1 はじめに
2016年8月4日「思春期の子どもをまるごと認める関わり方」の講演会に参加し、高垣忠一郎先生の講演を取材しました。ここでは思春期の子どもとの関わり方について例を交えて紹介します。
2 自己肯定感を持たせる
不登校になってしまう子どもに対してどうしたらよいのか悩んでいる方、まずは自己肯定感を持たせることが大切です。ここで簡単に自己肯定感を持たせると言いますが、自己肯定感の定義ははっきりしたものではありません。しかし、こういった勘違いだけはしてはいけません。
自己肯定感の間違った捉え方
* 部分的な有能さを認めて自己を認めて自己肯定感をもたせる
* 褒めていればよいということ
* 元から自信を持っていること
この3つが今回の鍵となります。
■部分的な有能さを認めるのは間違い
例えば人の期待に応えて頑張って実績をあげてきた自分に「自分には自己肯定感がある」と信じていたけど、実はそうではなかったのだと気付くこともあります。本当の自己肯定感は「自分が自分であって大丈夫」という自己肯定感なのです。部分的な有能さを認めているとその自信が崩れてしまったときにどうしようもなくなります。
■褒めていればよいということ
これも間違いです。褒めることは自己肯定感に繋がるのではないかと考える方も多いと思います。それは確かに頑張っているのに認めてもらえていない子どもに対しては有効です。それは褒められるとうれしいからです。ここで同時に「その期待に応えなければならない」と感じてしまう子どももいます。そして追い込まれてしまう子どももいます。上の人間が下の人間を褒めるということはその上の人間の価値観に取り込んでしまうということも考えられます。「よい子」は失敗を恐れます。それは今まで期待に応え続けてきたからです。そして褒めるとその期待に応え続けなくてはなりません。それは逆に自己肯定感から外れることになります。
■元から自信をもっている場合
実際にこんな質問がありました。「学校には行きたがらない。しかし自分の子どもは自信はとてもあります。これでも自己肯定感を持てていないのか。」ということでした。確かに自分には自信があり一見自分を肯定できているかのように見えますが、これは出来ないことができるようになったからという理由だけの可能性があります。できないことができるようになることで自信を持ったということです。これは部分的な有能さでしかないということです。
3 なぜ不登校になるのか
そもそもなぜ不登校になるのか。それを例とともに考えていきます。1970年代の中学2年生のケースです。今までは期待に応えてきた「よい子」でした。しかしあるとき自分の夢は何かと質問され答えることができなかったことから自分の考えを持っていないと気付きました。そしてショックを受け「自立しなくては」と考えるようになったそうです。大人に依存していた自分から自分で将来を選ぶという新しい自分を生み出すのです。これを「産みの苦しみ」と言います。今の自分から新しい自分を模索しているときの「つまずき」なのです。つまずくのは前に進もうとしているからつまづくのです。
どう関わっていくのか
この中学2年生の子は小鳥を飼っていてその小鳥が卵を抱いているのをずっと見ていたそうです。それは自分から新しい自分を生み出しているということを暗示していました。この例からわかることは、子どもが興味を持っているものは意味があるということです。共鳴していたのです。そこで学校にすぐに戻せばよいという簡単なものではありません。私たちはより自由な生き方ができるように援助することが大切なのです。
本当の自分探し
今までは敷かれたレールのうえを走っていた子どもも「よい子」の看板を下ろし、自分のものと思える道を探していました。「とりあえず」路線を降りました。また、わからなくなってしまった自分を見つけ直す時間でもあります。
■自分探しの手助け
時間と余裕を与えてあげることです。しかしこれは嫌なことから逃げる子になるのではないか、追いつけなくなるのではないかという不安もあるでしょう。しかしここで元のレールに無理矢理戻すことは逆効果です。子ども自身も自分だけ逃げた気持ちや周りから変な目でみられるのではないかと感じているのです。そこで子どもに寄り添ってあげる必要があります。
子どもの訴えに気付く
子どもの話に耳を傾けることが大切です。それは何か子どもが話かけたときに何らかの理由で断ると心の中に整理されないままにたまっていきます。この溜まったものが溢れ出したものが言葉にならない訴えです。これは行動化(非行)や身体的不調として表れます。この訴えが何を訴えているかを考えてあげなくてはなりません。受け入れてあげないと自己肯定感は育ちません。
4 まとめ
自分の想いを聞いてもらって初めて自分の想いに気付きます。この気付きがあって初めて自分を受け入れることができ「自分は何者か」ということに気付くことができます。それから自分を受け入れるのです。「あ、これが本当の私なんだ」と気付いて「私が私であって大丈夫」という自己肯定感に繋がります。周りの人はこのとき寄り添ってあげることが大切です。そしてこの時に話してもらえるような関係づくりが大切です。時間を割いて話を聞いてあげましょう。その子どもが自分のダメなところもまるごとこれが自分なんだなと認めていけるということが本当の自己肯定感です。それを育てることが最も重要です。
5 講演者プロフィール
高垣忠一郎先生
フリースタイルな臨床心理学者、京都教育センター代表。
6 書籍のご紹介
著書には『自己肯定感って、なんやろう?(かもがわ出版 2008/7/1)』や『生きづらい時代と自己肯定感「自分が自分であって大丈夫」って?(新日本出版社2015/6/20)』、『生きることと自己肯定感 (新日本出版社 2004/07)』、『揺れつ戻りつ思春期の峠(新日本出版社 新装版 2007/06)』など多くある。
7 編集後記
自分を信じているということが自己肯定感があるということだと思っていました。しかし実はそうではなかったと気付かされました。そういったことを細かく講演で話していただいて理解が深まりました。そして記事にしているときにこれからの人生に活かしていこうと感じました。
この「まるごと認める関わり方」はこれからそういった生徒と出会った先生方は勿論、自分が親になったときにも必ず使える関わり方だと思います。そして今そういった生徒と関わっている先生や親御さんにも有効な方法だと思います。是非実際に試してみてください。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 福山浩平)
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