NPO法人JAEインタビュー「日々の授業・声掛けから始めるキャリア教育とは?」【関西教育フォーラム2019】

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目次

1 はじめに

本記事は、キャリア教育に携わっているNPO法人JAEの塩見優子さんへのインタビュー取材を編集したものです。(JAEのHPはこちら・取材は2019年11月2日(土)に実施)

なお、本記事は2019年11月24日(日)に開催されるNPO法人日本教育再興連盟(ROJE)主催イベント 関西教育フォーラム2019「 人生のコンパスを子どもたちに — 社会につながる学びとは 」(詳細はこちら)とのコラボ企画となっております。
 

2 JAEについて

(1)JAEのビジョン・ミッション

JAEのビジョンは「若者が希望と誇りを持ち挑戦する社会」です。「希望」とは、社会の変化の中で、若者自身が明日や将来に向けて自分が持っているかもしれない可能性に気づいたり、将来に対する期待を持つことです。「誇り」とは、自分を作っている今までの経験そのものを含めて自信を持ち、誇りに思う感覚です。JAEはこれらの「希望」と「誇り」両方を合わせ持ち、「挑戦」し続ける社会になってほしいと考えています。

その実現に向けて、「子ども・若者・大人が出会い、学び合う場を作る」ことをミッションとしています。今まで、教育というと、大人が子どもに教えるというイメージでした。しかし、今後の社会の姿を描いたときに、答えが見えない「問い」を見つけ、より良い解決に向けいろんな人と共生する力も必要になります。JAEは出会いを通して子ども・若者・大人の全員が成長し合える仕掛けを作っていけたらと思っています。

具体的なアプローチとしては、教育機関と企業をつなげる機会づくりに取り組んでいます。大きく分けると2つ事業があります。1つはドリカムスクールという小中高校生向けのプログラム、もう1つがアントレターンという大学生を対象としたプログラムです。

 

(2)JAEの強み

カリキュラム内への位置付け

JAEの強みの1つは、学校でカリキュラムとして位置付けていただいているところです。カリキュラムの内の10~20時間を活用し、単発のイベントではなくて、年間計画を見据えた上で前後の取組みとつなげながら実施しています。また、系統立ててキャリア教育を実践されている学校においては小・中学校の9年間の計画の中に位置付けていただいているところもあります。
 

コーディネーターによるヒアリング

もう1つは、コーディネーターによる学校及び企業、両者へのヒアリングです。学校側へのヒアリングで、学校内の子どもたちの様子や雰囲気、そしてプログラムの導入目的を把握し、教員と共にプログラムを設計します。また、その情報と共に企業へのヒアリングを実施し、企業が学校と連携する事で期待している事やできる事を聞くことで、関わる全員が良い形で関われるようにコーディネートします。

3 ドリカムスクール

(1) 概要説明 

ドリカムスクールでは、企業が学校を訪問。子どもたちに課題を提示し、子どもたちはその課題を解決するためにチームになります。そして、子どもたちだけではなく社員さんや地域の人とも相談し合いながら解決に向かって思考錯誤していくというプログラムです。

ドリカムスクールは総合的な学習の時間で実施しています。しかし、プログラム自体が課題解決に重きを置いたものであるため、そのために必要となってくる知識は教科学習で扱います。
ドリカムスクールについての詳細はこちら
 

 

(2)中小企業と連携することによる効果

現在JAEは中小企業3社、大手企業2社と連携しています。中小企業は社員研修として、大手企業は教育CSRの一環としてドリカムスクールに協力をいただいています。

中小企業と連携することにより、「地域密着型」のプログラムを作成することができます。地域に根ざした会社では、その学校の卒業生が働いている場合もあるので、社員さんが学校を訪れたときに元担任の先生がまだ勤務されていることもあります。子どもたちから「家の近くにある企業なのに何をしているか知らなかった」、先生方から「地域にそんな素敵な企業があるなんて知らなかった」というような声もいただいています。

地域密着型のプログラムで心がけているのは、単発型ではない仕掛けです。地域の企業の社員さんと子どもたちがドリカムスクールの後にお祭りで再会したり、道端で再会したり……と、授業をきっかけに、街中で会ったときに声を掛け合えるような関係にもつながっていくといいなと思います。子どもを見守る地域の大人の目がどんどん増えたらいいですよね。
 

 

(3)大企業と連携することによる効果

大手企業と連携する場合、支店の多さを生かして、様々なエリアで実施できることがあります。以前、ある地域の中学校を訪問したときに、事業所が少なすぎて職場体験でさえほとんど行く場所がない、町探検もどこに行ったら良いかわからない、という悩みをお聞きしました。こうした地域密着型のプログラムが実施しにくい地域にも、大手企業とともにキャリア教育の機会を持っていくことができるのは強みです。

また、インパクトが大きいことも強みです。発信力がある大手企業が学校と連携することで、キャリア教育への関心が高まり、教育分野に参画する企業が増加する、という波及効果があります。大手企業をもっと巻き込むことで、社会全体を変えていけるのではないかと感じています。
 

(4)JAEが提供するプログラム例

◯高校×お弁当×公認会計士

ビジネス科のある高校では、監査法人に所属する公認会計士のみなさんと一緒に授業を実施。お弁当屋さんとも連携して、ビジネスの現場で会計士がどう活躍しているのかを知ることができるプログラムを企画しました。

