はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
実践内容
「白いぼうし」は、帽子を拾ったタクシー運転手・松井さんと擬人化されたチョウ(女の子)の心の交流を軸に、お客の紳士との会話、虫取り網を抱えた男の子とその母親の様子など、初夏のさわやかな陽光の中での人々の触れ合いも温かく描き出した作品です。松井さんの優しさを中心に、現実と非現実が交錯する不思議な世界を「夏みかんのにおい」という嗅覚をイメージする言葉、「白いぼうし」「モンシロチョウの白」「信号の赤・青」「並木の緑」などの色彩をイメージする言葉をちりばめ、さわやかにストーリーが展開していきます。
1 意味調べ
授業ではまず意味調べを行いました。
発問1「白いぼうし」で、意味のわからない言葉を書き出しましょう。
まずは、知らない言葉を書き出し、自力で言葉を調べました。次に班員で集まって、自分の知ってる言葉を教えあいました。辞書でまだ調べていなくても、友達が分かっていたら、教えてもらったことをノートに書き写していきます。こうすることで、時間差が生じることを抑え、教え合うことであいまいな言葉がよりはっきり分かってきます。。
2 感想を書こう
意味調べをしたあとで最初の感想を書いてもらいました。子どもたちはどんなことを感じたのでしょうか。
発問2「白いぼうし」を読んだ感想を書きましょう。
- 松井さんは、おふくろからもらった。夏みかんの一番大きいのあげるって優しいなと思った。いつのまに車の中に小さな女の子がいるって不思議だなと思った。
- ぼくはあの女の子は何だだろうと思いました。おじさんがバックミラーを見たり、後ろを見てもいないということは幻だったのかな。それともおばけだったのかな。「よかったね」「よかったよ」という声が聞こえたのだろうと、この本は不思議がいっぱいでした。
- 不思議なお話だなと最初は思った。でも、だんだん読んでいるうちにわかってきた。女の子が消えたところはびっくりしたけれど、白いチョウになってみんなのところへ飛んでいったんだと思う。「よかったね」がみんなで「よかったよ」が女の子。
- 運転手の松井さんは一番大きい夏みかんを車に乗せたから優しいなと思いました。お客さんに夏みかんのいい臭いをかがせたかったのかな。松井さんは帽子をとって親切なことをしたつもりなのに、逆に人が落ち込むようなことしてがっかりしたんだな。
- 松井さんは優しい人だと思いました。おふくろから夏みかんをもらって、車の中に持ってきて、お客さんに聞かれたら嬉しそうに詳しく言うから、すごく嬉しいんだなって思いました。
- 運転手の松井さんは車に夏みかんを置いてあって、それほど夏みかんをお母さんがくれたのは嬉しかったんだね。
- 松井さんの優しい気持ちが男の子やちょうちょに伝わった。モンシロチョウが向かった先は野原だったのかな。あの女の子はどこへ行ったのかな。
- 迷子の女の子が最初に疲れたような声でというところが、かわいそうに見えました。モンシロチョウがひらひら飛んでいるのはきっと、とてもきれいだと思います。
- あの女の子は何だったのだろう。それに姿を消して、もしかしたらチョウだったのかな。白い帽子の中にチョウがいるのに、みかんだったら僕もびっくりするよ。野原にいたチョウだと思います。すごくきれいでチョウも愉快に飛んでいただろうな。
子どもたちの感想は〈松井さんの人柄〉と〈不思議な女の子〉というものが多かったです。このことを軸に学習を進めていこうと考えています。
3 問題作り
次に、白いぼうしの問題作りを行いました。まず自分で問題を作り、班の仲間と解き合います。問題は、すぐに解けるものと解けないものがあります。班のみんなで解けない問題はみんなで考える価値のあるものです。それがよい問題となって、物語のテーマに迫ることができます。今回も主題に迫るよい問題を作ることができました。
実際の授業では、十分に本読みをしたところで、
発問3「白いぼうし」の問題を作ろう。
と呼びかけ問題作りをしてもらいました。
Q.チョウが飛んでいたところはどこか? A.団地の前の小さな花
Q.さし絵に描かれたチョウは何匹いるでしょうか。 A.50匹
Q.松井さんは何を慌ててふんだのか。
Q.運転席から取り出した夏みかんは、どんな色だったでしょう?
A.陽の光を染めつけたような色
Q.「よかったね」「よかったよ」の声はどのくらいの声か。
Q.この物語の主役はだれか?
