「集中速習」で漢字を習得!~漢字は出会った瞬間に覚える~(教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー第21回 隂山英男先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた隂山英男先生へのインタビューを記事化したものです。

漢字ドリルの新刊発行にあたり、学習における漢字力の大切さや、子どもの集中力を一気に引き上げる指導法、今回の新刊ドリルのこだわりなど、様々なお話を伺いました。

『小一教育技術』~『小六教育技術』11月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。
教育技術.net

2 インタビュー

①漢字学習について

はじめに、なぜ漢字学習にこだわるのか教えていただけますか?

日本語という言語の根幹はやはり漢字です。漢字で組み立てられた熟語で意味を形成して、それを助詞や接続詞を用いて展開していきます。計算は1~10の数字と+-×÷が基本ですが、言語は基本となる文字がとても多いですよね。最近の子どもたちは読解力が無いと言われますが、読解力がないということの6~7割は漢字力・熟語力だと思っています。

子どもたちに様々な教科の学習をさせますが、漢字力が弱い子は学習全般が弱いのです。漢字力をつけることで学習全体が底上げされるので、量の面でも時期の面でも優先順位を上げてほしい。基礎力がないまま応用をしてもなかなか進みません。

漢字学習が学習全般の骨格をなすという位置づけをまずはきちんとしておいて、より早い時期により高度な漢字力を養成することが必要です。国算理社ができないから国算理社を教えるというのは当たり前に見えて実は当たり前ではなく、まずは漢字や後にお話しする集中力といった基礎的なところを固めるべきだと思います。

では、隂山先生の漢字指導法について簡単に教えてください。

漢字は私自身がとても力を入れて指導してきました。しかし最近になって、一番大事なことを全く分かっていないということに気が付きました。何が分かったかと言うと、子どもが漢字を習得するのは実は簡単なことだったということが分かったのです。

これまでの「徹底反復」の考えは、一般にやられているのは効率が悪いから、教えるべきものを早めに全部教えてしまって、後で何度も反復することで覚えればいいじゃないかという考えでした。

でも今は「集中速習」という言い方に変えて、「教えなさい、覚えなさい」これを土台とすべきとわかりました。子どもに教えると同時に、その場で覚えてしまうことは可能なのだと分かったのです。

今まで漢字指導が大変だった理由は意外にも、指導方法が根本的に間違っていたからです。そして、教師が漢字は長い期間かけて教えないと、子どもたちは漢字を覚えられないと思っていたからです。

小学3年生や4年生は1年間でだいたい200個の漢字を覚えることになっています。これは原稿用紙のたった半分の量でしかありません。そう考えると、何も難しいことはないですよね。

最近スコーラという塾を始めたのですが、その授業の50分の中で漢字指導に充てる時間はせいぜい15分程度です。しかし、それを2ヶ月やると、つまり8回やると多くの子が1年分の漢字を覚えてしまう。強烈でしたね。

②お手本を見て練習することの重要性

子どもたちはどのように漢字を練習すればよいのでしょうか?

従来の漢字指導の問題の一つは、漢字は何回も書いて練習しないと覚えられないという思い込みがあることです。新出漢字を習ったあとに5回も10回も書かせていると、その授業の時間が足りなくなってしまうので、全部宿題に回していました。そうすると、教えてもらった時に覚えようという意識が働かなくなってしまいます。今日の宿題で覚えようとなってしまうのです。

私は漢字に出会った瞬間に覚えなさいと指導しています。そしてすぐにテストします。子どもが漢字を覚えるのに最も効率の良い瞬間は最初に書いた時なのです。

ここで、私が最近講演でよく使うネタを紹介したいと思います。

子どもたちに漢字を教えて、それを6回書かせて習得させているとき、その子が漢字を書き間違えました。ここで問題です。書き間違えたのは1回目ですか?6回目ですか?

