平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(理論編)

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目次

1 はじめに

この記事は、劇作家・演出家として世界で数々の賞を受賞され、現在は青年団を主宰する傍ら、東京藝術大学社会連携センター特任教授や、文部科学省コミュニケーション教育推進会議委員の座長も務めるなど、演劇教育にも精力的に取り組んでおられる平田オリザ氏への取材をもとに作成しました。

この記事では、演劇教育を行う際の注意点、演劇教育の効果をまとめています。また、別の記事で、「初心者にもできる、演劇を用いたコミュニケーション教育」の方法をいくつかご紹介しているので、そちらも併せてご覧ください。

関連記事:【平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(実践編)】

URL:https://edupedia.jp/article/53df6e48bd00eae4d17454b2

2 演劇教育を実践する際に気を付けるべきこと

「代案を多く出せる」能力

『演劇授業は「楽しい」ということが最大のポイントです。あまり強制したり、答えを求めたりしないことが大事です。とにかくまずはやってみてください。

気を付けるべき点としては、「代案を多く出す」ということですね。例えば授業中、特に台本のアイデア出しの時に生徒が興奮してきて必ず喧嘩が起きたりしますが、それは解決のしようがありません。メロンが好きな子と、イチゴが好きな子がいて、メロン好きの子が、イチゴ好きの子に「メロンを好きになれ」っていっても、それは無理な話です。ところがそのように2つアイデアが出た時に、僕は「メロン美味しいよね。イチゴも美味しいよね。でも、梨っていうのもあるよ。キウイっていうのもあるよ。韓国や台湾ではトマトも果物なんだよ。」という風に、他にも3つ程その場で代案を出します。そうすると、今まで2つの選択肢で対立していたのが5つに増えるので、子ども達はわけがわからなくなり喧嘩はやみます。「なんでもありなんだ」と思うわけです。このように、その場で代案を生徒の数以上に出せるかどうかが重要です。日本の教育ではずっと、正解を抱えて、それを当てさせるという授業ばかりやってきましたから、「あれもいいね。これもいいね。でもあれもこれもあるよね。」と言えるかどうかが、これからの日本の教員に求められる能力です。』(平田氏)

3 演劇教育が子どもにもたらす効果

異なる意見を集約してまとめる「交渉力」の向上

『例えば小学校6年生くらいで、Aちゃんに何かやりたいことが3つあって、Bくんも同じく3つやりたいことがあるとします。その時にAちゃんが、「Bくんは2番目にこだわっているから、これだけ受け入れれば、私のやりたい1番と3番は通るかな」と気が付く、このような能力が僕は一番大切だと思っています。これが「交渉力」です。世の中のほとんどのことは、オール・オア・ナッシングでは決まりません。相手と交渉するというのは、「相手が何にこだわっている、だからそれをほとんど8割方受け入れることで自分のやりたいことが通る」といったケースがほとんどです。ディベートだけをやっていると勝ち負けになってしまいますが、ディベートそのようなケースは世の中にはほとんどないです。演劇をつくる過程ではそれを学ぶことができます。』(平田氏)

生徒の学びのモチベーションを上げる

『以前やった障がい者向けのワークショップで、ある脳性まひの方が、「西島さんに話しました。」という台詞をなかなか言えなかったことがありました。あとでご本人に聞いたら、固有名詞が最初にくる文章が一番(言うのが)難しいとのことでした。脳性まひは、基本的に緊張すればするほど自分の思ったのとは逆の方向に筋肉が動いてしまう性質があります。発話も同じように、緊張すればするほど喋れなくなってしまうい、特に固有名詞は言い換えが効かないので一番緊張するのだそうです。でもそれを知って、「あー、誰だっけ、ええと、彼、西島さんに話しました。」という風に台詞を変えたところ、上手く言えるようになったのです。

実は、小学生でも、(教科書を)きちんと読むことにものすごくプレッシャーがある子がいます。しかし教室にはできる子もいるので、それは学力差や努力の高ということで隠されてしまっていました。でも実はテキストの側を少し変えてあげるだけで、ちょっと学力が劣ると言われていた子も、普通に発話できる読めるようになります。

また、演劇の授業だと、普段作文を書けない子でも、台本は大体自分で書くことができます。話し言葉は本来(作文を書く際の)ハードルが低いので、「普段話している言葉でいいんだよ。」というとみんな書けるわけです。意外な子が活躍したりもします。(学力層が)ふたこぶラクダの下の方の子たちの自尊感情心を高め、モチベーション持ちを上げる効果が相当期待できます。』(平田氏)

自分の存在、他人の存在を肯定でき、自信がつく

『演劇は役になりきる・乗り移るというイメージが強く、演じるべき対象の抽象的な想定があると、子どもがそれになりきったり、乗り移ったりしなければならないと思われてきました。しかしそれはとても高度な技術で、そういうことを全ての子どもに要求するのは難しいです。でも例えば、大人しい子は大人しいことをやらせたら一番上手です。全く喋らない役でもいいわけです。実際に劇を作ると、そうすると、みんなで宿題の話をしているグループもあれば、その横で突っ伏している人や、「あーやばい、やばい」なんて言いながら遅刻してくる人も出てきます。そうなると演劇が格段に面白くなりますよね。その時に、喋らないことやその場にいないことも表現の一つなんだ、と子どもが感じ取ってくれるわけです。演劇はもともと人間を肯定する作業なので、そういう風にしてその人の存在を肯定してあげることもできますし、自己肯定感を持ちやすいですね。自分というものがあり、演じるべき対象があり、それらの共有できる部分を見つけるというエンパシー型の教育が実現できるのが演劇教育なのです。

僕自身も授業を全国でやっていますが、そのクラスの先生に半年ほど経ってからお会いすると、クラスで何かあるごとに「ほら、あの演劇の時、みんなあんなにできたじゃない!」というとみんなまとまる、というお話を聞きます。これはよくあるケースで、僕としても非常に嬉しいです。大変だけれど達成感が非常にあり、みんなでやったという実感があるようです。音楽だと技術の差が出てしまいますが、演劇は本当にみんなばらばらにポジションをとります。』(平田氏)

4 関連記事

平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(実践編)

URL:https://edupedia.jp/article/53df6e48bd00eae4d17454b2

5 講師プロフィール


平田オリザ(ひらたおりざ)
劇作家・演出家・青年団主宰。
1962年東京生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。
1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞。
1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演劇家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年、『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス国文化省よりレジオンドヌール勲章シュヴァリエ受勲。
東京藝術大学社会連携センター特任教授(2014年4月1日より)、大阪大学客員教授、四国学院大学学長特別補佐、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、埼玉県富士見市市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、BeSeTo演劇祭日本委員会委員長、日本劇作家協会副会長、日本演劇学会理事、(財)地域創造理事、東京芸術文化評議会評議員、文部科学省コミュニケーション教育推進会議委員(座長)。
※青年団公式プロフィール(http://www.seinendan.org/hirata-oriza)より引用

6 著書紹介


『演劇入門』(講談社現代新書)

『演技と演出』(講談社現代新書)

『芸術立国論』(集英社新書)

『新しい広場を作る −市民芸術概論綱要−』(岩波書店)

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 内藤かおり)

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