とにかくたまらんわ つぶやきを言葉にー詩を書くまでのひとつの提案・授業(今井成司先生)

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目次

1 はじめに

東京作文教育協議会・会長、元杉並区立公立小学校教諭の今井成司先生の実践です。
 この記事は、今井先生からいただいた資料をもとに作成しています。
 詩全体からつぶやき(気持ち)を読み取ったり、つぶやきを言葉にして詩を書く実践です。

2 とにかくたまらんわ(小学校3,4年生)         

※この文章は実際の授業を基にしていますが、記録が完全でないため提案のような形で書かれているところもあります。前半はほぼ実際の通りですが、授業の2時間目は記録がなかったのでかなり記憶に頼って書かれています。

1.つぶやき一覧表作ってみよう

日曜日の朝、なんとなくテレビを見ていました。役者の平田満と風間杜夫と根岸季枝が対談していました。彼らが役者として世に出たころの話でした。そのとき、風間がこう言いました。
「つか先生はぼくらの顔をみるなり、‘とにかくたまらんわ‘と言うんだよね。口癖で。あれにはまいったよ。」
よしこれだ。つかこうへいの「とにかくたまらんわ」を頂こう。
翌、月曜日から私の担当する国語では、詩を書かせることになっていました。教科書では「心にとまったことを書こう。つぶやきをことばに」(4年・光村下)となっています。ここをどうやるか迷っていたところでした。
早速、この種のつぶやきを書き出してみました。

  • ①とにかくたまらんわ。
  • ②もう、やってられないよ(見てられないよ、など)
  • ③00さんは、いつもこうなんだから。
  • ④ええ、それって違うんじゃない。
  • ⑤いくらそういわれたって・・・
  • ⑥そんなことあるかよ。
  • ⑦ねえみんな、こんなことってある。
  • ⑧ほんとは秘密だよ。
  • ⑨あなただけに教えます。
  • ⑩00って、△△なんだ(例・先生って子どもだよ)
  • ⑪00ありゃあ、何だ。(例・つけもののおもし、ありゃあなんだ。)
  • ⑫こんな自分に飽き飽きしたよ。
  • ⑬まったく00だぜ。
  • ⑭おおい00よ。
  • ⑮オレ、自分じゃなくなっちまったよ。
  • ⑯こんな自分でいいのです(いいのかな、もあり)
  • ⑰00なところがいいなあ。(例・やさしいところがいいなあ)
  • ⑱この気持ち、分かってくれよ。(やっぱりだめかな、もあり)
  • ⑲00君、これ知ってる?
  • ⑳こんなこともあるんだね。
  • ㉑へい、そうなの。
  • ㉒あれ、そうだったの。
  • ㉓ちょう、むかつくよ。
  • ㉔00、まんざら捨てたもんでもないよ。
  • ㉕そりゃ無理だよ。
  • ㉖おっと危なかったぜ。
  • ㉗?あるいは・・・など〔言葉にならない感じ〕

これで、授業をしてみようと思いました。

このつぶやき一覧表を作りながら、考えました。初めは、つぶやきそのものを書かせてみようかと考えていました。しかし、途中で、おそらくそれでは無理だろうと思いまいた。「とにかくたまらんわ」と書いてしまえば子どもは、もう終わった、としてしまうでしょう。

とにかくたまらんわ。
 お母さんは
 勉強、勉強と言ってうるさいんだから。

これでは、説明となってしまいます。「とにかくたまらないこと」を後の文で説明しているだけです。分かることは分かりますが、これ以上のことは読み手には伝わりません。イメージも弱いです。「つぶやき」や「叫び」や「おしゃべり」を書かせて詩的な表現をさせることは、いい方法だと思いますが、小学校3,4年生になるとどうしても、説明意識が働いてしまいます。つぶやき、叫びのもとになることを上記のように説明して相手に分からせたくなります。したがって、つぶやきをそのまま書いて詩にするには、それなりの力が要求されるのです。(あるいは、自然発生的な時には、うまくいくのです。一斉指導では難しいということ。)
 つぶやきを詩に書くことに、私は賛成です。思わずつぶやいてしまうその言葉には、ある種の感動がこもっているからです。ところが、その感動があるがゆえに、その言葉の独立性が強く、それだけで済んでしまうのです。これもまた、詩にはふさわしいのです。しかし、第三者には、その場面にいないものには、イメージが作りにくい、感動を共有するのが難しいという一面もあります。その足りなさを補おうとして、説明を入れてしまうのだともいえます。表現の足りなさに耐えうるだけのつぶやきなのか、別の言い方をするとつぶやきだけで表しきれているかということです。ここに、つぶやきだけで詩を書いていく難しさがあると思いました。