この答えはずばり6回目です。子どもが間違った漢字を書いているのは、1回目ではなく、6回目なのです。6回書かせると、間違いの練習をさせる事になってしまいます。

最初の1回目は間違えません。ではなぜ最初に書いたときは間違えないのでしょう?それは、お手本を見ながら書くからです。

子どもたちはお手本をしっかり見ることによって覚えるのです。つまり、子どもたちに漢字を覚えさせようと思ったら、しっかりで手本を見て書きなさいというアドバイスが一番有効なんです。

何回も書くと、その書く作業の方に意識がいってしまって、お手本に意識がいかないんですね。

回数の問題になってしまうんですよね。よく言われる話ですが、最初に「偏」ばかり書いて、次に「旁」ばかり書いて……という宿題は、作業になって、オートメーションでやってしまいます。回数ばかり意識してしまうと、その回数書くことが目的化します。覚えるということがオマケになってしまうのです。

「何回も書くと覚える」ということが錯覚だということは、実はみんな知っています。しかし講演などでは、先ほどの何回目で間違えるかを問う質問で、「1回目に間違うと思う」と答える人が1割か2割はいるのです。子どもたちにとっては初めて習う漢字なので、1回目の方が間違えて書く可能性が高いのでは、と考えてる人も多いのです。

しかし実際に指導してみると、1回目は間違えません。いきなりは書けないから、お手本を見ざるを得ないのです。そのときに一発で覚えてしまいなさい、と指導します。そして、その直後にそのテストするという風にしておくのです。

これには2つ意味があって、1つはやっぱり覚えたかどうかをそこでチェックできるということ。もう1つは、すぐテストがあるから、最初に書くときに集中してそれを覚えようとすること。つまり、集中することによって早く学習ができる。これが「集中速習」です。

③勉強は集中の練習

集中するということは、その学習の密度を上げるというより、そのスピード感のために大事であるということですか?

いや、スピードはある種の手段なんです。時間という枠組みを与えることで、集中を促していくのです。小学生の段階では、集中そのものを自分自身でプロデュースすることがまだ上手くできません。

だから私たちは、速く解かせるとか、時間を制限するとか、タイムを縮めるといったバイアスを与えることによって、「集中する」ということを指導しているのです。

それは勉強に限らず、将来に向けて大事なことのような気がしますね。

そうですね。人類がなぜ勉強するようになったかというと、この脳という、重要な体の一部を最も効果的に使うということが、やっぱり自分たちのその生存というもの確かにしていくという結論にたどり着きました。

じゃあ、この脳みそというのは、どうやったらきちんと働かせることができるかを考えてみたところから「勉強」というものを発明したのではないかと思っています。

勉強は脳を使う練習ということですね。

勉強することは集中するトレーニングだという考えに至ったわけです。その考え方でいくと、徹底反復というのは、ある一定の量を何回も繰り返していくうちに、なんとなくコツがつかめてくるため、だんだんと子どもたちの集中度が上がっていきます。

ある程度、その子どもたちが百ます計算などが速くなってくると、瞬間的に集中モードにするということができるようになってくるわけです。そのことに気がついて、それなら「徹底反復の手法によらずに、いきなりマックスまで集中度を上げる」ことも可能ではないかというところから、「集中速習」でやりましょうということになったのです。

④字を丁寧に書くことと集中力

隂山先生がスコーラで指導されているときに、字を丁寧に書くことや、正しい書き順で書くことを大切にしてると思うのですが、改めてなぜそれらを重視しているのかをお聞きしたいです。

人間は体全体を使って勉強するという考え方でいるわけです。字をきれいに書くことを重視するのは、自分で学習した内容を視覚的に取り入れていくためです。

勉強はある一定の効果的・合理的なアルゴリズムを習得されていくと思いますが、文字を書くというアルゴリズムをもっとも合理的にしているのが書き順だと思います。きれいに書くとか書き順を守るということによって、子どもの側の学習の負担を減らすことになります。そうすることによって、子どもたちの集中が促されるのです。

