隂山英男が答える~隂山メソッドについて質疑応答~ (徹底反復 学力向上セミナー inゆくはし)

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目次

1 はじめに

本記事は、2016年8月7日に福岡県行橋市(長峡中学校)で行われた「徹底反復 学力向上セミナー inゆくはし」における、隂山メソッドについての質疑応答を基に作成しました。

「徹底反復学習で育まれる学習効果や心の成長」「具体的なスピード・テンポ・タイミング」「中学校での取組」など参加者からの質問に対して、隂山英男先生を初め、実践発表された先生方や徹底反復研究会 副代表の山根僚介先生が回答しました。

2 回答者

  • 隂山英男 先生(立命館大学 教育開発推進機構 教授(立命館小学校校長顧問)、徹底反復研究会 代表)
  • 石井幸子 先生(福岡県飯塚市飯塚小学校)
  • 藤田尚子 先生(福岡県鞍手町立西川小学校)
  • 難波和美 先生(岡山県高梁市立有漢西小学校)
  • 山根僚介 先生(広島県福山市立日吉台小学校・徹底反復研究会 副代表)

3 質疑応答

(  )内は回答者(敬称略)

Q1: 発言する能力が低い子が陰山メソッドに取り組んで、集中力が向上し、脳が活性化されて話したり聞いたりする力がついたという実感はあるか。

(難波)
一年生を担任していたのだが、音読をすることで号令などで大きい声が出せるようになった。

(藤田)
時間内に自分の考えをきちんとまとめることができるようになった。基礎基本をおさえた上でのテンポのよい授業が保てていると思う。

(石井)
児童1人1人が自分の考えを持ち、それから交流していろいろな考えを取り入れて高めていく。その土台となるのが徹底反復学習である。まず自分の考えをしっかり持つための時間を大切にしていくことが重要。

(隂山)
発表するために必要な能力は何かをきちんと見極めて鍛えていき、成長を見ていくことが必要。

◎発表するための能力

・発表のための基本的な知識・理解が備わっているか

・発表することについて自分の考えがまとめられているか

・伝えるために大きな声がでているか

Q2:スピード・テンポ・タイミング・リズムの教育上の定義の仕方はあるか。また、すべての授業でスピード・テンポ・タイミングを重視しているのか、それとも、じっくり考えさせるところはあるのか。

(石井)
どういうスピード・テンポ・タイミングがよいかを分からずにやっている先生もいる。モデルとなるクラスの授業を参考にして、最適なスピード・テンポ・タイミングを学んでもらっている。モデル映像を子どもたちに見せるのも一つの手。

(山根)
それぞれの授業に当てはまるはずのスピード・テンポ・タイミングがある。子どもたちが集団で考える時にお互いにぱっと向き合って一斉に意見を言い始めるというのもタイミングが合っているということ。また、スピード感を持って取り組めているということ。
スピード・テンポ・タイミングと集中力を持って取り組めているかということは、普段の授業の中でも生かせる。ざわざわとした話し合いの中にもすごい集中があり、子どもたちは一心不乱に一つの課題に向かって邁進している、ということもある。教師は1人1人の生徒を看取る目、それを指導する力を持つことが大事。

(隂山)
スピード・テンポ・タイミングは集中を引き出すガイドライン。時間制限を入れてスピード感を上げることにより、子どもたちの思考を高める。授業中どのくらい集中しているのかという物差しを持ちながら、子どもたちの指導にあたるとよい。

Q3:徹底反復学習の視点から見て、中学生に音読や天声人語の視写をさせたりするときに、具体的にどのようにしたら効果が上がるのか。

(石井)
文藝春秋社出版の「未来を切り開くシリーズ」で数学・国語・英語の教材がある。例えば、数学は小学校のどこの段階でつまずいているのかを診断できるテストがある。結果をExcelデータで入力すると、何年生でつまずいているのかが分かる。その苦手問題を克服できるようにまとめられた冊子があり、飯塚市ではそれを活用していた。

