国語・説明文(評論文)「生き物は円柱形」の教材研究資料です。
本教材は、段落の役割が分かりやすく文章の構成を捉えるのに適した教材だといえます。
段落ごとの関係や要約・要旨を考えるなどの活動を通して、評論文の読み書きの基本を知ったり、生き物のおもしろさに興味が広がったりする授業になればと思います。
目次
1 教材分析(段落ごとの内容、要約、要旨)
2 文章構成を考える問い
3 表現を考える問い
4 読み方を振り返る問い
1 教材分析
段落ごとに、以下の内容が書かれています。
- 段落の見出し、役割
- 内容の中心
- 意味確認が必要な箇所:意味
- 内容を読み取るための問い:Q(下線の問いは、理解を深める問い)
1段落:話題提示(生き物の共通性は円柱形)
多様性を持つ生き物の、形の共通性は円柱形だ
『形の上でわかりやすい共通性は、「生き物は円柱形だ」という点だ。』
意味:最も生き物らしい、多様性、共通性、円柱形
Q
筆者の考える、最も生き物らしいところは?
多様性の他に、生き物の特徴は?
生き物の形のうえで分かりやすい共通性は?
生き物が多様とは、どういうこと?
2段落:円柱形の例:人間
人間の指、うで、あし、首、胴体、体全体は円柱形
意味:見なす
Q
2段落では、何を円柱形と言っている?
3段落:円柱形の例:動物、植物
動物→ミミズ、ヘビ、ウナギ、ネコやイヌのあしや胴体は円柱形
植物→木の幹や枝、草のくきなど円柱形が集まっている
意味:「円柱形が集まって、全体が作られている」
Q
3段落では、何を円柱形と言っている?
4段落:円柱形の例外
例外→チョウ、木の葉
意味:例外
Q
例外とは、何の例外のことか?
今までに何の例があったか?
人間の体で、円柱形ではない部分はどこだろう?(耳、爪、歯とか?)
他に円柱形ではない例外は何だろう?(アメーバや微生物?)
5段落:例外の説明、譲歩
◯チョウの羽が平たい→うちわやせんすが平たいのと同じ理由
うちわやせんす:たくさんの風を送るために広がっている
チョウの羽:たくさんの空気をおすために広がっている(空気をおして飛ぶ)
でも、羽の他はチョウも円柱形の集まり
◯木の葉の同じように考えられる。
木の葉:日光を多く受けるために広がっている
でも、幹や枝、木全体は円柱形
意味:「チョウは羽で空気をおして飛ぶ」、「太陽の光をより多く受けるため」
Q
チョウの羽が平たいのと同じ理由をもつものは?(2つ)
なぜ、チョウの羽は平たいのか?
なぜ、木の葉は平たいのか?
「木の葉も同じように考えられる」とは、どういうことか?
他にも同じように考えられる生き物はあるだろうか?
6段落:問い
問いの文「円柱形だと、どんないいことがあるのだろう。」
(「生き物の基本が円柱形」の理由はなんだろう)
意味:仮に、生き物の基本
Q
問いの文を探そう。
答えの文を探そう。
7段落:(答え)円柱形の良さを確かめる実験
実験
新聞紙を使って、形の違いによる強度を測る。
実験結果
広げる:曲がって立たない。
円柱形:縦でも横にしても立つ。
角柱:力を加える方向によって強さに違いがある。角がへこみやすい。
Q
「まずは、次に、では」の順番
どんな実験が行われたのか?
実験は、なんのために行われたのか?
実験結果から、3種類の新聞紙の形の特徴を書こう。
実験結果が本当か確かめてみよう。
8段落:問いの答え1:強さ
答え1→円柱形は強い形なのである。
外から力が加わっても、その形を保つことができる。
=生き物にとってたいへん重要なこと。
チョウの羽の翅脈、木の葉の葉脈は円柱形であり、形を支えている
Q
7段落の実験から分かったことは?
9段落:問いの答え2:速さ
答え2→円柱形は速い形でもある。
ミミズ、マグロは、土や水の中を進む時のていこうが少ないから速い。
意味:ていこうが少ない・小さい
Q
なぜマグロは速く泳げるのか?
円柱形が速い形であると示すには、どんな実験が考えられるだろうか?
10段落:小まとめ(問いと答え)
円柱形は強い&速い。だからこそ、生き物の体の基本。
Q
問いと答えをまとめよう。
生き物の体の基本を2つ探そう。
なぜ、強いことと速いことが、生き物の体の基本なのか?
円柱形であることの他に、生き物の体にとって重要な要素はあるだろうか?