大変なことを大変だと思ってやろうとすると、子どもたちは、初めの段階で「これはムリだな」と少し引いてしまいます。しかし、子どもたちは「5分でできる」と思ったら集中します。学習に対して負担を下げることは、集中を促すことにつながります。

字がきれい、汚いということをいうとき、多くの場合はその子どもたちの態度の部分に指導のポイントがいってしまいます。しかし、字が汚いのなら、その字のどの部分に問題があるか気づいたり分析したりするよう、子どもたち自身で出来るように促していくことが大事になります。

今回新しく出版するドリルでは、左側に必ずお手本を書いてあって、それを書き写すようにできています。お手本の字とどこがどう違うか分析しましょうという意味なんですよね。それもなかったら個別に四角の枠だけでいいわけですよ。

子どもたちには、お手本の字と自分の字のどこがどう違うのかを考えてほしいのです。態度の問題で言っても、お手本をきちんと見てそれを分析して書きなさいという点に話が返ってくるわけです。

ちゃんと真面目にやれとか綺麗に書けとかいう精神論になってしまいがちですが、一生懸命書いても綺麗にならないと、子どももイラついてきます。「ここを尖らせてみよう」とアドバイスして、尖らせてみると、なんとなくきれいになったような感じがしてくるわけです。そういうことの繰り返しの中で、綺麗な字とか書き順といったものが定着していきます。字が汚い子どもを指導する時には、ただ汚いと言うのでは全く意味がありません。

⑤新刊を用いた指導について

今回の新刊は子どもの集中を促すという点で、どのような仕掛けがなされているのでしょうか?

従来の方法と私が提起する方法は根本的に違うんですよね。漢字テストをするとき、一般的には、「はい、これが漢字テストですよ。やりましょう」で子どもたちが見たことのない問題を解き、答え合わせをし、間違ったものを直します。しかし私はそれとは逆に、先に漢字テストの正しい答えを教え、学習させます。

テストの際に、子どもたちは「答えを教えてくれ!」と思うわけです。そこで「見せてあげるよ」となると、「え、いいの!」と子どもたちは教えてもらった答えを一生懸命覚えようとします。これはある意味で主体的な学習ではないでしょうか。

もう一つこだわっているのが、学校の先生に書いていただいた本当の手書き文字を、なぞり書きのお手本にしているということ。手書き風フォントではなく、実際に書いたものを取り込んでフォントとして扱っています。

自分が書いたものがもっとも綺麗に見えるように仕向けているのです。機械的なフォントだと、お手本通りに書いても、やはり手書き文字とは違いますからね。

熟語の学習についてはどうでしょうか?

漢字が書けることと熟語が書けることは、実は全然違います。漢字テストが解けないのは、漢字が書けないのではなく、熟語が分かっていないからです。

小学校1年生で習う「下」と「水」という字を知っていても、組み合わせて「下水」となった瞬間にわけが分からなくなる子は多いです。下水は地下を流れていますから、子どもたちは当然それを見たことがありません。熟語は熟語として、漢字とはある意味で切り離して、その熟語それぞれの意味を教えなければいけないのです。

今回の新刊では、漢字テストに出そうな熟語をピックアップをして並べてあります。テストに出そうな熟語の八割方は網羅していると思います。熟語については、3回も練習させてからテストをするようになっているのです。

熟語の意味を覚える際に、一番良いのは漢和辞典を使わせることですね。ただ、それは本当に手間暇かかることだし、横着な子はやろうとしないので、意味を全部付けています。

ペン習字の練習と同じなんですよね。熟語を覚えるだけでなく、綺麗な字を書く練習にもなっている。1冊のドリルですが、いかに多くの要素を盛り込んで、1冊で全てが網羅できるかということで相当に考えて作られています。できるかぎり指導する側の負担を軽くすることも考えてあります。