まず実際にお弁当を企画して販売、売上を出す、という流れを体感します。分析の際には会計や簿記の知識が必要となってくるので、普段勉強していることがどのように社会で役に立つのかという実感を持ってもらうことができます。また、経営とは何か 、社会の中で会計はどんな役割を果たしているのかという広い視点から会計士について知ることができるプログラムとなっています。

 

◯小学校×看板×図工

企業のPRを考えるプログラムでは、図工の単元で企業の看板を描くという授業と結びつけました。子どもたちが描く絵が、いかに連携している企業の意図をくみ取っているかという視点に入れた絵になります。それにより、図工の時間だけでなく、ドリカムスクールを行っている総合的な学習の時間の充実にもつながります。

 

◯小学校×建築×英語

建築系の会社と協働し、子どもたちに家をデザインしてもらうプログラムでは英語の授業と連携。 子どもたちがデザインした家に名前をつけるとき、子どもたちが「英語の名前を付けたい」という提案がありました。日頃英語の授業でなかなか発言することのないようなな子どもたちまでもが自発的に質問する姿が見られ、授業でやっていることが実践につながっているということが実感できる機会になりました。

4 職場体験の改善

(1)職場体験の現状・問題

学校現場では、職場体験が恒例行事になってしまい、プログラムの見直しをすることなく毎年行われているところも。職場体験の実施だけが目的になり、子どもたちの実情にあったプログラムになっているか、またその意義や目的の共有ができていない、という課題が見えてきた学校もあります。

(2) 職業体験の改善

◯改善のポイント

改善するポイントとしては、職場体験の中心に子どもたちを置いて、目的を明確にすることです。先生方に子どもたちの卒業時ではなく、25歳になったときどんな大人として生きていてほしいかをヒアリングします。そして、その時から逆算して、そんな大人になるためには「職場体験の最後にはどんな状態を目指すのか」を先生方と共有します。

職場体験のプログラム内容が現状のままで問題ないかを共に検証し、アドバイザーとして職場体験をリノベーションします。
 

◯改善例:職場体験の期間

ある学校では、子どもたちの現状と先生方の目標を改めて共有した結果、職場体験の日程を2日間から3日間に変更しました。毎日連続で職場体験をするのは、子どもたちにとって負担が大きいため、月・水・金曜日を職場体験日、火・木曜日は子どもたち同士の作戦会議の日に設定。作戦会議では、職場体験後の感想や反省を話し合います。

その学校の職場体験の状態目標が、友達に自分の苦しさを相談し、友達の悩みを聞いたときにアドバイスができる、ということだったので、相談が気軽にできる体験を盛り込みました。
 

◯改善例:職業講話の内容

大幅な変更が難しい場合は、まずは事前の職業講話を少し変えるなどのアプローチで教員の認識を変えていくことが必要です。2、3年かけて少しずつ変えていくのがベストなのかなという気はします。

例えばある学校の職業講話ではこれまで、仕事内容を中心に話してもらっていたそうです。しかし、現在では、インターネットで講師の仕事内容も簡単に出てきます。そこで、生徒たちには事前学習で講師の仕事内容を調べさせたうえで、来てくれたその人だからこそ話せることに特化した内容に変えました。 

「職業講話」という名前も「生き方講話」に変更。その人自身の思いや、なぜその仕事を選んだのか、今悩んでいることは何か、といった生き方を伝えていただきました。さらに、講話だけでなく、給食も講師の方と一緒に取ることで、ご飯を食べながら子どもたちと講師の間で自然と講話の振り返りが起こりました。
 

◯学校と企業の連携

また、コーディネーターは学校と企業の要望をつなげる役割を担います。学校と企業が直接連携する場合、お互い遠慮する場面が見られます。

よく耳にするのは、学校側がどこまで企業の方に要望を伝えて良いのか分からないという意見。しかし、学校側が「どんな授業でも良いので、とりあえずお願いしたい」という依頼をしてしまうと、企業側は困惑してしまいます。企業側としては、「こんな子どもがいて、こんなことに気づいてほしいから〇〇について話してほしい」など、具体的な依頼であればあるほど対応しやく、結果お互いの目的に添った活動となります。コーディネーターが間に入ることで、わかりにくいところを聞いたり最低限やるべきことをお願いしたりするといったことが容易になります。双方にとってスムーズに運営できる環境づくりをしているのです。
 

5 現場の先生方へのメッセージ

キャリア教育は何か新しいプログラムを始めなければならない、というわけではなく、既に実施している取り組みや子どもたちへの声掛けから始まると思っています。例えば、授業で目当てや目標を言うだけでも良いのです。ぜひ、現場の先生方が日々の想いを子どもに伝えてほしいと思っています。

 

6 団体概要    

NPO法人JAE

2001年に設立。JAE=Japan Academy of Entrepreneurship
大阪府を中心に、「自ら問題の解決や新たな価値の創造に挑戦する心」を持つ人材を輩出することを理念に小学生から大学生までのキャリア教育プログラムを提供しています。
(JAEのHPはこちら) 
 
  

7 編集後記

キャリア教育を総合的な学習の時間だけではなく、教科学習とも関連付けて、プログラムを実施している点が興味深かったです。キャリア教育を特別な教育活動として、新たな取り組みを模索していくのではなく、子どもを中心に置いて、日々の授業や声掛けから始めていくことが大切だと分かりました。
 

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 中澤歩、瀬崎颯斗、清川美空、菅原靖)

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