だから、つぶやきがわいてくる場面を、普通の散文の形・散文詩で書かせてみようと思いました。
そこで、わたしは、この一覧表を使って違う授業をしてみようと思いました。

2.詩の中につぶやきを見つけよう〔授業から)

— この詩にはどんなつぶやきが入っているのかな ——

つぶやき一覧表の他に、子どもの詩を10篇プリントしました[5枚]。作品は「ないしょみつけちゃった」〔百合出版・現在は、本の泉社版〕から選びました。つぶやき一覧表は、黄色い紙に印刷して詩の載っているプリントと区別しやすくしました。

プリント〔黒板にもこれと同じものを拡大して張りました〕

「つぶやきをことばに」
次の詩はどんなつぶやきが、このような詩になったのでしょうか。(     )にそのつぶやきを書き入れましょう。


.

      
このような詩の載せてあるプリントを5枚用意しました。この時間は、2枚。

授業の実際

はじめに、つぶやき一覧表を配りました。〔黄色い紙に印刷したもの〕
「次のような言葉が、詩になります。」と言って「『とにかくたまらんわ』と言いたくなるときあるよね。」と言うと、「ある、ある。」とその事を言い出す子もいます。「そう、それ、それ。」「ぼくもある。」そして、「後で教えて。」と言って次へ行きます。「もう、やってられないよ。−こんなこともあるよね。」というようにして㉗番まで読みながら、子どもの話を聞きながら、みんなで見ていきました。
 全部見終わってから、詩の印刷してあるプリントを配りました。
 
 「これから読む詩の中には、黄色い紙に書いてあるようなつぶやきが入っています。どんなつぶやきかな。見つけてください。ひとつとは限りませんよ、いくつ見つけてもいいです。」と言って、「バタフライ」を読みました。子どもたちは、一覧表を見ながら「あった。これだ。」といいながら題名の前にある(    )の中につぶやきを書き込みました。それを発表しました。

  • とにかくたまらんわ、だと思います。

そうだね、そんな気持ちが分かるね。

  • コーチはいつもこうなんだから。

困ったなあと言う気持ちかな。

  • もうやってられないよ。

そういう感じも伝わってくる。

  • 俺の気持ち分かってくれよ。

誰かにそういいたくなるということ

  • そりゃあ、むりだよ。

なるほど

こんなやり取りをします。「それ、ぼくも同じ。」などと発表しなかった子も参加します。子どもたちの言った言葉〔太字部分〕は板書しました。そして、このバタフライと言う詩を読むと、「とにかくたまらんわ、いつもこうなんだから、もうやってられないよ、俺の気持ち分かってくれよ……。こんなつぶやき、気持ちが伝わってくるんだ。」と、板書の詩、全体をさして言いました。

「これが詩なのです。」

と言って、黒板にはっておいた『バタフライ』の詩全体を赤色のマジックで囲みました。「みんなもプリントに同じように赤で囲んでください。」子どもたちは「題名も囲むの」などといいました。「そう。題名もだよ」。その後で、その囲み線の上に「詩」と大きく書きました。子どもたちも同じように書きました。「この赤く囲んだところが詩です。」こう書くと、「とにかくたまらんわ」とつぶやきが直接書いてなくても伝わるんだよね。(題名を含めて、「詩」とします。)

では、「この囲んだ中を読みましょう。」と言って全員で音読しました。
 こう書いてあるから(    )に書いたようなことが感じられるのです。 
 「みんなも詩を書くときには、こんなふうに書くんだよ。」


