読解をもっと楽しくするノウハウ(赤木かん子先生)

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目次

1 はじめに

こちらは児童文学評論家の赤木かん子先生が開かれた、読解に関する勉強会の内容を編集、記事化したものです。赤木先生に関しては、現在の読書傾向やそれに通じた図書館づくりについて伺ったインタビュー記事もございます。ぜひご一読ください。

『よりよい学校図書館づくり~「文化の切れ目」から考える読書~』

2 読解とは

読解とは、文章の内容をより深く理解し、自分の考える力を鍛えるために行うものです。
まずは、読解を行う上で留意すべき3つの基礎的な知識についてお伝えします。

 ①主観の読みと客観の読み

まずは主観の読みと客観の読みの違いについてです。
主観の読みでは自分の好きなように文章を解釈していいのですが、その解釈が本文と対立してはいけません。よって本文の正確な読み取りが求められます。
一方、客観の読みとは学校のテストでよく要求される読み方です。ここでは根拠のない読みをしてはならず、常に論理的な読みをする必要があります。

 ②リアル系と空想系

次は文章の種類についてです。
文章は大きくリアル系空想系の2つに分けることができます。
解説文や生活文、新書に多く用いられるリアル系の文章では、客観の読みをする必要があります。主観の読みをしてしまうと内容を大きく取り違えてしまう可能性があるからです。
一方、小説や絵本に用いられる空想系の文章では、主観と客観どちらの読みも要求されます。先に述べたように、主観の読みが本文と対立してはいけないため、主観にもある程度の根拠が必要となります。よって主観の読みをする際は、想像力ではなく推理力が求められます。

 ③長編と短編

空想系は長編と短編に分類することができますが、この2つはただ1話分の長さが違うだけで、同じように読めばいいと思っている人が多いのではないでしょうか。実は読み方が全く異なるのです。
長編は全体的に細かいところは飛ばして大まかに読んでも内容を理解することができます。しかし、そうした細かい部分を含めてもすべての情報が書かれているわけではなく、想像しなければいけない部分も多くあるため、適宜必要な情報を補いつつ読み進めなければなりません。
短編は1文1文丁寧に読んでいかなければ内容を理解することができません。また情報量が少ないため、書いてあることから書いていないことを引っ張り出す作業が必要です。したがって細かいところまで注意して読まなくてはならないので、長編よりも読解の練習に向いています。

3 読解のノウハウ

それでは、ここから読解のノウハウについて実例を挙げながら説明していきます。

では、島崎藤村の「千曲川旅情の歌」の読解を進めていきましょう。
次の文はその一節です。

小諸なる 古城のほとり 雲白く 遊子悲しむ

みなさんはこの文をどう理解し、どのような情景を思い浮かべましたか。

 ①語句の意味を調べる

まずはよく分からない語句の意味を調べましょう。この場合は「小諸」や「遊子」でしょうか。小諸は地名、遊子は旅人のことです。これは千曲川にいる藤村が書いた詩であり、旅人は藤村本人のことだと考えられています。
この2つから、「小諸という場所にある古城のほとりで藤村が悲しんでいる」ということが分かります。

 ②書いてあることから書いていないことを引っ張り出す

簡単に言うと、文の中に疑問点を見つける作業です。

例えば「雲白く」について、雲が白くなるのはどんな時かを考えます。
具体的には「雲が白い→白くなるのはどんな時?→晴れの日→空が青い」といった形です。
こうしたプロセスで考えていくことで、本文には書かれていないが大切な情報を集めることができるのです。今回の場合は、空の青色と雲の白色のコントラストを思い浮かべることができます。

「悲しむ」の部分も同様に考えてみましょう。
「悲しむ→何に悲しんでいるの?→場所、自分自身」ということから、著者が古びた小諸(古城がある、という情報から)の悲しさと自分自身の境遇の悲しさを重ね合わせているのではないかと推測できます。

 ③書いていないことを補う

続いてはこの文をご覧ください。

おどろくんでない。おらはこの山に一人で住んでいる婆だ。山ンばという者もおる。

『花さき山』の冒頭、女の子に向けた婆の言葉です。
この文から私たちが得ることのできる情報を考えてみましょう。

頭の中で文章に映像をつけてみることをビジュアル化と言います。ビジュアル化をする際、私たちは書くときには必要でない情報をたくさん入れなければなりません。
上の例で言えば、時代、季節、時間、場所、女の子の年齢、容姿、持ち物などの情報が一切記されていませんね。ですが、これらはビジュアル化する際に欠かせない情報です。したがって、本文の内容を否定しないように気を配りつつ、自分で設定しなくてはなりません。

このように多くの要素を見つけ出し、考えなくてはならないビジュアル化は一見子どもたちにとって難しい様に思えますが、ある言葉をかけるだけで誰でも簡単にできるようになります。
「アニメーションの監督になってごらん」といった呼びかけです。単に「その場面の映像を考えてみよう」とは言わず、「監督」という表現を用いることで、興味を引きつけるだけでなく、子どもたちが主人公の様子や背景、他の登場人物など、様々な要素について自主的に考えるのを促すことができます。

 ④数字を使うとクリアになる

これは①~③よりは高度な手順です。登場人物等のサイズを計算してみます。

では、『やまなし』を例に考えてみましょう。
今回は、蟹(1cm)が人間の小学2年生(110cm)に相当すると仮定して、この時の他の登場人物の大きさを調べます。

例えば、蟹の兄弟が魚を眺める場面。魚が約3cmだとして、これを人間の大きさに換算すると3cm×110cm=3.3m。したがって、蟹は3.3mの魚を眺めていることになります。
自分の目の前に3.3mの魚が現れることを想像してみてください。大きさを計算せずに話を読んでいた時より実際の情景はもちろん、蟹の兄弟の内面的な部分も理解しやすくなっていませんか。
このように数字を使うことで、物語の世界観をより正確に把握することが可能になります。

 ⑤その他

この他にも、読解のノウハウは多数存在します。
・反対の言葉を設定してみる
・語句や時代、著者のことを調べてみる
・プラスをマイナスに変えてみる/マイナスをプラスに変えてみる
・二重否定という技術に着目する
著者の境遇や時代背景を知っておくことで、より深い読解が可能となります。
今回挙げたものはどれも重要なテクニックですが、小学生はまず①~③までができればよいでしょう。

4 プロフィール

 赤木かん子先生

児童文学評論家。長野県松本市生まれ、千葉県育ち。法政大学英文学科卒業。1984年に、子どもの頃に読んでタイトルや作者名を忘れてしまった本を探し出す「本の探偵」として本の世界にデビュー。以来、子どもの本や文化の紹介、ミステリーの紹介・書評などで活躍している。(2017年12月26日時点のものです)

5 編集後記

今回学ぶことのできたノウハウはどれも簡単に実践できるものばかりで、私も今後の読解で積極的に活かしていきたいと思いました。読解が上手くできるとよりいっそう本の内容を楽しむことができます。ぜひ多くの教員の方に授業づくりの参考としていただきたいです。(文責・編集 EDUPEDIA編集部 粒來)

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