社会とコラボレーションしてつくるまなびの未来〜「チーム学校」で実現する授業の可能性を考える〜(Teacher’s School)

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目次

1 はじめに

本記事は、2018年12月26日(水)に開催されたイベント『社会とコラボレーションしてつくるまなびの未来〜「チーム学校」で実現する授業の可能性を考える〜』の第1回(主催:Teacher's Lab)の内容を編集・記事化したものです。本イベントでは、島根県立隠岐島前高等学校・隠岐島前教育魅力化プロジェクト コーディネーターである中山隆さんから、『隠岐島前教育魅力化プロジェクト』での実践についてお話がありました。その後、「隣の方と授業をするとしたら、どのような授業をするだろう?」というワークが行われました。本記事では、中山さんがお話しされた部分についてご紹介します。

2 『隠岐島前教育魅力化プロジェクト』での実践

島根県の離島地域を教育で活性化

中山さん:私は今、隠岐島前教育魅力化プロジェクトでコーディネーターとして働いています。このプロジェクトは、「魅力的で持続可能な学校と地域をつくる」ことをビジョンに掲げ、島根県隠岐諸島の島前地域(西ノ島町・海士町・知夫村)で、島の暮らしにある幸せや豊かさが長く続くことに、教育分野から貢献することを目指しています。

今回は、当プロジェクトでの取り組みを紹介しつつ、今後の教育のために何ができるか、みなさんと一緒に考えられればと思っています。

『未来を変えた島の学校』

中山さん:10年前、隠岐島前高等学校が廃校の危機にさらされたことがありました。『未来を変えた島の学校』という本には、隠岐島前高校がどのように復活したのかが書かれてあります。ここには今までの取り組みの軌跡が書いてありますのでもしよろしければ読んで頂ければと思います。

今回は、その経験を踏まえて、地域と学校がどのように連携でき得るかについてお話していければと思います。

学校と地域との協働~学校の先生以外の人を、学校教育に入れることができるのか?~

中山さん:近年、学校と地域を結んでいかなければならないということが国や各自治体で叫ばれています。双方を結ぶのに必要なのは、学校と地域のつなぎ手です。その役割を果たすのは、地域コーディネーターです。

ここで改めて考えたいのは、「学校の先生以外の人を、学校教育に入れることができるのか?」ということです。さらに言うと、「学校に外部の人が入ることができる場所があるか?」ということです。実際のところ、私は、学校の先生だけで今後社会から求められていく教育を成立させることは難しいと思っています。会社や他の組織を見ると、業種を超えて他の会社とコラボレーションして何か大きなことをやっていますよね。それと同様に、学校もコラボレーションしていいのではないかと思います。

本プロジェクトの4つの柱

①共通のビジョン策定

中山さん:現在、全校生徒は180名弱しかいません。しかし、廃校の危機にあった10年前はもっと少なく、90名弱でした。もし廃校によって地域から子どもがいなくなってしまうと、それに伴って、その家族もいなくなってしまうので、結果として、その地域は将来的に潰れてしまいます。そのため、当プロジェクトが立ち上がりました。まず行ったのは、共通のビジョンの策定です。当時の町長や教育長、中学校の先生、そして高校の先生らと話し合い、隠岐島前高校をどのように魅力のある高校にすればよいかということについて、10年先までの大きなビジョンを作成しました。10年経った今は、次の5年に向けたビジョンを策定しています。

②多文化協働高校生活

中山さん:少子化が進む今、島から中学3年生の子ども達はなかなかすぐには増えません。そのため、「島留学」という形で、島の外から入学希望者を呼ぶことにしました。この結果、高校生の人数が増えただけでなく、高校生の多様性も生まれました。また、ロシアやコスタリカ、ミャンマーなどからも留学生を招いており、生徒は多文化の中で生活しています。

しかし、子どもを送り出す保護者側からすれば、全く知らない遠方の地域に子どもを送り出すのは非常に心配です。そのため、「島親」制度を設け、地域住民が島留学生の生活支援を行っています。島親となってくださる地域住民の方は、すべてボランティアで生徒を受け入れてくださっています。これは大変ありがたいことです。

③地域課題解決型学習

中山さん:そして、隠岐島前高校の特徴として、地域の課題解決型学習が住む地域をフィールドにして出来ることが挙げられます。島外からの入学希望者には、そこに惹かれて入学する生徒もたくさんいます。

地域住民の方は、高校生と隠岐島前地域の課題について一緒に考えたいと思ってくださっているので、そういった方と高校生が協働して、地域に根ざした学習を進めていくカリキュラムを作っています。

