はじめに
電磁石の仕組みが利用されているものは家や街にあふれていて、私たちの生活になくてはならない。児童はこれまで「磁石」と「電気」を別のものとして学習している。どちらも目に見えない抽象的なものなので「電磁石」は混乱しやすい単元である。手先の器用さが試されるような実験もある。中学校の電磁誘導の学習はもちろん、身近な科学技術の理解のために、イメージを構築できる授業を計画したい。
なお、本記事の「後半」は下リンク先をご参照ください。
小学5年理科「電磁石の性質」【後半】~電気が磁力を生み出す不思議を追究!~ | EDUPEDIA
本単元で身に付けたい資質・能力
電流がつくる磁力について、電流の大きさや向き、コイルの巻数などに着目して、それらの条件を制御しながら調べる。それらの活動を通して次の事項を身に付けることができるよう指導する。
- 次のことを理解するとともに、観察、実験などに関する技能を身に付けること。
- 電流の流れているコイルは、鉄心を磁化する働きがあり、電流の向きが変わると、電磁石の極も変わること。
- 電磁石の強さは、電流の大きさや導線の巻数によって変わること。
- 電流がつくる磁力について追究する中で、電流がつくる磁力の強さに関係する条件についての予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現すること。
単元の評価基準
知識・技能
- 電流の流れているコイルは、鉄心を磁化する働きがあり、電流の向きが変わると、電磁石の極も変わることを理解している。
- 電磁石の強さは、電流の大きさや導線の巻数によって変わることを理解している。
- 観察、実験などに関する技能を身に付けている
思考・判断・表現
- 電流がつくる磁力について追究する中で、電流がつくる磁力の強さに関係する条件についての予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現している。
主体的に学習に取り組む態度
- 電流がつくる磁力についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。また学んだことを学習や生活に生かそうとしている。
本単元の難しさ
磁石と電気のイメージができあがっていない場合
磁力も電流も目に見えない。3・4年で磁界のイメージや、電流が流れるイメージを頭の中でつくりながら学習してきた児童は、電流が流れたときに磁界ができるというイメージをつくりながら学習するだろう。
そこまで考えたことがない児童が多ければ、第1時では回路に流れる電流を図示するところから始めたい。流れる電流が、近くの鉄に影響を及ぼすイメージからつくりあげていく必要がある。
実験やものづくりを成功させる手先の器用さと根気強さ
コイルをきれいに巻いていくのは、根気がいる作業である。ものづくりの経験が少なく、不器用な児童が増えているように感じるからこそ、あえて電磁石を手作りする経験をさせておきたい。そのためにも、教師が最初に電磁石を作り、その不思議さを感じさせることで「自分も作ってみたい」という動機付けを行い、根気強い作業を促したい。
単元開始までの準備
電磁石を作るための準備
材料 ・鉄くぎ(7㎝前後)1本 ・ストロー(鉄釘が入る太さのものを鉄釘より少し短めに切っておく) ・エナメル線(直径0.4mm×6m)…段ボールの切れ端に巻き付けておく ・マンガン乾電池(単一型または単二形を、学校にある電池ホルダーに合わせて準備) ・乾電池ホルダー ・みのむしクリップ付き導線(2本) ・紙やすり(一人分をカットしたもの) ・ゼムクリップ(10個ずつ) ※6mのエナメル線を全員分準備するのは大変なので、裁断機で縦横10㎝に切った段ボールの切れ端を人数分配り、グループに1巻きずつエナメル線を渡す。段ボールに30巻きにして6mを測りとらせることができる。 (裁縫道具の手縫い糸を作るイメージを伝えると分かりやすい) ストローも自分たちで切らせてもよい。 道具 ・はさみ ・紙やすり(細断して一人分の大きさにしておく) ・セロテープ |
〈準備物(一人分)〉
〈電磁石の作り方〉
次の流れをスライドにしておくなど、児童に分かりやすく示せるようにしておく。
- 導線をセロテープでストローに固定し、同じ方向に100回巻く。巻き終わりもテープで固定する。
- ストローの中に鉄くぎを差し込む。
- エナメル線の両側の被覆を紙やすりではがす。