11段落:大まとめ(多様性のすごさ、共通性を考えるおもしろさ)
多様性→長い時間をかけて進化。独自の多様な生き方。形や大きさ。おそれ、うやまう気持ち。くらしがにぎやかで豊か。おもしろい。
共通性→なぜ同じなのかを考えることも、実におもしろい。
意味:生き物は実に多様でる、長い進化の時間をかけて、おそれ・うやまう気持ち、くらしがにぎやかで豊か、おもしろい
Q
11段落L2「そのこと」とは、何を指しているか?
生き物の多様性について、どんな多様性が述べられているか?
本文では生き物において、①どんな共通性が見出されているか?②それは、なぜ同じだと言っているか?
筆者がおもしろいと思っていることは、どんなことか?(2つ)
「おそれ、うやまう気持ちすらいだかずにはいられない」とはどういうことか?なぜか?
多様な生き物に囲まれていて、くらしがにぎやかで豊かだと思ったことはあるか?
要約
1段落で「生き物の最も生き物らしい特徴は多様性であるが、形の上での共通性は円柱形である」と話題を提示している。(円柱形の話が続くと予想できる)
2、3段落で1段落の話題で示された「生き物の体の共通性は円柱形である」ことの例を挙げている。(身近な例を挙げる)
4、5段落で例外について触れ、説得力を強めている。(譲歩)
6段落で「円柱形であることの良さは何か」と問う。(問いへの答えが続くと予想できる)
7段落で円柱形の強さを確かめる実験を行い、8段落で強いことの説明をする。(答え1)
9段落で円柱形が速い形でもあることを説明する。(答え2)
10段落で問いへの答え(円柱形は強い・速い形)をまとめている。
11段落では、生き物の多様性を知るおもしろさと共通性を考えるおもしろさが述べられている。(筆者の主張)
要旨
生き物の最大の特徴である多様性は、わたしたちのくらしを、にぎやかで豊かなものにする。
また、多様性を知ることで、生き物に対するおそれ、うやまう気持ちすらいだかれる。
生き物をよく見て、その多様性や共通性について考えることは、とてもおもしろい。(119字)
キーワード
・最も生き物らしいところは多様性だ。
・よく見ると、その中にも「生き物は円柱形だ」という共通性がある。
・多様な生き物に囲まれているからこそ、わたしたちのくらしは、にぎやかで豊かなのだ。
・多様さを思うと、生き物へのおそれ、うやまう気持ちすらいだかずにはいられない。
・多様さを知ることは、おもしろい。
・多様なものの中から共通性を見いだし、なぜ同じなのかを考えることも、実におもしろい。
2 文章構成を考える問い
文章を大きく「始まり・中(展開)・まとめ」に分けてみよう。
「始まり」…1段落
「中・前半」…2~5段落
「中・後半」…6~10段落
「まとめ」…11段落
「始まり」「中(展開)」「まとめ」は、どんな役割を持っているだろう?
「始まり」…話題提示
「中」…説明(例、理由)、問いと答え
「まとめ」…文章のまとめ、筆者の考え
「中(展開)」を前半と後半の2つに分けよう。
「中・前半」…2~5段落
「中・後半」…6~10段落
中の前半と後半には、何が書かれているだろう?
前半…2,3段落では、1段落の話題で示された「生き物の体の共通性は円柱形である」ことの例を挙げている。
また、4、5段落で例外について触れ、説得力を強めている。(譲歩)
後半…6段落で「円柱形であることの良さは何か」と問い、7~10段落で問いへの答え(体が円柱形である良さ・理由)を説明している。
(中の後半には大事なことが2つ書かれているね。)
1、円柱形は強い形
2、円柱形は速い形
文章構造1
文章構造2
3 表現を考える問い
筆者は、どのように読者を説得しようとしているだろう?
・まず人間の体という最も身近な例を挙げて、その次に動物、植物という順番で例を挙げている。分かりやすい順番。(2,3段落)
・読者が抱くだろう例外を予想して、反論に対して説明している。譲歩。(4,5段落)
・円柱形の良さを説明するために、検証可能な実験を示している。(7段落)
・複数の良さを挙げている。(8,9段落)
・問いへの答えをまとめている。(10段落)
・絵を使って生き物は円柱形であることを伝えようとしている。
*これから説明文(評論文)を読み書きするときに使ってみよう。
なぜ、わざわざ例外を出すのだろうか?(4段落)
例外を見つけた時、筆者は、どのように考えたのだろう? (5段落)
例外:「チョウや木の葉は円柱形ではない」
①チョウ…広い羽をのぞけば、チョウも円柱形の集まりだ。
②木の葉…木の葉も同じように考えられる。幹や枝は円柱形だし、木全体を見ると、先が細くなった円柱形だということもできる。
どちらも、「(羽や木の葉といった)円柱形ではない部分を除けば、体の多くは円柱形で出来ている」、という説明をしている。
*筆者の説明に納得しますか?
