隂山英男先生インタビュー(関西教育フォーラム2016『いじめ問題を、もう一度。』)

35
目次

1 はじめに

本記事は、2016年11月20日に京都大学で開催された関西教育フォーラム2016「いじめ問題を、もう一度。~行政×学者×遺族で創る『新しい教育フォーラム』~」後に、ゲストの隂山英男先生(立命館大学教授)にインタビューしたものです。

2 隂山英男先生インタビュー

フォーラムにご登壇されての感想をお聞かせください。

“いじめ”というテーマは正直かなり難しい問題ですが、あの時間の中ではかなり要素が抽出され、方向性を出せていたと思います。いじめを防ぐには、学校が学校としてきちんと機能して、親が親としてきちんと子どもの変化に気がつくということが重要です。
自殺に至るプロセスは子どもの場合、必ず予兆があるんですね。要は、その予兆を見逃すか見逃さないかというだけのことです。だから、自殺を防ぐこと自体は意外と話は単純になってきます。ただ、いじめをなくすという話になってしまうと、それは難しいかもしれないし、不可能だと思います。一方で、破滅的な状況、例えば自殺するとか学校に来れなくなるというような状況にならないようにするということは、可能です。それができれば良いと思っています。
いじめの問題はコミュニケーションのトラブルです。人間同士、何か上手くいかないということは大人でも普通にあることです。僕の感覚的には、いじめ問題が学級で起こる時、その学級指導が絶対悪いです。学級がすごく上手くいっているのにいじめ問題が起きるということは経験にありません。だからそのあたりは教師の指導力にかかっていますね。けれども、どうしようもないクレーマーはいます。これについてフォーラムで何度も言ったのは、このことがいじめ問題の議論の俎上に全く乗っていないと感じるからです。大津のいじめ自殺の件でも典型的でした。

今回4人のゲストの方にご登壇いただきましたが、新たな気づきや印象に残ったことはありましたか?

僕も親だから、親の立場として、大河内さんが息子さんのいじめに気づくチャンスは何度もあった、救えるチャンスは何度もあったということをおっしゃっておられたことが一番印象に残っています。

フォーラムで主に学校内のいじめについて議論されましたが、学校外のいじめ・ネットいじめについてはどのように対応すべきでしょうか?

僕が現場にいた頃はネットいじめという存在がなかったので、実はあまりイメージが湧きません。ただ思うのは、ネットでいじめが起こるということは、絶対にリアルのいじめも同時に起きているということだと思います。普段学校で仲良くして、家に帰ったらネットでいじめが起きているというのは非常に考えにくいですね。実はネットいじめを防ぐのは簡単で、ネットにアクセスしなければいいんです。いじめられる側がネットを見てしまうということがすでに、いじめる側の土俵に乗ってしまっています。では、なぜいじめがなくならないのか。そこを考えた方が良いですね。

今回のフォーラムでは話題にしませんでしたが、「みんな仲良く」という哲学は非常にまずいと考えています。フォーラム後の個別質問で親御さんが質問に来られましたが、子どもが4月の最初に友達をつくるためにクラスメイトにどんどん声をかけていったそうです。その時ある子に、話し方をからかわれたそうです。だからその集団に入っていけなくなってしまって、仕方ないから隣の学級の友達と仲良くしているそうです。相談は、その仲良くなれなかった子達とどうしたら仲良くなれるでしょうかという内容で、学級の担任の先生も僕も同じことを言ったそうですが、「相手にしない方がいい」。なぜかというと、こちらが仲良くしましょうと言っているのに、それを馬鹿にするような行動をとるというのは、友達として相手にしてはいけない人たちだからです。近づかない方がいいです。それよりも、そうでない良い友達と、隣のクラスに仲の良い友達がいればその人たちと付き合えば良いと思います。いじめられる子・いじめる子の立場はコロコロ変わっていく事例がよくあって、仲が良いという枠組みの中でいじめは起きています。仲が悪くていじめが起きるのではなく、仲が良いからいじめが起きる。だからそこのところから離れている人達は別にどうでもいいのですね。
僕もわりと集団から離れる方だから、そうするといじめられることがない。気にならない。そうなってきた時に一人で行動すると、「なんだ一人でも大丈夫だ」と、すごく強くなれる。先ほど質問に来ていた別の方も「そうですよね!」と共感してくれました。いじめから救ってあげなければいけないというのも実はちょっと思い込みなんですよね。もちろんいじめといっても、犯罪行動が含まれるいじめと人間関係が上手くいかないといういじめは別にして考えないといけない。日常の、嫌な思いをさせたりさせられたりという人間関係の中で子どもは成長していくものです。
いじめをなくすうえでは、いじめに負けないということも必要だと考えています。そのために教育の世界では子どもたちに高い学力をつけさせたり、運動を一生懸命させたりなど、自分自身の良さを広げていけるようにすることが必要です。学級の中で自分がどう伸びるかということを一生懸命やっている時にいじめなんてする余裕がありません。

教員を目指す学生が周囲にいじめがない環境で育った場合、現場で働き始めてからいじめ対応するためにどのような経験をしておけばいいですか?

