1 はじめに
本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。
( http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/)
また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。
第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA
2 個が輝くテニピン&ショートテニス&ショートテニスの教材創り(~攻守一体ネット型ゲームの導入を目指して~)
1.はじめに
学習指導要領が改訂され 、ボールゲームにおいては、種目提示型から戦術をもとにした球技分類論 (L.グリフィンら,1999)に基づき、ゴール型、ネット型、ベースボール型へと類型された。高橋(1993)の分類によるネット型スポーツは攻守一体型と連携プレイ型に細分される。学習指導要領においては、例示にソフトバレーボール、プレルボールが示されているが、いずれも連携プレイ型である。一方で、攻守一体型の運動は例示されていない。また、中学校や高校では、テニスや卓球、バドミントンなど、攻守一体型の運動が取り上げられているにもかかわらず、小学校段階での実践は少ないといった現状もある。これらの理由としては、用具を介して運動することの難しさ(用具を操作する技能面、打点に入る動き)、用具や場の問題、運動量の問題、攻守一体の難しさなどが挙げられる。
このような問題があることは承知しているが、生涯スポーツの実現が目指される今日、多種多様なボールゲームに触れる経験や中学校や高校への系統性といった観点から、小学校段階で用具操作のある攻守一体のネット型ゲームを扱うことには意義があるのではないだろうか。
また、ネット型教材で一般化しているソフトバレーボールは、学習指導要領において、中学年では「ラリーを続ける」、高学年では「チームの連係による攻防」を目標としている。しかし、実際には特定の子しかボールに触れていないゲーム、単発で得点が決まりラリーが続かないゲーム、一発返しや上手な子だけで返球してしまい連係プレーには程遠いゲームが展開されている。このような様相は、他のボールゲームでも課題とされており、ボールに触れる機会や自分が得点できる機会が保障されていないことが多い。
本論考では、これまで攻守一体ネット型が取り上げられてこなかった背景に鑑み、攻守一体ネット型ゲームの教材を考案、実践することを通して小学校段階における攻守一体ネット型ゲームの教材価値を探究し、導入することの理論的根拠を明示していきたい。
2.攻守一体ネット型ゲームの教材づくり
(1) ショートテニス及びテニピンの特性
ショートテニス及びテニピンは、どの子も用具を操作しボールを必ず打つことができ、授業に参加する全員に得点できる機会が保障されたゲームである。全員が均等にボールに触れる機会が保障され、全員に同じだけ得点できる機会が保障されていることで個が輝く場面が他のボールゲームの運動よりも増える。よって、技能上位の子が目立つ、特定の子しかボールに触れないといった、これまでボールゲームに見られた問題の解決にもつながる。
(2)教材の考案
3 攻守一体ネット型ゲーム型導入の理論的根拠の理論的根拠について
これまで小学校において攻守一体ネット型ゲームが取り上げられてこなかった背景に鑑み、攻守一体ネット型ゲームの問題点を以下の4つに整理した。そして、授業実践を通して4つの問題点の解決にせまった 。
(1)道具を介して運動することの難しさ
難しいとされる用具を介して手から離れた所で打つ技能については、自分専用のラケットを一人一人が持つことができるので、児童の意欲や関心を高めやすく、個々の活躍の(個が輝く)場を必ず保障できるよさがある。こうしたよさを生かし、個のめあてに応じた用具操作の時間を十分に保障する。また、手に近い所から打てる段ボールラケット(テニピン)からミニラケット(シュートテニス)にシフトさせることも有効な手立てとなった。
(2) 用具、 場、運動量の問題
用具は、年々改良され、児童の実態に合ったものを安く購入できるようになった。一度購入すれば長年活用できる。運動量は、1時間を通しての保障していくことが大切である。ドリルゲームやタスクゲーム、チームの時間において用具を介したボール操作や戦術的な動きにたっぷり触れさせる単元計画を立てることが必要である。また、ペアで交互に打つルールにすることで、ゲーム中の十分な運動量も保障できた。場については、ダブルス形式にすることにより5コート(40人学級)で行うことができ、場作りに負担を感じることがない上に、児童に十分な運動量を保障することができた。
(3) 攻守一体ネット型ゲームの難しさ
攻守一体ネット型ゲームは人やボールが入り乱れる複雑さがなく、取り組みやすい要因となる一方で、個のミスが目立つ、ラリーが続かないといった難しさがあるのは事実である 。本実践では 、こうした攻守一体型の難しさを解決すべく、「4回打ってから攻撃してもよい」というルールの工夫を加え、みんながボールに触れ、ラリーを続ける楽しさを体感させた。まずは「そのゲームの楽しさは何か」を考え、児童が体感できるようにルールを工夫することは「難しさ」の解決につながる。また、ダブルス形式で行い、打った後のボールを打たない時の動きにも着目させた。個のミスをペアでカバーしようという気持ちが生まれ、チームで個の課題解決にむけて練習するチームも見られた。
