本単元で身に着けたい資質・能力
本単元では、乗法の意味について理解を深め、計算の仕方を考えたり乗法に関して成り立つ性質やきまりを見出したりすることができる能力を養う。また、数学的表現を用いて考えた計算過程を振り返ることでその良さに気づき、それらを日常生活や学習に生かそうとする態度を育む。
単元の評価基準
- 知識・技能:乗法が用いられる場面を絵や図、言葉、式で表すことができる。
- 思考・判断・表現:数量の関係に着目し、乗法について成り立つ性質やきまりを用いて表現することができる。
- 主体的に取り組む態度:数理的な処理や乗法について成り立つ性質やきまりを用いることの良さに気づき、それらを日常生活や学習に生かそうとする態度を育む。
本記事のねらい
2年生におけるかけ算の授業は、児童の授業に対するモチベーションに依存している教員が多いのではないだろうか?授業時間数も長く、九九の暗記定着という単調作業になりがちなこの単元では、どうしても集中力の持たない児童もでてくる。
この問題を解決するには「目的意識を持たせる」「単調作業に工夫を加える」という2つのアプローチがある。本記事では前者に特化し、「児童がかけ算の有用性を理解し、明確な学習に対する目的意識を持つことができる授業の導入」の提案を行う。
かけ算の有用性が伝わる導入
かけ算の表し方
たし算の汎用性と不便さを知る
次の図を式にするとどうなるのかを考えさせる。
その後、下図の3つを順に考えさせ、児童に「式を立てることは難しいか」「計算をすることは難しいか」の2つを聞く。
ここでは「難しい」と「面倒くさい(時間がかかる)」を分けて認識させ、たし算の式で表すのは難しくないが、大変面倒であることに気付かせる。この大変だが重要な立式を簡単にかき表す方法があると嬉しい。
たし算以外の表し方の模索
そこで、これらが簡単に伝わるような「数を用いた暗号(式)」をグループごとに考えさせる。「式」というと、知識として与えられたものだと感じたり、塾で習っていることを披露すれば良いと思ったりする場合がある。工夫として「暗号」等、自分たちが独自性を持って作って良いものとわかる言い回しをすることをお勧めする。また、発表してもらった答えは正解(かけ算の式)ではないので、「暗号を作る際に気をつけたこと(なんの数に注目をしたか)」が重要であると伝える。
各グループの意見がまとまったところで、考えたことを学級全体で共有し、一番簡単で分かりやすい暗号を決める。ここで、「かける数」と「かけられる数」に注目していることを引き出したい。
一般化:かけ算を学ぶ理由と概要、独自の暗号との共通点を知る
自分たちがこの暗号を使うためには、相手に暗号の意味や使い方を理解してもらう、つまり、勉強してもらう必要がある。逆に、すでに世界中で使われている暗号であれば、自分たちが勉強をするだけで良い。暗号を生み出す苦労を体験したこともあり、世界で使われている「かけ算」という暗号を学ぶことの有用性は十分伝わるだろう。また、かけ算の式と独自の暗号では「かける数」と「かけられる数」に注目しているという共通点があるので、理解も早くなる。
補足
導入で九九の範疇を超えた問題を出題した。理由は、小さい数同士の演算であれば、児童にとって「かけ算を新たに覚えるよりもたし算のほうが簡単だから」である。この考え方はあらゆるところで顔を出す。例えば受験を経て進学した中学生は、数学で方程式を学ぶ際に激しい抵抗をすることが多い。方程式という新たな学びよりも、中学受験でさんざん勉強した鶴亀算や旅人算で解くほうが、そのときの彼らにとっては簡単なのである。大人もそうだが、過去の成功体験は簡単には捨てられない。だからこそ新しい単元では、今までの知識・技能では足りないことと、新たな知識・技能の有用性を理解させる必要がある。
次の導入を助ける「まとめ」
ここまでは導入について話したが、単元のまとめに次のことを意識すると次の導入のちょっとした助けになる。大切なのは、今「できること」と「できないこと」の明確化である。補足でも記載したが、児童にとって未知の学習内容を学ぶのは不安なことなので、過去に得た知識・技能にすがろうとする。であれば、導入は児童の知っていることから始めれば良い。児童が始めから既習内容が使えない場面もあることを知っていれば、新しい単元に入ったときに、「あっ、〇〇が使えない場面だ!」と、知っているところから始まる。教員も、「それでは上手くいかないんですよね。」から始まるより、「正解! あのときの話をよく覚えていましたね!」と始められたほうが気持ちが良いだろう。
この一工夫をすることで、新しい単元に入るときの不安感が「少し」緩和される。新しい知識を得ることに前向きな児童が少しでも増えることを願う。
余談:九九の定着と新しい発見
ICTドリルの活用
本実践では画像付き簡易計算ドリル(以下、「めくりドリル」と呼ぶ)を活用する。めくりドリルとは、問題カード⇒答えカード⇒問題カード⇒……(以下繰り返し)となるように並べたICT上の計算ドリルのことである。必要に応じて、問題カードと答えカードの間に解説カードをはさむことで、児童それぞれの実力に合わせたドリル演習を行うことができる。各班で各段を担当して作らせ、それをつなぎ合わせることで、クラス内のオリジナルめくりドリルを簡単に作成することができる。解説カードや答えカードの中に、九九の計算にあった絵等をかかせることによって、作成するときの意欲と学習するときの定着効率の上昇が見込める。
九九の面白記事紹介
私が読んでいて大変勉強になった記事を1つ紹介する。
hiroshimatui先生の「九九の表から、特徴を見つけよう(交換法則など)」
この記事では、児童主体の授業だからこそ起こり得る深い学びや、気付くきっかけを与える教材作りがとても参考になった。九九を定着させるための具体的な手法や教材も関連記事に載っているので、ぜひ一読することをお勧めする。
執筆者
まき先生
中学高校で数学を教えている。体系的に教えるためには算数から学びなおす必要があると感じ、算数の授業案についても学習をすすめている。
実践的かつつながりを意識した授業案の作成に努める。
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