これからの学校組織に必要なリーダーシップとは

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目次

1 はじめに

学校教育の中で、コアな能力の指導デザインが求められています。その典型は、リーダーシップではないでしょうか。リーダーシップというと、ごく一部の人の資質だと思われがちですが、実は全ての人に必要な基礎的・汎用的能力です。そして、先天的能力ではなく、学習することで伸びる能力です。最新のリーダーシップ研究をもとに、子どもたちのリーダーシップを伸ばす指導について考えていきましょう。

2 自律型人材を求める動き

社会の大きく変化する中で、期待される人材像も変化しています。次の文章は、2006年の日本経団連報告書からの抜粋です。

「経済活動のグローバル化やICTの進展など、我が国はまさに歴史上の激変期にある。企業の活力の源泉となる最も大切な資源は人材である。内外の環境変化に伴い、人材育成のあり方を再構築していく必要がある。様々な業務で求められる能力は異なるものの、それぞれの職場で、自律型人材(自ら主体的に考え行動する人)が不可欠となっている。」

この文章から「有能な人」から「自律的な人」への人材観の転換が読み取れます。

  • 自律的・・・自らの使命や環境などから慎重に判断し、実行しようとする姿勢、態度。
  • 主体的・・・ある刺激に対して選択肢をあげ、慎重に判断し、実行しようとする姿勢、態度。

では、この「自律的」「主体的」な姿勢や態度を、学校教育の中でどのように育成したら良いのでしょうか。

3 自律的学校経営への転換

学校にも、「自律的」であることが求められています。
上からの教育の見直しを「教育改革」というのに対して、各校での地道な取り組みによるものを「学校改善」といいます。この「学校改善」ということばは、1986年からOECDが始めた国際教育プロジェクトにおいて用いられたSchool Improvementが語源なのですが、OECDの研究成果から、学校改善には次の2つの点が不可欠であることが分かってきました。

  • 学校改善には、各校での内部の地道な取組みが有効である。
  • 学校改善には、各教職員の主体性と自律性が必要不可欠である。

子どもたちの自律性や主体性を育てるためにも、まず学校組織が自律的で主体的な組織でなければなりません。

4 校内研修とリーダーシップ

学校改善には、授業研究を中心とした校内研修の充実が欠かせません。校内研修の重要性は理解されているものの、現実的にはなかなか研修が機能していない学校も多いようです。
大阪教育大学の木原俊行教授は、校内研修の問題を五つに整理しています。

  • 研修の機会が限定されていること。
  • 研修に個々の教師の問題意識を反映させがたいこと。
  • 研修が「型はめ」に陥りやすいこと。
  • 閉鎖性・保守性が強いこと。
  • 適切なリーダーシップが発揮されないこと。

木原教授はこの5点を踏まえたうえで、次のように述べています。

「校内研修の企画・運営に関わるリーダーシップを誰がいかなる形で発揮するのか——。それが適切であれば、1~4に掲げた問題もある程度は解決しうるので、校内研修の企画運営に関わる実践的なリーダーシップが十分でないことは、校内研修の企画運営上、最も深刻な問題である。」

この指摘は、学校改善や校内研修の充実のためには、早急にリーダーシップについて改善しなければならないことを示しています。では、先生方のリーダーシップをどのように改善すると良いのでしょうか。

5 リーダーシップの難しさ

リーダーシップに関して、先生方から、次のようなことをよく聞きます。

  • 大切なことは分かるが、間口が広すぎて、何からはじめたらよいものやら・・・
  • 管理職や主幹の先生に必要なことで、われわれ若手教員にはまだまだ・・・

このようなご意見の背景には、「リーダー」と「リーダーシップ」の混同があると思われます。

リーダーとは役割の名称です。「このチームのリーダーは誰ですか」という問いは、その役割を担当している人を尋ねています。その人がどのようなリーダーシップを発揮しているかどうかを尋ねているわけではありません。それに対してリーダーシップとは、何なのでしょうか。リーダーシップとは、何かをどこかに導く(リードする)行為や態度のことです。端的には、リーダーシップとは、チームの目標を達成するための行為や態度と言えます。このことを具体的に考えてみましょう。

5人が山登りをしています。
 青木君「僕が先頭を歩きますから、ついてきてくださいね。」
 赤城君「青木君、さっきの分かれ道、違う道を選んだんじゃないですか?」
 白木君「青木君、そろそろ休憩しませんか。黒田君がしんどそうだよ。」
 黒田君「僕、キャラメル持ってきましたから、欲しい人はどうぞ。」
 緑川君「みなさん、あと少しで山小屋ですよ。歌でも歌ってがんばりましょう。」

問1.この5人のうち、誰がリーダーでしょうか?
 
