子どもの自己肯定感を高めるための理論と実践

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作成者:伊藤 真琴 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

内閣府「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成25年度)第2部 調査の結果」によると、日本の若者の自己肯定感の低さ、やる気のなさ、将来への不安は突出しています。一方、人工知能の発達により職業・業務・労働のあり方が変化していく時代に、今までと同じ選択や考え方で、幸せに生きる若者は育つのでしょうか?

そのような問いかけから始まったのが、一般社団法人子供教育創造機構「キンダリーインターナショナル」です。学童保育を兼ねながら、子どもに様々な経験をさせ、子どもが自己肯定感を高め、さらには社会へ大きく踏み出せるように、様々な取り組みを行っています。

今回は、2019年9月4日に、キンダリーインターナショナルの森博樹さん、赤井友美さんに、お話を伺いました。本記事では、主に小学校低学年の子どもの自己肯定感を高めるための理論と方法をご紹介します。

☆キンダリーインターナショナルのHPはこちら

2 マルチプルインテリジェンス理論

今回取材したキンダリーインターナショナルでは、マルチプルインテリジェンス理論に基づき、子どもに多様な分野の経験をたくさんさせ、その中から自分の好きな領域・得意な領域を見つけていけるようにしていました。

マルチプルインテリジェンス理論とは、ハーバード教育大学のハワード・ガードナー氏が唱えたもので、人間の個性は「8つの知性の組み合わせと、その強弱」であり、8つの知性の中で得意な方向からアプローチすることで、その人に合った力の伸ばし方ができるという理論です。この中に、子どもたちの好きな領域・得意な領域があります。

3 社会性と情動の学習「SEL」

また、キンダリーインターナショナルでは、社会性と情動の学習と呼ばれる「SEL」の理論に基づいた実践も行われています。

SEL(Social and Emotional Learning)とは、社会性や感情のコントロールなど、対人関係構築能力を身につけるための心理教育プログラムの総称です。欧米諸国ではその重要性が唱えられ、広く実践されています。

SELでは、
1. Self Awareness(自己理解)
2. Self Management(セルフマネジメント)
3. Social Awareness(社会理解・他者理解)
4. Relationship Skill(対人関係スキル)
5. Responsible Decision Making(責任ある意思決定)
の5つの能力を、学校・家庭・地域社会の中で育んでいきます。

本記事ではまず、これら5つの力を簡単に説明します。

☆参考リンクはこちら

1. Self Awareness(自己理解)

自分自身の感情・考え・価値観を理解し、それらが自分の他者に対する行動にどう影響しているかを理解すること。そして、自分の強みや限界を正確に評価すること。具体的には、感情の確立、正確な自己の知覚、強みの理解、自信や自尊心、自己効力感を育むこと。

2.Self Management(セルフマネジメント)

困難な状況下でも、自分の感情・考え・行動をコントロールすること。具体的には、衝動のコントロール、ストレスへの上手な対処、自分を律する力、セルフ・モチベーション、個人のゴールを自ら設定する力、自らを統合する力を育むこと。

3.Social Awareness(社会理解・他者理解)

多様な経歴や文化を持つ他者に対して共感すること。家族・学校・地域コミュニティを承認し、社会的・倫理的に理解できること。具体的には、他者の視点を想像する力、共感力、多様性に対する高い理解と評価、他者を尊敬する心を育むこと。

4. Relationship Skill(対人関係スキル)

多様な個人や集団と、適切に関係を構築し維持すること。具体的には、簡潔なコミュニケーション能力、傾聴力、不適切な社会的圧力に抵抗する力、課題や紛争解決に向けた交渉力、他者を必要に応じて助けられる力などを育むこと。

5. Responsible Decision Making(責任ある意思決定)

倫理基準、安全面での配慮、社会的規範に基づいて、個人の行動や社会的相互作用について建設的な選択をすること。様々な行動の結果に客観的評価を下し、自分や他者の幸せに思いやりを持つこと。具体的には、問題の特定や課題設定、状況の分析、問題解決、評価、他者からの反響の受容、倫理的責任を育むこと。

4 SELの実践

それでは、SELの実践とはどのようなものなのでしょうか?

小学校低学年が多く属するキンダリーインターナショナルでは、SELの中でも特に
1. Self Awareness(自己理解)
2. Self Management(セルフマネジメント)
を重視しているとのことでした。森さんは、こうお話しします。

「私たちは、SELの1番の基礎であるSelf Awareness(自己理解)を大事にしています。子どもたちはまず、自分が今イライラしているとか、こんな時に自分はどうなるとか、自分の特性をちゃんと理解する必要があります。自己理解のためには、『人に聞いてもらうことで言語化すること』が必要不可欠です。子どもは普通、意識が自分の外側に向いているので、問いかけをされることで、自分と向き合い、自分を理解する機会と時間を創り出します。そうすることで、子どもは初めて、自分がどうしてイライラしているか認知することができ、自己理解が深まるのです。

次に、Self Management(セルフマネジメント)を身につけさせます。子どもたちは、イライラするようなことがあっても、自分の思考や行動を自分でコントロールできるようになる必要があります。