 「では、『夕ごはん』を見てみましょう。」
 ここでも前の「バタフライ」と同じように進めました。

子どもたちは

  • とにかく、笑いが止まらんわ〔自分の言葉に代えていい?と聞いた子の発表です〕
  • あれ、そうだったの。

うん、こう言うのもあるね

  • てつやはいつもこうなんだから

これは、お兄さんらしい感覚だ。

  • へえ、そうなの

まさかとは思うが、軽いのりかな。

  • そんなことあるかよ。

と言いたくなる。

  • ばっかじゃねえの。

あきれたというわけ。

  • それって、違うよ。

と、教えてやりたい。

(太字は子どもの発言。)
板書を見ながら、「こんな気持ち、感じが伝わってくるんだ。1つじゃなく2つ、3つも感じたり、また読む人が違うと、違う感じがするのも、詩の面白さなんだね。」「それが、詩です。」と言って、またこの詩全体を赤で囲んでもらいました。(言わないうちからもう何人も赤で囲んでいました。)囲んだところを指して、
「こう、書くと、つぶやきや気持ちが伝わってくるんだよね。」
そして、みんなで音読しました。
「みんなにも後で、詩を書いてもらいます。どんなことを書くか、見つけておきましょう。」〔授業終了〕

この日、私が担当している理科の授業についての宿題プリントを出したところ、一人の子は、その用紙に理科のことには触れずに、国語の授業のことを書いてきました。ここまで理解してくれたかと嬉しくなりました。

友達の話した感想まで書かれていました。

3.ある日の出来事から、心に感じたことを書こう

次の時間は、どんなことを書くのか、どんな書き方をすればよいのかにも触れながら前回と同じような授業をしました。ただ、記録として残っていないことと、不十分なところもあるのでここでは、授業を基にしながらこんな風に授業をしてみようと言う提案の形で紹介します。

  • 前回使った、つぶやき一覧表(黄色)を用意させます。黒板には、今回使うプリントと同じ詩が書いてある紙を拡大して貼り付けます。

この詩を読んで、子どもたちは、(    )にどんなつぶやき、気持ちが伝わってくるかを、一覧表を見たりしながら、書き込み、発表します。

  • 先生って子どもだよ。
  • それでいいのかなあ。
  • 先生、ちゃんとしてよ。
  • ことばづかい、これでいいの?
  • みんなこれ、どう思う。
  • まったく、困った先生だぜ。
  • 洋服は、ハンカチではありません、と教えたい。
  • こんなこといつもやってるのかなあ。

かなり、一覧表のことばから、変形しています。子どもたちが、分かってきたことを示しています。感覚・表現が個性的になってきました。
「どこでそう感じましたか。」
と聞きます。内容、書き方に入っていきます。

  • 「洋服で手を拭いていた」のところで、困った先生と思った。
  • 「ばれたか」といったこと。言葉遣いよくないよって思う。
  • 「ばれたか」。先生なのに良くない。(子どもだってよくないよ)
  • でも、私は、面白い先生だと思ったよ。
  • こどもっぽいなあ、のところ。もう見てられないよ、と言う感じ。

.
「そうだね、先生が手を洋服で拭いたのを見たことが書いてあるね。」といって、「見たこと」と板書します。
「ばれたかは?言葉、聞いたこと。」そうと言って「聞いたこと」「そのときの言葉」と板書します。
〔あっ洋服でふいているも言葉だ。そう自分が話した言葉もあるね。〕
「子どもっぽいなあは作者が思ったことだ。」と言って「思ったこと」と板書します。
最後に、この詩は、いつの出来事ですか、と聞きます。
給食の前のこと、手を洗ったときのこと。
そうです。ある日の、あるときの出来事ですね。と言って、
「あるときのこと、あるときのしたこと、見たこと、話したこと、聞いたこと、思ったこと」と黒板に書いています。

  • ある日、あるときー強く感じたこと

したこと
  見たこと
  話した言葉
  聞いた言葉
  (感じたこと・思ったこと)

と板書をまとめます。
 「みんなも、あるときの事で心に感じたことを見つけておきましょう。」
 この後は、取材を意識させながら、いくつか詩を読みます。
.