問2.この5人のうち、リーダーシップを発揮しているのは誰でしょうか?

リーダーの役割を引き受けているのは青木君なので、問1の解答は「青木君」でいいでしょう。このケースのリーダーシップを、5人が無事に山小屋に着くための働きかけと考えると、問2の解答は「全員」となります。

この例から分かるように、誰でもリーダーになるわけではありませんが、リーダーシップなら誰もが発揮することができるのです。自分ができることをできる分だけきちんとすることは、立派なリーダーシップです。繰り返しになりますが、リーダーシップとは、ごく一部のトップの人だけのものではありません。ここに、学校において全ての児童生徒にリーダーシップを指導する意味があるのです。

6 リーダーシップ研究の経緯

リーダーシップ研究は、20世紀中盤以降に活発となり、「特性理論」「行動理論」「条件的合理論」「パス・ゴール理論」「状況応変型モデル」など、様々な研究が行われてきました。しかし、いずれにしてもそれらのタイプのリーダー像には限界がありました。その限界を簡潔にまとめると、以下のようになります。

  • 「状況」 状況が変わると、同じような行動や特性が成果に結びつくとは限らない。
  • 「能力」 理想的なリーダー特性を、全てのリーダーが備えているわけではない。
  • 「連続性」 理想的なリーダーがいても、後任のリーダーが理想的とは限らない。
  • 「主体性」 メンバーが服従的では、自律的な組織にはならない。

つまり、1人のリーダーに焦点化した集中型モデルには、根本的に限界があるのです。現在では、それに替わって、組織の多様な状況において多様なリーダーがリーダーシップを行使する「分散型リーダーシップ」の研究が進んでいます。

スポーツに例えるならば、前者は「野球型のリーダーシップ」であるのに対して、後者は「サッカー型のリーダーシップ」といえます。

サッカーでは試合が始まったら、選手は監督の指示を待っていてはプレーができません。サッカーの指導者に共通する課題は、「どうしたら、選手が自主・自律的にプレーできるようになるか」です。ロンドンオリンピックでなでしこジャパンの注目度が増すにつれ、佐々木監督の指導法に多くの日本の経営者の注目が集まりました。これは、組織運営に必要なリーダーシップが、集中モデルから分散モデルへと変化した現れだと考えられます。

7 分散型リーダーシップの特徴とは

分散型リーダーシップ研究のより、自律的な組織におけるこれからのリーダーシップの特徴は、次のようにまとめることができます。

  • 複数または全員がリーダーシップを発揮する
  • 変化の大きな時期に対応したリーダーシップである
  • あらゆるグループを対象としている
  • リーダーとフォロワーの相互依存関係から生まれる
  • リーダーとフォロワーの入り替わりが可能である
  • リーダーによるリーダーの養成が最終目標である
  • 組織活動の効果性や健全性を重視するリーダーシップである

これを学校組織に当てはめると、次のようになります。

  • 全ての教職員がリーダーシップを発揮できる学校である。
  • 校務はチーム単位で行われている。
  • 校長、教頭、教務主任等によるトップマネジメントチームが機能している。
  • チーム内では、リーダーとフォロワーの入れ替わりが見られる。
  • 校内研修が、リーダーによるリーダー養成の場と位置づけられている。
  • 学校の教育の効果性や健全性を重視する校務運営が行われている。

8 リーダーシップと学力

OECDは「多様な集団における人間関係性能力」を「キー・コンピテンシー」に含めていますが、そのなかに「リーダーシップを共有し、他人を助けることができること」が加えられています。そして、リーダーシップと生徒の学力に関して、次のように言及しています(2009)。