なぜこれら2つを重視しているかというと、この2つが安定しないと、残りの3つの力は身につかないからです。いろんなものを作ったり人と関わったりすることはよく『社会性』と言われますが、その前にまず、自己認識やセルフマネジメントの練習が必要だと私たちは考えています。」

5 子どもと接する時に気をつけていること

次に、SELを実践していく中で、子どもと接する時に気をつけていることを聞いてみました。

「まず、評価判断、そして否定をしないことです。例えば、喧嘩そのものを否定することはしません。喧嘩はそれぞれの想いがあるから起きるので、お互いの想いを共有することが大切です。とはいえ、体が小さい子はどうしても相手が怖くて黙ってしまうこともあるので、その場合は職員が間に入って状況を整理し、それぞれの想いを、その場で共有してもらうようにしています。喧嘩が起きた時に『謝りなさい。』とすぐに言うのは本質的な解決ではなく、大人がそう接してしまうと子どもは何度も喧嘩を繰り返してしまいます。

解決しなくてもいいんです。話す順番を決め、事実の整理をして、気持ちを整理し、話し合いをします。どうして自分がそう思ったのかを考えさせます。あとは子どもたち自身で解決できるよう子どもに委ねます。」

6 子どもの成長を感じた点

それでは、SELを実践していく中で、どんな子どもの成長があったのでしょうか。

「子どもたちは、自分と向き合う時間を定期的にとることで、自己理解力がついていると思います。それによって、圧倒的な精神的成長が感じられます。SELの中でも特に重視しているSelf Awareness(自己理解)とSelf Management(セルフマネジメント)については、実際にその効果を感じていますね。

また、キンダリーインターナショナルで様々な経験をさせていることで、自分の好きな領域を見つけられた子どもは多いです。経験を積んで、いろんな言葉を聞いて、その中で何となく自分の好きな、興味のある領域に気づいていけるんです。子どもたちがその領域に気づくためには、ある程度の量の経験を大人が与えなければなりません。毎日いろんなことをやってみて、『あっ、自分はこれかな』と自覚できる状態を作ろうとしています。実際に子どもたちは、自分の好きな領域を見つけていっていると感じます。」

7 困難だった点

SELを実践していく中で、困難だった点は何なのでしょうか。

「親が子どもに自分の価値観を押さえつけてしまうことです。私たちは、子どもの可能性を育てるため、SELやマルチプルインテリジェンス理論に基づきディベートやプレゼンテーション、哲学対話、内省などの時間をとっています。しかし、時には親が子どもに『そんなことより勉強をしなさい。』『かけっこで1位になる方が大事でしょ?』と声をかける場面に遭遇するんです。

子どもの人生は、親の価値観に左右されやすい。なぜ私たちが価値観を押さえつけることに抵抗があるかというと、今が時代の転換期だからです。例えば、70年前、戦争の時代には、ものがあること自体が素晴らしかった。でも、今はどちらかと言うと、ものよりも体験が重視される時代ですよね。車でさえシェアする時代ですし。そんな風に、価値観は社会の変化に応じて変わっていきます。親が自分の時代の価値観を子どもに押し付けてしまうのは、子どもにとってリスクになる可能性があります。親や先生が、自分の価値観が今の時代に適応しているかを確認することが大事です。」

8 学校でのSEL実践例

それでは、学校でSELを実践している例はあるのでしょうか。

「カードを使ってその時の自分の気持ちを言葉にするやり方は、学校でもできる自己理解の方法です。例えば、小学1年生だと言語能力が低いので、単語がなかなか出てこないですし、自分の気持ちを言語化するハードルが高いんです。

このカードは、まず自分の今の気持ちを表す黄色のカードを選びます。そのあと、『なぜこの気持ちなんだろう?』という問いかけをしながら、自分の感覚にぴったり合う赤色のカードを選びます。このように、まだ言語化にハードルのある子どもには、カードを使いながら自分と向き合わせるのが有効です。」

9 紹介

今回は、一般社団法人子供教育創造機構 キンダリーインターナショナルの、森博樹さん(右)と赤井友美さん(左)に、お話を聞かせていただきました。

最後にお二人は、こうお話しします。

「自己肯定感と自己受容は違うと考えています。自己肯定感と言う方が一般的に伝わりやすいため自己肯定感という言葉を使っていますが、私たちが育みたい感覚は自己受容感です。自己肯定感は高まりすぎると、他人の否定に繋がり相手を傷つけてしまうことがあります。そうではなくて、『自分はこのままでいいんだ。』と自分で自分を認めてあげられることを重視しています。

そのような自己理解をクリアしつつ、たくさんの経験をさせることで、その中から子どもが自分のやりたいことを見つけていってくれるといいと思っています。自己理解することで自分の強みがわかり、それは自己肯定感が高まることに繋がりますから。」

10 編集後記

今回は、マルチプルインテリジェンスやSELの理論をもとに、子どもの自己肯定感を高めるための実践についてご紹介しました。子どもの自己肯定感を高め可能性を広げることは、大人が子どもに対する日頃の接し方を変えたり、問いかけの習慣をつけたりすることから始められるように感じました。本記事が、全国の先生方の参考になれば幸いです。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 伊藤真琴)

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