- 回路を作る。(実験開始まで電気が流れないようみのむしクリップは一カ所外しておく)
電磁石を使った電化製品(古いモーターなど)
電気で動くものには、必ずモーターが入っている。分解するとコイルと磁石が出てくるので、単元の終わりに電磁誘導について軽く触れ、教師の演示で何か分解して見せるとおもしろい。壊れた扇風機、ドライヤー、おもちゃ、自転車のライトなど、捨てるようなものが児童の家にあれば、提供してもらうのもよい。電化製品が発達して複雑化しているため、分解して仕組みを調べる経験のある児童はほとんどいない。単純な作りの電化製品を分解して、学習したことが身の回りで役に立っていることを感じさせ、理科の有用性を感じさせたい。
単元の展開【全11時】
第1次 電磁石の性質
第1・2時 電磁石を作ってクリップを運ぼう。
- 教師の演示実験を見て、電磁石について知る。
電磁石を作って見せ、作り方を説明するとともに、活動の見通しをもたせる。大型テレビに映して実演して見せたり、予備実験で作った手順を撮影して示したりすると分かりやすい。(教科書と同じ物を作る場合、掲載されている動画を使うこともできるが、同じ材料がそろうとは限らないので、実際に使うもので示す方がよい)
※エナメル線がコーティングしてあることは、児童にとって分かりにくい。エナメル線は被覆を剥がさずに渡し、紙やすりで被覆をはがすところから経験させたい。
※電流が磁界をつくる電磁石は不思議な現象であるが、キットなどを使うとそれを感じにくい。「どうしてこれで磁石ができるのか」と児童が驚きを感じられるよう、あえて素材だけを渡し、電磁石を作る体験をさせたい。
- 電磁石を作り、クリップをつけて遊ぶ。
エナメル線は6m程度のものを児童に渡しておく。100回巻きでは余るくらい渡しておくことで、活動中に巻き数を増やしたり減らしたりするなどの試行錯誤ができるようにしておく。巻き数を変える実験でも、条件を変えず同じエナメル線を使うことができる。
※制作前に、電磁石の回路はこれまで気をつけるよう言われていた「ショート回路」にあたるものであることに気付かせ、安全指導を行う。実験していないときにはみのむしクリップを外して電流を流さないように声をかける。
- 気付いたことや疑問を交流し、次時以降の問題をつくる。
【児童から出したい考え】
〈実験の感想〉
- 導線に電流を流したら磁石みたいにクリップを引きつけてびっくりした。
- 巻くのが難しかったけど、ていねいに巻きながら巻き数を数えた。
〈次時以降の問題につながる疑問〉
- クリップが付くということは、磁石になっているということかな。
- 「電磁石」という名前は、電気を使った磁石という意味なのかな。
- 磁石なら鉄を引きつけるし、N極とS極があるはず。
- 巻き数を増やしたら、強くなった気がする。
- 電池を反対向きにしてもクリップを引きつけた。
- 4年生でやったように電池を増やして電流を大きくしたら、磁石の強さは変わるのかな。
- ストローに入れていた鉄くぎも、クリップを引きつけた。磁石のようになったのかな。
※実験中にグループをまわり、個人の気付きを全体に紹介する。同じことをみんなが試し、「ほんとうだ」「自分もそうなった」「自分は違うことが起こる」といったように共有し、学び合いを促す。
※作った電磁石には記名をさせて、単元を通して同じものを使うようにする。全員分の準備が難しければ、班でひとつずつにしてもよい。
後半は、下記リンクへ↓↓↓
小学5年理科「電磁石の性質」【後半】~電気が磁力を生み出す不思議を追究!~ | EDUPEDIA
【参考】
- 国立教育政策研究所, ”「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する指導資料【小学校 理科】”, 東洋館出版社, 令和2年
https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_pri_rika.pdf
- 新編楽しい理科5 東京書籍, 令和6年
執筆者プロフィール
Cana
元小学校教諭。学年主任・研修主任などを経験後、退職。現在も非常勤講師として小学校で授業をしながら教育系Webライターとして活動中。学生時代は理科教育を専門に勉強し、大学院で小学校教諭専修免許を取得。理科では、本物にかかわることや、心を動かす授業にこだわっている。
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