ごんぎつね ~「引き合わないなあ」という矛盾

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作成者: matsui (Edupedia編集部)さん

仲良くなりたい

ごんが栗や松茸を兵十にあげている行為は、単なる「つぐない」ではありません。「次の日も、その次の日も」といった表現から、ごんに「兵十と仲良くなりたい」という気持ちがあることは、読者の中に自然とインプットされていくと思います。おそらく、第5場面の「引き合わないなあ。」というごんの言葉の中にもその気持ちは表れていると思います。この気持ちが「ごんぎつね」に漂うせつなさなのでしょうね。

第5場面で、兵十と加助の会話は、ごんの期待に反して思わぬ方向へと流れます。

「そうだとも。だから、毎日、神様にお礼を言うがいいよ。」「うん。」ごんは、「へえ、こいつはつまらないな。」と思いました。「おれがくりや松たけを持っていってやるのに、そのおれにはお礼をいわないで、神様にお礼を言うんじゃあ、おれは引き合わないなあ。」

とあります。「引き合う」という言葉の意味が分かりにくい子どももいます。

しかし、よくよく考えるとごんの「引き合わない」という台詞(ひとり言)には、矛盾があります。そもそも、ごんは自分がうなぎをとってしまったことに対する「償い」として、栗や松茸を持って行っているはずです。本来、加害者にとって、「償い」には引き合うも何もありません。「引き合わない」は、被害者の言う言葉です。加害者の要求が大きすぎるときに、「応じられない」となるものではないでしょうか。また、償いに対して「お礼」を要求する事も間違っています。ごんが勝手に始めた償いに、兵十がお礼を言う必要はありません。

つまり、ごんの「償い」は、ごんの中でいつのまにか変質してしまっていることがわかります。「償い」の中に、「兵十と友達になりたいという期待」が入り混じってきているのがこの「言葉の上での矛盾」で表現されています。隠れて償うという無償のgiveの行為の中に、いつの間にか友達になりたいというgive and takeの気持ちが入り混じってきています。

このパターンは恋愛ドラマなどでよく取り入れられる要素です。いつも喧嘩ばかりしていがみ合っていた男女が、何かひとつの事に向かって行動を共にするうちに恋に落ちる。全く気にも留めていなかった異性に対して、「あれ、もしかするとこの人のこと好きかも」と、ふと気付く瞬間。

「引き合わない」という矛盾した言葉もまた、微妙に変化する「心」の動きを新美南吉が意図的に表現した箇所なのでしょう。

授業ではどう扱うか

ごんは魚やうなぎをを逃がしてしまった2場面から、だんだんと兵十に心を寄せていき、この場面ではお経が終わるまでじっと待っている辛抱強さ(いたずら好きの落ち着かないきつねだったのに!)を発揮しています。そしてついに、「引き合わない」という言葉で図らずも心情を吐露させた形にしています。

ほとんどの子ども達はこの物語を通読しているうちに、ごんの償いに償い以上の意味が含まれていたことをなんとなく理解していると思います。ですから、敢えてごんが栗や松茸を持っていった事が元々は償いであった事を授業の中で指摘する必要はないような気がします。

「引き合わない」という箇所に関しては、次のような発問でいいのではないでしょうか。

T:「引き合わないってどういう事を言っているの?引き合わないを他の言葉に置き換えると?」

C:「釣り合わない」

T:「引き合わないって言っているけど、じゃあ、何と何が引き合ってほしいの?」「ごんは何を期待しているの」

C:「栗や松茸を持っていくことと、お礼を言ってもらう事」

C:「兵十が自分に気づいてくれること」

C:「栗や松茸を持っていくことと、兵十が自分と友達になってくれること」

もしも子どもの中からそのような指摘が出てきた時(かなり賢い子どもが稀に指摘するようです)には、取り上げてみてもいいかもしれません。

C:「引き合うっていうのははおかしいと思います。」

C:「お礼って、変だと思うのだけれど」

C:「最初は償いで始めたはずだから、それに引き合うって・・・」

T:「なるほど。じゃあ、最初は償いで始まったけれど、この場面ではもう、償いだけじゃないのかもね。償うだけではなくって、どんな気持ちが混じっているんだろう。この、引き合うって言葉から考えると…」

といった教師の切り返しの中で、ごんの気持ちの変化・変質について気づかせてあげるといいかもしれません。

あるいは、この部分(引き合わない)に触れる場合は、第3場面の「次の日も、その次の日も」の辺りで、

T:どうしてこんなに一生懸命に栗や松茸を持ってきているのかな

といった誘導発問をして考えさせておくと、

C:「兵十が自分と友達になってくれること」

と、「引き合う」条件の中に入っていることに気づきやすくなると思います。

物語は皮肉にも、命を代償としてやっと兵十の理解が得られます。これでごんが「少しは引き合った」と感じたのかどうか…あまりにも悲しい結末です。

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