Q.「よかったね」は、誰が言ったのか。
一人5問程度の問題を作り、お互いに問題を出し、答えを見つけていきました。
発問4 作った問題を班の人で解き合おう。答えが分からないときは、問題を残しておいてください。
すぐに答えが出るものもあるが、答えが出ないものもあります。これを班ごとにあげて、検討していった。「答えがわからない」という問題を黒板に書き出し、全員で考えていきました。
Q.なぜ他にもチョウはいろいろいるのにモンシロチョウなのか?
A.作者が自分で決めたから。
Q.青々ってどんな感じなのか?
A.木とか山とかがたくさんあって、青のいっぱいになる感じのことだと思う。
Q.女の子はなんで姿を消したのだろう。
A.よくわからない。
Q.「よかったね」といったのは誰だったか。
A.仲間のチョウたち
4年生の疑問について考えを聞いていくと、次第に「女の子がチョウに変わったのはなぜか?」ということが話し合いの焦点になってきました。
- チョウは、自分で仲間のところには戻れないから、生きていくために姿を変えた。
- きれいな菜の花畑を松井さんに見せてあげたい。
- 男の子に捕まえられして、自分のいた野原がどこかわからなくなってしまった。道に迷ってしまったのかもしれない。そこわざと女の子になってタクシーに乗った。
チョウが女の子に姿を変えたのは、お礼のためだったのでしょうか。それとも疲れて自分では仲間のところに戻れなくなってしまったので、タクシーに乗せてもらうためだったのでしょうか。このことを学習問題にしました。
発問5 チョウは、なぜ女の子の姿になって、松井さんのタクシーに乗ったのでしょうか。
考えは大きく4つに分かれました。それは
〈松井さんにお礼を言いたいから〉23人
〈チョウ(女の子)はとても疲れたから〉4人
〈道に迷ってしまったから〉6人
〈もう捕まりたくないから〉3人 である。
- 〈松井さんにお礼を言いたいから〉23人
松井さんは帽子をあげてくれたので、助けてもらったと思い、お礼に小さな団地のところまで連れて行った。
松井さんに助けられて、お礼を言いたいからタクシーに乗ったと思う。
- 〈チョウ(女の子)はとても疲れたから〉4人
疲れていて飛んで行く元気もなくなって、どっちに行けば帰れるのかわからなくなったからタクシーに乗ったと思う。
- 〈道に迷ってしまったから〉6人
僕は迷ったと思う。多分逃げてばっかりで、知らないところへ来て、四角い建物ばかりです迷ってしまった。
- 〈もう捕まりたくないから〉3人
- チョウになると、また誰かに見つかって、追いかけられて捕まっちゃうけれど、女の子の姿なれば大丈夫だから。
この4つの理由の中でどれが一番適してるのか、検討することにしました。
その中で最も多かった予想〈松井さんにお礼を言いたいから〉について考えてみることにしました。
発問5 チョウは、松井さんにお礼を言いたかったのでしょうか?班の人と話し合ってみましょう。
一読した感じでは、チョウは結果的に助けてくれた松井さんにお礼を言っているように感じますが、よく読んでみるとどうでしょうか。文中の言葉を手がかりに考えました。子どもたちがあげた文中の言葉は、
- あわててぼうしをふり回しました。
- ちょうは(中略)なみ木の緑の向こうに見えなくなってしまいました。
- 「よかったね」「よかったよ」
こうした言葉から、次のようなことが班の中で話し合われた。
- 松井さんは助けようと思って、帽子を上げたわけではないし、振り回している。
- チョウは、別にお礼を言っているわけではなく、なみ木の向こうへ飛んでいってしまった。
- 「よかったね」「よかったよ」は仲間のチョウと話しているだけ。
確かに文中には、チョウ(女の子)が松井さんにお礼を述べている言葉はありません。こうして全ての班が〈別に言いたいわけではない〉という考えにまとまりました。班ごとのグループ学習で子どもたちはどんなことを学んだのでしょうか。
発問6 チョウ(女の子)は、松井さんにお礼を言いたいわけではなかった。班の人と話し合って考えたことは何ですか。
- 最初はお礼を言いたいと思っていたけれど、班の人の意見を聞いて、松井さんは帽子を振り回したし「よかったね」「よかったよ」は、助かったことを仲間に言っているだけと思いました。
- 「よかったね」「よかったよ」という声は、その前に“松井さんには、こんな声が聞こえてきました。”と書いてあるから、チョウの会話だと私も思いました。
- 「よかったね」というのは、ひとりごとかと思ったけれど、Bくんの意見を聞いて「よかったね」「よかったよ」はチョウ同士で言っていることが分かって、ぼくは納得しました。
- Nさんが「ぼうしを振り回しだから言いたいわけじゃないと思うよ」というのを聞いて、やっぱりぼうしを振り回しだから、私も言いたいわけじゃないと思いました。