.
「音読をしたときのことですね。勉強中に、いろいろ考えたり感じたり、思ったりするよね。それもこうして詩に書けるんだ。」
.

.
片付け、掃除のときのことですね。ほんの短い時間に感じたことです。題名がいいですね。机の中だけじゃなくて、自分の心も掃除できた。きれいになった。すっきりした。新しくなった。題名から、そんな感じを受けます。」
(多くの4年生の女子は、この詩がいいと言っていました。)
(実際の授業では、このように一方的に解説はしませんでした。子供の感想を聞きながら進めました。)
 このようにして、どんな場面でもよい、心を動かしたときのことが詩になるのだと気づかせます。そして、自分がこれから詩を書くときの、取材を意識させます。〔時間があればこれまで読んできた詩の中から、気に入ったのを選ばせて,視写させるのも良い。〕
 この後、簡単な、取材メモを配ります。  

4.詩を書く

2,3日取材期間をおきます。(ずっと以前の出来事から見つけても良いことにしておきます。)
 用紙は、マス目ではなく、短めの縦罫線を用意します。
 描き始めたら、あまり指導しようとは思わずに、子供が書いているのを見守ります。今回は、特に、題の付け方、行分けなど指導していないので、それについては触れません。

5.子どもたちの詩を読みあう

何人か選んで印刷して読みあいます。ここでも、「いいなあ。」が基本です。「ここ面白い。」「こんなつぶやきが感じられる。」「この言葉生きている。」など。そして印刷できなかったものも、次の時間に、全部読んでやります。子どもたちから、感想を聞きながら、教師が、必ず、どれについても、いいところを指摘します。文集にするときには、書き直しや、清書をさせることもあります。

6.この実践を考え付いたのは

 もう25年くらい前、町田の作文の会が提起したー「直接は書かれていない00だなあ」ということ(感動)に焦点を当てて、鑑賞し、また書かせる指導—が頭にあったからでしょう。今回はそれの1つの変形・発展形になるかなと思っています。

※授業の記録は、「子どもの反応」のところは、浜田山小三年の小塚先生の授業の記録から載せました。他のところは、四年四組の授業を思い出して書いてあります。
 ※使った子どもの詩は「ないしょ見つけちゃった」〔百合出版・本の泉社〕よりとりました。
  このとき生まれた作品が『東京の子』08年版に載っています。

その後のこと・課題

この実践を基に、新宿区戸山小の木村紀子さんたちが指導をしました。子どもたちはとても乗り気で、取材のところまでは、いい感じで進んだとのことでした。しかし、出来上がったのは作文みたいになってしまったということでした。
 杉並区馬橋小の塚田美和子さんからは、このやり方でやったらとてもいい作品が生まれたという電話をいただきました。

※この実践をもとに『楽しい児童詩の授業』(日本標準)に授業提案をのせてあります。

3 実践者プロフィール

今井成司先生
 杉並区教育研究会、元国語部長
 東京都杉並区三谷小学校を2007年に退職
 杉並区浜田山小・久我山小、立川第8小などで講師をした。
 現在、東京作文教育協議会・会長。日本作文の会会員。
 杉並区作文の会会員

 主な著書に
 ・「国語の本質がわかる授業1,2」(日本標準、編著)
 ・「楽しい児童詩の授業」(日本標準、編著)
 ・「教科書教材の読みを深める言語活動」(1~3年生、本の泉社)

 などがある。

4 編集後記

詩全体からつぶやき(気持ち)を読み取る実践です。詩は作者の心情などを読み取る授業が多いと思いますが、何を読み取るかについて「つぶやき」と表現することで子どもたちも親しみを持って取り組めるようになるのではないでしょうか。「つぶやきや叫びやおしゃべりを書かせて詩的な表現をさせる」のではなく、「つぶやきがわいてくる場面を、普通の散文の形で書かせてみ」るという視点から詩を扱うのはとても面白いなと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 宇野 元気)

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