→6段落の初めに「仮に」ってあるから、生き物全部が円柱形っていう自信が、あんまりないのかもしれない。
*8段落で、形を保つためにチョウの羽には翅脈、木の葉には葉脈という円柱形が体の中に入っていることが説明されている。これらを5段落に持ってこなかったのは、なぜか?
11段落L2で「多様な大きさや形をかくとくしてきた」と言っているが、形の共通性は円柱形ではないのか?
多様な形というのは、例えば「象の鼻が長い」「キリンの首が長い」「二足歩行と四足歩行」などのことで、それらには「形が円柱形」という共通性がある。ということ?
11段落では、共通性よりも多様性のことが多く書かれている。まとめの段落にこのような書き方をしているのは、筆者は何を伝えたいからだろう?
円柱形のすごさ?
共通性を見出すおもしろさ?
多様性の素晴らしさ?
生き物の不思議を知るおもしろさ?
4 読み方を振り返る問い
どのように文章を読んでいったのか、ペアやグループで読み方を振り返る。
文章を読む際に自分の読み方を意識する習慣をつけ、目的に合った読み方ができるようにする。
(段落のまとまり)
・なぜここがはじめなのか?
・なぜここが中なのか?
・なぜ本論を分けたのか?
・なぜここがまとめなのか?
(段落の役割)
・これは、何を説明するための例?
・これを説明するためにある例は?
・なぜ例外を出したのか?
・はじめとまとめ、まとめと中、はどう関係づけられる?
・この文章の要点(主張)を一言で言うと?
(表現・内容について)
・筆者の説明の仕方で気になったことはある?
・意味が分かりづらかった箇所はある?
・読んでいて分からない時はどうしましたか?
(その他)
・どんなことに気を付けて読んだ?
・今までの読み方と違ったところ・同じところはある?
・次から使ってみようと思う読み方はある?
・読んで浮かんだ新しい疑問・発見はあった?(この場合はどうなの?似たことがあったぞ)
5 関連資料
歌 [生きものは円柱形]
著者の本川達雄先生が出演するNHKの番組「歌う生物学」にて歌われたもの。
本人登場の動画もあります。
発問道場(野口塾)
第100回野口塾にて行われた、「生き物は円柱形」(光村図書五年)発問道場のダイジェスト版ビデオです。詳細は教職ネットマガジン(https://kyo-shoku.net/)にログインしてご覧ください。
筆者インタビュー(光村図書)
「植物の形には意味がある」(Laboratory of Plant Physiology、Waseda University)
「進化が語る 現在・過去・未来」( 日経サイエンス 別冊185)
「アップとルーズで伝える」授業案(ワークシートあり)~段落の役割と表現の特徴を読み取る~
説明文の記事一覧
生物の多様性と一様性について「科学技術の智プロジェクト総合報告書(2010年8月訂正版)」
(以下は、報告書p122.123より引用)
遺伝物質をめぐるその後の研究は、数々の驚くべき事実を明らかにしてきた。なかでも、生物は互いに数多くの共通した遺伝子(体のつくりや生理的機能を指定するDNA の特定の塩基配列)を備えているという発見は驚きだった。例えば、動物の眼の構造は、主に 8 種類の基本タイプに分けられる。かつてそれらは、それぞれ独立して進化したと考えられていた。タコと哺乳類の眼の構造はとてもよく似ているが、それはあくまでも別個に進化する過程で似てしまった結果であると考えられていたのだ。
しかし最近になって、いずれの種類の眼の発生に関しても、共通した遺伝子が関与していることが分かってきたのだ。こうした遺伝子の共有関係は、動物の中だけでなく、動物と植物の枠を超えていたりもする。それは、生物は、かつて遠い昔の共通祖先が備えていた遺伝子を様々に転用させることで、多様性を増大させてきたからにほかならない。つまり、ダーウィンの進化理論から予想された「生命は多様にして一様である」という考えが分子のレベルでも実証されつつあるのだ。
(中略)
多様にして一様なのは、生命に限ったことではない。すべての物質は原子からできており、原子を構成するのは電子、陽子、中性子であり、陽子や中性子はさらにクォークと呼ばれる素粒子から構成される。そう考えると、万物はマクロなレベルで見ると実に多様だが、ミクロなレベルで見ていくと一様であることがどんどん明らかとなっていく。そしてその起源は、宇宙の起源であるビッグバンにまで遡る。
生命の来し方行く末に思いを馳せることが、宇宙の起源、広大な宇宙の一隅に生れ落ちたみずからの存在にまでつながる。科学が提供するこのような見方には、壮大さ、荘厳さがある。
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