(隂山)
中学校では高校入試という分かりやすい指標につなげて目標を一本化させ、各教科で高校入試のために必要なことを明らかにする。
例えば小学校の漢字の書き取り試験が高校入試にでる。中学生に小学生の漢字をやらせると意外な苦手が分かるし、高校入試対策にもなる。すると、それを補習する時間をとろうということになる。
高校入試にでる英単語の場合はまず、高校入試の出題範囲となる英単語テストをする。そして本人がまだ覚えられていない、なおかつ重要な英単語を絞り込んで、モジュール方式で徹底的に音読し、書かせて記憶させていく。中学校2年生の夏、秋までに3年生までの英単語を前倒しで教えてしまう。出来ない子は2年生の後半から高校入試までおさらいをしていけば良い。
数学ではまず基本を身につける。また、現段階の力を明らかにして、高校入試で必要となるところを強化していく。高校入試に向け、いつまでにどのくらい英単語や計算が出来ていなければならないのかを決めるなど、目標設定をはっきりさせる。

Q4:学力向上のデータはトップの子が伸びているからなのか、それとも全体的に底上げされて数字が上がっているのか。また、人格の完成としての教育の目標はあるのか。成績が伸びていくことで、人間力の完成や多様な考えを持てる人格の形成につながっていくのか。

(難波)
五段階評価ではデータによると2の子が4へ、1の子が3へなどとNRTテストでは上がっている。現段階では知識、技能の修得に力を入れて取り組んでいる。その土台の上に思考力などの次の能力が伸びていくと思う。

(藤田)
教育とは学力的に厳しい子を引き上げることだと思う。私は、評定1の子が上がっていくといった全体の底上げであると捉えている。転入してきた子は初め徹底反復のドリルタイムに戸惑っていたけれども、特別支援や発達障害の子たちもそのうちに巻き込まれるといった、徹底反復のスピード・テンポ・タイミングの良さがあると思う。ドリルタイムの中の小さな伸びが成績に繋がっている。
そして、子どもたちの笑顔が増えている。それは、「ドリルタイムの成績が上がってきている」「自分が頑張れている」という思いからであり、私も子どもたちの自尊感情の向上を感じ取ることができている。

(石井)
必ず記録をとることが大切。1秒でも縮まったら子どもはやる気を出す。次は何秒以内という目標をもたせると効果が現れ、全員が伸びる。それに伴い、自尊感情や知能が高まる。
さらに、不思議なことに、百ます計算をすると、マット運動が上手になったり、生活が落ち着いて問題行動が減ったり、優しい子になったりするという効果も表れている。

(隂山)
知能指数はほぼ全員が上がる。一つ注意するべきことは、トップ層の子とそうではない子たちに対して与える教材は時には標準で収まらない可能性があるということ。より出来ない子については特別な教材を使用することが必要。また、伸びることによって自尊感情が出てきて、子どもたちが穏やかになる。

Q5:自分たちの学校も隂山メソッドをしようというときに、学校全体が取り組まないとシステム的に難しいと思う。これを日本全国に広めていくには啓発が必要だと思うが、どのように工夫して広めていくのか。

(隂山)
なぜ広がりにくいのか。日本の教育は知識よりも徳育偏重である。だから、友達と仲良くしましょう。靴をそろえましょう。などということは言われるが、きちんと成績を上げましょう、という風土はもともとない。
また、教育現場では数値が嫌われていて、もともと人間の能力を数値化することにアレルギーのある社会で一般社会とは違う。
だから、まずは地域ごとに成果を出して、そのアレルギーを取り除いていく。子どもたちの能力が高まることは情緒的に荒れるのではなく、むしろ落ち着きに繋がっている。そのような現場検証を、多くの人に理解してもらうことを、地道にやっていくしかない。

逆に懸念もある。全員一律に百ます計算や漢字をさせたり、それだけやっていればよい、と考えてしまう人もいる。そういう点から考えて、広めることを急がない、焦らない。
むしろ良い実践を1つ1つ地道に作り上げていくということが大切。地域の人たちの願いによって広がることは良いことなので、議員の方や保護者の方など、様々なネットワークの中で広がっていくことが今後の一つの戦略。

4 隂山メソッドに関する著書

『陰山式 ぜったい成績が上がる学習法』(毎日新聞出版 2016/7/30)

その他 書籍・出版物一覧

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