平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(実践編)

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目次

1 はじめに

この記事は、劇作家・演出家として世界で数々の賞を受賞され、現在は青年団を主宰する傍ら、東京藝術大学社会連携センター特任教授や、文部科学省コミュニケーション教育推進会議委員の座長も務めるなど、演劇教育にも精力的に取り組んでおられる平田オリザ氏の取材をもとに作成しました。

演劇教育は敷居が高い、興味はあるが指導の仕方がよくわからない・・・と感じておられる小学校・中学校の先生方にも取り組んでいただけるような、「初心者にもできる、演劇を用いたコミュニケーション教育」の方法をいくつかご紹介します。

別の記事では、演劇教育を行う際の注意点、演劇教育の効果をまとめていますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。

関連記事:【平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(理論編)】

URL:https://edupedia.jp/article/53bb6e38b792c280077b4da8

2 演劇を用いたコミュニケーション教育とは

演劇授業によってコミュニケーション能力を育む

『ある日、40代の日本通のイギリス人と話していた時、日本の小中学校では演劇はほとんど習いません、と言ったら、「えー!」と驚かれました。そのあとに、「あ、だからですね」と彼が言ったのです。つまり、日本人のコミュニケーションが下手ということや、しっかりと自分の意見を言えないのは演劇をやっていないからだ、というのがイギリス人の感覚なのです。演劇とコミュニケーション能力の学問的な相関性をどれくらい証明できるかは分かりませんが、イギリス人にとっては感覚として、演劇をやっていない=コミュニケーション能力が低いということなのです。イギリスでは、そのために演劇を勉強するのです。

しかし、日本では、音楽や美術と比べて、演劇は(授業に取り入れる)ハードルが高いです。例えば、東京藝術大学には音楽学部と芸術学部がありますが、演劇学部はありません。国公立の大学に演劇学科がない国は、先進国では日本だけです。そこで、演劇と一般社会のニーズが共有できる「コミュニケーション」を強みに、コミュニケーション教育として演劇を取り入れようと考えました。鈴木寛氏(NPO法人ROJE理事長)が文部科学省副大臣になった時(2009年)に、私がコミュニケーション教育推進会議の座長になりました。その会議の冒頭で、「アートのカオス性が、教育に役立つという理念の元でこの会議を始める以上は、一つの答えを求めるような諮問会議であってはならない。」と宣言しました。演劇教育では、子どもは何にひっかかってくるか分からないので、排他的にならないことが大事だと思ったからです。』(平田氏)

3 実践① みんなで登校(小学3~6年生)

概要


対象:小学3~6年生
所要時間:2限分
持ち物:三角コーナーなど、床において目印になるもの×4個

実践方法(1時間目)

1.スクエア(正方形)を書く

大きなスクエア(正方形)を体育館に書く。三角コーナーなど目印になるものを4個用意し、四つ角になるように床に置く。ない場合は体育館の線を利用してもよい。

2.スクエアの辺に沿って歩き、出会った人と合流して歩き続ける

①スクエアの対角線上の角に(1)(2)の2人が立ち、スクエアの線上をたどって同じ角に向かって歩いていく。角で出会ったところで「おはよう。」「おはよう。」と声をかけ、登校している気分で会話をする。出会ったところで2人一緒に対角線沿いに曲がり、「今日は書道あるよね。」「ちゃんと道具持ってきたよ。」などと、一緒に歩きながら話を続ける。

②2人はそのまま対角線沿いに歩く。3人目が(1)・(2)の場所のどちらかの角から1人目と2人目が向かっている方に歩きだし、出会ったところで「おはよう。」と声をかけ、「昨日のテレビ見た?」など、会話をしながら3人で歩いていく。

③同様に、様々な角から生徒が歩きだし、他の人と出会ったら挨拶をして、一緒に歩いていく。

個々のグループが段々大きくなっていき、最終的には全員が1つのまとまりになる。

<図>

実践方法(2時間目)

1時間目の活動を思い出しつつ、友達と合流しながら学校に着くまでの台本を作成し、発表し合う。

ポイント

身体を動かしながら喋る

今まで、身体を動かしながら喋るという授業はほとんどありませんでした。でも、普段はずっと止まって喋っていることは珍しいですし、ましてや全員が一定方向を向いたまま喋るということは異様です。つまり、言語教育が実際の生活に根差していないのです。「歩きながら喋る」、これだけでも小学校4年生くらいだと結構興奮してやるようになります。』(平田氏)

この実践については実際の教科書のデータがございますので、下記のURLも合わせてご覧下さい。

参考資料:『わたしたちの言葉』(わたしたちの言葉(対話劇).pdf

4 実践② にんげん紙芝居(小学1・2年生)

概要


対象:小学1・2年生
場所:教室
持ち物:絵本

実践方法

1.絵本を読み聞かせる

児童に絵本を1冊読み聞かせる。登場人物は人間以外(動物など)でも良い。
内容は好きなもので良い。

2.絵本の一場面を表現してみる

読み終わったら、絵本の絵から場面を想起し、紙芝居の1枚の絵を作るイメージで、絵本の好きな一場面を選び、協力して身体で表現してみる。台詞は入れずに、動きをつけてみる。いろいろな場面で試す。

ポイント

1・2年生でもできる演劇授業

『絵本はみんな子どもの時から読んでいるので、絵本に描かれている絵からその場面を想起して身体で表現できるようにイメージさせます。「みんなで登校」のように、自分でお話を創作するのが難しい1・2年生向けの授業です。』

5 実践③ 2年生限定!人文字で漢字作りゲーム(小学2年生)