まずは今回のようなフォーラムや勉強会に参加して色々な先輩に話を聞きましょう。あとはサークル活動やバイトで人間関係が上手くいかなかったり衝突したりする場面もあると思いますが、その経験自体が現場に入った時の子どもたちのいじめ回避能力につながります。友達と喧嘩したり恋愛したり、全てがコミュニケーションの勉強です。そうすれば現場に入った時、子どもたちの表情の変化に敏感になることができます。

人間関係の悩みの中には、いじめとまではいかなくても、それに近いこともあります。そんな中で、不登校の子や、自殺したりする子もいます。教師という立場から見て、耐えられない子と耐えられる子の違いは明確に分かりますか?

耐えられない子どもは見たことがないですね。自殺というのは、すべての人間関係が断ち切られた時に思うものです。親でも友達でも、誰か一人と繋がっていたら、そう簡単に自殺には至りません。

フォーラムの中で、いじめが起きるのは学級経営の問題とありました。それは一つの方向性へとみんなで向かっていく感覚でしょうか?

一つの方向性というか、一人一人が成長していく、一人一人が未来を見つめていく流れにもって行けばいいです。よくあるけれど、これと似ていて少し違うのは、「コーラスの大会で優勝しよう」というものです。優勝しようということを目標にすると、誰かが「ごめん、わたし今日ピアノあるの。」といった瞬間、「え、帰るの?」となり、そこからいじめが始まらないとも限りません。これが、みんな仲良くの落とし穴ですね。行事を楽しむのは良いですが、それよりも本質的に大切なのは、みんなで勉強しながら、「僕はこの道に行く」「あの子はあの道にいく」「俺はこういう風になっていきたい」というように、みんな熱を持っているが、一人一人が夢を持っている、自立する方向で頑張ってほしいと思います。

先生がクラスをいじめに向かわせないように管理しすぎると、子ども達が人間関係のトラブルを解決できなくなる場合もあるのでしょうか?

そのとおりです。逆に、先生の意向に沿っているか沿っていないかでいじめが始まったり、いじめの中心に先生がいたりなんてことにもなりかねません。それはしばしばあることです。

いじめが起きた時の校長先生の役割は何ですか?

じっと見ていて、クレーマーな親が出てきた時の準備をしています。校長先生は、大人への対応が基本です。保護者が出てこなければ、担任がいじめ対応をします。感情的なクレーマーは、わが子しか見ていないです。冷静なクレーマーは子どもにとってプラスになるか、子どもの成長につながるかという視点を持っています。

フォーラムの中で、いじめられる要素を持っている子どもへの指導の話がありました。具体的にどのような指導されていたのでしょうか?

「服装を直しなさい」など直球で言っていました。貧困家庭でも服装を直すくらいはしますね。貧困家庭の子は、どこか人間関係に飢えているところがあるので、友達と一緒にいて結構楽しいと思う子が多いと思います。喧嘩したりトラブルになったりすることもありますが、友達と居るのはウェルカムなんです。確かに、どちらというと裕福な子がそうなることはあんまりなく、貧しい家庭の子が多いですね。でも、直球で言うと直します。100%は直らないけれど、その子も意識はします。意識して直そうとしていると、周囲の子も認めます。

子どもだと、面と向かって「ここが変だよ」と直球で注意する場合、それが「いじめ」という形で現れるのでしょうか?

そうですね。「先生、私達のこともわかってよ。」というのを、いじめというスタイルで伝えようとする場合もあります。

確かに、周囲の子は、いじめられっ子がその要因を、先生から注意されるのを望んでいるところもありますよね。

そうですね。こうやって指導することによって、周りの子は「あ、先生は私たちの言い分も理解してくれているんだ。」と感じると思います。その上で、いじめている子や周りの子に対して、「あの子は服装が少し臭うかもしれないけれど、それはあの子のせいじゃないでしょ。最近直そうとしているのがわかるでしょ?だったら、仲間に入れてあげなよ。」というように言います。小学生だからというのもあるかもしれないですが、直球で伝えるのが一番よかったです。いじめられやすい要因を持っていても、それを指導してはいけない考えもありますよね。でもそうすると、その子がまた他のところでも同じ理由でいじめに遭うかもしれません。その子の将来のためにも、いじめられやすい要因に対して指導することは必要だと思います。いじめはいじめる子がいるから起こる。どこかでいじめる子が登場すると、いじめられなさそうな子でもいじめられる子に変えてしまう。
(編集・取材 犬塚真優子、田中真奈、宇野元気)

3 隂山先生プロフィール

陰山 英男

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。
兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に就任、2006年4月から立命館大学 教授(立命館小学校副校長 兼任)に就任。現在は、立命館大学 教育開発推進機構 教授(立命館小学校校長顧問 兼任) 。内閣官房 教育再生会議委員、文部科学省中央教育審議会委員、大阪府教育委員会教育委員長などを歴任。

【関西教育フォーラム2016特集企画】もご参照ください ⇒ こちら

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次