ADHDのある小学4年生への合理的配慮の事例(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「ADHDのある小学4年生の児童が、通級による指導において、苦手であるひらがなの習得を目指すための合理的配慮に関する事例」 に掲載されている事例をご紹介します。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
学習に困難のある子どものテクノロジー活用(日本マイクロソフト)
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新学期、支援の必要な子に出会ったときに考えたいこと —小学校・通常の学級で取り組むスタートダッシュの支援—(田中亮先生)

〈事例の概要〉

A児は通常の学級に在籍する、注意欠陥多動性障害(ADHD)と自閉的な傾向を併せ有するB小学校に在籍する4年生です。小学2年生から通級による指導を受け、通常の学級でも合理的配慮の提供を受けています。

A児は他の児童とトラブルになることが多くあります。小学2年生の5月から、通級による指導で個別の指導を受けるようになりました。通級による指導では、専門性のある教員がひらがな文字の獲得、言語力を伸ばす指導、自己をコントロールする力を養う指導を行っています。通常の学級において、他の児童とトラブルが生じた場合には、A児からじっくり話を聞くようにしています。そのようにしてA児にも納得できる結論を導きだすように指導・支援をしています。学習面では、読み書きへの困難を抱えています。漢字にルビをふる、音楽のリコーダーの学習では楽譜を変えるなどの変更を行い、「できる・わかる」を感じて達成感を得られるように配慮を行いました。その結果、A児は他の児童とのトラブルが少なくなりました。また、自らクールダウンする場所に行き、自分の気持ちを鎮める様子がみられるようになりました。学習面でも達成感が味わえる経験を通して、意欲的に取り組む場面が多くみられるようになりました。

2 児童の実態

小学校入学当初のA児は、自分の思いを分かって欲しいという思いが強く、学級担任に話をしはじめると止めることが難しい状態でした。また、暴れたり大声で怒鳴ったりする様子がみられ、他の児童とトラブルになることが多くありました。他の児童がA児を注意することでさらにA児がイライラして、気持ちが落ち着かない日もありました。小学1年生の2学期より通院するようになり、医者の指示で薬の服用を始めています。小学2年生の1学期より通級による指導を受けるようになり、週6時間の通級による指導を続けています。通級による指導の結果、A児が他の児童とトラブルを起こすことは少なくなりました。トラブルを起こしても自分から通級指導教室に行き、クールダウンする様子も見られるようになっています。

学習面では、ひらがな文字の獲得に不十分さがみられますが、通常の学級での授業は基本的には他の児童と同じ内容の学習をしています。

3 本事例に関する基礎的環境整備

  • 児童の指導・支援上の課題については、C大学の特別支援教育研究センターや医学、心理学、教育学の研究者の協力を得ています。スクールカウンセラーが週2回程度来校し、保護者と相談を行っています。
  • 学期に1回程度行われる授業研究では、特別なニーズのある児童への授業における指導・支援の在り方について、必ず検討するようにしています。
  • 学期に1回はケース会議を行い、各児童の個別の指導計画の達成度や課題などについて検討し、必要に応じて計画の変更を行っています。
  • 通級による指導担当教員が児童の実態に応じた教材・教具づくりを行っています。
  • 全学級に書画カメラを設置しています。高学年には電子黒板の設置、低・中学年には、教室天井設置型プロジェクターで電子黒板と同じ機能を持たせています。

4 合意形成のプロセス

A児に関する現状と保護者の悩み

A児の保護者は、A児が他の児童とのトラブルを起こすため謝罪することが多く、A児の子育てに悩んでいました。スクールカウンセラーとの相談や病院への通院なども行っています。

話し合いの過程と対応の決定

小学1年生時の学級担任から、通級による指導の利用に関する申し出があり、小学2年生の4月末には家庭訪問を行い学級担任と保護者との間で話し合いました。A児自身とも丁寧に話し合いを重ね「ひらがなを覚えて書けるようになりたい」という願いを引き出しました。このことを学級担任と通級による指導担当者で共有しています。保護者とは毎学期に1回、懇談を行っています。懇談時には、通級による指導担当者も参加し、A児が学校で努力する様子やA児の課題を伝え、今後の指導や支援の方向を確認しています。

5 合理的配慮の実際

  • 教材や板書等の漢字にはルビを振りました。また、タブレット型端末の使用や書画カメラで教材を拡大するなどの工夫を行い、できるだけ実物を見せながら授業を進めています。
  • 他の児童とトラブルがあったときや、上手くいかなかったときなどは、A児がクールダウンをするために教室外に出てもよいことを伝えています。
  • 学期に1回のケース会議や、日常的に打ち合わせる機会をつくるように努力しました。そこには、スクールカウンセラーや合理的配慮指導員も参加しています。

6 本事例の成果と課題

〇成果

行動上の課題をA児自身が克服しようとする様子がみられるようになりました。学習においても、A児に学習内容が分かりやすくなるように工夫や配慮をすることで、文字や漢字などの国語の学力をつけ、意欲的に学習に取り組むようになりました。

〇課題

A児が思春期や青年期に向かうために、どのような配慮が必要となるか検討する必要があります。今後も通級による指導を受けながら、これまで以上に学習面におけるA児への配慮の在り方について検討していくことが課題です。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

ADHDを持つ子どもに対して合理的配慮を行うことで、行動面と学習面に改善がみられた事例の紹介でした。同じような課題を抱える生徒への合理的配慮にお悩みの先生方のお役に立てれば幸いです。

(編集:EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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