人の体の働き「唾液のはたらき」 ~楽しい理科実験 vol.6

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思ったより難しい「唾液によるでんぷんの分解」の実験

小学校6年生で体に関する唾液で、唾液を使ってデンプンを分解する実験があります。昔は子供に、たっぷりな量(十分な量)の唾液を試験管に取らせて実験をしていました。無理にたくさんの唾液を出すのは難しいですし、女子がドン引きします。けっこう臭いですし・・・。コロナの影響もあってか、東京書籍の最新の教科書では綿棒をくわえて唾液を採取するように変わっています。
ところが綿棒の棒の部分の材質が紙だと、紙自体がデンプンを含んでいるためヨウ素液で青紫色に染まってしまい、子供が混乱します。シャーレの下に敷いた紙にもヨウ素液が落ちて、青紫色に染まっていますね。棒の部分がプラスティックの綿棒があればいいのですが、手軽には手に入りませんでした。

失敗をする要因はいくつかありますので、列挙します。

① 綿棒で採取できる唾液の量が少ない・・・子供によって唾液の出る量も違うみたいです。

② 綿棒がヨウ素液で青紫色に染まる(前述)

③ デンプンが多過ぎると唾液が分解できない・・・デンプンを含んだ液をどれぐらいの濃さにするのか見当が付きにくいし、子供に適量を調整させるのはかなり難易度が高い。
逆にデンプンが少なすぎると比較実験(水と唾液で比較します)で水を用いた方がはっきりと青紫色にならない。

④ ヨウ素液の濃さ・量の調節も難しい。濃すぎると唾液で分解された方が「黄色く染まった」と、勘違いする子供がけっこういます。

① ③をバランスよく調節するのがなかなか難しく、準備段階でどうすればよいかわからなくなります。教科書も指導書も、適量をはっきりとは述べていません。たぶん、①が不安定なため、はっきり述べると、実験が失敗してクレームが来るので、ぼやかしているのだと思います。

そこで、私が何度か調節して、いい具合に結果が出た例を記述します。結果は下の写真ようになりました。子供たちが実験した中で、平均的な結果です。アは「唾液あり」イは「唾液なし(綿に水)」です。

分量の調節と「モノ」の調達

上手く結果が出るように、「いち」から始めると結構な時間がかかります。私も全部で3~4時間ぐらいかかっています。小学校教師が1つの実験に3時間をかけるなんて、過酷ですよね。
手早くできるように、以下のことを参考にしてください。ただし、上手くいくかどうかの保障はできません。「ノークレーム」及び「必ず予備実験をする」をお約束の上でお試しください。
「丸い綿」と「粥」を調達しました。上記の①~③に対応して書きます。コストはかからないので、できれば1人1実験でやらせてあげて下さい。

① 綿棒をやめて、丸い綿(コットン球)を使います。ホームセンターで手に入りました。直径1.5㎝程度の綿です。綿棒よりもたくさんの唾液を採取できますので、③の解決にもなります。理科室に入った時から口に含ませます。綿棒と違って長い時間口に含んでいてもあまり違和感がありませんので、たっぷりと唾液を採取できます。Youtube動画に「酸っぱい動画」がありますので、それを見せながら、楽しい感じを醸し出してください。「たっぷり唾液を出した方が実験がうまくいくよ」と、声掛けしましょう。


② 綿そのものにはでんぷんが含まれていないので、綿棒のように青紫色に染まりません。

③ デンプンを含む液はレトルトの「粥」で作ることができます。「25gの粥を包んで輪ゴムで止めた(上の写真の)お茶パック」を500mLの水に沈めます。お湯でなくても大丈夫です。ガラス棒で何度かゆすり、引き上げて絞ります。目視できる大きさの米粒のかけらがあると唾液が消化しきれないので、お茶パックからこぼれ出ないように抽出します。この作業は教師がすればいいと思います。
ちょうど「唾液なし」が青く染まってかつ、「唾液あり」が分解されるには、上記の水500 mL・粥25gでビーカーの向こう側が見えなくなったぐらいの透明度の時です。写真をご覧ください。ビーカーの向こうにはスティック糊を置いていますが、透明度が低くなって見えなくなっています。

これ以上濃くすると、唾液がデンプンを分解しきれなくなるので、ちょうど見えなくなった所で止めます。
これをチャック付きビニール袋(7×5㎜)2枚にピペットで2 mLずつ取ります。2 mL×2枚×35人で140 mLあれば足ります。デンプンを含む液500 mLをビーカー4つぐらいに分けて、どんどん入れさせます。

比較実験側の綿に水を含ませるのも教師がやった方がいいです。あらかじめ水にひたしてきゅっと絞っておきましょう。あまりビタビタに見ずにひたすと、デンプンが青紫色に染まるのが薄くなってしまいます。

④ これで45℃ぐらいのお湯に5分つけた後、ヨウ素液の濃さは下の写真程度です。「ビールの色ぐらい」とよく言われますが、それより少し濃いぐらいです。ヨウ素液は1つの袋に1 mL程度入れるようにしましょう。あまり多く入れると黄色が目立って青紫色が薄まってしまいます。

※ お湯につける前に、一度、袋の上から綿をぎゅっと絞ります。それで、唾液とデンプンを含む液がしっかりと混ざります。

①で唾液の量はそこそこ確保できているので、③で薄すぎず・濃すぎない液を作ることができれば、ほぼ成功すると思います。子供たちの実験では、90%を越す成功率でした。

本当は失敗を繰り返すのが良いのだけれど・・・

・・・ でも、本心は、90%を越す成功率を誇っているのではないです。教師側ががっちり準備をして、すんなり「教えたい内容」に着地する実験って、どうなんだろうと思います。 理科の実験には失敗が付きものであり、失敗を繰り返しながら成長してゆくのが望ましいだろうと私も思います。今回、私は「唾液」の実験を教師として準備するにあたって、適量を探るために何回も失敗をして、最終的にはまあまあ納得できる結果を得られました。失敗も又、楽しい過程です。

では、子供に何回も失敗をさせればいいのかと言うと、ケースはそうではないと思います。子供たちが「デンプンは唾液によって他の物質に変化する」というあらかじめ定められた結論を出すために失敗(適量の調整)を繰り返すという実験では、この単元の主旨から離れてしまいます。また何回も失敗させるのは時間的に難しいものもあります。であるなら、この実験に関しては必ず成功させた方が良いです。 小学校の理科ではあたかも実験によって教えたい結論が導き出されるような形にせざるをえないケースがけっこうあり、残念な気がします。しかし、「結論を確認するための実験」にせざるを得ない部分があります。今回の実験は、子供たちが唾液による消化を確実に認めることができればOKでいいのかなと思います。

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