
C「みんなのええところをたくさん見つけると思う」
C「もっと優しくなると思う」
T「ええところをさらにパワーアップさせようとしているんだね」
あいちゃんが優しさを生かそうとしている場面は、まさに個性を伸ばそうとしている場面です。個性を伸ばすよさについて考えさせていきましょう。
「ええところ」を見つける活動
「ええところ」の学習では、友達の良いところを見つける活動が推奨されています。しかし、1年生には難しい活動です。
そこで、ハードルを少し下げて良いところ探しをしましょう。
例えば、教材に出てくる人物の良いところ探しで、ステップを踏んでみましょう。
T「あいちゃんのええところって何だろう?」
C「みんなの手を温めているところ」
C「みんなに優しいところ」
T「ともちゃんのええところって何だろう?」
C「あいちゃんの話を聞いてあげていること」
C「あいちゃんのええところを見つけているところ」
ええところ探しのポイントをつかめたところで、今度はクラスの友達のええところを探していきます。
T「ともちゃんを参考にして、友達のええところを見つけてみよう」
C「私が転んだときにAさんは大丈夫と声を掛けてくれたから優しい」
C「外遊びをしていて、Bくんは足が速いと思った」
C「Cくんは電車のことを何でも知っている」
最後にええところ探しをした振り返りをします。
T「ええところを伝え合って、どう思いましたか?」
C「自分にもええところがあるんだと思った」
C「お互いにうれしくなった」
C「自分のええところを大切にしようと思った」
また、自分のええところを考え直す活動も授業のまとめで有効です。
友達に見つけてもらったええところを参考に、自分のええところを考えます。
T「最後に自分のええところはどんなところかをワークシートに書きましょう」
C「優しいと言われたので、これからも優しくしようと思いました」
C「笑顔が私の良いところです」
子どもたちが個性に気付き、自己肯定感や自己効力感が高まる授業を実践していきましょう。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。
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