概要


対象:小学2年生のみ
場所:体育館
持ち物:体育着、小学2年生の国語教科書

実践方法

1.6人1組のグループに分ける

児童を体育着に着替えさせ、体育館で背の順一列に並ばせる。前から順番に1、2、3…と番号を言っていき、6~7人で1つのグループになるように班を振り分け、班ごとに固まって座らせる。この時、班と班の間は広くあける。

2.「一・二年生でならう漢字」のページを開く

2年生の国語教科書の一番後ろに記載されている、「一・二年生でならう漢字」の一覧を開く。

3.3分間で人文字を何個作れるか競争する

グループみんなで協力し、3分間で一覧に載っている漢字をできるだけ多く人文字にする。一番多くの漢字を作ることができたチームの勝ち。

(例)
 ①一人が床にまっすぐに寝て「一」
 ②「一」と同じ方向に身長の大きな子が寝て「二」
 ③2人の間に小さな子が寝て「三」
 ④3人の真ん中に縦方向に1人が乗っかって「王」
 ⑤「王」の右下のポケットに1人が小さくしゃがんで「玉」

ポイント

小学2年生がベスト

小学校1年生だと習う漢字が少なすぎて(競争しても)みんな同じ数になってしまい、小学校3年生以上だと、男女が重なりあったりすることがもうできなくなってしまいます。2年生まではふつうに、こんなに無邪気にやるの!?っていうくらい男女が重なりあってやります。小学校2年生はすごく喜ぶ授業です。』(平田氏)

6 実践④ 対話劇を体験しよう(中学1~3年)

概要


対象:中学1~3年
場所:教室
教材ダウンロード:『対話劇を体験しよう』添付ファイル

実践方法(1限目) 

※上記の教材を使用します。

1.7人1組のグループに分け、スキットの空白部分を埋めさせる

生徒を7人1組のグループに分ける。教材に書かれているスキット(生徒役×5、転校生役×1、先生役×1)の役割分担をし、台本の空白部分を各自で埋める。

2.グループでスキットを読み合わせる

グループでスキットを何度か読み合わせる。ずっと座っているのではなく、立って動いてみたりして、自由にやらせる。

3.実際に自分達でスキットを作成する

先ほどのスキットを参考にし、ワークシートを用いて今度はグループごとに一つのスキットを作る。

実践方法(2時間目)

4.実際に自分達でスキットを作成する

1時間目の、スキット作成作業を続けて行う。

5.グループごとに発表し合う

グループで作成したスキットを発表し合う。スキットは手に持ったままで良い。机などの小道具が必要な場合は用意して、実際に動きながらやってみる。

ポイント

自分の言葉の変化に意識的になる

『この授業の一番の眼目は、普段の自分の言葉づかいの変化に意識的になってもらうことです。子どもたちだけで話している時と、先生が来た時と、先生はいないけれど転校生という他者がいる時とで話し方のモードが変わることを子どもは実感します。その変わり方も子どもによって違うので、そのようなことから話し言葉の面白さ、多様性に気が付いてほしいと考えています。従来型の国語の授業のように、先生が「ほら、先生に対してそんな言葉使いではだめでしょう!」という風な言語規範を押し付けてばかりでは、子どもの自発的な学びの機会がなくなってしまうのです。』(平田氏)

7 関連記事

【平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(理論編)】

URL:https://edupedia.jp/article/53bb6e38b792c280077b4da8

8 講師プロフィール


平田オリザ(ひらたおりざ)
劇作家・演出家・青年団主宰。
1962年東京生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。
1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞。
1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演劇家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年、『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス国文化省よりレジオンドヌール勲章シュヴァリエ受勲。
東京藝術大学社会連携センター特任教授(2014年4月1日より)、大阪大学客員教授、四国学院大学学長特別補佐、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、埼玉県富士見市市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、日本劇作家協会副会長、日本演劇学会理事、(財)地域創造理事。
※青年団公式プロフィール(http://www.seinendan.org/hirata-oriza)より引用

9 著書紹介


『演劇入門』(講談社現代新書)

『演技と演出』(講談社現代新書)

『芸術立国論』(集英社新書)

『新しい広場を作る −市民芸術概論綱要−』(岩波書店)

10 編集後記

今回は、私達EDUPEDIA編集部が所属するNPO法人ROJE日本教育再興連盟理事長の鈴木寛先生に平田オリザ氏をご紹介頂き、演劇を用いたコミュニケーション教育について教えて頂きました。私自身はかつて演劇部に所属していたことや、学校で演劇教育を受けた経験があったこともあり、演劇教育を身近に感じていましたが、EDUPEDIA学生スタッフに尋ねてみると、演劇教育を受けた経験のない人がほとんどでした。そこで、演劇を用いたコミュニケーション教育が学校でより広く取り入れられてほしいと思い、取材をさせて頂きました。

演劇というと、他人になりきって決められた台詞を読むというイメージがありますが、平田氏が実践なさっている授業では、生徒にとって日常の場面を題材にする、国語というよりも体育の授業に近い形で行うなど、等身大の自分のまま、自由に身体や声を使って自分を表現させます。クラスには元気な子もいれば静かでおとなしい子もいますし、友達とわいわいスポーツをするのが好きな子もいれば、一人で本を読むのが好きな子もいます。その違いを認め合い、自分の居場所を見つけることで子ども一人ひとりが肯定感を持てるようになるのではないかと思いました。また、これからの教師に求められる「代案を出せる能力」や、異なる意見を集約してうまくまとめる「交渉力」も、他者との違いにばかり目を向けてけなし合うのではなく、他者との違いや多様性を認めあって共生していくための力や感性を磨くのに効果的なのではないかと思いました。

平田氏は現在、演劇の専門家の育成に力を入れておられるそうですが、今回ご紹介いただいた授業方法はどれも取り入れやすいものばかりですので、ぜひ一度実践して頂ければと思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 内藤かおり)

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