「スクールリーダーシップ効果の研究によって、特に生徒の学習を促すのに役立つ、多くのリーダーシップの役割と責任が明確になった。これらは、ある種のリーダーシップ実践が生徒の学習における測定可能な改善に関連していることを示している。」

文部科学省は、キャリア教育における基礎的・汎用的能力の説明の中で、人間関係性能力の例示としてリーダーシップを取り上げています。しかし、カリキュラムの中に、学力を支える柱としてリーダーシップを位置づけて指導している学校はほとんどないのではないでしょうか。
しかし、資源に恵まれない日本が、“人材・人財”による立国を目指すのであれば、児童生徒へのリーダーシップの指導と、リーダーシップを指導できる教員の養成が急務ではないでしょうか。そのためにも「リーダーがリーダーを養成する場」として「授業研究を中心とした校内研修」が担う責任は大きいといえます。

9 リーダーシップの3つのプロセス

リーダーシップの指導法を考える際には、様々な組織活動のシーンにおけるリーダーシップのプロセスを考えると分かりやすいと思われます。リーダー活動分析の研究には、さまざまなものがありますが、今回は3つのプロセスで説明したいと思います。それは、「意思を決定する」、「意思を共有する」、そして「行動を調整する」です。

  • 意思を決定する

  ・現状の問題点の背景や原因を分析し、目標を設定する。
  ・その目標が解決できるものか、解決すべきものかをチェックする。
  ・組織の強みや弱みの分析から、有効な手段を選択する。

  • 意思を共有する

  ・メンバーに行動の方向性と戦略を伝える。
   「我々はなぜこれをやらなければならないのか」
   「どのような手段で、どこまで達成しなければならないのか」

  • 行動を調整する

  ・作業の進捗状況を確認し、円滑な運営のための場をつくる。
  ・メンバー間のコミュニケーションや信頼関係の構築する。
  ・必要に応じて計画を調整したり、中間評価を行ったりする。

10 3つのプロセスを支えるスキル

プロセスが明確になることと、成果が得られることは同じではない。プロセスを成果に結びつける取り組みと、その取り組みを支えるスキルが不可欠である。
前述の3つのプロセスを実行するためには、どのようなスキルが必要でしょうか。それをまとめると以下のようになります。

  • 意思を決定するためのスキル

  ・基本スキル:SWOT分析 ロジカルシンキング クリティカルシンキング
         アンケート調査 資料収集・分析 など
  ・応用スキル:マーケティング 仮説思考 論点思考 発想力 構想力 など

  • 意思を共有するためのスキル

  ・基本スキル:マネージャーシップ プレゼンテーション タイムマネジメント
         リスクマネジメント など
  ・応用スキル:目標管理 プロセス管理 デザイン思考 など

  • 行動を調整するためのスキル

  ・基本スキル:ファシリテーション コーチング カウンセリング
         コミュニケーション クライシスマネジメント など
  ・応用スキル:交渉力 エンパワー メンターシップ コンサルタント など

これらのスキルを、基礎から応用にかけて磨き上げていくことが、リーダーシップを高めていく営みと言えると思います。またこれらのスキルを計測可能にすれば、一人ひとりのリーダーシップのレベルを測定することも可能となります。その点でも、私は、小学生の段階から、基本的なマネジメントスキルについて、意図的・計画的に指導すべきだと考えています。それによって、思考力、判断力、表現力が目に見える形で伸ばすことができると思います。そのためにも、まずは先生方が、基礎的・汎用的なスキルを、日々の業務の中で磨き上げたいものです。

11 おわりに

今回は、分散型リーダーシップ理論を柱として、なぜリーダーシップの指導が学校改善や校内研修、学力向上に欠かせないのかという点について提案しました。また、リーダーシップを3つのプロセスに分けて、それを支えるスキルとともに示すことで、リーダーシップのカリキュラム構成に関して提案しました。
今後は、それぞれのスキルについて、具体的にどのように指導するとよいのか、およびフォロワーシップとは何かについて、提案したいと考えています。

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