(4)攻守一体ネット型ゲームの系統性
小学校段階で攻守一体ネット型の運動を経験することは、道具操作や空間認識の面で学校や高校の学習内容に転移すると考えられる。一例として、テニピンからショートテニスの系統性を右のようにまとめた。
(5)形成的授業評価形成的授業評価注2)の推移
本実践では、毎時間形成的授業評価を実施し、指導の手立ての一つの指標とした。すべての観点において、高い数値を示している。特に成果や学び方の観点が右上がりになっていることは、個人やチームの課題について深く考え、解決しようとしていた姿として見ることができる。形成的授業評価の推移からも、攻守一体ネット型ゲームは小学校体育において有効な教材であると言うことができよう。
4 まとめ
本論考の目的は、これまで攻守一体ネット型が取り上げられてこなかった背景に鑑み、攻守一体ネット型ゲームの教材を考案、実践することを通して小学校段階における攻守一体ネット型ゲームの教材価値を探究し、導入することの理論的根拠を明示することだった。
攻守一体ネット型ゲームの問題点を「 ① 道具を介して運動することの難しさ② 用具、場、運動量の問題③ 攻守一体ネット型ゲームの難しさ④ ネット型の系統性」の4つに整理し、テニピン及びショートテニスの教材を考案し、授業実践を行った。上記した問題点は、教材やルールの工夫、単元計画の工夫、学習内容を明確にすることで解決することができた。児童の学びがいかに充実していたかは、ゲームの様相や形成的授業評価の推移によって明確となった。また、攻守一体ネット型ゲームがもつ、「個が輝く」という特性が児童の興味関心に変わり、個々やチームの明確な課題意識による活動、振り返り、そして学びの充実につながったと捉えている。
今後の小学校体育においては、学習指導要領の「ネット型」という枠に、個が輝く易しい攻守一体ネット型ゲームの授業を導入することは、小中学校のネット型の系統的な学びに有意義な影響を及ぼすであろう。また、多種多様なボールゲームに触れる機会が保障されることになり、生涯スポーツの実践者の増大にもつながってくのではないだろうか 。
一方で、多種多様なボールゲームが存在する中で、攻守一体ネット型ゲーム「テニピン」「ショートテニス」の2つをカリキュラムの中に位置づけることは難しいだろう。2つの実践を今後も行いながら、良さを集約して1つの単元としてまとめ、実践を報告したい。そしてボールゲームカリキュラムのスコープ(内容)及びシークエンス(配置・系統)を考慮した上で何学年に位置づけるかを検討していきたい。
注1)本研究においては、高橋が提唱している「攻守分離系の攻守一体型」を「攻守一体ネット型ゲーム」と捉えていくこととする。
注2)毎時間終了後に児童にアンケートを配り、各項目を3段階で評価をさせる。個人及び、チーム、クラス全体の「総合評価、成果、意欲関心、学び方、協力」の5観点の評価分析を行い、指導に活かそうとするものである。
5 参 考 文 献
1)Almond,L.(1986)Reflecting on Themes:A Games Classification.In Thorpe,R.,Bunker,D.,&Almond,L.
(Eds.),Rethinking Games Teaching.Loughborough:University of Technorogy:71-72
2 ) グリフィン. L他 (高橋健夫他監訳)(1999)ボール運動の指導プログラム−楽しい戦術学習の進め方−.大修館書店.
3)文部科学省(2008)小学校学習指導要領.
4)高橋健夫(1993)「これからの体育授業と教材研究のあり方」体育科教育 41(4):19-21
5 )高橋健夫(1994)体育の 授業分析の方法.高 橋健夫編.体育授業を創る.大修館書店:233-245
6 講師プロフィール
いまいしげき 1979年生まれ。長野県出身。使える授業ベーシック研究会常任理事。メールマガジン「教師の知恵ぶくろ」編集委員。2008年度から2010年度まで天津日本人学校に派遣された。著書「見通しを持って楽しむやさしいボールゲーム」(学事出版)、「あすの授業アイデア チョイ引き活用辞典」(分担執筆、学事出版)。第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞
7 引用元
第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『個が輝くテニピン&ショートテニス&ショートテニスの教材創り~攻守一体 ネット型 ゲーム注 1 )の導入を目指 して~』,東京学芸大学附属小金井小学校 教諭 今井茂樹より引用
本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。
第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA
8 東京新聞教育賞について
「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。
学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。
募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。
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