こうしてチョウが女の子の姿になった理由として考えられるものが、
B〈チョウ(女の子)はとても疲れていたから〉
C〈道に迷ってしまったから〉
D〈もう捕まりたくないから〉
の3つに絞られました。今の問題と同じように、文中の言葉を使って考えてみました。
発問7 文の中から証拠の言葉を見つけて、どうして女の子の姿になったのか考えてみよう。
BCを分けずに、同じものとして捉えた子が多くいました。
B〈疲れていたから〉5人
- 「疲れたような声でした」と書いてあるから。女の子は疲れていると思った。
C〈道に迷ったから〉6人
- “道に迷ったの”と書いてあるから。
BC〈疲れていたから、道に迷ったから〉19人
- “「道に迷ったの。行っても行っても四角い建物ばかりだもん。」疲れたような声でした”とあって、チョウは建物が大きいし探すのも大変だから、女の子に化けて頼んだのだと思う。
- Cの証拠は“道に迷ったの”と書いてあるから。あとBは“疲れたような声でした”と書いてあるからBとCだと思った。
D〈もう捕まりたくないから〉6人
- “え、ええ、あのね、菜の花横町ってあるかしら”チョウは逃げたくて、菜の花横町と言って、そこに行ってもらって解放してもらって、みんなに会うために言ったんだと思います。
- “早く おじちゃん 早く 行ってちょうだい”と言っているから、また男の子に捕まるかもしれなくて怖いから、松井さんに“早くいってちょうだい”と言ったと思う。
B〈疲れていたから〉C〈道に迷ったから〉が、多くの班から支持され、D〈もう捕まりたくないから〉は少数派でした。そこでこの意見について、もう少し考えてみることにしました。
発問8 D〈もう捕まりたくないから〉はおかしい考え方だろうか?
まずは直感で、○(おかしい)、×(おかしくない)をつけさせると、×(おかしくない)は4人であった。そこで、どうしてそのように考えたのか、理由を述べてもらった。
〈おかしくない〉4人
- “早く おじちゃん 早く 行ってちょうだい”と言って急いでいるから。
- 女の子のそうした行動が、捕まりたくないという気持ちを表している。
- (教師の「そうした行動をいうのはどういう風に言っていることですか」の問いに対して)“後から乗り出して”“せかせかと言いました”とあるから捕まりたくないと思う。
- “早く行ってちょうだい”と女の子が言っていて、チョウは、仲間と会いたい。菜の花橋には仲間がいるし、人があまりないから。
このような意見が出ると、次第に考えを変更する子が現れてきました。考えが変わるというのは頭を使っている証拠です。
- “「よかったね」「よかったよ」”と言っていて、チョウ(女の子)は、仲間と会いたかったし、もう捕まりたくもなかった。だからおかしくないと思う。
- “男の子がエプロンを付けたままのお母さんとこっちにやってきました”とあって、男の子はこっちに来ているから、もう捕まりたくなかったんだと思う。
- チョウ(女の子)は、このままだといつかは死んでしまうし、捕まりたくなくて、一生懸命になっている。
こうした発言が続き〈BCでもいいけれど、Dでもいいと思う〉という子どもたちが増えてきました。〈Dでもおかしくない〉とはっきり手があがったのが26人にもなりました。みんなで話し合うことで新しい価値観を受け入れることができました。この話し合いについてどう思ったのか考えたことを書いてもらいました。
みんなで話し合って「なるほど」と思ったこと。
- 僕は初めは×だったけれど○にかわった。“早く行ってちょうだい”というところで、それほど恐いということが分かった。
- 私は最初、×(おかしい)と思ったけれど、みんなの意見で変わりました。特に納得したのは“せかせか”という言葉です。
- “せかせかと言いました”だからチョウ(女の子)は怖くて急いでいる。捕まるのが怖い。野生なら長生きするけど、捕まって飼い方が下手だとすぐ死んじゃうから捕まりたくないと思う。
- 私は“道に迷ったの”というのは嘘だと思う。もう捕まりたくない、早く野原に戻りたいと思ったから、わざと嘘をついたんだと思う。
プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
(2015年1月時点のものです)
書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
編集後記
国語教材「白いぼうし」を使った授業です。児童の感想や、児童の作った問題を中心に、様々なことを話し合い、考えることのできる授業です。是非、この教材を使う際に、実践してみてください。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 宮嶋隼司)
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