紙とエンピツがなくても大丈夫!? 暗算の授業

1 暗算の授業なのに、暗算になっていない授業をしてしまうことがないだろうか

どういうことかというと、口では、『暗算の仕方を考えましょう。』と言うが、授業では、かけられる数を十の位と一の位にわけて、そのそれぞれをひと桁のかける数でかけ、合わせて答えを出すという、その計算に没頭してしまう。教科書がそのようになっているからだろう。そして、子どもはというと、その計算を、ノートに向かってやっているだけだ。そういう授業をしてしまっていることはないだろうか。もしそうなら、その授業は、まったく暗算をしていないことになる。

もう一つ、問題点がありそうだ。

それは、上記の一通りの解き方しかないような授業にしてしまっていることだ。そんな問題を感じていたとき、初任者がすばらしい授業をやった。今、その授業の概略を紹介させていただこう。それによって、暗算の授業にふさわしい授業のあり方を考えてみたい。

まず、問題の投げかけ方が違っていた。

「今、文房具屋さんで画用紙を買おうとしている。あわてて買い物に来たから、紙もエンピツも持っていない。画用紙は1枚25円だ。それを3枚買いたい。いくら払えばいいか、暗算しなければならないよね。みんなだったらどうするかな。」
ねっ。こういう問いかけをすれば、子どもたちは、今、目の前にノートとエンピツはあっても、暗算しているつもりになって、『ぼく、わたしなら、このように考えて答えを出す。』ということをノートに書きだすというわけだ。

担任は、机間巡視をする。そして、子どもたちがどんな考えで答えを出そうとしているかを見てまわる。

子どもたちの考えは多様だ。おもに4通りの解き方があるなと感じられた。そこで、それぞれの解き方の代表選手(?)1人ずつを指名し、画用紙にその解き方、考え方を書いてもらった。今、ここでは、4人の解き方のみを紹介する。

  • Aちゃんは、25+25+25=75
  • Bちゃんは、25×2=50 50+25=75
  • Cちゃんは、20×3=60 5×3=15 60+15=75
  • Dちゃんは、25×3=75

ここでは、式しか示さなかったが、実際は、『25を20と5にわけて、~』というように、考え方も含め、文章も書いている。

それぞれ、4人は前に出て、なぜそのようにして解いたかを説明する。

他の子たちは、それを聞きながら、自分と同じ解き方の子に賛成したりつけたしたり、自分と違う解き方の子には、どうしてそのようにして解いたかを質問したりする。そのようにして、授業は進んだ。代表選手(?)の説明、そして、つけたし、質問などを合わせると、それぞれは、次のような考えのもとに、解いていったことが共通理解できた。

Aちゃん方式

Aちゃんは、かけ算で解けることは分かっている。でも、かけると繰り上がりがあるからめんどうだ。暗算では、繰り上がりの処理がむずかしそう。それで、全部足せば簡単に答えが出せる。そう考えた。Aちゃん以外に、10円玉と5円玉をイメージして説明した子もいた。この解き方は、どちらかというと、学力の低い子が支持した。でも、違う解き方の子のなかにも、この解き方を応援する子が何人も現れた。
「枚数が多くなると暗算で全部足すのは無理だけれど、3枚なら暗算でも楽にできる。」
「4枚だって大丈夫だよ。25+25+25+25ってやったら、暗算だと、何枚足したか途中で分からなくなりそうだけれど、でも、25+25が2回分だと思えば、まず2枚足して、その答えは50だから、次は50+50でいい。暗算だって簡単。」

Cちゃんの解き方

この説明はここでは省略させていただこう。冒頭ふれたように、教科書に出ている解き方だし、一番オーソドックスで、多くの子がこの解き方で解いた。

Dちゃんの解き方

これは、反対意見が多かった。この解き方は、これまで学習してきた筆算の解き方と同じで、そんなのは暗算では無理というのだった。でも、これは、Dちゃん自身が説明してくれた。
「筆算と同じだけれど、頭のなかでできる。初めに5×3をやって、十の位の1と一の位の5を分けて覚えて、次に2×3をやって6でしょう。6は十の位だから、さっきの1を足せば7になる。つまり70ということ。それに別に覚えておいた一の位の5を足して、答えは75。そのように、繰り上がりはちゃんと覚えておけばいい。」
どちらかといえば、学力の高い子が、この解き方を支持した。でも、
「今のわたしは、この解き方は無理。自信がない。」
「答えが合っているかどうか心配になっちゃう。」
と言われて、多くの子はこの解き方を支持しなかった。

Bちゃんの解き方

これはちょっと物議をかもした。それにこの解き方で解いた子は、Bちゃんしかいない。『なぜ2枚分だけかけ算でやって、後の1枚は足したのか。』というわけだ。Bちゃんはちゃんと説明してくれた。
「3をかけると繰り上がりがあるでしょう。だから、2をかけたの。」
「2をかけたって繰り上がりがあるじゃん。」
「でも2なら、2×5で一の位はゼロだから、一の位を覚える必要はなくて、だから、繰り上がりがないのと同じ。」
「ああ。なるほどね。」
「でも、かけ算で真剣になっちゃうと、もう1枚足さなければいけないのを忘れそう。」
「そうだね。ぼくも忘れそうだから、この解き方はしない。」
「でも、忘れる心配のない子は、この解き方はすごくいい。頭のなかで楽にできそうだ。安心できる。」

授業の紹介は以上だ。

子どもたちの目の前には、ノート、エンピツ、画用紙、サインペンなどがあった。黒板も使った。
しかし、子どもたちの頭のなかには、終始、『暗算をしているのだ。』という意識があったことをご理解いただけただろうか。

放課後、初任者である担任に次のような話をした。

Bちゃんの解き方はすごくいい。解きにくいなと思ったら、解きやすいやり方を考えることだ。あとで、足し算で調整すればいい。たとえば、9枚買うとする。その場合、×9を暗算でやるのはかなり大変だ。しかし、10枚かけてしまって、そこから1枚分引いた方が暗算しやすいということはかなりあるだろう。現にわたしは、生活のなかで、こうした手法を大いに活用している。そのように、応用がきく解き方だ。うんと、推奨してやってほしい。

最後に、学習指導要領算数では、目標として

算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数的活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度を育てる。を掲げる。

とかく、現代は、このなかの『基礎的・基本的な知識及び技能を身につけ』ばかりを重視し、他は無視、あるいは軽視する傾向にある。

それでは、せっかく身につけたと思われる基礎・基本も、うすっぺらで表面的なものにならざるをえず、応用のきかない単なる暗記になってしまう。また、すぐ忘れてしまったり、勘違いしてしまったりしそうだ。

どうか、楽しく充実した算数学習を行うことによって、生きてはたらく基礎・基本の習得を目指してほしい。

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