音読用の例文もありますね。

とりあえず音読用の文章を全部読ませることで、どういう漢字を学習するのかのイメージをつかませることができます。たった4ページ分の例文で1年分の漢字を網羅しているのです。

「たったこれだけ」が重要。子どもたちの主体性を引き出す最も効果的な方法は、「たったこれだけ」と思わせることです。意欲的なその学習を引き出していくひとつのコツ、作戦なんです。1年分の漢字は原稿用紙たった半分ですよというのも同じ。現状はそれも365日かけてやるんですよね。

⑥まとめ

最後に、この教材を使う使わないにかかわらず、漢字学習の指導に困っている全国の先生方にメッセージをお願いします。

長い間漢字学習を指導してきて自分自身驚いたことは、「やってはいけないことの中に最も大切なことが含まれている」ということ。テストするときにその答えを教える、って絶対にやってはいけないことですよね。

でも、私がこういう方法でやり始めて、この教材を見せるとそれは「なるほど」と納得してもらえるのではないかと思います。本当に大事なことや良いものを自己規制してしまって、結果として子どもたちを伸ばさないことにも繋がってきてしまっているのではないでしょうか。

多くの人は、子どもたちに漢字を覚えさせるために、漢字練習帳に何回も漢字を書かせるということをやっていると思います。私もそれを長年やってきて、子どもの様子を見ながらわかったことは、あれをやらせるから子どもは漢字を覚えなくなるということでした。

つまり、最初に「偏」だけ書いて、後から「旁」を書くというのは、典型的な例だけど、これは頭を使わないようにすることですよね。これをやると、書く作業ということが学習ではなくなって、単純作業化していって、頭を使わなくさせてしまいます。あれを1年生から6年生までずっとやっていたら、頭を使わなくさせる作業を日本全国一斉に一生懸命にやってたことになってしまいます。

最近、書き順が無茶苦茶な子が増えています。何故だろうと思って子どもたちを見ていると、子どもたちが手本を見ないで書いていることに気が付きました。ではどう指導すればいいかというと、「手本を見なさい」としか言えません。これは江戸時代から続いている古典的な指導ですね。「ちゃんと見て書きなさい」それだけなのです。最も有効な指導法が、最も古典的な方法だったのです。

多くの人はいつも新しいものを考え出そうとしますが、子どもを伸ばす方法はたくさんあります。そういう点では新しいものか古いものかを問わず、何が有効かを考えていくのが大事だと考えます

古いものの良さに気がつかないまま、何か新しいものを生み出そうとしてしまう。ところが、本当に効果的なものを考えようとすると、古典的なものに行きつくこともあります。

そういうことを考えると、これからの授業研究のあり方も考え直すべきではないでしょうか。いかに最新の知見を取り入れるかではなくて、最も効果的なものは何かを考えるということが大事です。

3 隂山先生プロフィール


隂山英男(かげやま ひでお)先生

兵庫県出身。岡山大学法学部卒。
兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。
以後、文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員会委員長などを歴任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授に就任。
現在、隂山メソッド普及のため教育クリエイターとして活動、講演会等を実施するほか、全国各地で教育アドバイザーとして教育現場に関わっている。著書として「 子どもの頭が45分でよくなるお父さんの行動」(PHP研究所)「だから、子ども時代に一番学習しなければいけないのは、幸福です」(小学館)「学力は1年で伸びる!」(朝日新聞出版)ほか。(2018年9月14日現在のものです)

4 著書紹介

※同シリーズの二年生の漢字,三年生の漢字,四年生の漢字,五年生の漢字,六年生の漢字も好評発売中です。

5 編集後記

子どもの学習全般の底上げのためにも、まず漢字や集中力といった基礎から取り組むことが大切なのだと実感しました。漢字に出会ったその時に覚えてしまうという発想は、とても斬新なもので驚きました。今回の隂山先生のお話は、漢字指導に悩まされている多くの先生方の役に立つ話だったと思います。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 瀬崎颯斗、中澤歩)

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