④公立塾:隠岐國学習センター

中山さん:隠岐島前地域に、一般的な集団塾や個別指導塾はありません。そのため、島にいても生徒たちが多様な進路選択進学ができるように、隠岐國学習センターという公立の塾を運営しています。

この塾では、学力向上のために生徒ごとに個別のカリキュラムを立てて学習サポートをしたり、また、「夢ゼミ」という、キャリア教育の授業を実施したりしています。

最近はICT教育が盛んに行われていますが、この塾ではICTを使った遠隔授業も行っています。過去には、東京にある日本未来科学館と一緒にサイエンスの授業を実施しました。また、埼玉県・宮崎県などの高校とICTでつながり、交流の機会も設けています。離島という距離的なハンデがあっても、ICTを使えば日本全国だけではなく世界の人とつながることができるので、ICTは非常に有効な手段だと思っています。

「地域」×「世界」で課題を学び、解決策を実践する

中山さん:隠岐島前地域には課題が多く眠っています。高校生たちは、地域に出て現状(何に困っているのか)をヒアリングし、解決策を実践する課題解決型学習を行っています。その中でも二つ例を紹介します。

隠岐島前地域にはさまざまな外国人の方が多く来られます。そこで出てきた課題が、「外国人観光客は多いが、島に外国語を話せる人がどれくらいいるのか? 外国人の方は生活や観光で不自由しないのか?」ということです。この課題については、島の観光協会の方々と高校生が協働して解決策を考えました。

また、隠岐島前地域の沿岸には外国からの漂着ごみもながれつきます。この現状から、「どうやったらきれいな海岸にしつづけられるか?」ということを課題とし、高校生たちは、漂着ごみを拾うごみ拾いイベントの開催、漂着ごみで制作したアート作品の作成などの解決策を考えていました。

また、当プロジェクトでは「地域」だけではなく、「世界」に目を向ける機会も用意しています。当プロジェクトでは、生徒が海外に行って学べるような機会をつくり、これまでブータンやロシア、エストニアなどに行き、探究活動に取り組んだ生徒もいました。

3 本プロジェクトのこれから

中山さん:以上のような取り組みをこの10年でしてきましたが、このプロジェクトは「教員」×「コーディネーター」×「地域の方々」の三者が協働して作り上げています。

特に私のような「コーディネーター」の役割は、地域連携のハブになることであったり、総合的な学習の時間の授業を設計をしたり、学校運営のサポートをしたりなど活動の内容は様々です。

今後も、島前地域での課題解決の実践が日本の未来を切り拓くことにつながると信じて、日々取り組んでいきたいと考えています。

4 隠岐島前教育魅力化プロジェクトについて

私たち隠岐島前教育魅力化プロジェクトのビジョンは、「魅力的で持続可能な学校と地域をつくる」ことです。私たちが根ざす島根県隠岐諸島の島前地域(西ノ島町・海士町・知夫村)で、島の暮らしにある幸せや豊かさが長く続くことに、教育分野から貢献することを目指しています。

(隠岐島前教育再魅力化プロジェクトHPより引用)

5 中山隆さんのプロフィール

中山隆(なかやまりゅう)さん

島根県立隠岐島前高等学校
隠岐島前教育魅力化プロジェクト 島前教育魅力化コーディネーター

(プロフィールは2019年1月4日時点のものです。)

6 Teacher's Schoolについて

Teacher’s Schoolは、下の3つの価値を大切にしながら、学校の先生と共に様々な社会資源を活用し「学びたい先生が主体的に学べる環境」「挑戦したい先生が自分のやりたい事に挑戦できる環境」の創造を目指しています。

Teacher's School 3つの価値

つくることで学ぶ「生成的な学び」
ふりかえることで学ぶ「内省的な学び」
つづけることで学ぶ「継続的な学び」
失敗を気にせず自由に試行錯誤して、自分の想いを「学び」のプログラムにすることができるのが特長です。

詳しくはこちら↓

HP:Teacher's LabFacebook

HP:Teacher’s School

Mail:info@teachers-lab.org

7 イベント情報

本イベントの第3回が行われる予定です。ぜひ足をお運びください。

【第3回】

日時:2019年2月9日(土)14:00~16:00

場所:東京都台東区台東1-11-4 誠心Oビル4階

8 編集後記

隠岐島前教育魅力化プロジェクトについては初めて知りましたが、地域に根差した高校生だけでなく、日本全国・そして海外からも学生を受け入れて地域課題解決型学習を進めていることには驚きました。本プロジェクトを通して、隠岐島前地域の今後を担う人材が育っていくのではないかと思います。そのうえで、地域と学校の連携は必要不可欠なものになっていくのではないかと思いました。(取材・編集:EDUPEDIA編集部 大森友暁・出井めぐみ)

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